「OJD」で長期的・計画的にマネジメント人材を育成する方法
実際の業務を通じて従業員の能力開発を行う「OJD(On the Job Development)」。似た言葉に「OJT」がありますが、その目的や内容は大きく異なります。
そこで今回は、大手企業におけるOJD推進プロジェクト推進や仕組みの導入・運用などに携わってきた人事パラレルワーカーの小林 佳子さんに、OJDの目的や効果、OJTとの違い、運用上のポイントなどをお聞きしました。
<プロフィール>
▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
小林 佳子(こばやし よしこ)/キャリアデザインコンサルティング株式会社 最高執行責任者(COO)/一般社団法人組織変革のためのダイバーシティOTD普及協会 理事
ソフトバンクにて関東甲信越エリアマネージャーとして世の中のインターネット普及に携わったあと人事職へ。その後、金融・人材紹介・広告PR会社で通算15年一貫して人材開発と組織開発の領域に従事した後、独立。ライフワークはダイバーシティをテーマに掲げており、現在は女性活躍事業の経営を仲間と共に担いながら複数社人事支援も実施するパラレルワーカー。
目次
「OJD」とは
──「OJD」について、OJTとの違いを含めて教えてください。
「OJD」とは『On the Job Development』の頭文字を取った言葉で、日々の仕事を通じて社員の能力開発を行う人材育成方法を指します。能力開発のひとつにマネジメントがあり、今回はマネジメントの能力開発をあげて解説します。
「OJD」とよく似た言葉に「OJT(On the Job Training)」があり、『日々の仕事を通じて教育を行う』点は共通していますが、『教育内容・スタンス』に大きな違いがあります。
名称 | OJD | OJT |
言葉の意味 | 日々の仕事を通して、長期的に必要となる能力を開発すること | 業務を行いながら、直近必要となる知識・技術などを短期的に覚えていくこと |
目的 | 長期的能力開発 (例)マネジメントスキルなど | 短期的能力開発 (例)新入社員研修など |
対象者に求められるもの | マネジメントスキルなど、現場の経験学習から得るものが多いため『能動的』に学ぶ意識が必要。 | 新入社員に先輩社員が技術をマンツーマンで伝授し、習得させるなど『受動的』な育成を行う。 |
注力ポイント | 将来のキャリアビジョンと会社のビジョンとをすり合わせし、モチベーションを維持しながら育成を進める。 | 業務を滞りなくスタートさせることが重要なので、短期スパンで実務能力を習得させることが最優先となる。 |
OJDは、企業の未来を見据えたときに課題となりやすい人材強化面で大きな力を発揮します。具体的には、長期的な目線にたった教育法として、上司が部下に対し1対1のマンツーマンで向き合うことで、マネジメント能力や知識の取得、ひいては部下が自律的に育つ職場を構築することができます。
少子高齢化による深刻な人手不足により、人材の確保・育成は現代企業の最重要課題と言っても過言ではありません。OJDは一般的に新入社員や若手社員を対象として行われることが多く、エンゲージメント向上を促す効果も期待できるなど、企業が理想とする人材育成につながる方法として注目を集めています。
「OJD」の目的と組織メリット
──「OJD」は長期的・計画的な人材育成方法だと伺いましたが、その目的にはどのようなものがあるのでしょうか。
長期的な目線、たとえば数年先を見据えて管理・最適化できる人材を生み出すことです。そうした人材は一朝一夕では育成できませんし、採用難の時代においては外部調達も容易ではありません。日頃から数年先を見据えてマネジメント能力を開発するプログラムや仕組みを整えておく必要性は年々高まっています。
また、『社員に自分のキャリア形成を意識してもらうこと』も重要な目的の1つです。社員の希望と企業が求める人物像を丁寧にすり合せていくことで、社員のエンゲージメント向上や離職率防止の効果も期待できます。
さらに、「OJD」は会社から将来求められる能力の習得が目的であるため、ハイパフォーマーの輩出にもつながります。能動的な学びを通じて主体性も磨かれるので、結果的にその会社が理想とする人物像に近い人材を増やす形になります。
「OJD」を導入・運用する上でのポイントと対策
──実際に「OJD」を組織に導入・運用する際に出やすい課題や対策方法について教えてください。
「OJD」は1対1、あるいは少人数が推奨される人材育成方法のため、指導者側の負担は増加しやすい傾向があります。通常業務に加えOJDを意識した教育を実施する形となるため、指導者側の業務負担を踏まえて育成計画を検討したり、通常業務を分散させたりといった対策が必要です。
OJDは長期的な能力開発を行う側面上、将来の幹部・管理職候補育成の役割を担っています。その上で、コミュニケーション設計についてはCHRO(最高人事責任者)や経営陣などがあらかじめ指導者・対象者の選定を行なった上で、OJTやOffJT(※)などの他施策とも連携をはかって行う必要があります。
(※)Off-The-Job Trainingの略語。職務業務から離れて行う教育訓練を指す。
実施頻度については、基本的に日々の業務を通して行うことが多くなるかと思います。ポイントは、対象者が「今OJDの教育を受けている」ということを認識した上で行われているか、実施の目的や意図に沿って進んでいるか、また進捗はどうなのかという振り返りまでを行うことが望ましいでしょう。
実際に導入する場合は、業務負担増への対応方法を検討することに加え、座学や集合研修(OFF-JT)の並行実施も検討すると良いでしょう。「OJD」は少人数が推奨される育成手法だと述べましたが、指導者を2名体制にして分業してもらうなどの工夫も有効です。
なお、「OJD」が長期的な取り組みであるが故に途中でゴールを見失ってしまったり、取り組み自体が自然消滅してしまったりというケースもよく見受けられます。OJDは中長期的な継続に意味のあるものという共通認識を経営陣・人事が持ち、覚悟を持って目標設定や定期的な振り返り・見直しを繰り返すことが、OJDの効果を高める上で最も大切なことだと言えるでしょう。
「OJD」の導入・活用事例
──小林さんが実際に「OJD」を導入・活用した事例について、注力したポイントや実施前からの変化など可能な範囲で教えてください。
私が大手人材会社の人事戦略部に所属していた2017年頃の事例を1つご紹介します。
取り組み背景
その企業で『経営と人材の未来像を設計するプロジェクト』を始動する機会がありました。以前より現場教育と人事教育の有機的連動が必要であり、意図的・計画的に教育を行うことに課題感があったためです。加えて、従業員の教育機会にばらつきがある状況でした。新入社員教育については積極的になされていたものの、2年目以降の社員や、中途社員の教育機会については十分に用意されているとは言い難い状況でした。
こうした課題感を受け、革新性人材・堅実性人材双方の育成を目的に、「OJD」をベースとした人材開発体系へフルモデルチェンジすることになりました。OJDを選択した理由は、経営の未来像や人材の未来像を言語化しながら必要スキルの設計を行う上で、既存のOJT以上に長期的な目線での能力開発を行う必要性を見出したためです。
実施内容
当時、社内には求める革新性人材はほぼ不在なのではないかという仮説を持っていたため、まず第1フェーズにおける革新性人材の割合目標値を20%としてKPIを設定、段階的に割合を引き上げることを目指しました。その上で、マネジメント層や幹部候補者を育成するには、長期的な能力開発はさることながら、そもそもの人材要件と連動させる必要があると感じ、採用要件の見直しを実行。人材開発体系との連動も戦略的にデザインしました。
OJD対象者は本部長推薦で選抜を行いました。選抜された次期リーダー層には役員・本部長が指導者となり育成を実施。これに加え、半年間の『チェンジマネジメントプログラム(OFF-JT)』も並行開催しました。このプログラムの内容としては主に以下2つです。
(1)新規事業をグループに分かれて創造する実践型ワークショップ
まず会社の新規事業をグループ毎にプランニングしました。その後は本部長への壁打ちを行い、最終的に経営陣前でプレゼンテーションするプログラムでした。本人たちは自らが「会社の未来を担う幹部候補である」という認識のもと参加することで、視座を高めて意欲を向上させる機会として設けました。
(2)アセスメントによる現能力の見える化→外部コーチとの面談・目標設定(コーチング)
結果
指導者との直接的なOJDとOFF-JTの併用により、選抜メンバーのロイヤリティ・モチベーションが向上しました。さらには、ホールディングスが主催するインキュベーション制度に手を挙げる方、管理職登用試験にチャレンジする方も例年以上に輩出できるようになりました。こうした成果を出せたポイントは、経営層を指導役などでうまく巻き込み、有機的に各施策を連動させていけたことにあると振り返っています。
■合わせて読みたい「社員育成プログラム」関連記事
>>>オンボーディング成功のポイントは「ユーザー視点」。押さえるべき点と事例紹介
>>>社員の能力を最大限引き出す、オンライン/オフラインでの階層別研修の在り方
>>>「越境学習」の本質は葛藤にあり!?企業の人材育成に活かす上で抑えるべき本質とポイントとは
>>>研修効果測定で研修から組織の成果へとつなげる方法。
>>>「OJD」で長期的・計画的にマネジメント人材を育成する方法
>>>「企業内大学」を立ち上げ、持続的な人材育成を実現する方法とは
>>>「ブレンディッドラーニング」を取り入れて研修効果を高めるには
>>>「人材育成体系」はどう見直す?タイミングやポイントを解説
>>>「L&D」と従来の人材開発は何が違う?従業員と組織の成長のために知っておきたいこと
>>>「組織社会化」とオンボーディングはどう違う?定着しやすい組織を作るためには
編集後記
高まり続ける採用難易度を背景に、サクセッションプラン(後継者育成計画)やポストオフ(≒役職定年)などの将来を見据えた次世代人材の育成には多くの注目が集まっています。「OJD」もそこに寄与する取り組みの1つ。運用工数の増加などに注意しながら、長期的な経営・人員計画に沿って導入・運用を進めてみてはいかがでしょうか。