「タレント・エコシステム」で組織内外の人材と有機的に繋がる『三方よし』を実現するアプローチとは
組織内の従業員だけでなく、組織外の取引先・個人事業主・ギグワーカーも含めて有機的なネットワークとして考える「タレント・エコシステム」。昨今の社会・事業環境の変化に合わせて、企業が考える労働力の概念は年々拡張しています。
今回は、一般社団法人タレント・エコシステム・コンソーシアムにて理事を務められる大山 あつみさんに、アメリカと日本における「タレント・エコシステム」の違いや、日本において注目されている背景について、企業・労働者双方の観点からお話を伺いました。
<プロフィール>
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大山 あつみ(おおやま あつみ)/一般社団法人タレント・エコシステム・コンソーシアム 理事
大手メーカー企業や大手IT企業、大手外資系製薬企業など様々な業界で人材育成や組織開発に幅広く携わる。現在はこれまでの経験を活かし、事業フェーズや組織特性に合わせた組織開発や、グローバル本社の日本向けインプリメンテーションなどを数多く手がけている。
目次
「タレント・エコシステム」とは
──「タレント・エコシステム」の概要について教えてください。
「タレント・エコシステム」とは、人が社内外のネットワークと有機的に繋がり活用することで、多様な個性と才能を開花させることを指します。似た言葉に『タレントマネジメント』がありますが、こちらはあくまで自社に在籍する人材を対象としていること、またタレントを対象物として管理することを目的としている点で「タレント・エコシステム」とは異なります。
日本ではまだ聞きなじみのない言葉かもしれませんが、アメリカでは日本に先んじて「タレント・エコシステム」の概念が広まりつつあります。なお、アメリカにおける「タレント・エコシステム」の特徴としては、『タレントアクイジション(獲得)』の延長線上にあることが挙げられます。フルタイム従業員・非正規従業員はもちろん、アウトソーサーやサービスプロバイダなどのパートナー、時にはAIなどのテクノロジーも含めた労働力・サービス提供者を『タレント』と定義しています。また、その補完性・相互依存性を特徴とする人的ネットワークについても言及されています。
一方、日本では一般社団法人タレント・エコシステム・コンソーシアムが2019年に「タレント・エコシステム」を商標登録しました。アメリカと異なるのは、『タレントアクイジション(獲得)』に留まらず、成長支援~退職後のアルムナイマネジメントも含む企業の人的資本(タレント)に関わる活動すべてを網羅するものを想定している点です。人を『社会人』や『会社人』としてではなく、家庭やその他複数のコミュニティ(社会システム)に属する多面的なものとして捉えています。つまり、社会・企業・個人の3視点から三方よしとなる「タレント・エコシステム」の実現を目指しているというわけです。
ちなみに、この「タレント・エコシステム」は業界・職種に問わず取り組みが進んでいます。ただ、企業規模や発展フェーズによって活用の仕方は異なってきますし、人手不足やイノベーションが急務な業界や企業においては、すでに生存戦略として「タレント・エコシステム」相当の取り組みをスタートさせている企業も多いように感じます。
「タレント・エコシステム」が日本でも広まり始めた背景
──副業や複業の増加など、「タレント・エコシステム」に関連しているといえる動きが日本でも広がってきていると思います。この広がりの背景にはどんな理由があるのでしょうか。
背景には大きく以下の2つがあると考えています。
(1)社会環境の変化
ご存じの通り、現代はVUCAと呼ばれる変化の激しい時代です。人間の適応力を超える速度で物事が変わっていくため、そこについていくだけでも容易ではありません。さらに2020年から始まったパンデミックの影響で、人々の生活様式や働き方も大きく変化しました。テレワークが急速に会社規模を問わず普及し、副業・複業も増加傾向にあることから、自社にタレントを囲い込むという従来型のタレントマネジメントが機能しづらくなりました。社外にいるタレント、あるいは従業員に社外での活動があることを想定して、変化への対応や成果創出を行う必要が出てきているのです。
(2)日本企業の変化
環境問題への意識の変化に合わせて、企業も短期的利益ではなく長期的利益を追及する経営姿勢(サステナビリティ)へと変わってきています。また、終身雇用が崩れた今では転職市場も活性化し、労働人口の減少も相まって採用難易度が上がり続けています。この様な昨今の状況では、多様な人材を自社にエンゲージしなければ人的リソースを確保できない状況になってきました。まさに、企業が人を選ぶのではなく、人が数多くの選択肢から自身のパーパスやライフスタイルにあった企業や働き方を選択する時代に変わってきているといえるでしょう。企業と社員が平等なパートナー(イコールパートナー)としてお互いに同意の上で雇用が成り立つ形であることからも、従来のタレントマネジメントは機能しづらくなっています。
大企業や地方自治体では生き残りをかけてイノベーションに取り組むものの、イノベーションを創発できる人材は、そのような安定的な職場の正社員を志さないというジレンマがあります。こうした需要や採用のミスマッチを避け、社外のタレントに一定期間協力してもらうなどの方法を模索する動きも「タレント・エコシステム」の国内普及にも大きく関わっていると考えます。
企業・労働者から見た「タレント・エコシステム」
──「タレント・エコシステム」の概念を日本企業が取り入れていく上で、どのような形がベストなのでしょうか。
私が所属する一般社団法人が「タレント・エコシステム」の概念にたどりつくまでに、『タレントマネジメント』について、多くの企業の事例を調査しました。その結果、時代や企業の状態によって異なったことを踏まえると、「タレント・エコシステム」に関しても正解や方程式はないのだと思っています。
一方で、前述した通り社員として『囲い込み』『企業の色に染める』形の管理・マネジメントが通用しなくなってきていることは事実です。企業が新卒一括採用で人を選び・育てる時代ではなくなった今、人から選ばれる企業になることが何よりも重要だと言えます。従業員がテレワークや副業・複業といったオプションを選択することを可能にすることもその1つです。
こうしてタレントマネジメントから「タレント・エコシステム」へ前提が変わると、各種制度のあり方なども大きく変化します。まずは、企業の経営者や人事担当者のマインドセットを変えるところからがスタートだと考えています。その上で自社の現行のシステムを見直し、どのようにアップデートするかを検討。実行することが重要になってきます。例えば、10年前に作られた制度や研修について改めて目を向けたときに、『これらはなぜあるのだろう?』と思うようなものがあれば、それを現状に合わせて見直すところから始めるのが良いでしょう。
また、一律のルールやシステムで動かそうとするような全社共通のものではなく、それぞれの社員が好みや状況に応じて適したものを選択できる形式へと変えていくことも企業努力として必要になってくるはずです。
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編集後記
タレントマネジメントから「タレント・エコシステム」へ──これまで社内だけで完結していたものから、社外やテクノロジーまでをも含めてリソースとして定義しマネジメントしていく必要性を大山さんのお話から理解することができました。これから「タレント・エコシステム」の実践に向けて第1歩を踏み出そうとする企業は、アルムナイ・ギグワーカー・社内外留学・副業などのキーワードが自社にとってどのような意味を持つのかを考えるところから始めてみると良いかもしれません。