「内発的動機づけ」で自律的な組織を目指すには
金銭・名誉・地位など、人はさまざまな動機でモチベートされています。中でも「内発的動機づけ」は、人の内側から沸き上がる興味・関心によりモチベーションが高まる状態を指します。
今回は、評価制度導入や人事制度改訂など複数プロジェクトの運用経験を持つ人事パラレルワーカー 樫村 友哉さんに、「内発的動機づけ」を促進するために必要なアプローチや、継続におけるポイントを伺いました。
<プロフィール>
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樫村 友哉(かしむら ともや)/大手化粧品会社 人事担当
組織風土改革をはじめ人材育成・採用・働き方改革、人事制度の立案・導入・運用などさまざまな業務を経験。所属企業における組織風土改革実績を受け、外部アワードを複数受賞。
目次
「内発的動機づけ」とは
──「内発的動機づけ」とはどのようなものでしょうか。
「内発的動機づけ」とは、個人が考える”ありたい姿の実現”とそこに向けた”行動”を応援することによりモチベーションを呼び起こす手法です。『やりたい!』という自発的な感情が内発的動機に該当します。
『外発的動機づけ』は給与・賞与・グレードごとの役割責任など外部要因に基づいてモチベーションを呼び起こす手法を指します。『やらされ感』がある場合は外発的動機を受けている可能性が高いです。
これら2つの違いは、大きく以下2つのポイントに現れます。
(1)目標/アクションプランのあり方
(2)やりがい・喜びを感じる瞬間
内発的動機づけ | 外発的動機づけ | |
手法 | 個人の”ありたい姿”の実現に向けた行動を応援してモチベーションを呼び起こす | 給与・賞与など外部要因に基づいてモチベーションを呼び起こす |
目標・アクションプランの設定主 | 個人 | 会社など外部 |
やりがいを感じる瞬間 | 目標達成時、または実現に向けたアクション時 | 目標の達成時 |
(1)目標/アクションプランのあり方
「内発的動機づけ」をする上では、目標・アクションプランを個人が検討する必要があります。なぜなら、他者によって決められた目標・アクションプランでは、内発的動機は呼び起こされないからです。だからといって個人に任せきりにするのではなく、目標設定のガイドラインを設けるなど一定のサポートが求められます。
一方、『外発的動機づけ』においては外部(会社など)が目標・アクションプランを設定することができます。
(2)やりがい・喜びを感じる瞬間
「内発的動機づけ」では各自が設定した目標・アクションプランに応じてやりたいことに挑戦できるため、目標達成の瞬間はもちろん、実現に向けたアクション時にもやりがいや喜びを感じられます。
一方、『外発的動機づけ』で他者が定めた目標の”達成”そのものがゴールとなるため、その過程においてはやりがいや喜びを感じにくい傾向があります。
なお、内発的動機と似たものに『やる気』がありますが、これは似て非なるものです。『やる気』は“自分にもできそう”と思ったときに生まれるポジティブな感情であり、自己効力感が不可欠です。しかし、内発的動機には自己効力感は必要ありません。できる・できないに関係なく『やりたい!』と思えた時に生まれた感情こそが内発的動機なのです。
「内発的動機づけ」が必要な理由・シーン
──近年、特に「内発的動機づけ」が重要だと言われています。どのような背景が影響しているのでしょうか。
現代のような変化が激しく不確実性に溢れた時代では、手段のみならず目標自体も臨機応変に対応していくことが求められます。これまで当たり前のように行われていた外発的動機づけ(全社→事業部、上司→部下)による一方的な目標設定・アクション策定の難易度が非常に上がっただけでなく、そういった方法自体が極めて非効率であると言わざるを得ない状況となっています。
こうした時代変化を受け、目標設定~達成までの試行錯誤を個人に委ねるしかなくなっているのが現状です。それに合わせて経営・上司の役割も、目標達成までの先導役からサポートへと変化してきています。
加えて、「内発的動機づけ」は個人のやりたいことに紐づいていることから、外発的動機づけと比べて1人ひとりの主体性や行動量が高まる傾向があります。実際に「内発的動機づけ」を進めたことで社員がこれまで以上に学び、成果創出に向けて試行錯誤するようになったなどの声も多方面から挙がっています。
「内発的動機づけ」を促進する方法
──人事が社員の「内発的動機づけ」を促進するためには、どのようなアプローチが考えられるでしょうか。
まず行うべきは、自組織の社員がどのフェーズまで内発的動機の探求を進めているかについて分析を進めることです。そのフェーズには大きく以下4つがあり、それぞれに応じてとるべきアプローチも異なります。
(1)やりたいことがわからない
(2)やりたいことはわかったが、どうやったらいいかわからない
(3)チャレンジはしているが、うまくいかない
(4)実現に向けて日々邁進している
(1)やりたいことがわからない
このフェーズでは、他者との対話を通した『自己分析』支援が有効です。その支援方法は自己分析サーベイ、マンダラチャート、10年後の自分をイメージさせる、作りたい社会を仲間と一緒に描く、など多岐に渡ります。これらに共通するのは、『自分はどんなことに挑戦したいのか』『どんな人間になりたいのか』を考える機会を提供すること。その機会を経ても見つからない場合は、誰かの夢に相乗りする(=協業)形をオススメします。その過程で自身の内発的動機に気づく方が多くいるためです。
(2)やりたいことはわかったが、どうやったらいいかわからない
このフェーズでは、目標設定とアクションプラン策定支援が有効です。上司から部下への1on1はもちろんのこと、人事がワークショップを企画しSMARTな目標設定に向けた支援、実現までの5W1H整理などが該当します。行動するための予算を獲得できるコンテストや、社内外ネットワーク拡張に向けたオンライン・オフライン問わずのコネクション拡張会などまで企画できるとベストです。
こうしたフレームワークを言語化するのであれば、1on1など壁打ちの機会を上司や職場の仲間と実施するとよいでしょう。しかしながら、これまで私が経験してきた限りでは、上記のようなフォローができればほとんどの社員が自走を始められたイメージがあります。
初めのうちはぼんやりとしていてもOKであるとある程度許容し、走りながら考えていくことを会社としても認めていくことが重要です。逆に、上げ膳据え膳で人事や上司がケアしすぎてしまうと、本人の内発的動機が弱まったり、受け身な姿勢に戻ってしまうリスクが十分に考えられるため、あえて一定の距離を置くことも大切ではないかと考えています。
(3)チャレンジはしているが、うまくくいかない
このフェーズでは、日々のアクション振り返りを行うなどで改善余地を共に考える時間を設けましょう。ここでも1on1は有効です。他にも、組織横断で議論ができる場を定期開催するなどで行動促進・モチベーション再燃のきっかけをつくることができます。また、人と組織が適切にマッチングされることで解決できることが多々あります。人事が主導して社内外の交流会を企画するなど、マッチングパートナー的な役割を担うと良いでしょう。
周囲との人間関係や職場環境など、本人以外の問題については、また別途考えていく必要があります。私が手掛けた自社ケースの場合、「人との繋がり」が鍵を握っていると認識していました。そのため、口が酸っぱくなるほど「人と繋がろう、誰かとやろう」と発信し続けたり、そのためのフォローを特に手厚く実施したりしていました。
また、周りとの協業が必要な場合に「協力が得られない」、あるいは「理解が得られない」といった困難が発生することもあるでしょう。そんなときは、原因と対策を確認した上で、フォローしてくれる上司が一番の支えとなるものです。人事の立場からは、部下1人1人の状況に細かく寄り添うようお願いをしたり、あるいは上司が行っているフォローが適切かをサーベイ等を通して細かくチェックしていました。
人事として、こうした成功要因を分析した上で、成功に向けた「虎の巻」のようなものを用意・提供してもいいかと思います。
しかしながら、失敗も含めて挑戦だと思います。時には上手く行かず、モチベーションが下がることもあると思いますが、そこで終わってしまうようであれば、そもそも本人にとって本当にやりたいと思うことに取り組めていない可能性が高いでしょう。真の内発的動機とは、「上手くいかないことも多いが、それでも諦めることなくやりたいと思えること」であるはずです。そうした場合には、今一度「本当にこれをやりたいのか」と意思確認を行ったほうがいいかもしれません。
(4)実現に向けて日々邁進している
このフェーズにおいては、『本人の裁量に任せて応援する』のが一番の支援です。細かい行動に口を出すことをせず、ある程度の距離を保って見守ることが大切です。とはいえ放置するのでなく、『困ったらいつでも頼ってね』と上司・人事が声がけを行いながら、安心して挑戦できる環境を整えましょう。
「内発的動機づけ」を組織文化として定着させるために
──「内発的動機づけ」を組織内で継続・維持していくための取り組みや、カルチャーにまで落とし込む方法などについて教えてください。
「内発的動機づけ」は場当たり的に促進したとしても瞬間風速的な効果しか得られませんし、時間と共にその効果も薄まっていきます。それを避けるためにはカルチャーにまで落とし込む必要があるわけですが、それには年単位の時間が掛かると考えておく方が良いでしょう。また、少なくとも1カ月に1度のアクション(1on1、人事主導のワークショップなど)が必要だと考えています。
加えて、年度末などのタイミングで社員表彰アワードを開催し、大々的に内発的動機に基づいた挑戦を称え合う機会を設けられると非常に効果的です。その企画・実行は簡単ではありませんが、本気でカルチャーにまで落とし込みたいと考える企業はぜひ取り組んでみてください。
私の所属している会社では、毎月の社員座談会で、成功者の成功までの過程を生で聞いた後に「自分はどうするか」という議論をグループで実施しています。その他にも、2週間に1本の社内報発刊や、毎年の従業員アワードを開催しています。
特に社内報は好評を博しています。
《社内報で掲載している内容》
・伝えたいテーマについて
・なぜやりたいのか
・どう進めているのか
・進めている中で起こった困難と、その乗り越え方
上記を対象者にインタビューの上で記事化し、全社に発信しています。社内からは「参考になった」「自分も頑張ろうと思えた」といった声が多く集まっています。
さらに言えば、人事制度の改定にまで踏み切ることができると一気に社内浸透スピードが加速します。
・目標評価制度において『内発的動機に基づく挑戦』を評価する項目を設ける
・コンピテンシー評価項目に『内発的動機の探求』や『実現に向けての行動』を評価する項目を設ける
これらを実現できれば、『会社もあなたの描く“ありたい姿の実現”を本気で願っている』という姿勢・気持ちをより社員に伝えられるようになります。また、その制度の存在自体がまるで“水戸黄門の紋所”のように機能し、社員が自信を持ってアクションに臨めるようにもなるでしょう。
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編集後記
個の力をいかに引き出して、多様性を組織力へと転換するか──より変化の激しい領域で事業推進を行っている企業ほど、こうしたテーマに日々向き合っているように感じます。今回のテーマである「内発的動機づけ」もその1つ。メンバー個々との関わりは現場マネジャーに委ねる部分も多くありますが、その裏側でいかに人事が環境整備や支援を進めていけるかがポイントとなりそうです。