「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」導入で社員の学習環境を整える方法
e-ラーニングを配信するプラットフォームとして学習教材の配信や成績などを統合・管理する「ラーニングマネジメントシステム(Learning Management System)」。その頭文字を取ってLMSとも言い、学習の効率化やオートメーション化を実現することができます。
今回は、ラーニングマネジメントシステムの導入経験をお持ちの残間 朝子さんに、「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」の導入プロセスや、継続運用におけるポイントなどについて伺いました。
<プロフィール>
▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
残間 朝子(ざんま あさこ)/従業員エンゲージメント向上サポーター
スタートアップの従業員エンゲージメント向上をハンズオンでサポート。アーリー、ミドルステージのスタートアップの従業員エンゲージメント向上を、グローバル企業で培った経験を活かして、プロジェクトベースでサポートしています。
目次
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」とは
──「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」の概要について教えてください。
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」とは、社員の学習および学習コンテンツの管理を行うシステムのことです。社員データ(氏名・メールアドレス・所属部署など)と連動させることで、下記のような運用を効率よく行うことが可能になります。
(1) 研修プログラムやコンテンツの展開
社員が利用可能な各種研修(以下参照)の開催告知・参加者募集・必須参加者への展開などを行うことができます。
・講師主導型研修プログラム(ILT)
・e-ラーニングコンテンツ
・その他のオンライン学習コンテンツ(テキストや動画など)
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」によっては属性(職種・等級など)で必須参加者を特定した上で、必須参加者をTo、その上長をCCに入れる形でミーティング依頼を自動送付してくれるため、シームレスに運用業務が行えてとても便利です。
(2) 研修受講管理
社員の学習進捗状況(受講完了・未受講・進行中など)を効率的に確認することができるようになります。他にも研修内容が定着しているかを確認するための受験機能なども備え付けられます。特に、受講必須e-ラーニングプログラムにおける学習進捗状況の確認とフォローアップには最適で、希望者の手上げ式選択研修においてタイムリーに申込者数のトラッキングが可能になります。
(3) 研修受講履歴管理・KPI算出
社員個別の研修受講履歴の管理およびトラッキングが可能となるので、マネジャーが変わった際などにも情報の引継ぎを容易に行うことができるようになります。他にも年度毎の研修参加者数や、社員1人当たりの学習時間数なども算出できるため、KPIなどのデータマネジメントにも活用できます。
──「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」が近年注目を集めている背景について教えてください。
元々「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」は、製薬・保険など社員が法律要件を満たしていることを担保しなくてはならない業界で使われ始めたものです。しかし、社員の学習管理が効率的にできること、オンラインの汎用的な学習コンテンツが広く入手できるようになったことなどを受け、さまざまな業界で広く活用されるようになりました。
また今は『人的資本情報開示』の流れもあり、社員の能力開発に対して企業がどれだけ投資をしているかを開示する必要性も出てきたことも大きく影響しています。「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」の導入により社員がいつでもどこでも主体的に学習できる環境を整え、社員が学習に費やした時間を効率的にモニターできるようにすることで、人的資本情報開示も一段と進めやすくなります。
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」が解決できる課題とは
──「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」導入により解決できる課題には、どのようなものが挙げられるでしょうか。
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」を導入することによって解決できる課題には、大きく以下5つがあります。それぞれ導入後の改善状況も含めて解説します。
(1)学習コンテンツの散財
人事としては社員に主体的に学習してもらいたいと思っているものの、現状では学習コンテンツが散在しており、社員がアクセスしにくい状態にある場合があります。「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」ではさまざまな学習コンテンツ(講師主導型研修・e-ラーニング・オンライン学習教材など)の一元管理が可能になるため、どこに行けばどの学習コンテンツにアクセスできるのかが社員から見て明白になる。
(2)研修の展開
コンプライアンス研修など『受講必須研修』の展開に大変な工数がかかってしまう場合があります。「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」を使用することで、受講必須研修の受講完了・未完了を簡単にモニターできるだけでなく、未完了者にはシステムからフォローアップができるようになります。
(3)参加者管理
講師主導型研修(ILT)の参加者とりまとめを個別エクセルで実施して入る場合、効率性と確実性に欠け、間違いが多発する可能性があります。「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」を使用することで、講師主導型研修においても参加申し込みや出欠管理が容易になるメリットがあります。
(4)学習効果管理
社員の能力開発への投資状況を数字で示そうと試みても、データがまとまっていない、あるいは残っていないなどの状況により、算出が難しい場合があります。「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」を使用すれば、学習状況を各社員データと連動させることで、学習に関するKPIを簡単に算出することが可能です。
(5)学習意欲の向上
社員に主体的に学習してもらいたいと思うものの、なかなか学習に対するモチベーションが盛り上がらないということもあるかと思います。「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」には職種や過去の受講履歴をベースとしたリコメンド機能もついているため、社員の学習意欲向上を見込めます。
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」の導入プロセス
──「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」を導入するためには、どのようなプロセスが必要でしょうか。導入までに踏むべき手順と、各ステップにおけるポイントをお教えください。
大きく3つのプロセスが必要になります。それぞれプロセスごとに解説します。
(1) 導入目的の明確化
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」に限らず、何かを導入する際にはその『目的』を明確にすることが重要です。なお、一般的な導入目的と選択すべきシステムには以下のようなものがあります。
<導入目的>
①研修運営のオペレーションの効率化
導入すべきシステムは、教育担当者にとって操作しやすいものが望ましいでしょう。
②社員が自ら主体的に学習する環境の整備
多様なコンテンツが必要となるため、豊富なコンテンツが付随する「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」が向いています。あるいは、「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」に合わせてコンテンツを購入しても良いでしょう。
③社内での知識共有や、知識移転のための環境整備
導入すべきシステムは、内省で作成した研修コンテンツの扱いが簡単にできるものが望ましいでしょう。
④法律要求事項などの遵守のために、受講必須研修の展開や管理の容易化
教育担当者にとって操作しやすいシステム、または研修コンテンツのバージョン管理が可能なシステムの導入が重要です。
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」であれば上記すべての目的をカバーできますが、代替が効くものもありますので、必要に応じて選択するシステムを変えるのも良いでしょう。
(2) システム選定
情報を収集し、自社の導入目的に合致するシステム・ベンダーを特定します。すでに導入済みの他のHRシステムのオプションとして「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」が利用可能なこともありますので、導入済みシステムのベンダーにも確認しましょう。
併せて、自社のIT方針を勘案してオンプレミスのシステムとするかクラウドのシステムとするかも検討します。人事データなど連携したい既存システムがある場合には、そのシステムとの連携が可能かどうかも合わせて確認が必要です。ちなみに、昨今はクラウドでの導入が一般的になっており、ユーザー数に基づいたサブスクリプション(月額または年額)での課金となる場合が多いです。
(3) 運用体制の構築
導入目的に照らし合わせて「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」導入時に発生するプロジェクト業務、および導入後の運用業務を洗い出し、役割分担を決定します。役割分担をしておく必要のある項目は以下を参考にしてみてください。
①導入時にプロジェクト業務が発生するもの
・学習コンテンツの開発
・研修情報や、学習コンテンツのLMSへのアップロード責任
・利用促進体制の整備
・既存システムとの接続、連携(人事データなどとの連携など)
②導入後、継続して運用業務が発生するもの
・学習コンテンツの開発
・研修情報や、学習コンテンツのLMSへのアップロード責任
・利用促進の継続
・ユーザー窓口の設置
・KPIの算出
上記をもとに、どの部門が何の役割を担うかをあらかじめ明確化し分担しておくことで、導入後も目的に応じた運用体制を構築することができます。
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」を継続的に運用するためには
──「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」を導入したもののそれきりになってしまい、社員が活用していない企業も少なくないように感じます。当システムを使って社員が継続的に“学び続ける”ようにするためにはどうすればよいでしょうか。
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」を社員がうまく活用できていないと人事担当が気付いた際に行うべきことは、『当初の導入目的に立ち返って振り返ること』です。そもそも導入目的が明確でなかったり、導入目的に沿った運用ができていなかったりと、何かしらの課題を見つけることができるはずです。
よく聞く失敗例としては、『システムは導入したものの、社員が自発的に学びを進めてくれない』というものです。多くの場合、会社からの発信が少ない、あるいはシステムの周知が足りないといった要因が考えられます。それらの解決策についても様々ありますが、例えば以下の取り組みなどは効果的に作用してくれると思います。
・キャリアオーナーシップやリスキリングなどと関連付けて、会社が社員の主体的かつ継続的な学習を期待しているメッセージを定期的に発信する。
・コミュニティマネジャーのような役割の社員を配置し、そこから頻繁に発信を行うことで興味関心を持ってもらう。
・『組織が求める人材像』と各種研修を関連させて、推奨コンテンツとして宣伝する。
……など
しかしながら、上記のように社内への発信や呼びかけを行っても、社員が自発的にラーニングシステムにアクセスし、学習するようになったというケースだけではないかと考えています。そこで考える必要があるのが、キャリア開発等と連動したラーニングシステムの活用です。
昨今のジョブ型雇用などでは、各ジョブに求めるスキルなどを明確にする傾向があります。社員それぞれが希望するキャリアを実現するために、たとえば社員向けにスキルマップを公開するなどして、なにを学習すればいいのか、あるいはどんなスキルを習得すべきかが明確になっていると、自発的な学習モチベーションにも繋がるかと思います。
「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」の活用事例
──これまでに残間さんが経験された「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」の活用事例について教えてください。
今回は2つの事例をご紹介します。
事例1:日本本社のグローバルメーカーにて、グローバル全体の人材育成を行う目的で導入
メーカーということもあり、どうしても本社に技術力が高い人材が集まる傾向があった同社。現地法人の技術力も向上させないといけないという課題から、本社側でグローバル共通の研修教材を作成。その上で現地法人へ展開する教育プログラムを開発・展開しました。現地法人側では個別で研修教材を作成するリソースがなかったため、グローバル共通の教育プログラムにアクセスできることは大きなメリットでした。
実際に「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」を導入してグローバル共通の教育プログラムを整備・展開したことにより、現地法人社員の技術力向上はもちろん、モチベーション向上にもつなげることができました。一方、本社側の技術者は通常業務の合間を縫っての研修コンテンツ開発となったため、リソース観点で相当な負荷をかけることになってしまった点は課題として残りました。
事例2:教育プログラムがない状態から、研修コンテンツを充実させて若手社員の育成につなげた
私が関与したある企業では、自律的な社員の育成を目指しながらも教育プログラムがない状態でした。そこで「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」の導入をきっかけとして講師主導型研修を充実。合わせて社員自らが主体的に学習できるよう汎用的なe-ラーニングコンテンツも充実させたことにより、特に若手社員の成長実感やエンゲージメントを向上させることができました。
また、マネジャーと社員が1:1などでキャリアについて話し合う際にも、それぞれのキャリアプランに合わせて研修コンテンツをマネジャーが推奨できるようになり、結果として1:1のクオリティもアップ。上司・部下の関係性向上にも寄与してくれました。
■合わせて読みたい「社員育成に関する用語」関連記事
>>>VUCA時代のマネジメントに「コーチング」を活かす方法
>>>「アンラーニング」で社員の成長を促すために知っておきたいこと
>>>「トランジションモデル」を活用して役割転換を促す人材育成方法とは
>>>「リスキリング」で変化に対応できる人材を育成する方法
>>>「リフレーミング」活用で目指す、社員の多様性を認める組織づくり
>>>「キャリアアンカー」を組織運営に活かす方法
>>>「内発的動機づけ」で自律的な組織を目指すには
>>>「インテグリティ」を醸成してコンプライアンス経営を推進する方法とは
>>>「キャリアパス制度」を組織やカルチャーに合わせて作るには
>>>「リフレクション(内省)」を組織全体に促す方法論とは
>>>「リスキリングとリカレント」の違いを活かして組織成長に活かすには
編集後記
どれだけ充実した研修コンテンツが用意されていても、それを社員が認知・活用できていなければ意味がありません。「ラーニングマネジメントシステム(LMS)」の導入により、狙いを持って社員の育成・学習促進を進めることができれば、組織力の大幅向上が見込めます。また、昨今強く求められている『人的資本情報開示』のテーマにも大きく関与する部分であるため、ぜひこの記事をきっかけに導入・活用を検討してみてください。