「子の看護休暇」の取得促進により、働く環境整備と企業成長を両立する

子どもが病気やケガをした際に取得できる「子の看護休暇」。仕事と育児を両立するための権利として育児・介護休業法に定められています。
今回は、人事領域の中でもワークライフバランス向上施策などに明るい廣瀬さんに「子の看護休暇」の現状や法改正内容、企業における活用事例に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
廣瀬 一真(ひろせ かずま)/法人代表
不動産業界に入社後、株式会社ワコールに転職。営業経験を経て、労働組合に従事。活動を通じて女性活躍支援、ワークライフバランス向上の取り組み等を率先。現在は従業員視点・経営視点両軸から人材会社の経営に携わる。
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目次
「子の看護休暇」に関する直近の動き
──「子の看護休暇」について、2021年に法改正があったかと思います。その内容も踏まえて「子の看護休暇」に関する環境の変化などを教えてください。
「子の看護休暇」とは、ケガや疾病にかかった子どもの世話、またはインフルエンザの予防接種など病気の予防に必要な世話を行うために社員が取得できる休暇です。子育てをしながら働き続けられるようにするための権利として、育児・介護休業法の第16条の2と3に規定されています。
取得できる休暇数は、労働者1人につき1年度で5日(子が2人以上の場合は10日を限度)と定められています。企業が個別でこれを上回る日数取得を可能とする制度を定めても問題ありません。

この「子の看護休暇」は2021年1月に法改正が行われ、より柔軟に取得できるようになりました。具体的な変更点としては『時間単位での取得が可能になったこと』『全ての労働者が取得できること』の2つです。

なお、女性の育児休業取得率は直近10年近くは8割台で推移していますが、男性は上昇傾向にあり、2021年には13.97%となりました。コロナ禍で在宅勤務やテレワークが普及し、転勤に対する考え方などが変わってきたことが影響していると考えられます。
個人・企業それぞれが活用できるサポート内容
──2021年1月の法改正により、個人・企業それぞれにどのような変化があったのでしょうか。
まず個人側では、より細かく看護休暇を取得できるようになった点が挙げられます。これまでは1時間だけの中抜けでも半日分の休暇取得をしなくてはなりませんでしたが、この法改正により1時間だけの看護休暇取得で済むようになりました。1日8時間勤務の企業であれば最大40時間(5日分)まで細かく取得できる計算です。これによりさらに育児と仕事の両立がしやすくなり、特に有給休暇の取得日数も増えがちだったコロナ禍のセーフティーネットとして活用された方も多かった印象です。
企業側にもそこに付随したメリットがあります。これまで制度上半日か1日休まないといけなかったメンバーが必要最低限の時間だけ看護休暇を取得して残りの時間を業務に充てられるようになったことで、周囲メンバーの業務負担も軽減できるようになりました。近年はテレワークも進んでいるため、時間単位での看護休暇を取得しやすくなったことも追い風となっています。
ちなみに、法を上回る「子の看護休暇」制度を整えた中小企業が活用できるものとして『両立支援等助成金』があり、大きく以下3つのコースが用意されています。
(1)出生時両立支援コース(男性の育児休業取得を促進)
(2)介護離職防止支援コース(仕事と介護の両立支援)
(3)育児休業等支援コース(仕事と育児の両立支援)
それぞれに支給要件や金額が異なりますので、詳細は以下サイト掲載されています。
※参考:厚生労働省・都道府県労働局『2022年度 両立支援等助成金のご案内』

「子の看護休暇」取得を推進することによる影響
──「子の看護休暇」取得を企業がサポートすることで、どのような影響が期待できるのでしょうか。
「子の看護休暇」取得を含めて、育児と仕事の両立支援は企業側においても会社や社員に対して多くの良い影響が与えられます。具体的には以下2つの観点です。
全社員の働きやすい環境整備
両立支援は必ずしも『子育て社員』だけを支援するわけではありません。年齢や属性など多様な背景を持つすべての社員にとって働きやすい環境を作ることでもあります。ちなみに、育児休暇を取得しやすい企業は会社への愛着が高まり独身社員の定着率が高まるなどのデータもあります。
企業成長につながる投資
両立支援に取り組む企業は、中長期的に売上高や経常利益が伸びているというデータがあります。富士通総研が3000社の企業データを財務分析した結果、『失われた10年』と言われた期間において一般企業では2割弱も業績が落ち込んだのに対して、両立支援に取り組んでいた企業では3割以上も業績が伸びていたそうです。

なお、こうした両立支援は中小企業の方が推進しやすい側面があります。なぜなら経営者の方針で柔軟に対応できる機動性・柔軟性を持ちやすいためです。
上図の引用元でもご紹介した中小企業庁の『中小企業における時世代育成支援・両立支援の先進事例集』ページ内に資料がありますので、ご参考にご覧ください。
「子の看護休暇」の取得推進施策事例
──「子の看護休暇」取得を推進し、企業や社員へ良い影響が発生した施策事例について教えてください。
以前私が関わった企業にて「子の看護休暇」取得を推進したことにより、社員の会社に対するエンゲージメント向上・社内制度周知・社内コミュニケーションの促進などの効果がありました。
エンゲージメント向上・社内制度周知
有給休暇や育児休業などは比較的知名度が高い制度ですが、看護休暇は社内周知が十分ではない企業も多いのが現状です。実際に社員が困難に直面しているタイミングで看護休暇制度について説明したところ、会社への感謝と共にエンゲージメントも高めることができました。
具体的には、長期休業明けで消化できる有給休暇日数がなくなってしまった社員から「(有給休暇以外で)子どもの看護に使える休みはないか」と相談を受けたことがきっかけです。そこへの回答として「子の看護休暇」制度の内容をお伝えしつつ、同じような悩みを持っている社員がいることを想定して社内イントラにて看護休暇に関する制度概要と問い合わせ先の周知を実施しました。こうして「子の看護休暇」取得促進を行ったことで、関連する両立支援制度の社内周知にもつなげることができました。
社内コミュニケーションの促進
看護に直接的に携わるのはお子さんがいる社員ですが、その周囲で同僚などの一緒に働くメンバーも突発的な看護休暇取得時にフォローするという意味では間接的に関わることになります。いつ・誰が看護休暇を取得しても対応できるよう普段から体制を整えておくなどの準備が必要になるため、結果的に社内コミュニケーションが促進される効果もあります。
実際に、以前は仕事以外の話をあまりしてこなかった社員たちが、看護休暇の取得に合わせて互いのプライベートな話(子どもの習いごとなど)も共有するようになりました。それにより個人のパーソナリティをより深く知ることになり、業務効率も上がったと報告を受けています。
フォローをする同僚側も、いつフォローしてもらう側になるかわかりません。『お互いさま』の風土を醸成するきっかけにもなり、それが働きやすい職場環境にもつながっていくのです。
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編集後記
「子の看護休暇」は取得する社員はもちろん、そのフォローをする同僚側にも良い影響を及ぼせることを廣瀬さんのお話から理解することができました。緊急時の救済方法としてだけでなく、長期的・投資的な視点で制度の社内認知向上・取得促進を進めて行けると、より働きやすい・社員から選ばれる組織にできるのではないでしょうか。