とりあえずでは続かない「採用オウンドメディア」の立ち上げ方
採用手法の1つとして「採用オウンドメディア」を立ち上げる企業が増えてきています。しかし、いざ自社でメディアを作ろうと思っても、どこから手をつけたら良いか分からず、実行に移せていない企業も多いのではないでしょうか。そこで今回は、この領域において専門性を持つパラレルワーカーの方にお話を伺い、成果を出せる「採用オウンドメディア」の立ち上げ方をお伺いしました。
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目次
採用オウンドメディアとは
──採用オウンドメディアの定義、近年ニーズが高まっている背景を教えてください。
定義するにあたり、まずはメディアにおける3つの形式(トリプルメディア)をご紹介します。
オウンドメディア
自社で運営し、完全にコントロールできるメディアのこと。また、その企業Webサイト上にある採用ページのことをオウンドメディアと呼ぶ場合もある。
ペイドメディア
Googleの検索連動型広告(リスティング広告)など、他メディアにお金を払って自社を宣伝するメディア活用のこと。
アーンドメディア
note、twitter、YoutubeなどのSNSをメインとした、ユーザーが発信するメディアにおいて自社の宣伝や情報発信をすること。
つまり採用オウンドメディアとは、「自社の採用を目的とした、自社で保有・運営・コントロールしているメディア」のことを指します。
採用オウンドメディアの必要性が近年高まってきている背景には、大きく以下3つがあります。
(1)情報収集方法の多様化
これまで求職者は求人媒体や人材紹介で情報収集するのが一般的であり、その情報から応募するかどうかを決めていました。しかし近年では、求人媒体などの一面的な情報だけでなく、口コミ、ブログ、SNSなどあらゆる情報を多面的に検索するようになり、求職者自身の情報リテラシーが大きく向上しました。
特に、広告要素のある情報を避ける動きも出てきており、信頼性がある情報元として、自社から発信するオウンドメディアが求められるようになったと言えます。
(2)価値観の多様化
求職者が就職・転職先企業に求める価値観が多様化してきたことにより、画一的な情報提供では採用成功につながりにくくなっています。社会へどんな価値提供をしている会社なのか、どんな社員と一緒に働くことになるのか、経営層が社員をどのように考えているのか・・・など、会社の魅力の捉え方は人それぞれ。募集する人材が欲しい情報を適切に提供するためにも、訴求内容を自社で完全にコントロールできるメディアが必要になってきているのです。
またあらゆる価値観を持つ層に合わせた情報提供を行うことで、応募獲得はもちろん、入社後のギャップをなくすことに成功しているケースも多くあります。
(3)情報の更新性
特にベンチャー企業では自組織の体制変更や方針転換のスピードが早く、すぐに情報が古くなったり、内容を追加や変更したい場面が増えています。採用サイトは毎年、もしくは少なくとも2~3年に1回は大規模なサイトリニューアルが必要ですし、リニューアルをしたとしても、その頻度では情報の更新性に課題が生まれてしまいます。
しかしオウンドメディアであれば、常に情報が更新されている状態が保てるため、こういった課題を解決することができます。こういった運用上の利便性も、採用オウンドメディアの魅力の1つです。
採用オウンドメディアをつくるメリットと注意点
──採用オウンドメディアのメリットについて、具体的にはどんなことが挙げられますでしょうか。また注意点もあれば教えてください。
前述の通り、採用オウンドメディアの最大の特徴は「コントロールできる」ということにあります。その上でより具体的にメリットをお伝えすると、以下のようなポイントが挙げられます。
発信したい情報、求職者に感じてもらいたい印象やブランディングなどを、自由に決めることができる。
例えば、求人媒体では各社でフォーマットが一定決まっており、限られた情報しか発信することができません(仕事内容・採用条件・社員インタビューなど)。また文字数や画像の枚数などについても制限があり、視覚面でも伝えられる情報が限られてきます。
しかし採用オウンドメディアにおいては、それらの制限がほとんどありません。そのため他社メディアでは表現できない情報や、PRしたい内容を自由に発信でき、より訴求力高く求職者に伝える事ができます。その結果、自社への理解が深まり、応募増加・入社後ギャップの低減・定着率向上といった効果が期待できます。
定期的な情報発信により、通年採用につながる。
求人媒体などは掲載期間が決められており、その期間内での情報提供が一般的です。また基本的には記載している情報を大きく変更・更新ができないため、期間中は同じ情報を掲載し続けることになります。
しかし採用オウンドメディアであれば、随時情報を更新・追加することができ、また意図的に掲載をやめない限りは掲載を続けることができます。常に求職者の目に触れる場所に情報を置いておくことができるため、年間を通して採用につなげられます。
インナーブランディング(理念浸透)の促進効果がある。
直接的な採用への効果以外にも、社内のメンバーに対する派生効果が期待できます。特に社員数が多い企業だと経営陣との距離感が遠くなりがちです。そこで会社として向かうべきところを常にオウンドメディア上で発信することにより、社員に会社の考え方を伝えられるようになります。
一方、注意点として気にしておく必要があるポイントは、「工数」と「コスト」です。自社のメディアを持つということは、当然最初の制作費用(デザイン・開発など)が掛かります。また、一度メディアが完成してしまえばそれで終わり、というわけにもいきません。完成後も定期的な情報更新が重要なため、場合によってはライターやデザイナーのアサインなども必要になります。
またその他にも、オウンドメディア自体の認知や集客などを戦略的に検討していく必要があります。メディアをただ作るだけでは、誰にも見てもらえません。情報を定期的に追加しながらメディアを運用し、見てくれる方を増やすためにも、自社メディアを担当するスタッフを配置しなければなりません。しかも、見られるメディアになるには長い年月を要します。その間、そのスタッフにかかる工数やコストも当然運用には含まれます。
採用オウンドメディアのつくり方
──「採用オウンドメディアをつくりたい」と考えた際、まずはどこから手をつけるべきでしょうか。工程なども合わせて教えてください。
まずは、「そのメディアで何を成し遂げたいのか」を定義するところから始めましょう。具体的には以下のような流れで、検討を進めていくのが良いと思います。
1.メディア設立目的と、自社アイデンティティの定義
採用オウンドメディアである以上、目的は「採用」であることには変わりはありません。しかし、単発的ではなく長期的な採用力向上のためにも、自社のアイデンティティ(ミッション・ビジョン)を明確にし、それをベースとした発信の継続が、採用・企業ブランド力向上において重要なポイントです。
ミッション・ビジョンの定義については、詳しくはこちらの記事をご参考ください。
2.メディアのコンセプトの決定
1.で定義した自社アイデンティティをベースに、必要な人材像(採用ターゲット)をなるべく細かくイメージしていきます。ここで決定した人物像=オウンドメディアのターゲットとなります。
居住地や性別などのデモグラフィックデータだけではなく、性格・仕事に対しての姿勢・志向性などを具体的にイメージが出来るように細かく決めていくことが重要です。イメージが湧きづらい場合は、自社で活躍している社員を想定しながら決めていくことをお薦めします。
次に、その人材を採用する上で重要なポイントを洗い出し、そこに対してどんな情報提供が必要かを検討します。
例えば中途採用の場合、以下のような内容がポイントとなります。
・ターゲットにする人物がどのような課題を抱えていて、何を解決するために転職をするのか
・過去に自社で内定辞退をされてしまった人物は、何が足りないと判断して辞退をしたのか
これらをできるだけ多く洗い出し、カテゴリごとにマッピングをしていきます。そして各カテゴリーに対して訴求したい内容を言語化していき、それがまさに情報提供すべき内容=メディアのコンセプトとなります。
3.機能・コンテンツ内容の検討
メディアの中にどんな機能・コンテンツを載せるかは、カスタマージャーニーマップから設計をするのが良いでしょう。
例えば「応募」がゴールになるのであれば、以下のようなフェーズに分けます。
・集客→サイト到達→情報閲覧→求人情報閲覧→応募
そこから各フェーズごとに、求職者のニーズに対するメディアの価値を定義して、機能・コンテンツに落とし込みます。
例えば、求人情報閲覧フェーズにおける求職者のニーズ「職場の雰囲気を知りたい」に対し、メディアの価値は「社内の雰囲気を伝える」と定義します。そこに自社の訴求したい魅力をかけ合わせ「チームが一体となって働くカルチャー」のような具体的なコンテンツを作ります。
このような方法で各フェーズごとに出来る限りコンテンツ案を検討していき、最終的に優先順位を決めて、どの機能・コンテンツから作成していくかを決定します。
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4.メディアゴールやKPIの設定
例えば最終的なゴールを「応募数」とした場合、そのためのKPIは「集客数」と「CVR(コンバージョンレート)」と置くことができます。
KPIの数値の取得方法は、Google Analyticsであれば、無料で詳細分析まで可能です。
ポイントとしては、以下項目の数値を取得するといいでしょう。
・ユーザー数:オウンドメディアにどのくらいのユーザーが来ているのか。
・チャネル別集客:Google検索、会社HP、SNSなど、どこからサイトに到達しているのか。
・ページURL別数値:どのページが読まれていて、どのページが見られていないか。また応募フォームなどがあれば応募フォームでどのくらい離脱されているのか。
・年齢・性別・エリア:訪問しているユーザーがターゲットと合っているのか。
KPIを明確に決めておくことで、オウンドメディアを作って終わりではなく、狙ったターゲットを採用するために良かった点・悪かった点を知り、次の改善につなげることができます。
うまく運用している企業事例
──採用オウンドメディアの運用がうまく進んでおり、成果が出ている事例を教えてください。
前提として、「うまく運用できているかどうか」は各社のゴール設定によって変わるものだと考えています。またオウンドメディアは短期的な施策ではありません。あくまで中長期的に育てるものであるため、現時点で成果が出ているかどうかを計りにくい側面があります。
そのため今回は、「質の高い情報を発信しているな」と感じるメディアをいくつかご紹介します。尚、質というのは発信する内容(文章や画像)と鮮度(コンテンツの更新頻度)を主に指します。どのメディアも社内の実情が赤裸々に発信されており、実際の仕事内容や環境をありありとイメージすることができるため、非常に信頼性が高いメディアと言えるでしょう。
mercan(メルカン)
株式会社メルカリのオウンドメディアで、メルカリグループのメンバー全員が発信することができるコンテンツプラットフォームとして運用されています。2016年5月からスタートし、プロダクトのつくり手の想いに迫ったインタビューや、サービスリリース時の歓喜に湧くイベントレポート、議論の末にサービス終了の決断に踏み切ったメンバーの声など、「メルカリの人を伝える」をコンセプトにした記事が多く更新されています。
UB Journal
経済情報メディア“Newspicks”などで知られる株式会社ユーザベースのオウンドメディア。「見えない常識から自由になろう」をコンセプトに、見えない常識を疑い、自由に挑戦を続けている人々を紹介していく形のものです。「自由主義で行こう(Be free & own it)」を掲げるユーザベースらしいメディアとなっています。
BAKE MAGAZINE
『お菓子を、進化させる。」というミッションをかかげ、「BAKEチーズタルト」「ZAKUZAKU」「RINGO」など、原材料にこだわり、手間をかけたお菓子を生み出している株式会社BAKEが2015年5月にスタートさせたオウンドメディア。社内だけでに留まらず、スタートアップ・食・第一次産業で活躍する先駆者の方々の声も紹介されています。
コロプラ Be-ars
オンラインゲームの開発・運営を行っているコロプラが運営しているオウンドメディア。「エンターテインメントで日常をより楽しく、より素晴らしく」をミッションに掲げ、自社のものづくりへの想いや目指す未来などはもちろん、インターンや採用情報、コロプラの社内制度の紹介や活躍するクリエイターのキャリアやこだわりなども幅広く発信されています。
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編集後記
求職者の情報リテラシーが大きく向上し、より信頼性の高い情報が求められるようになった今、自社で直接的に情報発信をしていく方法としてオウンドメディアに挑戦したい企業は少なくないでしょう。
しかしながら、「オウンドメディアは中長期的に育てるもの」という話があったように、オウンドメディアは短期的な効果のために始めるものではなく、採用戦略に立ち返ってメディアをどういう機能・役割にしていくのかを明確にした上で、「育てていく」認識を持つことが大切だと言えそうです。採用オウンドメディアを導入する際に、ぜひ参考にしてみてください。
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