「採用ブランディング」の鍵は“飾らない姿勢”。 取り組みにおける壁やポイントについて解説
企業の魅力や理念を戦略的に発信し、『この会社で働きたい』という共感と信頼を獲得する活動である「採用ブランディング」。採用難が加速する状況を受け、取り組みを進める企業も増えてきた印象があります。
今回は、採用ブランディング・採用広報コンサルタントの垣本 陸さんに、「採用ブランディング」の概要・現状から事例に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
垣本 陸/採用ブランディング・採用広報コンサルタント早稲田大学法学部卒業後、大手通信系企業でマーケティング・広報として勤務。IT系ベンチャー企業の人事部門取締役を経て独立。マーケティング・ブランディング・リクルーティングの3領域にわたる経験を活かして上場企業をはじめ多数の企業を支援している。
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目次
「採用ブランディング」とは
──「採用ブランディング」の一般的な定義について、混同されやすい『採用広報』との違いも含めて教えてください。
「採用ブランディング」とは、自社が採用市場で“選ばれる存在”になるために自社の魅力を整理し、明確な方向性を定める取り組みを指します。企業をひとつのブランドとして捉え、そこで働く価値(EVP:Employee Value Proposition)を戦略的に定義し、それを組織の文化や候補者体験として具現化していくプロセスです。これは、企業が商品を販売する際に競合優位性を分析し、ターゲット顧客を設定し、マーケティング戦略を構築する際の『商品ブランディング』を採用領域に置き換えたものと理解すると分かりやすいでしょう。
一方で『採用広報』は、「採用ブランディング」で定義した魅力をターゲット人材に届く形に具体化していく実行手段のひとつです。候補者が企業を認知してから応募・選考・内定承諾に至るまでの候補者コミュニケーション(タッチポイント)全体で、何を・誰に・どの順番で・どのトーンで伝えるかを設計し、運用します。
具体的には、採用サイトやSNS、スカウト文面、面接での伝え方など、候補者とのあらゆる接点で一貫したメッセージ体験をつくることが重要です。また、新卒採用とキャリア採用では訴求ポイントや伝え方も異なり、特にキャリア採用では転職顕在層と潜在層に分けたアプローチが求められます。
なお、現在の採用市場では、高待遇や働きやすさを示すだけでは優秀な人材の心に響かないケースが増えています。キャリア形成を重視する人もいれば、企業の社会的意義を重んじる人、ワークライフバランスの充実を優先する人など、求職者の求める『働きがい』は多様化しています。そのため、自社がどのターゲットに対してどの魅力を訴求すべきかを整理し、最適なチャネルで効果的に届けることが不可欠です。
つまり、採用広報は「採用ブランディング」を構成する取り組みの一部です。「採用ブランディング」で定義した自社の魅力やメッセージを、ターゲット人材との各タッチポイントにおいて一貫して伝わる形に落とし込むことで動機づけを行うことにより、競争の激しい採用市場でも成功につながりやすくなります。
「採用ブランディング」の現状
──近年、「採用ブランディング」に注力する企業が増えている印象がありますが、その背景にはどのようなものがあると考えていますか?
人口減少の進行により、人材の確保は今後さらに難しくなると見込まれています。加えて、働き方への価値観が多様化し、『働きがい』を構成する要素も大きく広がっているのは前述の通りです。
従来は企業ブランドや待遇面が重視されていましたが、近年ではキャリア形成の機会、社会貢献性、ワークライフバランスなどを重視して就職・転職活動を行う求職者や学生が増加しています。
こうした変化により多くの企業は採用活動において課題を感じている一方で、求人メディアの影響力は相対的に低下しています。働きがいを構成する要素の広がりと価値観の多様化にともなって、「求人媒体に載せて待つ」従来の採用手法が通用しづらくなってきたからです。
そのため企業は、オウンドメディア・SNS・動画など複数チャネルでの情報発信に取り組む必要性が高まっています。
このような採用環境の変化を背景に、企業には『自社ならではの魅力をどう築き、どのように伝えるか』がこれまで以上に問われています。「採用ブランディング」に力を入れる企業が増えているのは、まさにこれらの要因によるものだと言えるでしょう。

「採用ブランディング」を進める中での“壁“
──企業が「採用ブランディング」を進める上で、途中で行き詰まってしまうケースも多いと聞きます。実務の中でつまずきやすいケースや、その要因にはどのようなものがあるでしょうか?
「採用ブランディング」にとりあえず手をつけてみたものの、途中で行き詰まってしまう企業は少なくありません。
特によく見られるのが、『オウンドメディアを立ち上げて従業員インタビューを掲載したものの、次にどのようなコンテンツを作ればよいかわからない』『長期的な施策として予算確保が難しい』などのケースです。こうした行き当たりばったりの取り組みで行き詰まらないようにするためには、以下3つのフェーズ・観点で「採用ブランディング」の取り組みを検討する必要があります。
(1)分析フェーズ(自社の魅力の洗い出しとタッチポイント検証)
(2)企画・制作フェーズ(コンテンツ構造の策定と企画・制作)
(3)運用フェーズ(KPI管理によるコンテンツの継続的な改善)
この中でも特に重要なのが、「採用ブランディング」の骨子となる自社の魅力を定義する(1)のフェーズです。このフェーズの中で競合他社との比較を取り入れたうえで、差別化できるポイントを明確にしましょう。
他にも、『効果検証の方法や考え方』についても事前に検討しておけると、一貫した「採用ブランディング」活動が実現できるようになります。基本的には、オウンドメディアのPV数やユーザー数、候補者・内定者アンケートなどによる影響度測定が効果的です。
ただし、広報施策として予算を継続的に確保するためには、『社内的な訴求』の観点からの効果検証も重要になります。
「採用ブランディング」はインナーブランディング(企業がブランドの理念や価値観を自社の従業員に伝え、理解・共感を促す社内向けの活動のこと)としての効果も期待できるものです。
例えば、『社長の取材記事を読んでMVVの背景を深く理解できた』『事業部長の事業構想の奥深さを知った』などの声はよく聞かれます。だからこそ、こうした観点からの検証も長期的な施策として予算を確保するためには欠かせないのです。
──「採用ブランディング」は人事部門だけでは完結せず、他部門との連携が必要かと思います。円滑に連携するための体制づくりのポイントを教えてください。
「採用ブランディング」を推進する際によく論点になるのが、「人事部門と広報部門のどちらが主体となるべきか」という点です。どちらが主体となるかは企業のフェーズや発信する内容によって異なります。
例えば、採用成果に直結するテーマが中心であれば、人事部門が主体となるのがスムーズです。一方で、経営陣による事業ビジョンの発信や全社イベントのレポートなど、コーポレートブランディングに近い発信が中心となる場合は、広報部門が主体となった方が、クオリティと一貫性を担保しやすくなります。
いずれの場合も、「採用ブランディング」をスムーズに推進するためには、人事部門と広報部門のメンバーで構成されるプロジェクトチームとして取り組むことをおすすめします。
その際、法務部門との連携も不可欠です。外部に向けた情報発信である以上、リーガルチェックを運用フローに組み込む必要があるためです。
さらに、採用ブランディングを効果的に実施するには、以下のようなクリアすべき課題がいくつもあります。
・レギュレーション(発信ルール)の整備
・社内の協力体制の構築
・公開したコンテンツへの導線設計
など
しかし、採用市場が大きく変化する中で、これらは“やるべき前提”として捉え、着実に仕組み化していくことが重要です。
「採用ブランディング」が機能している企業の共通点
──「採用ブランディング」にうまく取り組めている企業に共通するものには何がありますか?
「採用ブランディング」はしばしば『採用向けコンテンツ(記事など)を作ること』だと誤解されがちですが、本質はそこではありません。「採用ブランディング」とは、自社が採用市場で“どのような存在として選ばれたいか”を明確にし、そのイメージがターゲットとなる候補者に対して、接点づくりから選考プロセスまで一貫して伝わる状態をつくる取り組みを指します。
さらにもう1つの誤解として、『飾られた発信をしてしまうこと』があります。取り組みがコンテンツ制作に偏ると、洗練されたオフィス環境や手厚い福利厚生、ポジティブな面だけを強調した従業員インタビューなど、見栄えの良い情報ばかりを発信しがちです。しかし、今の求職者は口コミサイトなどでネガティブな情報にも容易に触れられるため、発信内容と実態にギャップがあると、こうした『飾られた発信』は一気に信頼性を失います。
そこで重要になるのが『飾らないリアルなコンテンツ』の発信です。採用ブランディングにうまく取り組めている企業ほど、組織が抱える課題や過去の失敗も含めて率直に共有する姿勢を大切にしています。組織がどのような課題に向き合い、その経験から何を学び、どのように現在の姿につながっているのか──その思考やプロセスを共有することが、候補者の共感を呼びます。
また、共感に加えて『自分が入社したときにも同じように活躍できそうか』『将来につながるキャリア体験になりそうか』といった“追体験”をリアルなコンテンツから得られる点も重要です。
キャリア観がよりシビアになっている現代だからこそ、飾らないリアルな情報や既存従業員の体験談を通じて、入社後の姿を具体的に思い描けることがこれまで以上に求められています。
また、企業のリアルを伝える取り組みとして、従業員体験(EX)を採用ブランディングに活かす動きも広がっています。「飾らないリアルなコンテンツ」を共有することは、求職者の共感を得るだけではなく、従業員の納得感や満足度の向上にも繋がります。結果として、リファラル採用の活性化やリテンション強化といった形で組織にもポジティブな影響をもたらします。
もはや、これらに取り組んでいるだけでは差別化が難しい時代です。だからこそ企業は、候補者から信頼を得るためのアプローチとして『飾らない姿勢』と『従業員体験』を重視し始めています。作り込まれた発信ではなく、ありのままの姿を伝える「採用ブランディング」への転換こそが、採用活動成功の鍵となりつつあるのです。
「採用ブランディング」により成果を上げた事例
──これまでのご経験の中で、「採用ブランディング」の取り組みによって成果を上げた事例について教えてください
前提として、「採用ブランディング」への取り組みが採用活動に良い影響をもたらすことは間違いありません。しかし、「採用ブランディング」は単一の施策で完結するものではなく、多面的に設計する必要があります。
採用サイトの刷新、求人メディアやダイレクトリクルーティングの運用見直し、エージェントとの関係強化、選考基準の再設定など、候補者と接触するあらゆるポイントが成果を左右するためです。
こうした前提のもと成果につながった事例として、『採用メッセージの見直しを軸にした採用サイトのリニューアル』『新たな採用広報の展開』『採用チームの増員』によって、応募数が60%増加したケースがあります。具体的には、以下のような取り組みを実施しました。
・採用サイトリニューアルと採用メッセージの一新、および採用メッセージに紐づけた採用広報コンテンツの戦略的な策定と制作
・CX向上を目的とした採用担当者の増員によるコンタクトの迅速化や、ダイレクトリクルーティングの1to1強化およびエージェントとの関係強化
・採用活動状況の社内告知など、採用を従業員にとってのジブンゴト化する仕組み
また、認知向上においては、採用広報のコンテンツ戦略を再設計し、ページビューが前年比250〜400%増となった事例も複数あります。
これらの成功事例に共通しているのは、自社の強みや魅力を再定義し、それらを採用メッセージとして「採用ブランディング」の軸に据えたことです。自社の魅力を整理したうえで、競合の採用ブランディングを分析し、どこで差別化できるかを明確にします。そして、候補者とのあらゆるタッチポイントでこの採用メッセージを発信し、一貫したブランディングを構築します。もちろん『採用広報』においても、採用メッセージを核としたコンテンツ戦略を組み立て、継続的に運用していきます。
さらに、経営陣(特にトップ)の理解とコミットメントがあるかどうかも、大きな成功要因となります。トップ自らが「採用ブランディング」の重要性を社内に発信することで、従業員の関心が高まり、施策への協力度が上がるためです。
また、従業員が自社を改めて深く理解するきっかけとなり、エンゲージメント向上にもつながります。こうした相乗効果によって、PV数・ユーザー数の増加や応募数の拡大に加え、従業員の定着率向上といった組織全体へのポジティブな影響も期待できます。
ただ、中には経営陣の理解を得ることに苦労している企業もあるでしょう。経営陣の理解を得るためのポイントとしては、「採用ブランディング」そのものの重要性を説くのではなく、もう少し高い視座からの説得が効果的です。具体的には、以下のようなロジックで説明できると経営陣にも響きやすいと考えています。
・人口減少や候補者の価値観変化、ITによる各種採用ツールの多様化といった背景から、採用活動そのものが変革期にあること。
・従来は求人メディアに募集要項を掲載し、応募を集めてふるい落とす転職顕在層に向けた採用活動が中心だったが、これからはカジュアル面談やタレントプールといった施策で『応募者ではないが自社に関心を持ってくれる層(=転職潜在層)の獲得とナーチャリングが重要になってくること。
・自社に興味関心を抱く層を拡大するための手法が「採用ブランディング」であること。
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編集後記
「採用ブランディング」は単なる情報発信ではなく、自社の魅力を改めて見つめ直し、その姿を飾らずに伝えていく全社的な取り組みであることを強く実感しました。採用環境が大きく変化する今こそ、自社ならではの価値を丁寧に言語化し、候補者との誠実な対話を積み重ねていく姿勢が求められています。こうした視点を忘れずに、今後の取り組みを進めていきたいものです。





























