「就活ハラスメント」の発生要因から防止策を解説
就職活動やインターンシップ中の学生などに対する各種ハラスメントを指す「就活ハラスメント」。ひとたび発生すれば学生の入社意欲を下げるだけでなく、口コミやSNSなどで悪評が広がるなど企業にとってさまざまな悪影響が発生します。
今回は「就活ハラスメント」の概要や具体的なケース、予防方法に至るまでを、大村 亮介さんにお話を伺いました。
<プロフィール>
大村 亮介(おおむら りょうすけ)/法人代表
ITベンチャー企業に入社後、新規営業から新規事業の立ち上げ、支社の再建、人事部門まで幅広く経験。
人事領域では制度設計・改定、人材育成体系の構築、エンゲージメント向上施策の立案・実行、マネジメント層の意識改革など、多角的に組織開発に携わる。
HR領域で20年以上の経験があり、現場/経営の両面から組織課題を一貫して伴走支援できる点に強みがある。
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目次
「就活ハラスメント」とは
──「就活ハラスメント」の概要について、企業に与える影響も含めて教えてください。
「就活ハラスメント」とは、企業の従業員や採用担当者などが就職活動中の学生やインターンシップ参加者に対して優越的な立場を利用して行うハラスメント行為のことです。『就ハラ』と略されることもあります。
この「就活ハラスメント」が採用活動上で発生してしまうと、学生の入社意欲は大きく低下し、選考辞退や内定辞退につながる恐れがあります。さらに、『ハラスメントが蔓延している会社』というイメージがSNSやクチコミを通じて学生の間に広まり、悪評が拡散します。そこから競合他社や就職支援企業、学校関係者にまで伝わることにより企業の信用が大きく損なわれた結果、数年間は採用活動が極めて困難になる可能性も考えられます。
『就ハラを起こした企業』として社会的信用を失えば、企業イメージの低下や採用活動へのダメージだけでなく、現在働いている従業員のモチベーションやモラルの低下をも招くことになり、生産性の低下や、優秀な人材の流出といった深刻な影響も懸念されます。さらに、会社が使用者責任を問われ、被害に遭った学生から損害賠償請求を受けるリスクも否定できません。
そもそもハラスメントは決して許されるものではありませんし、企業にとっても甚大なダメージをもたらすものであるため、未然に防ぐための社内教育や体制構築は必要不可欠です。
「就活ハラスメント」の最新動向
──「就活ハラスメント」をめぐる最新の動向について教えてください。
直近の大きな動きとしては、「就活ハラスメント」対策が企業の義務として定められたことがあります。2025年6月4日、参議院本会議にて改正『労働施策総合推進法』および『男女雇用機会均等法』が可決・成立し、就職活動中の学生やインターン参加者に対するセクシャルハラスメント(セクハラ)やパワーハラスメント(パワハラ)への対策が企業の義務として定められたのです。施行は公布から1年6カ月以内(2026年秋頃まで)とされており、すでに多くの企業で準備が始まっています。
こうした動きの背景には、4人に1人が「就活ハラスメント」を受けたことがあるという事実があります。厚生労働省の『令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査』によると、インターンや採用選考の場面でセクハラを受けたと回答した学生は実に30%以上にのぼっています。しかし、学生の中には恐怖や不安、内定への影響を懸念して声を上げられないケースも考えられるため、公表されている被害事例は氷山の一角に過ぎず、実際にはもっと多くの学生が泣き寝入りしている可能性があるのです。こうした状況に歯止めをかけるべく、国としても対策に乗り出しています。
こうした法改正を受けて企業がなんらかの対応を実施したとしても、『義務だから』と形式的に対応してしまっては本末転倒です。学生が安心して就職活動に臨める環境を整えるためには、企業が能動的に実効性の高い対策を実施することが必要だと言えるでしょう。

「就活ハラスメント」の種類
──「就活ハラスメント」は具体的にどのようなケースが該当するのでしょうか。教えてください。
「就活ハラスメント」には大きく以下3つの種類があります。
(1)セクシャルハラスメント(セクハラ)
採用面接、会社説明会、インターン、OB・OG訪問などのシーンにおいて、就職活動中の学生に対して企業側の担当者が不適切な性的言動や態度をとる行為を指します。厚生労働省の『令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査』によると、最も多いのは性的な冗談やからかい(38.2%)で、食事やデートへの執拗な誘い(35.1%)、不必要な身体への接触(27.2%)が続きます。

また、行為者として最も多いのは、インターンシップ中では『インターンシップで知り合った従業員』(47.4%)、『インターン先での上司・指導役(役員以外)』 (32.0%)、『インターン先の顧客等(患者やその家族等を含む)』(26.3%)の順に多く、インターンシップ以外の就職活動においては『大学のOB・OG訪問を通して知り合った従業員』(38.3%)、『学校・研究室等へ訪問した従業員、リクルーター』(37.0%)、『採用面接担当者』(25.1%)の順になっています。

(2)パワーハラスメント(パワハラ)
企業の採用担当者や従業員などが自分たちの優位な立場を利用して、学生に精神的な圧力や不当な扱いを加える行為を指します。具体的には以下のような行為です。
・面接の場で学生に対して高圧的な態度を取る(圧迫面接)
・不採用通知メールで人格を否定するような内容を送る
・学生から内定承諾の期日を延ばしてほしい旨の相談を受けた時に、暴言や嫌味を言う
・内定者同士のSNSや交流サイトに書き込みをするよう強要し、従わなければ威圧的な態度を取る
(3)就活終われハラスメント(オワハラ)
オワハラとは、内定を出すことを条件に他社の選考・内定辞退を強要することや、他社の選考期間に被るように自社のイベントを被せて拘束し他社を受けにくくする、といった学生の職業選択の自由を侵害する行為を指します。具体的には以下のような行為です。
・自社の内(々)定と引換えに、他社への就職活動を取りやめるよう強要する
・他社の就活が物理的にできないよう、研修などへの参加を求める
・内定承諾書などの早期提出を強要する
・内(々)定辞退を申し出たにもかかわらず、引き留めるために何度も話し合いを求める
・入社しなかった場合には損害賠償が発生する旨の記載がある『誓約書』や『入社承諾書』へのサインを強要する
「就活ハラスメント」が発生する原因
──「就活ハラスメント」が発生する原因について、企業・学生の両視点から教えてください。
就職活動の現場で発生する「就活ハラスメント」は、企業側と学生側の対等ではない関係性や、両者の心理や環境要因が複雑に絡み合っています。ここでは、企業側・学生側それぞれの視点から、「就活ハラスメント」が起きる背景について整理したいと思います。
■企業側の視点
就活生に接する採用担当者は面接や選考の場で『選ぶ側』の立場にあり、自分の判断で合否を左右できる優位性を持ちます。こうした優位性を背景に、自覚のないまま圧力的な言動や囲い込み(いわゆるオワハラ)をすることで「就活ハラスメント」につながる場合があります。
さらに、採用目標や内定数のプレッシャーに追われる現場では強引な行動をとってしまったり、旧態依然とした企業文化が残っている場合、価値観のズレからハラスメントと気づかずに不適切な言動が生まれることもあります。
■学生側の視点
学生は『評価される側』の立場にあり、内定を得たい気持ちから多少の不快感があっても我慢してしまう傾向があります。特に、第一志望の企業相手だと自分の将来を左右するとの思いから、より声を上げにくくなります。また、ハラスメントに関する知識が乏しいことが多いため、『これはおかしい』と感じてもそれを明確に認識したり相談したりできないことも「就活ハラスメント」を容認してしまう背景として考えられます。
「就活ハラスメント」の防止策
──「就活ハラスメント」を防止するためには、企業としてどのようなポイントを押さえて対策すれば良いでしょうか。
「就活ハラスメント」を防ぐには、企業として採用活動の在り方を根本から見直し、『一時的な対応』ではなく『組織文化としての定着』を目指す多角的な取り組みが必要です。ここでは、具体的な対策を5つの観点から紹介します。

(1)『公正な採用選考』に基づく面接の実施
厚生労働省が提唱する『応募者の基本的人権の尊重』と『適性・能力に基づく採用基準』の考え方に沿った面接が、「就活ハラスメント」防止の基本方針です。個人の属性(性別・家庭環境・信条など)を問う質問は避け、公正な選考基準に基づいて評価を行う必要があります。厚生労働省が用意した『公正採用選考特設サイト』に公正な採用選考の基本や、採用選考時に配慮すべき事項がまとまっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
(2)行動指針・ガイドラインの整備と徹底
採用面接やインターンシップにおいての就活生との接し方や発言内容などについて、具体的な行動レベルで明文化されたガイドラインを作成し、全従業員に共有・徹底することが重要です。なお、このガイドラインは『誰が見ても理解できる』具体性を持って示すことがポイントであり、特に以下の内容を盛り込んでおくとよいでしょう。
<盛り込むべき内容>
・発言内容:プライベートに踏み込まない、抽象的・圧迫的な表現の禁止
・選考外での接触について:私的な食事の誘いや私的SNSの交換の禁止
・学生とのコミュニケーションスタンス:上から目線ではなく「対等な対話者」として接する姿勢をもつこと
<ガイドラインの規定方法の一例>
・プライベートな質問(恋愛、家族構成など)の禁止
・『君はうちに合わない気がする』などの主観的・抽象的評価の禁止
・飲み会や懇親会の強制参加を禁止
特に、「学生とのコミュニケーションにおけるスタンス」については、現場社員や若手社員が面接やインターン対応に関わるケースも多いため、以下のようなポイントを押さえたコミュニケーションをガイドラインに含めるとともに、研修等により意識づけを行うとより安心感のある接点を築くことができます。
<学生とのコミュニケーションにおけるポイント>
・学生に対して“評価する側”という立場で接するのではなく、「対話のパートナー」としてフラットな姿勢を心がける
・緊張をほぐす意図であっても、雑談の中でプライベートな話題に踏み込みすぎないよう配慮する
・「社会を知らない学生」といった上から目線の発言は控え、相手の考えや価値観に敬意を持って向き合う
・相手の発言を途中で遮らず、最後まで話を聞く姿勢を持つ
・否定や指導ではなく、共感や質問を通じて学生の思考を深めるよう意識する
こうしたスタンスの統一は、就活生にとっての安心感や信頼感を生むだけでなく、企業としての誠実さや透明性の発信にもつながります。単なる「リスク回避」の視点にとどまらず、「学生とのよりよい関係構築」という前向きな観点から、全社的な姿勢としてガイドラインを設計・運用することが重要です。
さらに、こうした個々の接し方だけでなく、企業全体として、どのような姿勢で採用活動に臨むのかを明確にしておくことも欠かせません。
学生とのコミュニケーションは、単に選考を行うプロセスではなく、企業が学生に対して「どのような価値観を持つ組織か」を伝える機会でもあります。つまり、現場での言動や接し方は、そのまま企業の信頼や社会的評価に直結します。そのため、「就活ハラスメント」を『個人の問題』として矮小化せず、組織としての姿勢・責任として捉えることが重要です。
学生と企業は対等であり、一方的な評価の場ではなく、相互理解を深める対話の場として採用活動をとらえるという組織としてのスタンスをあらかじめ定め、それをガイドラインや研修を通じて社内に浸透させていくことで、『学生にとって安心・信頼できる企業』としてのブランド価値の向上にもつながります。
単なる『リスク回避』の視点にとどまらず、『学生とのよりよい関係構築』という前向きな観点から、全社的な姿勢としてガイドラインを設計・運用することが重要です。
(3)ハラスメント防止研修の実施
年齢や役職を問わず、採用に関わるすべての従業員に対して以下の内容を含む研修を定期的に行います。この研修後に理解度チェックやロールプレイングなどの実践的な学びを取り入れることで、より高い効果が期待できます。
<研修内容例>
・就ハラ(セクハラ・パワハラ・オワハラ)の定義と境界線
・学生が声を上げづらい心理背景の理解
・無意識に行われやすい言動の事例紹介
(4)面接・選考時の体制構築
実際の面接・選考時にも、以下のような対策を行うことで、「就活ハラスメント」が発生しにくい体制を構築するとよいでしょう。
・面接やオリエンテーションは必ず複数名体制で行い、『密室性』を排除する
・学生と従業員の接点を管理し、過度な私的交流を防ぐために指導者を2名以上配置する
・全応募者への選考後アンケートを実施し、問題のある面接官への再教育や配置見直しを行う
(5)相談・通報窓口の設置
万が一「就活ハラスメント」が発生したい際に学生が安心して声を上げられるよう、外部または中立的な立場による相談窓口を設けることも有効です。これは学生への安心感の提供だけでなく、企業やその従業員にとっても、予防策として機能します。
相談窓口を設ける際には、匿名通報やWEBフォームの設置などアクセスしやすい仕組みが望まれます。加えて、通報を受けた場合は、該当者に事実確認を行い、即時ヒアリングを行うなどの対応フローや、ハラスメントが確認された場合の罰則・処分に至るまでの手続き、対応状況をレポートとして社内で共有するなどの再発防止阻止など、相談・通報を受けた後の対応体制も明確にしておくと良いでしょう。
なお、実際の取り組みのなかで効果が大きかったものとして、『ハラスメント防止研修』と『面接官トレーニング』が挙げられます。
実際、対策を進める中で自身の言動に問題があると気づいていない方々も一定数存在しており、行動指針やガイドラインの徹底だけでは、正直、不十分であると感じる場面もありました。そこで、採用活動に関わる従業員を対象に、以下のような研修・トレーニングを実施しました。
<ハラスメント防止研修>
・どのような言動がハラスメントに該当するのかを具体例を交えて解説
・加害者となった場合に生じるリスクや実際のトラブル事例を紹介
<面接官トレーニング>
・ハラスメントになり得る言動を繰り返し確認し、理解を深める
・面接ロールプレイングを通じて、グレーな対応への気づきを促し、具体的な改善案をフィードバック
こうしたプログラムを通して、『無自覚だった言動』に対する気づきを促し、そのうえでどのように行動を修正すべきかまでを明確に指導することができました。結果として、参加者の意識と行動に変化が見られ、効果がはっきりと現れています。
このように、ハードとソフト、予防と万が一発生してしまった場合のフォローなど、様々な観点から対策を実施することで、「就活ハラスメント」のリスクと対処法について組織的に理解を促し、企業と学生双方が適切な関係で選考を進められる環境を構築することが大切です。
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編集後記
企業にとって採用活動は単なる選考ではなく、未来の人材との信頼関係を築く第一歩です。ハラスメントのない健全な環境を整えることは、優秀な人材の確保と企業価値の向上にも直結します。また、近年の採用難易度の高まりを受けて企業も『選ぶ側』から『選ばれる側』に変わりつつあります。そんな中で旧態依然の選考や「就活ハラスメント」をしていては、企業の信頼は地に落ちてしまいます。組織全体で意識を高めて取り組んでいくべきテーマではないでしょうか。



























