「三省合意」の改正内容と中小企業におけるインターンシップの意義・導入方法について解説
学生がさまざまな企業や仕事と触れられる機会であるインターンシップ。マイナビ社の調査では25年卒業の大学3年生・大学院1年生の9割近い学生がインターンシップ・仕事体験に参加した経験を持つなど、企業と学生双方にとって今や新卒採用になくてはならない接点になっており、「三省合意」にも国としての考え方や方針がまとめられています。
今回は、大手企業での人事経験を豊富に持つよろずやーず株式会社 代表取締役の萬屋 志朗さんに、「三省合意」の概要・改正内容からインターンシップの動向、中小企業におけるインターンシップ導入・推進方法にいたるまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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萬屋 志朗(よろずや しろう)/よろずやーず株式会社 代表取締役・中小企業診断士・社会保険労務士
NTTコミュニケーションズ、トレンドマイクロ、東京スター銀行、ジボダンジャパン、ゴルフダイジェスト・オンラインなど、日経・外資系問わず大手企業にて人事経験を積む。中小企業診断士と社会保険労務士2つの国家資格を取得した後に、顧問や組織・人事コンサルティングを中心としたよろずやーず株式会社を設立。豊富な人事経験と資格を活かし、クライアントの幅広いお悩み解決にワンストップで対応。
目次
「三省合意」とは
──「三省合意」の概要について教えてください。
「三省合意」とは、文部科学省・厚生労働省・経済産業省がインターンシップの考え方や方針についてまとめた『インターンシップの推進に当たっての基本的な考え方』のことを指します。新卒採用でインターンシップをすでに実施している、もしくはこれから実施を検討している企業や人事担当者はこの内容を理解しておく必要があります。
「三省合意」が初めて公表されたのは1997年9月のことです。それ以来、グローバル化・デジタル化などの社会変化、実践的な学びに対する学生ニーズの高まり、即戦力を求める企業採用ニーズの変化などに合わせてこれまで3回に渡り改正されてきました。直近の改正は2022年6月で、『採用と大学教育の未来に関する産学協議会』(経団連と大学関係者で構成)が2022年4月に公表した報告書を踏まえた見直しとなっています。題名も『インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方』に改められました。この改正のポイントは以下2点です。
(1)インターンシップ等の学生のキャリア形成支援に係る取組を4つに類型化し、そのうちタイプ3及びタイプ4がインターンシップと定義されたこと
(2)一定の基準を満たすインターンシップ(タイプ3)で取得した学生情報を、広報活動・採用選考活動の開始時期以降に限り、それぞれ使用可能にしたこと
まず、ポイント(1)の『4つの類型化』について解説します。
タイプ1:オープン・カンパニー
個社・業界の情報提供・PRという性質があり、企業や就職情報会社が主催するイベントや学内イベントなどの活動がこれに該当します。
タイプ2:キャリア教育
教育的性質が強いもので、大学などの授業・講義、企業による教育プログラムなどを指します。
タイプ3:汎用的能力・専門活用型インターンシップ
就業体験、自らの能力の見極め、評価材料の取得などの性質があるもので、職場における実務体験を伴う活動が該当します。
タイプ4:高度専門型インターンシップ(試行)
就業体験、実践力の向上、評価材料の取得などの性質があるもので、特に高度な専門性を要求される実務を職場で体験する活動などが該当します。
上記4つのタイプのうち、タイプ1・2は就業体験を必須とせず『個社・業界の情報提供』や『教育』を目的とすることから『インターンシップ』と称すことはできません。一方、タイプ3・4は就業体験が必須であり『自身の能力の見極め』や『評価材料の取得』を目的とすることから『インターンシップ』と称することができます。
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なお、タイプ3については産学協議会が最低限遵守すべきと考える基準(上図参照)を満たすことで、当該プログラムを通じて取得した学生情報を採用活動開始後に活用することや、募集要項などに『インターンシップ』と称して産学協議会基準準拠マークを記載することができるようになります。
──これらの改正にはどんな狙いがあるのでしょうか。
2022年6月に行われた改正の狙いは、主に3つあります。
(1)インターンシップの質向上
採用に向けた学生との早期接点創出のみを目的とした『名ばかりインターンシップ』を防ぎつつ、学生が実務を体験し将来のキャリア形成に役立つような質の高いインターンシップを推進することを目的としています。
(2)学生のキャリア意識向上
インターンシップを通じて、学生が自分の適性や興味関心を発見し、将来のキャリアについて深く考える機会を提供することを目指しています。
(3)産学連携の強化
企業と大学が連携し、より効果的な人材育成を進めることを目的としています。就業体験を伴うインターンシップの増加を後押しすることで、学生のキャリア形成支援に係る取組を積極的に推進したい狙いです。
ちなみに、この改正におけるメリットは複数あります。学生側のメリットには、アカデミックな教育研究と社会での実地体験を結び付けて新たな学習意欲を喚起すること、主体的な職業選択や高い職業意識の育成が図れること、などがあります。企業側のメリットには、学生の実社会への適応能力を高め実践的な人材育成が可能になること、企業や社会に対する理解を促進し魅力を発信できること、採用選考時に参照し得る学生の評価材料を取得できること、などがあります。
近年のインターンシップ動向
──「三省合意」の影響も大きいと思いますが、近年のインターンシップ活用状況についてはどうお考えでしょうか。
近年のインターンシップの特徴としては、学生や企業の意識変化に伴う形で、その目的や実施形態が非常に『多様化』してきています。
学生側の意識変化
より早い時期から自身のキャリアについて考えるようになってきました。インターンシップなどを通じて実社会と接点を持ち、将来のキャリアパスを模索する傾向が強まっています。そのため、1社だけでなく複数企業のインターンシップに参加し、さまざまな就業経験を通じて自身の適性を見極めようとする学生が増加しています。
企業側の意識変化
厳しい市場競争を勝ち抜くために、多様なバックグラウンドを持つ人材の採用を強化しようとする傾向が強まっています。インターンシップにおいても多様な価値観を持つ学生との接点創出を目標に掲げる企業が増えている印象です。
こうした意識変化を受けて、インターンシップの目的も多様化してきています。例えば、以下のような目的でインターンシップを設計・実施する企業が多いです。
・優秀学生との早期接点創出
・採用直結型インターンの増加
・新規事業アイデア募集
・人材育成
・企業ブランドイメージ向上
・社会貢献
・社会課題解決
など
実施形態も目的に合わせて多様化してきています。比較的参加しやすいものとしては数日~数週間程度の短期インターンシップ、場所を問わず参加できるオンラインインターンシップなどがあります。他にも、業界や職種の多様性増加を目的にしたものや、テーマ型インターンシップ(DX化推進・SDGsなど)も増えてきています。
中小企業がインターンシップを取り入れるメリット
──今や企業側の実施率は7割近くになってきましたが、中小企業の中にはまだ実施に踏み切れていないところもある印象です。そうした企業がインターンシップを取り入れるメリットにはどのようなものがあるでしょうか。
前提として、中小企業にとってもインターンシップはメリットの大きいものであり、大企業とはまた違った形で活用できる可能性があります。その主なメリットは以下3点です。
(1)魅力的なインターンシッププログラムの提供
中小企業では経営者や事業責任者クラスとも直接話をする機会を作りやすいため、組織の風通しの良さ、企業のビジョンや戦略を肌で感じてもらうことができます。さらに、大企業に比べて意思決定が早い傾向があるため、ダイナミックに動く事業を間近に体験してもらいやすい点もメリットです。加えて、部署間の連携も取りやすいことから、1つの部署に捉われない横断業務を経験できるプログラムも検討しやすい点があります。また、大手企業ではさまざまな制約から実際の業務ではなくケースワークなどに携わってもらうことが多いですが、中小企業であればすぐに実際の業務に入ってもらうこともインターンシップに組み入れやすい点は大きなメリットです。
(2)優秀な人材の早期発掘・確保
大人数を受け入れる大企業のインターンシップと異なり、比較的少人数で行う中小企業のインターンシップでは一人ひとりの学生に目が届きやすくなります。そのため、学生の適性や能力を細かく見極めて自社に合った人材を早期に発掘することができます。また、インターンシップを通じて学生と良好な関係を築くことで将来の採用に繋がる可能性が飛躍的に高まり、採用活動の成果と効率を高めることが可能です。
(3)組織の活性化
学生を受け入れることで組織のコミュニケーション促進や活性化に繋がります。例えば、学生からの新しい視点やアイデアを取り入れる場として戦略的に活用することで業務改善やイノベーションの促進が期待できますし、学生への指導を通じて新卒社員受け入れの土壌作りや育成能力向上にもつなげられます。
中小企業では採用活動に割ける経営資源が大企業に比べて相対的に少ないことから、採用活動をより効率的に進める必要があります。今回の「三省合意」の改正を踏まえて、インターンシップで自社の魅力を訴求し、そこで収集した情報を採用活動に活かして人材確保につなげる流れを作りあげることが、新卒社員の安定確保に大きく寄与するでしょう。
中小企業におけるインターンシップ導入・推進方法
──中小企業がインターンシップを導入・推進しようとした時に、どのような方法やステップで導入すると良いでしょうか。
中小企業がインターンシップを導入する際は、以下3つのステップ、9つのポイントで実施すると良いです。
ステップ1:検討段階
以下3つのポイントについて検討し決定してください。
①目的・目標設定
まずは『インターンシップ実施を通じて企業として何を達成したいのか』の目的を明確に定義しましょう。具体例としては、優秀な学生との早期接点創出、企業の認知度向上、組織の活性化などが該当します。その上で、どのような学生を対象にするのかもここで明確にしておきましょう。学部・専門分野・性格/志向・長所・趣味・などをペルソナシートとして纏めておくと、プログラムの企画がスムーズに進むはずです。また、それに合わせて目標を数値化して設定することも必要です。例えば、インターンシップ参加学生数、インターンシップからの採用目標数、参加学生の満足度、などが挙げられます。
②実施体制構築・予算取り
インターンシップ企画・運営・学生指導・フォローアップなど、各種業務の担当者を明確にします。また、インターンシップを実施する上ではさまざまな経費(交通費・食事代・保険など)がかかりますので、予算の確保も忘れないようにしましょう。
③プログラム設計
インターンシップ期間中の具体的なプログラム内容を決定します。開催回数・開催期間・実施日・時間まで詳細に決め、スケジュールに落とし込みます。
ステップ2:実行段階
以下4つのポイントについて、順に進めてください。
④募集
インターンシップに参加を希望する学生の募集方法を検討・決定します。自社ホームページ・大学への直接依頼・SNS・インターンシップサイトなど、さまざまな応募方法を比較検討し、効率的な方法を取捨選択しましょう。募集方法が決定したら、インターンシップの内容・募集期間・応募方法などを明記した募集要項を作成し公開します。
⑤選考
求める学生像(ステップ1で設定したもの)を念頭に置きつつ、選考基準を設定して選考官で意識合わせを行いましょう。そこから面接を実施し、学生の適性や意欲を評価します。
⑥事前準備
決定したプログラムを実行するために必要な準備を行います。例えば、各種資料の準備(インターンシップ初日のオリエンテーション資料・指導担当者向け指導マニュアル・緊急時の対応マニュアルなど)、PCなどの設備や備品の準備などがこれに該当します。
⑦インターンシップ開催
インターンシップ初日にはオリエンテーションを開催し、インターンシップの目的やスケジュール・会社概要の説明などを行います。その後は業務の割り当てを行い担当指導員と学生の関係構築を支援しつつ、プログラム遂行中も定期的にウォッチして随時目的を達成するために必要な支援を行います。
ステップ3:実施後
インターン開催後は、以下2つのポイントを確実に行いましょう。
⑧評価
インターンシップ終了後には、その後の採用活動につなげていくために、能力・適性・意欲・社風マッチ度などの観点で参加学生の評価をまとめておきましょう。また学生に対してアンケートの回答を依頼し満足度や意見を聞き取りましょう。それらをベースにインターンシッププログラム全体を評価し、次回開催時への改善を行います。
⑨フォローアップ
インターンシップ終了後も学生と定期的に連絡を取りあい、インターンシップで構築した関係を維持します。特に、評価が高かった学生には採用試験への応募を促し、採用活動へとスムーズに接続します。
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編集後記
新卒採用においてインターンシップの実施はもはやマストになり始めていることから、国としてもさまざまな法・環境整備が進んできています。すでにインターンシップを実施している企業も、これから検討を進める企業も、「三省合意」に関する内容を正しく理解した上で、自社ならではの取り組みを検討・実施していきたいものです。