「学校訪問」から効果的に採用につなげる方法とは
近年、大卒学生以外の方々を対象とした人材確保が拡大傾向にあり、厚生労働省の発表では、高校新卒者を対象とした求人数が伸びており、2022年度は前年同期比13.9%増、2023年度は更に9.4%増と、大幅な増加傾向にあります。この採用活動を行う上で「学校訪問」が重要なアクションの1つとなってきていますが、これまでにその実績がない企業にとっては、どのように進めたら良いか迷う方も多いのではないでしょうか。
今回は、社外人事として多くの企業に携わる葆東 雅仁さんに、「学校訪問」のマナーから効果的な方法にいたるまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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葆東 雅仁(ほうとう まさひと)/法人代表
大手人材派遣会社の営業・マネージャーを経験後、研修コンサル会社の代表を経て2012年9月に独立。以来12年に渡り社外人事としてHRBPをはじめとした人事サービスを展開。得意分野はAIを活用した採用支援や業績連動型評価制度の設計、教育体制の企画運営など多岐に渡るHRで支援中。
目次
「学校訪問」を進める上でのマナーと準備
──最近になって高卒採用が活発化したことにより、「学校訪問」の必要性に迫られた人事の方も多いと思います。そのような方が「学校訪問」を行う際、どのような点に気をつければ良いでしょうか。
「学校訪問」は当然学校がお相手ではありますが、基本的な進め方やマナーは通常のビジネスシーンのものと何ら変わりません。担当部署に対して電話などでアポイントを取り、目的に合わせた準備を行って「学校訪問」を進めていく形になります。ここでは『アポイント取得』と『訪問準備』のポイントについて紹介します。
■アポイント取得
相手が高校でも専門学校でも、当然ながら訪問前にアポイントを取る必要があります。ビジネスでの営業目的ではないので、訪問自体を断られることは基本的にはありませんが、学校の先生も授業や部活で忙しくされているため、対応いただきやすい時期や時間帯を狙って連絡することが重要です。
具体的には、授業の空き時間や放課後(16時以降)だとつながりやすいです。高校の場合は先生が部活動の顧問をされていることも考えられますので、授業終わりから部活動が始まるまでの間などが良いでしょう。なお、先生には個別メールアドレスがありますが名刺に記載がない先生もいますので、初回訪問であればアポイントは基本的に電話が効果的です。
電話先は進路指導を担当している部署になります。ただ、学校によっては進路指導部(室)・就職部・キャリア相談室など名称が異なることも多く、進学と就職で担当者が分かれている場合もあります。該当の担当者が分からない場合は、学校の代表番号に電話して訪問したい目的(求人依頼、会社説明、情報収集など)を明確に伝えれば、該当の担当者につないでくれることが多いです。
■訪問準備
初回の訪問であれば自社の会社パンフレットや求人票などを持参することが一般的です。その際、専門学校などでは求人受付がオンラインや指定フォーム、そして提出方法にも各学校独自のルールがあることも多いため、事前に学校のホームページなどを確認してその学校の形式に沿って行えるようにしましょう。
実際に「学校訪問」を行う際に、先生や学校を通して自社の魅力を伝え、生徒からも選んでもらえるような情報提供が必要になります。そのため、以下のような観点で情報を整理・準備しておきましょう。
・同業他社と比較して自社は何が違うのか
・生徒が自社を選ぶポイント(強み)はどこなのか
・実際に働いている人の傾向(年齢、性別、居住地区、採用実績など)
特に、地元ならではの情報は採用関係の先生にとって有力な情報となります。例えば、製造業であればどのような製品を製造し、地域や社会のどのようなところで活用されているのか、取引先はどこなのか、年商の推移、経営者の顔やそこで働く人(その高校の卒業生など)が情報としてあると、生徒はもちろんその保護者やご家族にとっての安心材料にもなるからです。
同じ目的で「学校訪問」を行う会社は数十から数百社に上ることもありますので、その中で先生や生徒に自社を認識してもらうためには複数年の継続関係が重要になってきます。特に、全日制高校などでは進路担当者が3~4年で変わってしまうこともあるため、それも踏まえた関係構築が必要なことは言うまでもありません。
なお、服装や手土産などのマナーが気になる方も多いと思います。ですが、服装はビジネスマナーを遵守していれば問題はありませんし、手土産なども基本的には受け取らない方針となっていることが前提のため気遣いは不要だと思います。
高卒採用が進む背景
──近年、大卒学生以外を対象とした採用活動が拡大していると聞きました。その背景にはどのようなものがあるのでしょうか。
経営を継続していく上で人材確保は避けては通れないミッションです。特に、近年では少子化問題などに起因する労働人口減少の影響もあり、年々採用が難しくなってきています。そういった背景から、大企業はもちろん中小企業にいたるまで、どの企業も活発に採用活動を行っていますが、中でも高校生・専門学生の新卒採用に関しては多くの企業が注目しています。
大卒以上の優秀な人材は大手企業が中心となってどんどん採用してしまうため、大手企業ほどの採用条件を用意できない地方の中小企業などでは太刀打ちできないことも残念ながらあります。そのような競争環境下で、中小企業などの比較的採用力が弱い企業が採用を成功させるためには、ポテンシャルのある若手(≒高校生、専門学生)を採用し育成することがキーになるからです。
また、高卒採用は大卒採用と比べてルールが明確であることも採用企業にとってのメリットになっています。全国統一で約3か月という短期間で採用を進められるため、直近の業績を見通した上で採用を進められるからです。実際に、高校生の求人は毎年7月1日が解禁日、9月16日以降が採用試験開始日と決まっています。ちなみに、募集企業は夏休み期間に会社見学・企業説明を実施し、見学の申し込みは学校経由で行うことが必須です。
そして、世の中の変化が激しくリスキリングが主流になってきた昨今では大卒での新卒採用が絶対の条件であるという意味合いが薄れてきている印象もあります。個人的には、早くから働いて社会人として経験を積む方が大学で学ぶよりもメリットが多いこともあるのではと感じています。例えば、高校野球で一定レベルまで活躍した選手が、高卒でプロに入るか大学に進むかを選択するシーンにも似ているかもしれませんね。もちろん一概には言えませんが、プロの環境で4年揉まれた方が得られる経験値が大きくなるのは明白です。
高校などの学校側も多様化が進み、一般的には私立・公立・全日制・定時制だけでなく通信制の学校も増えたことも影響しているでしょう。授業も完全オンライン、学ぶことは主要5教科以外にもSNSやマーケティング・セールス、AI人材の育成が中心というユニークなカリキュラムを持つ学校もあります。このような学校は社会に出ることを前提とし、『働く』ではなく『稼ぐ』にフォーカスしている点はまさに今の時流に乗っていると言えるのかもしれません。このような学校で学んだ学生にとっては大学に進学することよりも社会に出て実践の場でご自身の力を試したいと考える方も多いのではないでしょうか。
「学校訪問」当日のポイント
──「学校訪問」当日の注意点について教えてください。
「学校訪問」当日は、前項でもお伝えした訪問準備内容に沿って自社の魅力について情報提供をしていきます。あれもこれも、とたくさん伝えたくなるとは思いますが、先生方もお忙しい中時間をとってくれているため、授業1回分と同じく50分以内を目安として引き上げるのがマナーでしょう。
進路担当の先生とどういった話をするかに正解はありませんが、先生方は企業側の事業・仕事内容はもちろん、訪問してきた採用担当者の人柄も見ています。特に、過去に採用実績がない場合は先生との信頼関係を築くことも重要です。生徒とその保護者にとっても安心してもらえる会社であると認知してもらえるためにも、誠意のある対応を心がけましょう。
また、進路指導担当の先生と話すこと以外にも、「学校訪問」の意義はあります。校内を歩いている最中は、学校全体の雰囲気や生徒の言動などにも目を向けてみましょう。学校によっては外部の来訪者に対しての挨拶を推奨し、部活をやっている生徒が立ち止まって帽子を取って挨拶するなどの様子が見られることもあります。また、その過程でどういった生徒が在席しているかなども事前にチェックすることが可能です。学校側も進学・就職問わずに指導をしていることがほとんどですが、こうしたマナー教育は学校によって温度差があります。一緒に働く上でこうしたマナーや人となりは大切な観点なので、学校の成績などと合わせて注目しておくと良いでしょう。
「学校訪問」において学校との関係性を構築する方法
──「学校訪問」は継続して行うことが重要とのことでしたが、学校との関係性を継続的・効果的に積み上げていくためにはどのような方法があるのでしょうか。
「学校訪問」は自社の魅力や情報を伝える有効な手段であることには変わりありませんが、訪問頻度や接点を持つ回数にはどうしても限りがあります。その中で学校との関係性を継続するためにも、学校側への採用結果の情報提供は重要なポイントです。どのような学校からどのような学生を採用できたのか、といった情報は学校側にとっても大いに参考になります。例えば、採用計画5名に対しての採用結果やその内訳(高校生卒1名、専門学校卒2名、大卒2名など)、配属先、配属職種なども詳しく伝えるといいでしょう。加えて、入社後にも新入社員として彼らがどのように活躍しているのか、社内での評判や働きぶりなどを会社目線でフィードバックしたりすることで、コミュニケーションを継続することができ、更に信頼関係が深まることが期待できます。
また、学校経由だけでなく生徒やその保護者に向けた直接の情報提供も欠かせません。なぜなら、学校から伝え知って関心を持った企業については、ネットなどからも必ずと言ってよいほど個々人で検索をするからです。その行動に応えるべく、企業側もできる限り新鮮な情報を発信し続けていることが何よりのPRとなります。特に近年は、SDGsなどの社会貢献活動をどれだけしているかを気にする生徒・保護者が増えている印象です。
なお、情報発信の内容としては求人票はもちろん、その中に書き切れない情報などは自社Webサイト(もしくは採用専用WEBサイト)、SNS(X・Instagram・YouTube)なども駆使して情報発信・情報提供をし続けられると良いですね。その際、採用したい年代の価値観に合わせて発信内容・方法をアレンジしていくことが、採用成果や採用後の定着にも大いに影響します。
しかし、これらすべてを網羅して発信を継続することは容易ではありません。そんな時は、採用したい人材が日頃よく使っているものから優先的に活用して情報発信を行うと良いでしょう。各ツールごとに利用者層が違いますので、そのあたりを踏まえて情報発信先を選定してみてください。
求人広告を出せば人は集まる、という時代はとうに過ぎてしまいました。以前のやり方のすべてが通用しなくなったわけではありませんが、採用に関してはその難易度や取り巻く状況が特に大きく変わっているため、温故知新の精神で考えていかねばならないでしょう。
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編集後記
有効求人倍率が高止まりを見せる中、各社が必要な人材採用を実現するために大卒学生以外にも大きくアプローチを行っている様子が葆東さんの話からイメージできました。変化が激しくリスキリングの重要性が高まっている現代においては、高卒者も大卒者も差がなくなってきているように感じます。採用チャネルの1つとしてしっかり科学し、自社の採用を効果的に進めて行きたいものです。