「カルチャーフィット」の重要性とその見極め方について解説
企業が持つ独自の文化や風土に対して、人材がうまくフィットする状態を表す「カルチャーフィット」。人々の価値観や働き方が多様化する中、この「カルチャーフィット」が採用時の判断基準になるなど、その重要性もますます高まっています。
今回は、「カルチャーフィット」の定義やスキルフィットとの関係、採用時の見極め方に至るまで、一般財団法人GovTech東京 デジタル人材本部長の小島 隆秀さんにお話を伺いました。
<プロフィール>
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小島 隆秀(こじま たかひで)/一般財団法人GovTech東京 デジタル人材本部長
大学卒業後、2009年に株式会社リクルートエージェント(現:株式会社リクルート)へ入社。2013年にグリー株式会社に転職し人事・新規事業開発等に従事。その後はIT業界を中心にスタートアップやメガベンチャー、プライム上場企業等で人事責任者を歴任。2023年7月からは『一般財団法人Govtech東京』の設立に伴い人事責任者として参画。東京都全体のDXを推進していくための組織基盤づくりを担う。
目次
「カルチャーフィット」の定義と重要性
──「カルチャーフィット」の定義と内容について、よく対比される『スキルフィット』との違いも含めて教えてください。
「カルチャーフィット」とは、企業の社風や理念、思想や価値観などに応募者が共感・フィットしているかを選考で判断することです。一方、スキルフィットは応募者が持つスキル・経験・専門性などの能力が求める基準をクリアしているかを選考で判断することを指します。つまり、スキルフィットは応募者のスキルや能力、経験といった総合力にフォーカスしたものであり、「カルチャーフィット」は応募者の主に内面(人格・ビジョン・なりたい姿・価値観など)にフォーカスしたものと言えます。
スキルフィットは定量・機械的に判断できるものが多いです。一方で、「カルチャーフィット」は比較的抽象度が高いことから自社とのマッチ度を判断することは容易ではない上に、判断する人によってブレが生じる可能性もあります。
近年、採用時にこの「カルチャーフィット」を重視する企業が増えてきました。そこには、昨今のVUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代)と呼ばれる時代背景があります。
この環境下で企業が生き残るためには、変化に応じて事業戦略を見直していかねばなりません。そうなると、必然的に企業が人材に求めるスキル・能力も変わることになります。日々技術が進歩し続けているテクノロジー領域などでは特にこの傾向があります。
こうした環境下でスキルだけにフォーカスした採用を行ってしまうと、せっかく苦労して採用した方のスキルが早い段階で不要になってしまうことがしばしば起こります。また、スキル優先で採用したあまりに組織文化にフィットせず周囲との協働がうまくいかなかったり、定着しきらなかったりなどの悪影響を及ぼす場合もあります。
確かに、採用を効率よく進めることだけを考えればスキルだけで判断した方がわかりやすく、楽に選考を進められることは間違いありません。実際に、そうした背景から私自身もスキルフィットに偏重した採用を行ったことはあります。しかし、その結果、スキルは高いものの周囲や組織に対してネガティブな言動を行うなど、人柄や価値観が組織に馴染まず早期離職に至るという苦い経験があり、「カルチャーフィット」の重要性を身に染みて理解しました。同じような失敗経験を持つ企業を中心に、徐々に「カルチャーフィット」を重視した採用にシフトしているのではないかと考えています。
「カルチャーフィット」が及ぼす影響
──社員が「カルチャーフィット」しているかいないかは、組織にどのような違いとなって現れるのでしょうか。
まず、顕著に影響があるのは『業務遂行におけるパフォーマンス』です。カルチャーはいわば『土壌』であるため、そこに種(人材)をまいて木が育つかどうかは土壌との相性次第。土壌とフィットするからこそ種は根を張り(環境適応)、芽が出て木が真っすぐ太く育ち(成長)、花や実をつける(成果・利益創出)わけです。
反対に、どれだけ能力があっても(スキルフィットしていたとしても)「カルチャーフィット」していなければ、環境に適応できなかったり、周囲との協働がうまくいかなかったりで、能力を十分に発揮できないまま終わってしまう可能性が高まります。例えば、どれだけ経歴が優秀で能力が高い人材であっても、周囲から『イヤな人』だと思われてしまっては、協力が得られず孤立してしまい、思うように成果を出すことができません。それは社内に限らず、社外の取引先やパートナーにおいても同様です。
また、管理職採用(候補者含む)の場合においては特に「カルチャーフィット」が重要だと考えています。なぜなら、会社の方向性や戦略を現場社員に落とし込んでいく上で管理職(ミドルマネジャー)は非常に重要な役割を担うからです。
だからこそ、管理職の登用基準においては能力もさることながら、それ以上に『企業の理念や価値観を正しく理解し体現できるか』『人格的に優れているか』が重要視されるべきです。もし成果やスキルのみを重視して「カルチャーフィット」しない人材を管理職に登用した場合、現場の社員が不幸になるだけでなく、経営と現場を繋ぐミドルマネジャーとしての役割が機能しなくなる可能性もあるので、十分に留意する必要があります。
──カルチャーフィットかスキルフィットの片方だけが高く、他方が低い場合、入社後十分にパフォーマンスが発揮できないケースもありうると思います。採用時、「カルチャーフィット」とスキルフィットのバランスはどのように見極めれば良いでしょうか。
まず、「カルチャーフィット」しかつスキルが高い人材(下記図中①)は迷わず採用すべきです。これについては誰も異論はないでしょう。
次に、「カルチャーフィット」はするがスキルが不足している人材(図中②)について。ここは、足りないスキルを入社してから伸ばせる余地があるか、教える仕組みがあるか、が採用の基準になります。それらをクリアできるようであれば、採用を前向きに検討すべきです。ちなみに、入社してから伸ばせるかを判断する上で重要なポイントは『やる気(意欲)』と『自己効力感』にあります。これらは可変的ですが簡単に高められるものでもないため、採用時点である程度高い状態にあるかどうかを判断基準とするのが良いと考えています。
問題は、「カルチャーフィット」しないゾーン(図中③~⑥)です。ここまでの話を踏まえると、スキルの高い低いに関係なく『採用すべきではない』ことが大前提となることはイメージしてもらえると思います。
一方で、一定の許容ラインを設けて、そこを基準に採用するかどうかを判断する方法もあります。例えば、『理念への共感度が多少低くても、バリュー(価値観・行動指針)へのフィット度合いが高く、周囲の模範となって行動してくれそうな人材であれば検討する』など、「カルチャーフィット」の最低ラインを設ける形です。とはいえ、「カルチャーフィット」は非常に重要な要素であるため、仮に許容ラインをクリア(図中③④)していた場合でも、採用判断は極めて慎重に行うべきであることは言うまでもありません。その場合は、『実際に現場で働く社員に面接に参加してもらって候補者を見極める』、『実際の打ち合わせに参加してもらい、テーマを決めてディスカッションを行う』、『体験入社のような形で数時間又は1日模擬就労してもらう』などの方法を用いて、カルチャーフィットしているかどうかを慎重に見極めることを推奨します。
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自社カルチャーの定義・言語化ステップ
──「カルチャーフィット」する人材を見極める上では、自社のカルチャーや価値観を明確に定義・言語化しておく必要があると思います。どのようなステップで進めると良いでしょうか。
組織文化(カルチャー)は、ミッション・ビジョンの達成に向けて企業を形づくるあらゆるもの(プロダクト・習慣・制度など)のベースとなる重要な要素です。そのカルチャーを定義・言語化するためのステップとしては、自社のサービスやプロダクト(≒ビジネスモデル)から紐解く方法があります。
例えば、何かしらのプロダクトを扱っている企業が市場で勝ち抜くためには、顧客第一でプロダクトの改善やデリバリーをスピーディーに行っていくことが求められます。その上で、営業・開発・カスタマーサクセスが一体となって仕事を進めていくことは不可欠です。そうなると、その組織がカルチャーとして大切にするべき要素には『スピード・協働・ユーザーファースト』などが挙がってきます。
次に、組織内において奨励されている『言動』や定着している『習慣』、運用されている『仕組み』や『制度』をそれぞれ捉えた際に同じような要素がないか、新たな要素がないかを考えてみると良いでしょう。そこで積極的なチャレンジが奨励されているのであれば『挑戦』が新たな要素となりますし、意思決定プロセスの権限移譲が進んでいて現場でスピーディーに決裁できる仕組みがあるのであれば最初に抽出した『スピード』がやはり重要な要素と改めて確認できます。
こうした形で因数分解を進め、最終的には従業員がスムーズに解釈できる形で言語化を進めれば、カルチャーを明確に定義・言語化することは十分に可能です。
ちなみに、私が所属するGovTech東京(官民協働組織)では、官民が垣根なく協働するために情報共有や議論はできる限りオープンに行い、年次や社歴に関係なくフラットに意見を出し合い新たな価値を生み出していくことを大切にしています。それを受けて、カルチャーとしては『Open&Flat』を掲げています。
なお、カルチャーを定義・言語化していない会社であってもカルチャー自体は存在します。カルチャーは自然と生まれ、意図せずとも定着してしまうものだからです。そのため、『自社のカルチャーはこうあるべき』と理想のカルチャーをゼロベースで定義する前に、まずは『無意識に組織内に浸透している価値観や原理原則』を把握することが大切になってきます。
「カルチャーフィット」の見極め方
──採用選考時などに応募者が「カルチャーフィット」しているかどうかをどう見極めれば良いでしょうか?
「カルチャーフィット」を見極める上でのポイントは以下3つです。
(1)「カルチャーフィット」のために必要な要素を因数分解し言語化する
(2)言語化したものをベースに選考でどう見極めるかを体系的に整理する
(3)「カルチャーフィット」している社員が見極める
(1)「カルチャーフィット」のために必要な要素を因数分解し言語化する
前述した通り、「カルチャーフィット」は企業の社風や理念、思想や価値観などに応募者が共感・フィットしているかどうかを判断するものです。この定義に基づき、必要な要素に分解していきます。例えば、『ミッション・ビジョン』に共感しているかは当然ながら、経営者が描くビジョンや思想にも共感できているか(この人についていきたいと思えるか)も経営者と距離が近いスタートアップなどにおいては特に重要になってきます。
(2)言語化したものをベースに選考でどう見極めるかを体系的に整理する
『ミッション・ビジョン』を例に挙げるなら、それらを字面だけではなく正しく解釈・理解しているか(またはしようと努力をしているか)、具体的にどんな点に共感したのか、その共感は過去の原体験との共通点や関連性はあるのか、などを掘り下げることで「カルチャーフィット」レベルを確認することができます。また、『バリュー(価値観・行動指針)』については応募者がこれまでに行動したことや当時の判断基準が自社のバリューと適合するかを照らし合わせることで確認可能です。
このように、要素ごとに選考で確認すべき質問項目を予め定めておき、『どんな回答であれば適合していると言えるか』のジャッジラインも決めていきます。
<例>
バリューが『挑戦』……過去に自分の能力を超えて取り組んだ経験を確認する
バリューが『顧客志向』……過去に成果を挙げた場合とそうでない場合の両方における行動基準を確認する
質問形式以外にも『ケーススタディ方式』で確認することも有用です。
<例>
〇〇な場合はあなたらどうするか(目先の利益と顧客どちらを優先するかを図るための質問)
(3)「カルチャーフィット」している社員が見極める
選考において「カルチャーフィット」を見極める場合は、できる限り社内で「カルチャーフィット」を体現し活躍しているメンバーを面接官としてアサインすることが望ましいです。なぜなら、「カルチャーフィット」は肌感覚で判断できる部分も多く、実際に体現しているメンバーの方がより正しいフィルターで判断できる可能性が高いからです。なお、そうしたメンバーがどうしてもアサインできない場合は、選考プロセスの途中にカジュアル面談や会食をアレンジする形で参加してもらうことも検討してみてください。
私の経験上、「カルチャーフィット」を見極めるには面接だけではなく『オフサイト機会』も重要だと考えています。特に会食(ランチ<落ち着いてゆっくり話せるディナー)は有用な手段です。より応募者の素のパーソナリティや価値観をキャッチアップしやすくなるため、ぜひ取り入れてみてください。
なお、入社後、実際に活躍できる人材になってもらうには、採用時における「カルチャーフィット」の見極めだけでなく、入社後のフォローアップも重要です。
そのために、経営幹部等がビジョンや経営戦略、これまでのヒストリーをかみ砕いて説明する機会を設ける、所属組織の上長やメンバーから、普段の業務シーンにおいてどういう行動がバリューに沿っているといえるのかどうか、適切にバリューを体現できるようにするためのレクチャー機会を設ける、ロールモデルとなる社員とのランチなどカジュアルな交流機会を設定するなど、以上のような取組も行いながら、組織文化に馴染めるようサポートしましょう。
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編集後記
「カルチャーフィット」が組織の定着率や生産性向上に大きく寄与することを小島さんの話から強く認識しました。多様な情報が飛び交う現代においては、スキルや経験に加え、企業文化との相性が採用の重要視点であることは間違いありません。まずは自社文化を分析するところからスタートし、選考にカルチャー適合性を評価する段階を設け、効果的な採用を目指しましょう。