「AI採用」の世界的なトレンドと日本の展望を解説
近年、HR領域においてもさまざまな企業やサービスにて、AI活用が積極的に進められています。採用選考を行う過程でAIを活用する「AI採用」もその1つです。
今回は、これまでに数百社のAI活用・DX推進に取り組んだ経験を持つ、がばいAIコンサルティング株式会社 代表取締役社長の本間謙斗さんに、「AI採用」の概要から世界的な動向、今後のポイントに至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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本間 謙斗(ほんま けんと)/がばいAIコンサルティング株式会社 代表取締役社長 ※2024年10月1日に法人登記予定
北海道旭川市出身。1993年生まれ31歳。新卒で人材サービス企業へ入社。人材派遣業・採用コンサルティング業務に従事。2019年にLINEヤフーコミュニケーションズに入社後、営業・カスタマーサクセス・人材企画部署のマネージャーを兼務しながら、社内の専門的なAI人材育成・研修設計に努める。一般社団法人AI・IoT普及推進協会認定 AI・IoT Senior Consultant取得。これまで数百社の業務効率化・AI活用・DX推進に従事。趣味として、AIやWEBマーケティング領域を中心に資格保有数38個。
目次
「AI採用」とは
──「AI採用」について、近年の動向や活用状況・事例なども含めて教えてください。
「AI採用」とは、人工知能(AI)技術を活用して人材の採用プロセスを自動化・効率化する手法を指します。具体的なAI活用シーンとしては、応募者のスクリーニング、面接の評価、自動マッチング、レジュメや求人票の自動作成などがあります。AIが持つ大量のデータを迅速かつ正確に処理する能力を活用して人事担当者の負担を軽減し、より戦略的な意思決定へのリソース活用を実現させるものです。
例えば、AmazonではAIを用いた採用ツールを導入して応募者のスクリーニングを効率化しています。AIが応募者のレジュメを解析して適性の高い候補者をリストアップすることで、採用担当者の負担を大幅に軽減している形です。
こうした「AI採用」が活況になってきている背景には、大きく以下4つがあります。
(1)生成AIの発展
数あるAI技術の中でも、近年は特にChatGPT・Gemini・Claudeなど一般ユーザーでも利用できる生成AIの進化が目覚ましいことはみなさんも感じることが多いのではないでしょうか。自然言語処理(NLP)や機械学習の技術が進化し人間のような判断を行えるAIの登場により、採用市場(新卒・中途)を中心に応募者のレジュメ解析や面接評価などの高度化が進んできています。
(2)効率化や精度向上の追及の必要性の高まり
人事担当者の業務内容やミッションの増加、労働人口の減少などに伴い、人事担当者の業務を効率化する必要がある企業が増えています。その結果、従来の採用プロセスは時間とコストがかかるものでしたが、AI導入によりこれらを削減する動きが出てきています。例えば、これまでは人事担当者などが時間をかけて作成していた求人票も、今やプロンプト(AIへの指示文)さえ工夫すれば瞬時に生成可能です。また、AIにより一定のバイアスを排除した客観的な評価を行うことで、自社の採用要件に合った適切な人材を見つけ出すことも可能になってきています。
(3)採用の成功率をあげる必要性の高まり
就業人口の減少や採用競争の激化に伴い、採用の成功率を上げる必要性が高まっています。そのため、自社のHRシステムに蓄積された情報などを元にAIが大量の学習データを分析し、応募者のパフォーマンスや適性を予測するなど、採用担当者はデータに基づいた意思決定を行うことができ、ハイパフォーマー人材の獲得や採用成功率を向上させることができます。
(4)優秀人材確保のための企業の競争力強化
「AI採用」は企業の競争力を高めるツールとしても注目されています。迅速で効率的な採用プロセスは優秀な人材を他社よりも早く確保する手助けとなり、企業の成長を促進してくれるからです。
このような「AI採用」にはさまざまなツールがリリースされていますが、その中でいくつか代表的なものを以下に紹介します。
デジタル面接プラットフォーム HireVue(ハイアービュー)/富士通Japan社
HireVueはAIを活用したビデオ面接プラットフォームを提供しており、応募者の表情や音声から感情やコミュニケーションスキルを分析します。これにより客観的な評価を行い、適正な人材を見つけ出す手助けが可能になります。
Pymetrics(パイメトリクス)/Pymetrics社
Pymetricsは、ゲームベースの評価を通じて応募者の認知能力や行動特性を分析するAIツールです。これにより、従来の方法では見逃されがちな潜在能力を発掘することができます。
こうした「AI採用」は、技術の進化と共にその重要性がますます増加しています。人事担当者の負担軽減だけでなく、企業の競争力を高めるための強力なツールとなっているからです。採用活動にAIを導入することで、企業はより優秀な人材を迅速に確保し成長を促進することができるでしょう。
「AI採用」に関する世界の動きと法律
──「AI採用」は日本に限らず世界的な関心事であり、各国でも法整備などが進んでいます。それぞれの動向と、今後の日本への影響について教えてください。
「AI採用」に関する各国の法整備状況について、進みが速い欧州とアメリカを中心に解説します。
欧州
欧州連合(EU)は、AI技術の規制に関して先進的な取り組みを進めています。その中心となるのが、世界初の包括的なAIに関する規制である『EU AI Act』です。2024年3月13日に欧州議会における採択を経て最終的な全容が明らかになったこの法案は、AIシステムの安全性と透明性を確保し、リスクに応じた規制を導入することを目的としています。この『EU AI Act』で述べられている内容の主なポイントは以下3つです。
(1)リスクベースのアプローチ
リスクの大きさによってツールや施策、サービスについてカテゴリを分け、カテゴリごとにどのような対応が必要かの指標を提示しています。カテゴリは以下の4つです。
・低リスクAI:最もリスクが低いと見なされるAIシステム。ほとんど規制を受けない。
・限定的リスクAI:チャットボットなどが含まれる。このカテゴリのツールを利用するユーザーは、AIと対話していることを通知される必要がある。
・高リスクAI:教育・雇用・法執行など、個人の基本的な権利に影響を及ぼす可能性のあるシステム。厳格な規制を受ける必要がある。
・禁止AI:社会的信用スコアリングやリアルタイムのリモートバイオメトリック認識(生態認証)など、特に危険と見なされるAIの使用は禁止される。
※「AI採用」に関連するツールは高リスクAIに分類される可能性が高くなります。
(2)透明性と説明責任
高リスクAIシステムに対しては、透明性の確保と説明責任が求められます。これには、アルゴリズムの説明やデータの使用方法、AIによる決定プロセスに関する情報を含む必要があります。
(3)データ品質とガバナンス
AIシステムに使用されるデータは、高い品質とバイアスのないものとする必要があります。データガバナンスの枠組みが求められ、AIシステムの性能と安全性を保証するための継続的な監視も行われます。
アメリカ合衆国
欧州と同じようなレベルでの包括的なAI規制はまだ存在していませんが、複数の州や自治体が独自の規制を導入しています。また、連邦政府もAI技術に関するガイドラインや勧告を発表しています。それぞれの主要な動きとしては以下です。
<ニューヨーク市のAI雇用法>
2023年、ニューヨーク市でAIを使用して雇用決定を行う際の透明性を確保するための法律が施行されました。この法律では、企業がAIツールを使用して採用・昇進・解雇を行う場合、これらの公開と透明性を持つことが求められています。また、AIツールのバイアスに関する年次監査も義務付けられています。
<連邦貿易委員会(FTC:Federal Trade Commission)>
連邦貿易委員会(FTC)はAIシステムの開発と使用に関するガイドラインを発表し、不公平なビジネス慣行に対する規制を強化しています。企業は消費者に対してAIシステムの使用を明示し、データの収集と使用に関して透明性を保つことが求められています。
このような欧州やアメリカのAI規制の動きは、日本におけるAI技術の発展とその利用にも大きな影響を与える可能性があります。これらの動きを注視し、日本独自の規制やガイドラインが策定されることが予想されます。具体的には以下のような可能性があると考えています。
(1)法規制の必要性
日本でもAI技術の普及に伴い、倫理的な問題やバイアス、プライバシーの懸念が高まっています。欧米の動きを踏まえ、日本も同様の規制を導入する必要性が高まるでしょう。特に、高リスクAIシステムに対する厳格な規制は、社会の信頼を維持するために重要です。
(2)グローバルな調和
日本企業が国際市場で競争力を保つためには、グローバルな規制環境に対応する必要があります。欧米の規制基準に準拠することは、日本企業にとって競争上の利点となります。
(3)消費者保護と信頼構築
AI技術の利用に対する消費者の信頼を確保するために、透明性と説明責任が求められます。欧米の規制を参考にすることで、日本でも消費者保護の枠組みを強化し、AI技術の安全な利用を促進することが可能です。
(4)倫理的なAIの推進
日本でも倫理的なAIの開発と利用が推進されるでしょう。欧州のようなリスクベースのアプローチは、日本の政策決定においても参考になるはずです。
「AI採用」において今後重視すべきポイント
──「AI採用」が世界的に発展していく中で、日本企業は今後どのようなことを重視すべきでしょうか。
「AI採用」技術の急速な発展が企業の採用プロセスを大きく変えてその利益を享受する一方で、企業はさまざまなリスクにも対処する必要があります。以下に、今後日本企業が重視すべきポイントと発生しうるリスクについて、実例を交えながら解説します。
(1)法制度の遵守
「AI採用」を導入する際は、各国の法制度を厳守することが不可欠です。中でもデータプライバシーに関する規制は年々厳しくなっており、違反すれば企業の信頼を失うだけでなく罰金や法的措置を受ける可能性もあります。特に海外展開を視野に入れている企業にとっては、各国の異なるデータ保護規制を理解・遵守することが大きな課題です。例えば、欧州連合のGDPR(「EU一般データ保護規則」GDPR:General Data Protection Regulation))は非常に厳格で、違反すると高額な罰金が科されます。
日本においても2019年に発生した『リクナビ事件』が記憶に新しいところです。就職ポータルサイトであるリクナビが就活生の内定辞退率を企業に提供し、個人情報の不適切な取り扱いが問題視されたこの事件は、データの扱いにおける法的リスクを企業に対して強く警告するものとなりました。ちなみにリクルート社はその後、AIを活用する際の指針を公開するなど、トラブル後の対策・施策も行っています。
(※)参照:リクルートAI活用指針
(2)データ管理とセキュリティ
「AI採用」システムは膨大な候補者データを扱うため、データ管理とセキュリティ強化を行って個人情報の漏洩や不正利用を防ぐ必要があります。不適切なデータ管理やセキュリティの脆弱性は、サイバー攻撃や内部不正によるデータ漏洩を引き起こし、企業の評判を著しく損なう可能性があるからです。2017年に米国の信用情報会社Equifaxがハッキングされ、約1億4700万人の個人情報が漏洩した『Equifax事件』は、データ管理とセキュリティの重要性を改めて浮き彫りにしました。企業は情報管理ポリシーの整備と、それに基づく運用の徹底が求められています。
(3)バイアスと公平性
AIアルゴリズムは訓練データに依存するため、バイアスが含まれる可能性があります。そのため、公平な採用を実現するためにはAIモデルの透明性とバイアス除去が重要です。バイアスがあるAIが選考を行うと、特定の性別・年齢・国籍などに対する不公平な扱いが発生し、企業の多様性と包摂性に悪影響を及ぼす可能性があるからです。
例えば、Amazonでは過去に使用していた「AI採用」のツールが女性候補者に対してバイアスを持っていたため使用を中止したと報告したことがありました。この事例は、「AI採用」ツールの設計と運用における公平性の確保がいかに重要かを示しています。
(4)応募者とのコミュニケーション
「AI採用」では、候補者とのコミュニケーションがどうしても機械的になりがちです。それを回避するためにも、自社の企業情報やオペレーションフローの一部を学習データに蓄積して人間味のある対応を維持しつつ、AIを活用していくバランスが求められます。AIが面接を行う場合、候補者は無機質な対応に不満を感じることがあり、それが企業のイメージダウンにつながる可能性があります。実際に一部の企業でもAI面接に対する不満(人間的な温かみが感じられないなど)が報告されているようです。
(5)継続的なモニタリングと改善
「AI採用」システムの導入後も、継続的なモニタリングと改善が必要です。システムのパフォーマンスを定期的に評価し、必要に応じてアルゴリズムやデータセットの修正を行うことで精度と公平性を維持します。導入後にシステムの改善を怠ると精度が低下し、誤った判断やバイアスが再発する可能性があるため注意が必要です。
実際にGoogleでは、自社のAIシステムにおける継続的な改善とフィードバックループの重要性を強調しており、定期的な評価と調整を行うことでシステムの精度と信頼性を維持しています。
このように、「AI採用」の導入は効率性やコスト削減など多くのメリットをもたらしますが、その裏側には法制度の遵守・データ管理の強化・公平性の確保・候補者との良好なコミュニケーション・継続的なモニタリングと改善が欠かせません。これらのリスクへの対処方法を実例からも学びながら、「AI採用」の恩恵を最大限に享受できるようにしていきたいものです。
「AI採用」により変わる採用担当やタレントアクイジション
──「AI採用」を導入することで採用担当者やタレントアクイジション(※)にはどのようなメリットや変化があるのでしょうか。
(※)タレントアクイジションとは、組織の現在および将来の人員配置のニーズを満たすために有能な採用候補者を発掘して囲い込み獲得するプロセスのこと。
「AI採用」の導入は、採用担当者やタレントアクイジションの業務に大きな変化をもたらします。採用担当者やタレントアクイジションにおいて「AI採用」を活用するメリットには、以下3つがあります。
(1)効率化とスピードアップ
候補者の初期スクリーニングは採用担当者も手間がかかる工程の1つです。しかし、AIであれば数百・数千の応募者データを迅速に処理し、適切な候補者を抽出することができます。また、AIを使ったビデオ面接ツールにより候補者の回答をリアルタイムで分析し、面接官がチェックすべきポイントを提示することで面接プロセスを効率化させることもできます。
(2)データに基づく意思決定と評価の一貫性
AIが一貫した評価基準を提供し候補者の評価からバイアスを排除することによって、公平な採用が可能になります。また、AIが採用プロセス全体のデータを収集・分析し採用活動の効果を可視化することで、採用戦略の改善点を特定しやすくなります。
(3)コスト削減
AIは人手を大幅に減らし、コスト削減に寄与します。特に、小規模な企業にとってコスト削減は大きなメリットです。
「AI採用」には上記のようなメリットがありますが、一方で引き続き人間が行うべき業務も存在します。例えば、以下のような業務です。
(1)最終面接と文化適合の人間的な判断
AIはスキルや経験を評価することに優れてはいますが、企業文化やチームとの相性を判断するのは現状まだ難しいです。そのため、最終面接では人間が候補者と対面し、企業文化と適合するかを見極める必要があります。人間の感情や直感はAIが評価できない部分です。候補者の情熱やコミュニケーション能力など、非定量的な要素を評価するのは引き続き人間の役割だと考えています。
(2)個人のフォローアップ
いくら「AI採用」がプロセスを効率化しても、入社後のフォローアップやオンボーディングは人間が行うべきです。なぜなら、新入社員がスムーズに職場に適応できるようなサポートやコーチングは、そばにいる人間だからこそ行えることがたくさんあるからです。また、採用候補者とのコミュニケーションやフィードバックを通じて候補者体験を向上させるのも人間の役割です。
(3)戦略的な意思決定・採用戦略の策定
人間はAIが提示したデータを基に戦略的な意思決定を行う必要があります。市場のトレンドや企業のビジョンに基づき、長期的な採用戦略を立案するのは人間の役割です。
このように、「AI採用」を推進したとしても人間の判断が必要な場面は多く残ります。最終的には、人間の知見とAIの力を組み合わせて、より効果的な採用活動の実現を目指すべきだと考えています。
その中で、採用担当者やタレントアクイジションの役割やミッションは以下のように変化していくと考えています。
(1)戦略的パートナーシップの強化
採用担当者やタレントアクイジションは、経営層とより緊密に連携し、データに基づいた戦略的な採用計画を立てることが求められます。これにより、採用が単なるオペレーションから企業の成長を支える戦略的な役割へと進化します。
(2)高度な専門知識の必要性(データサイエンスとAIの知識)
「AI採用」ツールを効果的に活用するためには、データサイエンスやAIの基礎知識が必要不可欠です。AIが提供するデータを正確に解釈し、適切な採用戦略を策定する能力がこれからの採用担当者には求められます。
(3)柔軟な対応力
AI技術は急速に進化しており、新しいツールや方法が次々と登場します。採用担当者はこれらの変化に迅速に対応し、常に最新の技術を採用プロセスに取り入れる柔軟性が求められます。
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編集後記
「AI採用」は採用活動全般、そして採用担当者の業務や役割にも大きな変化をもたらすものであることが本間さんの話からも理解できました。うまく活用できれば多大なメリットを享受できる一方で、やみくもに導入してしまうと逆効果になるものもあります。導入・推進前には自社内におけるAI活用方針を明確にして取り組みたいものです。