入社を前向きに選びたくなる「内定者フォロー」の設計方法とは

新卒採用の競争激化を背景に、近年関心をもつ企業も多い印象を持つ「内定者フォロー」。学生が自社への入社について納得感を持って意思決定をしてもらうための効果的なフォローを実施するには、さまざまな準備が必要です。
今回は、「内定者フォロー」のメリットや設計方法、具体的な取り組み事例について、新卒採用領域で豊富なご経験を持つ山永 航太さんにお話を伺いました。
<プロフィール>
山永 航太(やまなが こうた)/法人代表
大学卒業後、大手IT企業の人事部にて新卒採用の業務を中心に行い、3年間で500人超の担当学生の選考・入社サポートを実施。その後、スカウトシステムを提供しているスタートアップで採用コンサルティング部門の立ち上げに関わり、特に大手企業向けの高度IT人材の採用支援を中心として活動。その企業に勤めながら人事複業を開始した後、個人事業主を経て共同創業者として法人を立ち上げ。採用コンサルティングや人事領域でのAI開発を行っている。
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目次
「内定者フォロー」の概要
──「内定者フォロー」の概要について教えてください。
「内定者フォロー」とは、企業が内定(もしくは内々定)を出した学生に対し、入社までの期間に継続的なコミュニケーションやサポートを提供する活動を指します。具体的な施策には以下のようなものがあります。
・内定者同士の懇親会
・先輩社員によるメンター制度
・企業理解を深める研修やeラーニング
・チャットやSNSを活用したオンライン交流
・社内イベントへの招待 など
──「内定者フォロー」を行うメリットについて、具体的に教えてください。
企業・学生それぞれの視点から、「内定者フォロー」のメリットについて解説します。
■企業側のメリット
(1)内定辞退率の低減
同期や先輩社員とつながりを持ち、安心感や愛着を持つことで、内定辞退率を低減させることができます。ただ、先輩社員の振る舞いによってはマイナスな影響を与える恐れもあるため、事前に「内定者フォロー」方法やその意図について対象となる先輩社員に伝えておくことは欠かせません。
(2)早期戦力化
入社前から企業文化・仕事内容・細かな業務ルールなどを知ることにより、入社後の早期立ち上がりを促すことができます。特に、内定者インターン・内定者アルバイトなどによりリアルな就業経験を積んでもらえると、この効果がより大きくなります。
また、早期に内定者インターンやアルバイトを経験してもらうと配属部署以外でのつながりができます。その結果、社内での業務連携をフラットに相談できる相手となる可能性もあり、将来的な貢献も期待できます。
■学生側のメリット
(1)同期・先輩社員とのつながり
入社前に先輩社員と話すことにより、自身が入社後にどんな働き方ができるかなどキャリアのロールモデルイメージを作ることができます。
また、内定者同志の座談会などを通じて同期との繋がりを作ることもでき、気軽に相談できる仲間ができ、不安を軽減させることができます。
(2)入社後のスタートダッシュ
入社前に業務内容や社内の仕組みを学んでおけると、入社後にもスムーズに業務適応できるようになります。面接時には細かい業務内容などについて伝えられる時間も機会も少ないため、「内定者フォロー」の一環としてこれらのインプットを実施すると良いでしょう。
──近年、「内定者フォロー」に力を入れる企業も出てきている印象です。新卒採用状況も踏まえてその背景を教えてください。
近年、企業がこの「内定者フォロー」に力を入れる背景には、内定辞退の増加が関係しています。株式会社リクルート就職みらい研究所が行った『就職プロセス調査(2023年卒)』によると、2021年卒には57.5%だった内定辞退率平均が、2022年卒で61.1%、2023年卒では65.8%にまで上昇しています。その要因として考えられるのは、学生の内定取得数の増加です。
内定取得数が増加している要因の一つに就職活動の早期化・長期化があります。実際、内閣府が行なった『学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査(2024年卒)』によると年々就活の期間は延び、2024年のデータでは「48.3%」が9ヶ月以上と回答し、2020年と比較すると、9ヶ月以上活動している学生の割合が18.3%も増加しています。

また、2026年卒の新卒採用動向を見ると、前年に比べて割合は減っているものの、依然として採用数を「前年よりを減らす」よりも「変わらない」または「前年より増やす」と回答した企業の割合が多く、採用意欲は依然として高い水準にあることがわかります。

こうした状況の中で、学生が複数の内定を取得するケースが増えています。実際に2023年卒の大学生1人あたりの内定取得数を見ると2社以上の内定がある学生が65.7%、平均でも2.50社となっており、少なくとも1人あたり2~3社の内定を保有している可能性が高いことがわかります。

その中で、学生は内定をもらった後に企業を比較検討しながら最終的な入社先を決める動きが広がりつつあります。
そのため、企業は内定を出して終わりではなく、内定通知後も自社を選んでもらうために、様々な取り組みを行う必要に迫られています。
その方法として例えば、早期選考枠を設ける、選考フローの工夫(魅力づけのタイミングまで事前に設計する)などがあり、「内定者フォロー」もその一環です。
また、近年はジョブ型雇用の広がりやスキル志向の強まりもあり、学生は入社後の成長機会を重視する傾向が強まってきています。それを受け、インターンシップや面接だけでは伝えきれない実際の働き方をよりリアルに伝えたり、内定者同士の研鑽ができるワクワク感を醸成したりといった施策の重要性が高まっており、それを実現する手法として「内定者フォロー」が着目されているのだと考えています。
学生が「内定者フォロー」に求めること
──適切な「内定者フォロー」を行うには、学生が企業に求めていることを理解することが必要だと思います。学生は内定後〜入社までの間でどのようなフォローを求めているのでしょうか。
一般的に学生が求めるフォローは、以下の通りです。
◾️内定承諾前
内定承諾前はまだお互いに気を張っている感じではあるので、一定「選ぶ」という思考が学生にもあります。
そのため、入社を決める要素でもある「どんな会社なのか」「どんな社員と働けるか」「どんな仕事ができるのか」がわかるようなフォローをできるとよいでしょう。
◾️内定承諾後
内定承諾後は「選ぶ」フェーズを経て、学生も一安心する時期になります。
一方で、「リアルな業務や職場の雰囲気を理解したい」「業務に必要なスキルを身につけておいて、入社後スムーズにスタートを切りたい」といった思いを持つ学生が多くなる段階です。
ただ、この段階では、あまり情報を盛り込みすぎると学生も情報過多になってしまうので、個々の学生の意向に寄り添いながら、最適化したフォローをしていくとよいでしょう。
とはいえ、『してほしいフォローは学生によって違う』ものです。そのため、内定面談時のヒアリングや内定者向けのアンケート実施を通じて、学生の意向を把握するとともに、いくつかのオプションを用意・提示して学生が選択できるような体制を作ることが重要だと考えています。
なお、学生のニーズは対象者(マス向けか個別向けか)とフェーズ(内定承諾前か入社前か)の2軸で考えると整理が進みます。その2軸4象限ごとに取り組み例を記載したものが下記の図です。ここに学生個人のニーズを掛け合わせて、実施すべきフォロー内容を決めていきます。

まず、フェーズによる考え方については、学生の知りたい内容が時期によって違うので、それに合わせてコンテンツを実施します。
例えば内定承諾前であれば、「どんな会社なのか」「どんな社員と働けるか」「どんな仕事ができるのか」を知りたいという学生の考えに合わせて、一緒に入社する同期・先輩との繋がり深めるオンライン・オフライン交流会機会、企業文化や業務内容の理解を深める機会、先輩社員(特にロールモデルになるようなインパクター)との交流機会をセッティングします。
一方で、入社が近い時期には「リアルな業務や職場の雰囲気を理解したい」「業務に必要なスキルを身につけておいて、入社後スムーズにスタートを切りたい」といった学生の思いに合わせて、内定者インターン/アルバイト、スキル支援研修や入社研修の事前案内などを実施すると良いでしょう。
一方で対象者については、コスト・工数やヒアリングによって得た学生の意向に応じて、施策を考えます。例えば交流会や研修などのマス向けの施策についてはコストをかけ過ぎずに実施することができます。
実際にパーソル実施の「新卒者の内定辞退に関する定量調査」でも、「内定者フォロー」の内容を見ると、「社長・役員との懇親会」「社員との個人面談」といった交流系のものや、「社内・施設見学会」「社内イベントへの参加」などは、入社意欲を高めるが現状における実施率はさほど高くないため、やはり費用対効果の面で効果的な施策という結果が出ているようです。

一方で、近年の新卒採用はより『個別化』している傾向があります。選考の早い段階からメンター的な社員がついたり、LINEなどのツールで個別の相談に応じたりなど、1to1のコミュニケーション機会が多くなってきている印象です。「内定者フォロー」に関しても、入社や配属に伴う居住地についてのサポートや、個々人のキャリア相談会などを実施することで、より個別にフォローができると良いでしょう。
学生を惹きつける「内定者フォロー」の設計方法
──学生のニーズに応えられる「内定者フォロー」を設計する上でのポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。
ポイントとしては大きく以下の3点があります。
(1)適切な実施タイミングの検討
(2)実施手段
(3)コンテンツ内容
それぞれについて、詳細を説明していきます。
(1)適切な実施タイミングの検討
学生が求める情報の傾向から考えると、フェーズとしては大まかに以下3つに分けることができますので、これを踏まえてどんなフォローを実施するかを考えていけると良いでしょう。
①内定〜内定承諾前
②内定承諾後〜入社半年前
③入社半年前〜入社直前
(2)実施手段
実施するフォロー内容にもよりますが、その手段がオフライン・オンラインのどちらが最適かは事前に検討しておきましょう。その際の基準は『同期性があるかないか』で検討すると判断しやすいです。内定者同士のつながりをつくる、先輩社員とのつながりをつくる、などはオフラインの方が効果的ですし、反対にeラーニングや動画コンテンツの視聴などはオンラインの方が広く・長く提供することが可能になります。
(3)コンテンツ内容
コンテンツ内容を考える上でのポイントは、実施タイミング(フェーズ)ごとにその目的を明確にしておくことです。例えば、私の場合はそれぞれ以下のように目的を設定しています。
①内定〜内定承諾前
企業文化、配属先、大枠の業務内容など大きく会社の理解を促進する
②内定承諾後〜入社半年前
同期との関係構築、研修内容のお知らせ、学習プログラムの提供、内定者インターンなど、入社するまでの期間にできる活動の提示
③入社半年前〜入社直前
事務手続きの連絡、居住地サポート会、個別キャリア相談会など、入社直後の立ち上がりを早期化するための施策
「内定者フォロー」にはあらゆるコンテンツがありますし、それをすべてやろうとしてしまうと多大なる工数が掛かってしまいます。
自社として「採用したいけどできていない層」はどこなのか、それが優秀層なのか、ある特定の職種希望なのか、マス層なのかを考えながら、まずは対象を絞ったうえで、辞退を防止したいのであれば承諾後の比較検討での手厚いフォローをする、入社後の活躍をしてほしい内定者インターンや先輩社員との座談会などで業務内容のインプットをおこなう、など目的をフェーズごとに明確に分けて取捨選択をしていく必要があります。
また、内定者フォローの質をあげるためには、PDCAを回して効果的なコンテンツがの特定や、コンテンツ内容の改善を行っていくことが必要です。
新卒採用は年に1回であり、施策の実施タイミングが年1回になってしまうことから、夏季インターンシップ期なども随時活用しながらフォロー施策を導入して、学生のリアルな声や反応などの定性評価も見ながら反応が良さそうなものを選び、最終的には入社率も見ながら年度単位で実施をするかどうかを判断し、改善を繰り返していくと良いでしょう。
「内定者フォロー」の施策事例
──これまでに実施された「内定者フォロー」の事例について、可能な範囲で教えてください。
3つの施策をご紹介します。
(1)テーマ別懇親会
採用したいが、なかなかできていない層については、前述したような内定者同士や先輩社員を交えてといった切り口に加え、『何かしら関連のあるグルーピング(配属予定先など)を行った上での懇親会』を実施できると、内定者の参加率を上げられる傾向があります。特に、採用競合が明確に分かっている場合などでは、その競合企業出身の中途メンバーと内定者を引き合わせる懇親会を実施することにより、よりリアルな声を伝えてフラットに考える要素にしてもらうこともできます。また、対象者は限られるかもしれませんが、社長とのランチ会や役員陣との対話会などもこの部類に入ります。
(2)内定者インターン
内定承諾後の学生に業務イメージを持ってもらうことで、業務への解像度を高め、グリップ力を高めたいという考えから、内定承諾後の学生に限定して、社内でのインターンシップをご案内するケースがありました。インターンシップといっても無償の短期インターンではなく、有償で実際の業務をアサインして働いてもらうことを想定しています。さまざまな部門からインターン用の求人や業務を取りまとめる工数は掛かりますが、学生のグリップおよび入社後活躍の推進においては非常に効果的です。
(3)タイピング研修の提供
現代の学生はスマートフォンやパソコンへの抵抗はほぼないため、タイピング研修の必要性については疑問視される方が多いかもしれません。しかし、正しくタイピングを習得できている学生は意外と少ないため、ゲーミフィケーションのような形で楽しみながら行うタイピング研修を行うことで、幅広い層へフォローの手厚さをアピールできました。なお、グローバルな活躍を期待するポジションに配属予定がある場合は、英語でのタイピング練習ができるようなサービスを提供できるとなお良いでしょう。
編集後記
内定数平均が2.5社とありましたが、優秀な学生はそれ以上取得しているはずです。また、キャリアチケットの調査によると『内定承諾“後”の辞退はあり』だと考える層が2割近くいるという調査もあり、内定承諾後辞退のハードルも年々下がってきている様子も見て取れることから、「内定者フォロー」の重要性は今後さらに増していくのではないでしょうか。