「採用代行」の活用において、最大の効果を出すポイントとは?

新型コロナウイルスによる自粛・休業要請の影響で、有効求人倍率はやや低下しました。それでも東京などの都心部を中心にまだまだ売り手市場が続く中、採用手法を工夫する企業が増えています。
その1つが、採用代行やRPO。手法としては浸透しつつありますが、採用成功の観点で上手に活用している事例やノウハウなどの情報はまだ多くありません。
そこで今回は、採用コンサルティング、採用プロセス改善などの支援をされている大石充彦さんに、採用代行の役割と、どのように活用していくかについてお話を聞きしました。
<プロフィール>
大石 充彦(おおいし みつひこ)
2009年に株式会社ウィルグループに入社し、最年少で拠点長に昇格。拠点経営・マネジメントに従事し、その後新卒採用業務を経験。同社を退職後に人材紹介事業の立ち上げ、個人で採用コンサルティング事業を経て、2017年よりUTグループに入社。新卒幹部候補採用の責任者を務めた後、2019年3月に株式会社アスラビを設立。
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目次
採用代行サービスが求められるマーケット背景
──採用代行サービスが生まれた背景は、どんなところにあるのでしょうか。
大きくは2つあります。
ひとつは「入社のサイクル」です。
日本では新卒が4月に一斉入社したり、中途採用メンバーも期初などの区切りに入社したりすることが多いですよね。もちろん通年採用もありますが、どうしても時期によって忙しさが集中してしまうサイクルがあるのです。
しかし、昨今の不況なども影響し、人事領域でも満足に人員を確保できる企業ばかりではありません。慢性的な人員不足に陥る企業も多く、その中でもなんとか採用業務を回すために採用代行(アウトソーシング)を活用せざるを得ないニーズが生まれたと考えています。
もうひとつは「採用業務のプロフェッショナル化」
一口に採用と言っても、この採用難時代においては多様な知識・ノウハウが求められます。
採用戦略立案、母集団形成、採用管理、面接・・それぞれの業務において必要な観点は異なります。
これらすべてを自社だけで賄うことは簡単ではありません。より良い採用を実現するためにも、それぞれのカテゴリーのプロフェッショナルに依頼し、企業人事はそのディレクションを担当していく。そんな流れに移行しているように感じます。
実際に、現在の採用代行サービスのラインアップはかなり多岐に渡り、さまざまな機能を持ったサービスが生まれています。
採用代行のメリットは、業務のアウトソースだけではない
──「人員不足の解消」と「各領域の専門家に依頼できる」ということが、採用代行を利用するメリットでしょうか?
方向性はその通りですが、もう少し踏み込んだメリットがあるのも事実です。
まず「人員不足の解消」の面。人的リソースを補完するだけでは、採用代行のメリットを最大限享受しているとは言えません。たしかに新卒・中途双方に渡る膨大な業務負担を軽減できることは魅力です。しかし、採用代行によって空いた社内リソースをコア業務(採用戦略立案・候補者コミュニケーション・マネジメントなど)に集中させ、人事部全体としてのパフォーマンスを引き上げられることは、負担軽減以上にメリットがあることだと思います。
次に「各領域の専門家に依頼できる」という面。ただ単にその専門家の高いパフォーマンスを享受するだけではなく、その豊富な知見や最先端情報を自社に組み込んだり、専門家の助けも借りながら最適な採用環境を作り上げたりすることで、より質の高い人材を採用することができます。
例えば、採用戦略の専門家に依頼をすることにより、採用コンセプトや採用ターゲットの明確化を行い、また競合の採用状況などの知見も取り入れることができます。すると、人事組織として導入前よりも質の高い採用戦略を練ることができ、結果として専門家の手が離れた後も、即戦力な人材をより多く採用していける社内のスキーム構築が実現できた、等の実例があります。
「採用代行」というネーミングから、どうしても単なる業務アウトソーシングや人的リソースとして捉えられがちです。しかし採用代行の本当のメリットは、それらを活用した先にあるのです。
サービスラインアップと、それぞれのメリット・デメリット
──先ほど採用代行には多岐に渡るラインアップがあるとお聞きしました。現状どんなものがあるのか、それぞれのメリット・デメリットと合わせて教えてください。

採用代行の種類としては以下のような3つの「組織」と「個人」に大別される形です。業務範囲は場合によって異なりますが、採用代行で請け負う業務を細かく分類すると上の図のようになりますので、どこを任せられるのかを検討時に明確にすることも必要です。
(1)コンサルティング
<メリット>
・ノウハウが全くない状況であっても、短期間で採用フローやパッケージを作り上げることができる
<デメリット>
・一般的に費用が高い傾向にあり、パッケージ提供が大半のため柔軟性が少ない
・コンサル企業ごとの強みがあるため、それを見極める必要がある
・コンサルティングのゴール設定、対象範囲、業務内容を明確にできなければ、成果が曖昧になってしまう(依頼側にもスキルが要求される)
(2)BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)
<メリット>
・急な要望にも迅速かつ柔軟に対応してもらうことができる
(例)採用アシスタントがいない、採用管理ツールを使いこなせない、急に採用人数が増えた など
<デメリット>
・社内にノウハウや知見が残りづらい(採用管理ツールに入れ込む情報から分析することはできるが、それを実行に移せる人事担当者は少ない)
・企業によっては学生インターンやアルバイトが対応していることも多く、業務のレクチャーに時間や工数がかかる
(3)フリーランス人事
<メリット>
・個人それぞれに独自の強みがあり、自社が抱える課題とそれがマッチした場合に高い成果を残せる
・他社で実践したノウハウや外部コネクションがあり、必要に応じて繋いでもらったり活用できたりする
<デメリット>
・業務領域と責任の所在をはっきりさせる必要があり、そこが曖昧だと成果につながらないケースが多い
・複数社の業務を掛け持ちしているケースもあり、稼働や出社頻度の調整が難しい場合がある
それぞれの代表的なメリット・デメリットを上げましたが、当然ながらすべての企業に当てはまることではありません。
各サービスが持つ機能や能力を理解した上で、自社の状況や課題に応じて選択することが重要です。
採用代行を活用する前に、抑えておくべきポイント
──これから採用代行を活用しようと考える企業は、どんなところから始めるべきでしょうか。
まず、「自社の採用課題」から考えることをオススメします。
業務に忙殺されてしまうと、自社の採用課題やボトルネックが見えてきません。そこを考えたくても、日々応募者や面接対応・入社準備などの通常業務に追われてしまい、各選考フローにおける定量化(数値化)もできず、採用担当者の“感覚”に頼って業務を進めてしまっているケースは少なくありません。
感覚だけでも課題をぼんやり認識することはできるかもしれません。しかし、いざ採用代行へ依頼しようとしたときに、「何を外部に依頼するべきか」を言語化できないことに気づくはずです。
もし、忙しさのあまり数値化もままならない状態であれば、「採用状況を数値化してほしい」と外部に依頼することから始めるのも効果的でしょう。課題が明確になることによって、その後の対策が立てやすくなります。
尚、数値化によって採用課題を一緒に探すところから始めると、代行する側の企業理解も深まり、成果が上がりやすい関係を築くことができます。忙しい中で中途半端に数値化を行い、間違った課題認識をしてしまうくらいであれば、思い切ってそこから代行してしまった方が高い成果を上げられるはずです。

依頼時に陥りやすい失敗例と、その解決方法
──実際にサービスを活用する際に、陥りやすい失敗はどのようなものがあるでしょうか。
これは採用代行に限った話ではありませんが、やはりサービスを活用する「目的」と「ゴール」が明確に定まっていないと、成果がまったく上がらないといった失敗も発生してしまいます。
採用代行を検討するくらいですから、基本的には企業の人事担当者は多忙を極めていることが多く、「とにかく助けてほしい」といった丸投げに近い依頼になってしまうことも多々あります。先ほどの項目でお伝えした通り、自社の採用課題すらわからないまま業務を切り出しても成果は大して上がりません。むしろ課題認識をし直すコンサルティングサポートが必要になってしまうなど、余計な時間と費用が掛かってしまう場合もあります。
さらに、「依頼した代行業務の内容・成果・費用対効果などを細かくチェックする」こともとても重要です。
このような時代ですから、日々採用状況が変動することはどの企業にもありえますよね。ベンチャー企業であればなおさら。だからこそ、常に採用代行側とコミュニケーションをとって、変化に対応できるPDCA体制を構築することがポイントになってきます。
採用代行サービスを活用すると、手を動かす仕事が減った分「楽になった」と安心してしまうこともあるかもしれません。しかし、先ほどもお伝えした通り、それでは採用代行のメリットを半分も享受できていないことになります。
空いた工数を企画などのクリエイティブ領域や、マネジメントといったコア業務に再配分すること。そして代行として入ってくれるプロフェッショナルの知見・ノウハウに学び、自らのモノにしていくこと。これこそが採用代行を最大限活用するためのもっとも重要なことだと思います。
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編集後記
「採用代行」という言葉から、「自分たちでもできることを人にやってもらう」というイメージしか持てていない企業も多いかもしれません。もちろんそこを目的にした活用も時には必要です。しかし、自社の採用力を高め、より良い人材採用を実現するためにも、外部人材の知見・ノウハウの活用は今後さらに欠かせないものになっていくはずです。
最近はフリーランス人事の人口も増えてきており、企業も気軽にさまざまな専門性を持つ人材の力を借りることができるようになってきました。そんな環境を最大限に活用できるよう、まずは自社の採用課題を明確に認識するところからスタートしてみてはいかがでしょうか。