「職種別採用」で新卒採用はどう変わる?導入方法から事例まで解説

新卒採用の難易度が年々上がる中、それに対応するための施策として「職種別採用」を検討・実施する企業が増えてきています。
今回は、約15年と豊富な人事経験を持つ若尾 慎吾さんに、「職種別採用」の概要から実施時のポイントにいたるまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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若尾 慎吾(わかお しんご)/人事コンサルタント
事業会社4社で15年近く人事業務に従事。人事制度改定をはじめとして、採用・育成・労務・HRTechなど人事領域を全般的に網羅した経験を活かし、現在は人事コンサルタントとして就業中。
目次
「職種別採用」とは
──「職種別採用」の概要について教えてください。
「職種別採用」とは、入社後の配属先や職種を限定して実施する採用手法のことです。ひと昔前までの定番だった『総合職採用』の対になる概念だと捉えてもらうとわかりやすいのではないでしょうか。『総合職採用』が配属先や職種が入社後にしかわからないのに対し、「職種別採用」は入社後に経験できる業務内容や得られるスキル、入社前に保持しておくべき専門性などが分かるため、応募者にとっては得意分野や興味の強い領域に携われる可能性が高い点がメリットです。
株式会社キャリタス社の『新卒採用に関する企業調査』によると、「職種別採用」を実施しているのは全体の6割に上り、検討している企業もある事を考えると、今後増加することが見込まれます。この「職種別採用」の言葉や概念が世間一般で定着したのはここ5年ぐらいの印象ですが、一部の職種においてはそれ以前から同様の手法を実施していました。
例えば、メーカーの研究職・技術職などにおいては大学の研究室とリレーションを持つことで『学校推薦』などの形で学生を推薦してもらい採用するフローは一種の「職種別採用」と言えます。こうした特定の職種・ルートだけでなく、一般的な応募者も職種を選択して選考に参加できる企業が増えてきたことにより「職種別採用」の概念が広がってきたと考えています。
──実際に導入している企業の例を教えてください。
有名な事例としては、ソニーグループの新卒採用活動があります。ソニーグループは選択できる職種の数が非常に多いことで有名で、実際の採用Webサイト(2025年3月6日掲載時点)を見ると110以上の職種に応募できることがわかります。同ページのソニーグループ採用スタンスには以下のようなメッセージが書かれています。
『ソニーの仲間になる人には、どこの会社に入るかではなく、何をやりたいか、何を成し遂げたいかで、進む道を選んでほしい。主体的にキャリアを選びとることで、仕事に対する期待と覚悟を持ってほしい。そういった想いから、ソニーはコース別採用を実施しています』
やりたいことや成し遂げたいことを絞った状態で選考に臨んで欲しいというソニーグループのスタンスが見て取れる例ではないでしょうか。
「職種別採用」が増加している背景
──「職種別採用」が近年増加している背景にはどのようなものがあるのでしょうか。
「職種別採用」が増加している背景には、大きく以下3点があると考えています。
(1)ジョブ型雇用の増加
(2)終身雇用制度の崩壊に伴う雇用流動化
(3)会社都合の異動や勤務地変更などのリスク増加
(1)ジョブ型雇用の増加
ジョブ型雇用とは、特定の職務(ジョブ)に適したスキルや経験を持つ人材を採用し、職務内容や責任などを明確化した上で評価を行っていく雇用形態のことで、ここ10年前後で取り入れる企業が増えてきた印象があります。当初は中途採用のみに適用する場合が多かったようですが、近年では新卒採用にも適用するケースが増えたことにより、結果として「職種別採用」の増加にも繋がっています。
(2)終身雇用制度崩壊に伴う雇用流動化
終身雇用制度が実質崩壊しているに等しいことは周知の事実です。それにより雇用が流動化し、特に若年層を中心に転職が活発化してきています。学生も40年・50年と同じ企業で勤続することを前提に就職活動を行わず、早いうちからスキルや専門性を身につけられる環境を重視したい方が増えてきていることも「職種別採用」を後押ししています。
(3)会社都合の異動や勤務地変更などのリスク増加
配属可能性のある勤務地や部署が多数存在する場合、会社都合による勤務地変更や異動の可能性が高くなります。しかし、近年はそうした変更を望まない方が特に若年層に増えてきていることを受け、勤務地変更や異動が発生しづらい「職種別採用」に注目が集まっているのだと考えます。

総合職採用から「職種別採用」に切り替える際の整備ポイント
──従来の一括採用から「職種別採用」に切り替える際は、どのようなポイントを整備する必要があるのでしょうか。
「職種別採用」に切り替えるにあたっては、大きく以下3点の整理・整備が必要となります。
(1)新卒を採用する職種/しない職種の整理
(2)総合職を残すか否かの整理
(3)各職種の評価・報酬・等級制度の整備および職種間の整合性担保
(1)新卒を採用する職種/しない職種の整理
新卒社員が獲得可能な専門性を求める部署・職種であれば「職種別採用」の対象職種としても良いかもしれませんが、社会人としての一定期間の実務経験や業界・業種の豊富な知識などが求められる場合は、新卒採用としての「職種別採用」には適さない場合もあります。このように、すべての職種が新卒採用に適しているわけではないことを前提に、採用要件の整理が必要になります。
(2)総合職を残すか否かの整理
これはジョブ型雇用の際にも論点となる部分です。企業の中ではさまざまな部署、職種を経験していく中で広く深い知識やスキルを身に付けていく人材(≒ジェネラリスト)も必要になるため、一定数は総合職も残しておく方が良いと考えます。その上で、「職種別採用」された人材でも必要に応じて総合職に切り替えられるようにする企業が多いです。したがって、入社時は新卒・中途を問わず全員が「職種別採用」で入社し、その後、人によっては総合職に切り替わっていくというパスを残す形とするのか、新卒での総合職採用を残す形にするのか、といった整理は必要となるでしょう。
なお、本人の適性を加味したポジティブな意味での総合職への切り替えなどではなく、採用された職種が諸事情により社内で必要なくなってしまった場合(プロジェクトがなくなってしまった、事業を閉鎖する必要が発生したなど)に、やむを得ず他の職種や総合職に転換してもらうという可能性もゼロではないため、「職種別採用」で入社してもらう際にはそのような可能性がゼロではないことにも言及しておいた方がより丁寧でしょう。
(3)各職種の評価・報酬・等級制度の整備および職種間の整合性担保
評価・報酬・等級制度の基幹3制度を整備すべきことは言うまでもありませんが、その際に職種間の報酬に差が出てきた場合、どのようにそこに合理性を持たせられるかは重要な論点です。完全な合理性を持たせることはなかなか難しいものですが、各職種の職務難易度の差や、職種における付加価値の違いなどから、合理性や客観性を担保していくと良いでしょう。
「職種別採用」により採用成功に繋がった事例
──「職種別採用」に変更したことにより採用成功につながった事例について教えてください。
以前、大手企業のグループ会社においてITエンジニア人材を「職種別採用」した際の事例を紹介します。
親会社である大手企業は営業やマーケティング系職種に従事する方が大半であったこともあり、私が関わったグループ会社も同様のイメージを強く持たれていました。そのためITエンジニアを志望する学生からの認知が少なく、母集団形成も内定承諾にも苦戦していたのです。具体的には、ITエンジニアの採用目標数が年間約20名だったのに対し、5名しか採用できていない状況でした。
そこで、ITエンジニアの採用において「職種別採用」の導入を意思決定しました。その中でもITエンジニア募集において他職種よりも初任給を高く設定して魅力を重点的にアピールしたところ、例年は内定者全体に占めるITエンジニア人材の割合が10%程度だったところから30%以上に大きく採用数を伸ばすことに成功しました。
ちなみにITエンジニアポジションの初任給を他の職種より高くすることにあたっては、当該職種の社会的付加価値やマーケットでの獲得難易度が相対的に高いことを客観的に示したり、他の職種として従事している社員にも、社内公募などで当該職種にチャレンジする機会を提供するなどの工夫をすることによって、初任給を高く設定する合理性を担保し、社内の納得感を醸成するなどしてきました。また、金額の設定をする際には、マーケット調査を実施しましたが、社内の他職種と比率に重点を置いて設計しました。
さらに、その年以降は『ITエンジニアの採用に注力している企業』という認知も就職活動界隈に広げることができ、継続的なITエンジニア新卒採用の土台づくりに貢献できた事例となりました。
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編集後記
『配属ガチャ』などの言葉が近年流行ったことからもわかるように、希望の部署や職種に配属されるかどうかわからない状況に対する新卒学生の不安・不満は年々大きくなってきています。それらの解決策としても「職種別採用」は有効です。また、企業側がより即戦力となりやすい人材を採用する上でも効果を発揮する施策だと感じます。総合職採用とうまく組みわせることで、より効果的な採用活動を実施していきたいものです。