「ブレンディッドラーニング」を取り入れて研修効果を高めるには
国策としてリスキリング支援が行われるなど、変化に対応するための学習に注目が集まっています。その中で「ブレンディッドラーニング」のワードも聞かれるようになりました。
今回は、人財開発責任者として活躍されている総合人材サービス企業でご就業の樽磨 篤嗣さんに、「ブレンディッドラーニング」の概要から導入ポイントに至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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樽磨 篤嗣(たるま あつし)/総合人材サービス上場企業 人財開発責任者
新卒でブライダル業界上場企業に入社。販売・営業を経験した後に総務人事部へ異動し、新卒採用責任者・研修教育・総務・労務など幅広い業務に5年ほど従事。その後、自身の将来ビジョンを叶えるために転職を決意してリファラルで総合人材サービス企業へ。新卒採用責任者2年、人財開発責任者1年経験し、2020年8月からは人事採用責任者(新卒/中途)と人財開発を兼務。2022年2月より人財開発責任者に着任。
目次
「ブレンディッドラーニング」とは
──「ブレンディッドラーニング」の概要について、これまでの教育手法との違いも踏まえて教えてください。
「ブレンディッドラーニング」とは、さまざまな学習方法(集合研修・eラーニング・動画コンテンツなど)をブレンドした教育手法のことです。それぞれの学習方法の良いとこ取りをしつつ、欠点もカバーすることで効率的な学習を実現できるようになります。
この「ブレンディッドラーニング」の基本的なパターンには以下2つがあります。
(1)eラーニング・動画コンテンツによる基礎知識の『インプット』
(2)集合研修における応用的・実践的な議論を通じた『アウトプット』
各自が必要な基礎知識を『インプット』した後に、集合研修などで設けられた実践的な場を通じて『アウトプット』することにより、学びをより定着させます。また、インプットとアウトプットを1周するだけでなく、必要に応じて2周、3周と繰り返して行い学びを深めていくことで、より高度な実践につなげるサイクルを生むこともできます。
こうして学習を効果的に行えることだけが「ブレンディッドラーニング」の特徴ではありません。eラーニング・動画コンテンツにより時間と場所を指定せずに効率的な学習促進を行えること、集合研修などにより組織内コミュニケーションの活性化にもつなげられるなど、多様な働き方への適用や自主性、双方向のコミュニケーション能力なども併せて育むことができる点も大きな特徴となっています。
教育手法が変化してきた背景
──「ブレンディッドラーニング」のような新しい教育手法が生まれた背景にはどんなものがあるのでしょうか?
「ブレンディッドラーニング」が出現した背景には、大きく2つあると考えています。
1つ目は、リモートワークなどに代表される働き方の変化やテクノロジーの発展により、複数の研修をブレンドしやすくなったことです。リモートワークが浸透するまでは集合研修が主流であり、場所・時間が限定されているものが大半でした。しかし、昨今ではテクノロジーの発展によりオンラインで場所・時間に縛られず学べるようになったことに加え、さまざまな学習コンテンツが低価格(もしくは無料)で学習できるようになりました。また、パンデミックにより集合研修のニーズが激減したこともオンライン学習の浸透に一役買っていると感じます。
2つ目は、VUCA時代によって社会が求める人物像が変化したことです。これまでの時代では、上長の指示に忠実に従い、遂行する上で必要な情報のみをインプットすれば成果を残すことができました。しかし、VUCAと呼ばれる変化スピードの激しい時代ではそうもいきません。1人ひとりが自ら問題意識を持ち、必要な情報は自ら学び、その学びを活用して状況判断・行動をしないと成果も残せない時代になってきたことが、自立自走型の人材ニーズが高まっている要因になっています。
今やインプットは誰もがいつでもどこでも簡単にできるようになっています。もはやインプットは重要ではなく、そこからどうアウトプットにつなげるかが問われる時代と言っても過言ではないでしょう。そういった観点からインプットとアウトプットをセットで行える「ブレンディッドラーニング」に注目が集まっていると考えます。
教育手法ごとの特徴と活用シーン
──さまざまな教育手法がある中で、それぞれの使い分けや活用場面はどう考えれば良いでしょうか。
各学習手法は独自の特徴を持っています。そのため、目的や学習者のニーズに合わせてそれらを選択、組み合わせて「ブレンディッドラーニング」を構築し、効果的な学習環境を提供する必要があります。
以下にインプット型・アウトプット型別に手法ごとの特徴と効果的な活用シーンを整理してみました。
特徴 | 効果的な活用シーン | |
インプット型: 座学講義(集合型) | 講師中心の情報伝達を行い、基礎的な知識を効率的に提供できる。 | ・基本的な理論や概念の学習 ・新しいトピックへの導入 ・一般的な背景情報の提供 |
インプット型: オンライン学習 | 自己学習を支援し、学習者のペースに合わせて進められる。 コンテンツは動画・テキスト・クイズなど多彩。 | ・基礎知識の獲得 ・自己学習の促進 ・情報提供 ・一般的なスキル向上 |
インプット型: e-ラーニング | コンピュータやデバイスを活用し、インタラクティブな学習体験を提供。 模擬演習やゲーミフィケーションも可能。 | ・シミュレーションベースのトレーニング ・複雑な業務プロセスの理解 ・即時フィードバックが必要なスキルの習得 |
アウトプット型: ディスカッション(集合型) | 学習者同士のアクティブなコミュニケーションを重視し、意見交換や問題解決を促進する。 | ・問題解決 ・チームワーク強化 ・アイデアの共有 ・実践的なスキルの向上 |
アウトプット型:ロープレ(集合型) | 職場や就業現場で経験する場面を想定し、営業やマネジメントポジションなどの役割を演じてみることで、課題を明確化しスキルをアップさせる。 | ・個人の課題把握 ・実践的なスキルの向上 |
「ブレンディッドラーニング」導入時の注意ポイント
──「ブレンディッドラーニング」を導入する上でどのような点に注意すべきでしょうか。
「ブレンディッドラーニング」導入時に注意するべき点は、大きく以下3つがあります。
(1)学習者のモチベーション維持・向上と事前学習の徹底
(2)研修の評価と改善のサイクル
(3)事業部側との連携
(1)学習者のモチベーション維持・向上
オンライン学習環境下では直接的なコミュニケーションが難しいこともあり、学習者の参加意欲やモチベーションの把握が難しい側面があります。「ブレンディッドラーニング」の場合、事前学習と集合型研修に一貫性を持たせるため、事前学習が形骸化してしまうと集合型研修についていけないといった問題が発生するため、有意義な研修を行うことができません。それらを補うためにも適切なテクノロジーやプラットフォームを選択し、学習進捗をモニタリングするなどの対策も必要になってきます。
しかし、人事の限られたリソースだけではこうした管理はできたとしても、そこからさらなるモチベーション向上を促すのは至難の業です。そこで考えたいのは『学習者同士のチーム制』です。各チームにリーダーを設置し、そのリーダーが責任を持って学習進捗モニタリングや学習者同士のコミュニケーション機会を作っていきます。こうした体制を組むことで人事側のコミュニケーションコストを削減できるだけでなく。学習者(特にリーダー)はチームビルドやファシリテーションを副次的に学ぶことができるようになります。
(2)研修の評価と改善のサイクル
「ブレンディッドラーニング」の目的は、学習者の行動変容を促して成果や業績を向上させることです。その目的達成度を測るためにも評価軸を明確にする必要があります。目的に対して適切に検証方法を事前設計することはもちろん、研修後の後追いから得られる情報を基に研修評価を行い検証・改善まで行います。
なお、学習者の行動変容を手助けするためには学んだ後の内省機会を作ることが効果的です。具体的には、受講後のアンケート項目に以下のような項目を追加することで、学習者は実践に落とし込みやすくなります。
・何を学んだか
・その学びをどのように活かして行動するか
・その行動する上で想定される障壁と予防策は何か
(3)事業部側との連携
人材育成における有名な考え方に『ロミンガーの法則』があり、これは『人の成長は業務経験70%、薫陶20%、研修10%からなる』と考えるものです。ここでお伝えしたいのは、研修による育成影響が少ないことではありません。研修からの学びをいかに実仕事と結びつけていくかがどれだけ重要なのかということです。
インプットを業務上でアウトプットできるようになるためには、事業部側との連携が欠かせません。事前に研修目的を理解してもらった上で、学習者へのティーチングやフィードバック、コーチングを上司から提供することにより、研修を活かした業務経験や薫陶を得て成長できるようになります。
「ブレンディッドラーニング」は、効率的な学習方法を組み合わせて、柔軟な学習スケジュールや双方向のコミュニケーション、組織の活性化、継続的な成長など、学習者や組織に対して新たな価値を創出できる可能性があります。『その研修の費用対効果は?』といった人材育成のご担当者様にとって耳の痛くなる質問も、今までの研修形式にとらわれずにトライアンドエラーを繰り返すことで、業績貢献につながる本質的な人材育成に近づいていくはずです。
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編集後記
「ブレンディッドラーニング」の本質は、ただ単にこれまでの集合研修を一部オンライン学習に置き換えることではありません。あくまで業績向上につなげる手段として、必要な研修をうまく組み合わせながらインプット・アウトプットを効果的に繰り返すことで学習者の成長を最速で促すことにあります。ぜひ具体的な意図を持って研修をブレンドしてみてください。