「優秀な人事」の定義とは?
企業にとって、いかに優秀で組織にマッチした人材を確保し続けられるかということは、今や経営課題の1つです。
その割に、日本企業は外資系企業に比べて人事部の地位や給料が低い会社も多く、社内で優秀な人材を人事に抜擢させるということがまだまだ少ないように感じます。
たしかに労務や総務など、基幹業務系でルーティン化された作業が多くあることも事実です。しかし、採用や育成はまさに攻めの業務。企業の未来をも左右する重要なミッションと言えます。
果たしてこれからの時代、どんな人事が「優秀」と言われるのでしょうか。時代の変遷と共に変わってきたその定義を、今回の記事では考えていきます。
目次
人事のミッション
人事のミッションを端的に言えば、 「人」という経営資源を最大限に活用し、企業を中長期的に成長させることです。その手段としての人事業務は、大きく分けて採用・育成・配置・環境整備・制度構築と5つあります。
(1)採用
会社の経営目標やビジョンを達成させるために必要な人材を確保するべく、採用活動を行っていきます。
また継続的に優秀な人材を採用し続けるためにも、自社のブランド力や情報発信力を高めることも重要です。
(2)育成
掲げているビジョン・理念や行動指針などを前提に、自社で働く社員をどのように育んでいきたいかを企業として明確化することが重要です。業務に必要なスキルの強化はもとより、ポータブルスキルやマインド面(会社として大切にしたい価値観や考え方)も育成の着眼点となります。
(3)配置
社員のポテンシャルを最大限に活用することを目的に、最適な人材配置を検討し実行します。異動・昇格が主な手段ですが、異動といっても事業観点のものと育成観点のものがあります。また中長期的にどのように昇格者を生んでいくかということは育成とも絡む内容であり、いかに計画的に狙って実施するかが重要です。
(4)環境整備
ルーティン業務でありながらミスが許されない給与計算業務。また社員のモチベーションや採用力などを左右する給与体系構築業務があります。これらの「守り」をしっかり固めることで、社員が安心して働くことができます。
(5)制度構築
社員の生産性を高めるような「攻め」の制度もあれば、年々厳しい目を向けられるメンタルヘルス等の「守り」の制度など、各種制度を構築していきます。採用上で大きく差別化・魅力化できるポイントでもあります。
今、人事に求められるスキル
採用難の時代ということもあり、上記で記載したミッションに加えて、「いかに優秀な人材を採用し定着してもらうか」ということが人事には強く求められています。
たとえば採用面。マーケット・採用ターゲット・自社の3つのことを理解し、いかにして優秀な人材を引き付けるかという「採用決定力」が求められています。転職エージェント経験者が人事担当へ転身するケースが多いのも、この採用決定力を見込まれてのことでしょう。
そして定着面。せっかく優秀な人材を採用できても、定着してくれなければ意味がありません。会社のビジョンや戦略に沿いながらも、社員それぞれが最も効果的な形でパフォーマンスを発揮することができるよう、育成・配置・環境整備・制度構築の観点から最適な組織環境を作り上げていきます。個別のマンパワーに頼るのではなく、組織的に動けるように仕組みを作っていくことが求められます。
数値に基づく科学的な視点
人事の業務は定性的になりやすい部分が少なからずあります。これらを感覚的に行うのではなく、テクノロジーを活用して数値化し、科学的に業務を捉えることが求められるようになりました。
ときには統計的な手法も用いて、何か課題があったときにそれがなぜ起こっているのかということや、どのようにすれば解決できるのかということを、データとしてノウハウ蓄積することが採用力向上に直結するのです。
優秀な人事の特徴
ここまでにお伝えしたように、優秀な人事とはもはやオペレーティブな業務を高速で回せる人材ではありません。
経営目線で必要な人事・組織面での企画提案・実行ができる人であり、かつそれをできるだけ定量化して組織ノウハウとして蓄積できる人です。
社員のモチベーションアップができる、タレントマネジメントができる、など、優秀な人事の特徴は他にもいろいろありますが、時に経営者・役員と一緒になり、戦略的思考を持って会社をリードしていく存在である必要があります。
たとえば、HRTechサービスを活用して組織の状況を可視化し、そこから経営陣が気づいていない課題を発見し善案を含めて提言できるような人事は、まさに優秀な人事として多方面から引き合いを受けることでしょう。
仕事を進める上でまず現状を正確に把握し、そこから課題を見つけて方法を検討・実行し改善に導く。これは何も人事に限りません。「社内のTOP人材を人事に据えるべき」という意見があるのは、こういった進め方ができる優秀な人材に会社の命運を握る人事を任せるべきだという考えがあるからなのかもしれません。
優秀な人事を採用するコツ
これは人事の採用に限った話ではありませんが、以下流れでコツコツと自社採用力を高めていくことが優秀な人材を採用するための唯一の道だと考えています。
①まずもって魅力ある組織にする(ビジョン?ミッション?待遇?)
②採用ターゲットを明確にする(誰に伝える)
③その魅力が、採用ターゲットにとってどう魅力に映るか考える(何を伝える)
④どんな形でどう表現すれば届きやすいのかを考える(どう伝えるか)
①まずもって魅力ある組織にする(社長?ビジョン?ミッション?待遇?)
人事は、会社の魅力を社内外に発信していく立場にある人材。その人材が自社のことを魅力的に感じられていないのであれば、その方を人事として配置するべきではないです。
広告同様、魅力あるものを広く知らせることはできても、そもそも魅力のないものを拡散することはできません。何かしらの側面で社内外に誇れるポイントを見出す・生み出すことが、まず何より大事なことです。
②採用ターゲットを明確にする(誰に伝える)
意外とできているようでできていないのがこの「採用ターゲットの明確化」です。よくある事例が、「あれもこれもできる人事経験者」というようなターゲット設定。確かにそんなスーパーマンが入社してくれれば最高ですが、実際にはなかなか出会えないですし、仮に出会えたとしてもその人材が振り向いてくれるような魅力や待遇を自社が準備できるでしょうか。
また、同じターゲットを採用しようとしている採用競合はどんな会社があるのか。それを考えずにターゲット設定をしてしまうと、「単なる高望み」になってしまっているケースが多々あります。自社のニーズを理解しながらも、客観的な視点でマーケットを捉えて採用ターゲットを決めていくことが重要です。
③自社の魅力が、採用ターゲットにとってどう魅力に映るか考える(何を伝える)
採用ターゲットが決まったら、その人材に向けて自社のどんな魅力を伝えれば振り向いてもらえるのかを考えます。「あれもこれもぜひ伝えたい!」とつい思ってしまいがちですが、優秀な人材ほど多くの会社からオファーを受けている状態のため、幕の内弁当のように彩みどりの情報を広く浅くアピールしても興味を持ってもらえません。
採用ターゲットのインサイト(潜在的な欲求)を正しく理解、もしくは想定した上で、そこに一番突き刺さる自社の情報を一点集中で伝えていく。これこそが、優秀な人材に自社魅力に感じてもらう近道だと言えるでしょう。
④どんな形でどう表現すれば採用ターゲットに響くのかを考える(どう伝えるか)
この表現部分はコピーライターやデザイナーの力に頼る必要があるかもしれません。同じことを伝えるにしても、その伝え方ひとつで大きく結果が変わります。ここをしっかり考えられる人材会社の営業や制作担当と日頃から付き合いを深くしておくのが良いかもしれません。
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また上記手法に加えて、リファラル採用などのダイレクトリクルーティングを導入することも検討するべきです。
魅力ある組織であるということは、つまり採用力が高いということ。人材紹介や求人広告などを経由しなくても、よりダイレクトに採用ターゲットにリアルな情報提供をすることができ、魅力に感じてもらいやすくなるはずです。
また入社後の働き方や活躍できる場を事前にイメージできるので、定着率を向上させることもできますし、コストも抑えることができます。
ダイレクトリクルーティングはハードルが高い手法ではありますが、ここに真剣に取り組むことで自社採用力をぐっと高めることができ、優秀な人材の確保に大きく貢献することができるでしょう。
今後より高まる人事の存在価値
少子高齢化、終身雇用の崩壊、求人倍率の向上。これらのマーケットの変化に伴い、人事に求められる役割と必要な能力が大きく変わってきています。
これまでなかなか定量的に評価されてこなかった職種ですが、今後は経験・スキルがもっと定量的に図られるようになり、人事としての能力はどんどん数値化できるようになっていくことでしょう。
そうなると優秀な人事人材が明確化され、採用することがより厳しくなるはずです。その変化に備え、自社の人事体制を今の段階から再構築し、より優秀な人材に振り向いてもらえるように準備しておくことが必要だと言えるでしょう。