「OKR最大の効果は、対話型組織の開発にある!?」実践者に聞いた、OKR導入・運用の心構えと実例
GoogleやFacebookといった世界的企業をはじめ、国内でもメルカリなどが積極的に取り入れて注目を集めるOKR(Objective Key Result)。会社が定める目標と、その会社で働く社員の目標を紐づける目標管理方法のことで、2017年頃から徐々に話題になり、日本でも導入企業が少しずつ増えてきました。
しかしながら、OKRの導入・運用に苦労する企業は少なくありません。そこで今回は、いち早く組織にOKRを導入して高い成果を出し、現在はOKR導入の支援、定着に伴走するコンサルタントとしても活躍する木元豪さんに、そのノウハウをお聞きしました。
<プロフィール>
木元 豪(きもと ごう) 法人代表
Web受託開発会社の経営に携わった後、リクルート社にて開発/制作部隊のマネジメント⇒人事部門へ異動。その後独立し、不動産TechスタートアップのCHROを担う。自身の会社で人生の選択肢を広げるプラットフォーム「KIZKI」を開発しバイアウト。現在は企業の内発的動機に伴走するHRパートナー事業を中心に、OKRコーチや、CI・VI構築のクリエイティブ事業なども行っている。
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目次
OKRを導入するメリット
──まず、OKRを導入するメリットと効果について教えてください。
組織を「単なる集団」から「一体感を持って目標を追うチーム」にできること。それがOKR導入の大きなメリットだと思ってます。
OKRには、以下4つの効果があると言われています(参考:『Measure What Matters』日本経済新聞出版)
・ストレッチ(驚異的成果に向けてストレッチできる)
・トラッキング(進捗をトラッキングし、責任を明確にできる)
・アライメント(複数の要素間で整合性を取り、役割を最適化する)
・フォーカス(優先順位にフォーカスし、コミットできる)
これらの効果が発揮されると、「全ての従業員が同じ方向を向き、明確な優先順位のもと、一定のペースで計画を遂行できる」ようになります。そのためには、OKRの基本的なルールに沿って導入・構築・運用することが欠かせません。
中でも、トラッキングとフォーカスは日本企業が苦手な事の一つ。ここをうまく運用できれば、前述したような組織変化を実感してもらえるはずです。
ただ、最初にお伝えしておきたいのですが、OKRは簡単には導入できません。
まずは「導入・運用に時間も手間もかかるもの」と認識すること。そしてトップOKRである会社の目標、実現するための組織カルチャーなど、自組織について深くディスカッションし理解を深めていくこと。これが4つの効果を生み出す最大の源泉です。まずはその土台を固めるところから始めましょう。
OKR基本の型(運用上で守るべきルール・ポイント)
──「簡単に導入できない」とのことですが、まずはどこから始めるべきでしょうか。
導入期において最も重要なのは、「OKRの導入目的」と「解決したい組織課題」を明確にすることです。多くの企業がOKRを魔法の杖として捉えがちです。しかし、そもそもの目的と課題がはっきりしていなければ効果を実感することはおろか、導入さえおぼつかない状況になってしまいます。
それに加え、日本的なカルチャーがある企業にOKRを導入するのは難易度が高いです。だからこそ、効果を信じる「OKRの伝道師」が、強くリーダシップとビジョンを掲げて導入していく必要があります。
さらに、OKRは組織全体の目標管理なので、基本的には組織全体に導入しないと効果が発揮しづらいものです。そのため、「なぜ、OKRを導入するのか」「導入した先にはどんな未来があるのか」を伝道師がメンバー全員に伝え切り組織のインフラ化することが重要です。
──「なぜ導入するのか」を社員みんなが理解するところが土台になると。
はい。ここがキーだと言っても過言ではないと思います。そこが整った上で、以下のような守るべきポイントをクリアしていくといった感じです。
<抑えるべきポイント一例>
・上下OKRの整合性を意識する
・KR設定のSMART原則を守る(特に計測可能と時間軸)
∟Specific=具体的で分かりやすい
∟Measurable=計測ができる
∟Agreed upon=達成可能である
∟Realistic=現実的である
∟Timely=期限が明確になっている
・アライメント効果を創出するためのアサインに気をつける
∟アライメント= 方向性を合わせて協力体制を作り、メンバーの貢献を最大化すること
・自信度ミーティングや健全性指標を活用し、健全な目標を設定する
∟自信度=設定したKRを達成する自信度を10段階で自己申告するもの。一般的に5~6が適切。
OKR導入を検討する企業の多くは、完璧なOKRツリーやルールを求めてしまいがちです。ただ、OKRは100点にならずとも運用可能なもの。ある程度やってみて、運用しながら改善していくことが自社組織にあったやり方を見つける上でも有効です。抑えるべきルール・ポイントは理解した上で、必要に応じてカスタマイズしていくのがベストだと思います。
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導入時のカスタマイズ実例紹介
──ぜひ、木元さんが運用に乗せるために、実際にカスタマイズされた部分の事例を教えてください。
工夫したことは数多くありますが、その中でも以下3つは特に意識的に行ってきました。
1.ムーンショットとルーフショットのバランス
OKRには2つの目標設定方法があります。
①ムーンショット(月に届くほど非常に高い目標)
②ルーフショット(屋根に届く程度の実現可能な目標)
OKRは本来、全てをムーンショットで掲げた方が効果は出やすいものです。しかし、実際の組織でいきなりそんな設定をしてしまっては、ただただメンバーは「高い目標を課せられた…」と感じるだけで、絶対に動いてくれないでしょう。そのため、「ムーンで挑戦するところ」「ルーフで必達するところ」を議論の上切り分けて設定し、ツリーの中に入れ込むような形にしました。
2.数値目標の管理方法
セールス組織などKPIツリーが元々浸透している部署があったため、そこではKPIツリーを無理に辞めず、KRとKPIツリーを紐付けて別々に運用するようにしました。この段階を踏むことで導入がスムーズになり、また、数字に関わる部分は必達になるため予算実績管理がしやすくなりました。
3. 部署ごとのカスタマイズ
これは特に開発チームにおいて実践した事例になります。
当時、開発チームは2週間という短いスパンで「開発→振り返り」のサイクルを回していました。
この場合、OKR運営をする上で必須の週次イベント(チェックインやウィンセッション※)をルール通りに導入してしまうと、ツールやフレームワーク、会議が増加したという不満を生んでしまう可能性があります。
※チェックイン・・今週やるべきことの設定(通常月曜日に実施)/ウィンセッション・・「できたこと」にフォーカスする振り返りの場(通常金曜日に実施)
そこで、本来週次で動かしていくOKRイベントを、開発チームのみ、元々の組織運営サイクルに合わせて2週間毎に設定しました。また、ウィンセッションも、2週間に一度行っていた開発のKPT(Keep/Problem/Tryで構成する、開発における振り返り方法)に入れ込む形にして、「KPTW」としてWinも出すようにしました。
OKRは全社の目標を可視化(トラッキング)するものなので、各部署に最適化されているわけではありません。その時に、不本意なハレーションを起こさないために、部署の特性を理解した上での柔軟さも重要なポイントだと思います。
これらに取り組んだ結果、特にOKRツリーの構築によって情報の開示(トラッキング)とアライメントの効果が多く出ました。結果として自然に連携するメンバーも増え、目標達成・新規事業創出・エンゲージメント数値の向上といった定量成果を出すことに成功しています。
OKR運用で陥りやすい失敗と解決法
──導入にあたって多くの人がつまづくポイントはありますか?
「ちょっとやってみてダメだったから元に戻そう」
これがOKR運用において陥りやすい失敗の1つです。繰り言になりますが、OKRは簡単には導入できません。多くの書籍でも書かれている通り、最初は必ずと言っていいほど失敗します。私たちも多く失敗してきました。
ちょっとの失敗でダメだと見切りをつけてMBO(Management By Objective:目標管理によるマネジメント)に戻すのは簡単です。ですが、組織のカルチャーや土壌を整えることが一朝一夕ではできないように、OKRの効果もじわじわと出てくるもの。私たちが一定の成果を出せるようになれたのも、OKRの効果を信じてやり抜いたからに他なりません。OKRへの理解が深まるほど、OKRは目標管理ではなく組織開発に近いものだと思うようになりました。
──やると決めたら効果が出るまでやり抜く。簡単ではありませんね。
どんな取組みにも言えることだとは思いますが、OKRについてもその側面は強くあると思っています。
他にもこのあたりが、よくある失敗例と解決策です。
<失敗例①:OKR導入にあたり、ミドル・メンバーの理解が得られない>
■原因
経営陣だけが導入に対して盛り上がってしまい、ミドル・メンバーの巻き込みが不足
■解決策
経営陣からのOKR導入の意図・目的を丁寧に発信して理解してもらう
<失敗例②:ミドルやリーダー陣が「良いOKR」を設定ができない>
■原因
上下組織で設定したOKRに対して、整合性を担保しきれていない
■解決策
考えられるワークショップの開催、またはフレームワークの提供
<失敗例③:イベントがうまく回らない(特にウィンセッション)>
■原因
ミドルやリーダー陣の運用ノウハウが不足している
■解決策
「OKRの番人」が参加し、一緒に実施する(ナレッジシェアなど)
オススメ本(2冊)
──OKRを学ぶ上で「まずはこれを読むべき」というオススメ本はありますか?
日本とアメリカでそれぞれ最もポピュラーな2冊を紹介します。この2冊を何度も読めば、OKRの基本は理解できるはずです。
シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法/クリスティーナ・ウォドキー(著)、及川 卓也(解説)
大きく二部に構成が分かれていて、第一部は仮想のベンチャー企業がOKRによってどのように成長していくかを描く小説形式、第二部はOKRを導入するためのノウハウ説明になっています。OKR入門書としてはもちろん、いざ自社にOKR導入・運用を進める中で迷った際に読み直す本としても使えると思います。
Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR/ジョン・ドーア(著)、ラリー・ペイジ(著)
OKRの意味、組織メリット、具体的な運用方法に至るまで、多くの事例と共に教えてくれる良書です。Google、Intel、intuitなどの活用ケースにも多く触れており、実践的なノウハウをたくさん知ることができます。OKRを導入する経営陣だけではなく、実際に運用していくメンバーの理解促進にも寄与してくれる一冊です。
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編集後記
「OKRはちゃんと運用できればすごく効果が出ます。自分のWILLと組織の目標がリンクしたときのやりがいは計り知れない。OKRがきっかけとなって、もっと幸せにはたらける人と組織が増えたいいなと思います」
試行錯誤を繰り返して成果を出した木元さんの言葉は、とても説得力のあるものでした。OKRの導入は失敗も多く、新しい取組みのため社員の理解が得られにくいこともあるでしょう。
しかし、そこで諦めずにチャレンジを続けること。そしてOKRを「単なる目標管理ツールではなく、個人と組織が同じ方向を向いて気持ちよくはたらくための組織開発ツールである」と捉えること。ここにOKR導入の成否がかかっているのではないでしょうか。