【対談インタビュー】急成長組織の人の繋がりを支える。トヨタコネクティッドが外部人材と実践するオンボーディング戦略
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CORNERを活用して、人事課題の解決や事業推進を行った企業にインタビューをする「対談インタビュー企画」。今回ご紹介するのは、トヨタグループの中でITによるモビリティサービスの体験価値をつくるトヨタコネクティッド株式会社。同社の中でも、UI/UX・サービスデザイン・事業企画・エンジニアリングなど多様な専門職が集まる急成長組織「エクスペリエンスデザイン部」(以下、XD部)です。
前身組織から5年で100名規模へ拡大した同部は、外部人材と協働しオンボーディングの運用・改善を継続的に行い、エンゲージメント向上やマネージャー層の意識変化など多面的な成果につながっています。今回は、XD部 部長の久野さん、事業推進室 室長の増田さんに、外部人材活用の経緯と成果についてお話を伺いました。
■この事例のポイント
・5年で100名規模へと急拡大する中で、社員の期待値ギャップや属人化の課題に対応するためオンボーディングプログラムを構築
・外部人材と協働し、心理的安全性を確保しながら新入社員の定着をサポート。マネージャー層と連携しながらプログラムの運用・改善を継続。
・エンゲージメントや定着状況にもポジティブな傾向が出ており、組織全体への大きな波及効果に繋がっている
<プロフィール>
■久野 聡紀/トヨタコネクティッド株式会社 戦略本部 エクスペリエンスデザイン部 部長
慶應義塾大学卒業後、主にデジタル領域にてクリエイティブ、プランニング、マネジメント、経営を経験。2018年よりCCCグループのTSUTAYA事業にてDX / UX領域、及びサービス企画の統括に従事。2021年よりトヨタコネクティッドに参画し、次世代コックピッドUX開発、スマートシティ関連プロジェクト、UXアプローチでの新規事業開発など同社にとっての新しい挑戦を推進中。23年より現職。
■増田 晃秀/トヨタコネクティッド株式会社 戦略本部 エクスペリエンスデザイン部 事業推進室 室長
大学卒業後、総合人材サービスの会社で6年間勤務。その後、東京に拠点を移し、EC・小売・通信業界にてセールスやマーケティング、戦略部門の横断組織の立ち上げに従事。前職では航空会社グループのデータ活用戦略子会社のビジネスデザイン部を担当。2025年4月よりトヨタコネクティッドに入社し、現在はXD部の組織管理基盤の整備やXD領域の拡大推進を担う。
目次
5年で約6倍 急成長する組織が直面したオンボーディングの課題
──まず、エクスペリエンスデザイン部の事業内容や役割について教えてください。
久野さん:XD部は、トヨタ自動車を中心にトヨタグループの新規事業や新規プロダクトのプロジェクトに、事業構想や企画段階から参画し、伴走支援をしています。デザイナー、リサーチャー、事業企画、エンジニアなど、異業種から多様なメンバーが集まり、UI/UXデザインからフロントエンド開発、オペレーション構築まで幅広く手がけています。具体的には、車内(インカー)領域と車外(アウトカー)領域をカバーし、モビリティの体験全体を対象としています。例えば、自宅でモバイルアプリから車の充電状況を確認したり、V2Hでの電力マネジメントなどをはじめ、お客様の生活全体におけるモビリティの体験価値を設計することをミッションにしています。
──人員・組織が急拡大していると伺いましたが、どういった背景があるのでしょうか。
久野さん:2018年に「トヨタはカーカンパニーからモビリティカンパニーになる」という宣言がありましたが、新しいサービスをつくり、他の産業と接続されたモビリティを目指す中で、弊社においてもサービスデザインや新規事業を推進できる人材へのニーズが高まりました。また海外のOEM同様に、トヨタとしてのソフトウェア人材内製化という方針もありました。そうした背景からXD部は拡大しています。
部として発足してから2025年で3期目、前身組織を含めると5年ほどの組織ですが、現在は100名ほどの規模になります。
──急成長する中で、どのような課題や育成テーマが生じたのでしょうか。
久野さん:大きく2つあります。一つ目は新旧メンバーの期待値ギャップです。創業メンバーは、何もない状態から組織をつくり上げてきた経験があるため、「来期には状況が変わる」「今まさにつくり上げている」という温度感を共有しています。しかし、組織が数十名規模になってくると、新しく入社するメンバーの中には、「トヨタ」という冠があり、ある程度整った組織や制度が整備されていることを期待して入社する方もいます。この期待値の違いは、一つの課題でした。
二つ目は、オンボーディングの体制です。XD部のメンバーはほとんどの時間を部門横断、かつトヨタ自動車とも連携したプロジェクトに使い、アサインされたプロジェクト側で日々の業務やプロジェクト内のレクチャーなどが行われます。一方、育成やオンボーディングは所属部署で担う必要があり、規模が大きくなるにつれて忙しいマネージャーの負荷が高まり、対応にばらつきが生じるリスクがありました。
マネージャーとの関係づくりも重視。外部人材活用の理由
──そうした組織の状況から、外部人材を活用することになったのですね。
久野さん:はい。採用の増加に伴い、オンボーディング対象者が年間20〜30名規模で継続的に発生していましたが、それだけの人数に対して、部内にはオンボーディングに十分な時間を確保することが難しい状況がありました。また、どのような施策を実施すれば良いのか、オンボーディングを体系化していく上での知見も、社内には十分ではありませんでした。
もう一つ重視したかったのは、心理的安全性の確保です。定期的にメンバーと1on1を行い、率直な意見を拾っていくためにも、第三者に入っていただいた方が良いだろうと考えました。実際、現在入っていただいている外部人材には、入社時・2週間後・1ヶ月後・3ヶ月後と1on1をしてもらっていますが、「あなたが話したことは上司には言いません」というルールをきちんと設けています。私たちマネージャーも、誰が何を言っているか特定できない状態で報告されるため、心理的安全性を保ちながら率直な意見を拾えると考えたのです。
支援いただいているパラレルワーカーさんは、事業会社の人事として人事制度設計や各種研修などに20年ほど従事されてきた人事プロフェッショナルでありながら、EAP機関で企業や従業員向け相談業務も経験をされているコミュニケーションのプロでもあります。女性のキャリアについても知見が豊富なため、女性メンバーがどんどん増えている当部で同性の方にそういった相談に対応していただけるというのもポイントになりました。
──外部人材を活用するにあたって、懸念点はありましたか。
久野さん:パラレルワーカーさんは会社や部門への理解、プロジェクトの中身への理解という点では、当然ながら社内の人間ほど深くはなりません。ただ、逆に言えば、少し距離を取った立場だからこそできることもあります。社内の人事部門に頼んだとしても、実業務からは離れた立場でコミュニケーションしてもらうことになるので、その点では大きな問題はないと考えました。
むしろ重要なのは、パラレルワーカーさんの人柄と関係構築力です。外から来た「先生」のような立ち位置になってしまうと、ある期間までは良くても、組織に根付いていくという意味では難しくなります。XD部では、私の下に室長が4人、さらにその下にグループマネージャーが11人いますが、マネージャー陣が気軽に相談できるような関係づくりも重要です。実際に、定例会や個別相談の場を設けることで、パラレルワーカーさんとマネージャーの信頼関係・パートナーシップを強固にしていっています。
カルチャー理解とネットワーキングを重視するオンボーディング設計
──オンボーディングプログラムでは、カルチャー理解とネットワーキング支援を重視されていると伺いました。どのような意図があったのでしょうか。
久野さん:メンバーは日々の大半の時間をプロジェクトに使う働き方をしています。コミュニケーションや専門スキルの向上はプロジェクトの中である程度成立するものの、横のつながりや部としての一体感が生まれにくい構造があります。「XD部という集団」としてまとまらなければいけない理由が希薄化しているメンバーも増えていたと思います。
私たちが担うのは単体のプロジェクトではなく、「モビリティ体験全体」です。個別のプロジェクトを頑張ることはもちろん大切ですが、それらをつなぎ合わせてお客様の体験全体をより良くしていくことが私たちの目指すところです。部全体の方向性を理解し、自分の仕事がどこにつながるのかを認識してもらう必要があります。そのため、オンボーディングは業務指導ではなく、カルチャー理解とネットワーク形成をテーマに設計しています。
──具体的には、どのような施策を実施しているのでしょうか。
久野さん:例えば、XD部では入社時にバディをつける仕組みにしていますが、必ず自分が所属している室やプロジェクトとは異なる人をバディにして1on1をしてもらうようにしています。その他にもランチ会やプロフィール共有を行い、部署外や別のプロジェクトで働いている人との関係づくりをサポートしています。また、東京と愛知にメンバーが分散し、リモートと出社のハイブリッドが続いているため、自然接点は減りがちです。だからこそ、部署外とつながる機会を制度として補完している形です。

外部人材との協働が生む“心理的安全性”とマネージャーの意識変化
──オンボーディングにあたり、外部人材はどのような役割を担っているのでしょうか。
久野さん:オンボーディングは、初期3ヶ月の1on1を軸に進めています。パラレルワーカーさんは、入社者への個別1on1や課題抽出、サーベイ分析、管理職への共有までオンボーディング全体を担当しています。勤怠や申請など、上司に「困っていることはない?」と聞かれても、「大丈夫です」と答えてしまいがちな些細な疑問でも、外部だからこそ話しやすく、率直な声が集まりやすい点が大きな利点です。
増田さん:実際に、メンバーからは「言いやすい場がある」という声をもらっています。プライバシーが守られているという安心感があるからこそ、本音で話せるのだと思います。
──マネージャーとはどのように協働していますか。
久野さん:面談の内容を個人が特定できない形で抽象化してマネージャーへフィードバックしてくれます。マネージャーは「課題の傾向」のみを把握でき、改善に向けて本質的な議論がしやすくなりました。というのも、課題が上がってきた時に、ラインマネージャーのコミュニケーションの質や量の問題に起因していることもあれば、会社の人事制度の問題であることもあります。要因は複合的なため、メンバーが「何を言っているか」より「なぜそう言っているのか」という部分に目を向けることが重要です。
議論の結果、「目標設定の粒度を合わせるためのガイドラインをつくろう」「採用時の期待値のすり合わせをもっと丁寧にやろう」など、改善に取り組む動きが増えてきました。
増田さん:マネージャーだけだと、他の案件や人事トラブルなど大きなマネジメント課題があると、どうしてもオンボーディングの優先順位が下がってしまいます。パラレルワーカーさんに入っていただくことで、オンボーディングという目的に特化した場をつくることができているのもメリットだと思います。この体制を維持しながら、さらに質を高めていきたいです。
取り組みを通じて組織運営全体に広がったポジティブな変化
──組織視点では、どのような成果が得られましたか。
久野さん:全社のエンゲージメントサーベイを通じても、XD部の取り組みは一定の成果として捉えられています。定着状況についても安定した状態を維持できており、オンボーディングを含む組織づくりの方向性が一つの手応えに繋がっていると感じています。
──オンボーディングそのものを超えて、組織づくり全体に良い影響が出ているということですね。
久野さん:はい。組織づくり全体に対して良い課題が上がってくるという効果は、当初の想定以上のものでした。また、オンボーディングを通じて得られた知見が、採用施策の改善や、新しい制度の整備にも活かされていて、隣接する施策への波及効果も感じていますね。社内でもXD部の組織運営や新しい人事の取り組みにポジティブなフィードバックをもらう機会が増えています。リクエストを受けて、個別の施策やプロセス全体の共有も定期的にさまざまな部門へ行っています。
──今後、オンボーディングの取り組みをどのように発展させていきたいと考えていますか。
久野さん:取り組み自体のアップデートはもちろんしていきます。最近、室長とその下のグループマネージャーのほとんどが新任になり、世代交代が進んでいますから、彼らが主体的に施策を改善してくれると期待しています。
また、当社は2024年から明確にパーパス経営に舵を切りました。今後は、デザイナーやエンジニアなどのスペシャリストに適したインセンティブ設計・報酬制度と、パーパス経営の両面を持った人事施策のあり方を検討していきたいと考えています。現在もオンボーディングプログラムの中で、企業理解や業界動向を学ぶ機会を設けていますが、この会社で仕事をする意義や、日本のため世界のために何ができるのかといった視座を、引き続きプログラムに落とし込んでいきたいと考えています。
編集後記
お話を伺いながら、急成長する組織におけるオンボーディングの重要性を改めて実感しました。社内のリソースや専門性の不足を解消するだけでなく、入社者が安心して話せる場が生まれたことで、マネージャー側の意識変化が生じ、その影響から採用施策や制度改善へと広がり、結果としてエンゲージメントや離職率にも表れています。長期的な人材投資としてオンボーディングを捉え、そのためにパラレルワーカーの専門性を活用するという、成長フェーズにある組織づくりに示唆の多い事例となりました。






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