【対談インタビュー】人事制度改定と採用の両立を目指し、初の外部人材活用。第一実業が実現する次世代型エンジニアリング商社の人事戦略
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CORNERを活用して、人事課題解決/事業推進を行った企業にインタビューをする「対談インタビュー企画」。今回ご紹介するのは、次世代型エンジニアリング商社を目指し事業を展開する第一実業株式会社の事例です。
成長戦略「V2030」の実現に向け、人的資本経営の中核に人材育成を据える同社。新たな人事制度改定と事業拡大に伴う多様な人材の経験者採用を同時に進める必要があり、外部人材を戦略的に活用することを決断されました。その取り組みの背景や成果について、同社総務本部 人事部労務管理グループ グループ長の青山さん、太田さん、プロジェクトを支援したパラレルワーカーの長岐さんにお話を伺いました。
■この事例のポイント
・中長期で取り組む人事制度改定と継続的な採用強化を両立させるため、初の外部人材活用に踏み切る。
・外部人材を社員同等に受け入れ、情報を制限せず共有する環境を整備。その中で外部人材は現場に入り込み、部長クラスとも直接対話を重ね、候補者やパートナー企業から人事のフロントとして高い信頼を獲得している。
・外部のプロの視点を生かし、競合比較や市場環境を踏まえた採用プロセスの改善を実行。採用目標を毎月達成するだけでなく、人事部門が制度改定に向き合う時間を創出し、戦略の推進スピードを高めた。
<プロフィール>
■青山(あおやま)/第一実業株式会社 総務本部人事部労務管理グループ グループ長
新卒でメーカーにてBtoB営業3年間→エンジニアに特化した人材業界にて人事を5年間経験し、2017年に第一実業株式会社へ入社。現在は労務管理グループにて主に国内外の人事制度、労務管理領域中心に従事している。人事の仕事は通算し約15年間となる。
■太田(おおた)/第一実業株式会社 総務本部人事部労務管理グループ
新卒で人材サービス会社へ入社、法人営業を5年半経験した後、第一実業株式会社へ入社。採用全般(新卒・中途・派遣等)と、教育・研修の導入を担当。現在は労務管理グループにて人事評価制度の運営、改定をメインに担当しながら、年間20ポジション以上の中途・派遣採用を担当。
■長岐知弥(ながき ともや)/パラレルワーカー
自動車業界・WEB/IT業界で人事、経営企画を経験し、IT企業の取締役・社外取締役を経て個人事業主として独立。現在は複数社の経営企画・人事領域を支援。三重県桑名市の採用アドバイザーを経て令和7年1月からは同市の会計年度任用職員として公務員としても活動中。
「自治体複業アワード2025」で、桑名市での取り組みが評価され【人事・働き方部門賞】を受賞。
目次
第一実業の人事戦略 ー 成長戦略「V2030」を支える人材の育成
──まず、第一実業様の人事戦略や推進状況をお聞かせください。
青山さん:当社は2022年に、「人をつなぎ、技術をつなぎ、世界を豊かに」をミッションとする新たな経営理念を掲げ、2030年のあるべき姿を見据えた成長戦略「V2030」を策定しました。従来のモノ売りの商社から、独自のエンジニアリング機能を生かし「次世代型エンジニアリング商社」への転換を進め、社会的価値や経済的価値を高めることを目指しています。
経営戦略を支える基盤の人事戦略として、環境変化に柔軟で、成長意欲や専門性を高めていけるような人材育成を中心に据え、大掛かりな人事制度改定を推進しています。
太田さん:労務基盤については一定の整備が進んでいます。その上で、人的資本経営の視点から、社員の成長や組織の健全性を中長期的な価値創造につなげることが求められています。そのため、人材育成や組織の健全性は、サステナビリティ戦略においても重要な要素となっています。例えば、女性活躍推進ではサステナビリティ推進部と連携し、経営層への提案やフィードバックを通じて部門横断で進めています。
一方で、人事制度改定の推進は十分に取り組めていませんでした。青山や私が採用業務も同時に進めていたため、業務が多岐に及んでいることが理由の一つです。
──採用面の状況はどうでしょうか。課題や背景について教えてください。
太田さん:新卒採用は長年のノウハウもあり、数千件を超える応募を2〜3名で対応し、ターゲット・人数ともに計画通りに採用できています。一方、中途採用は求める人材要件が変化する中、当社は7つの事業を中心に多様な業界に事業展開を進めているため事業領域が幅広く、ノウハウが蓄積しにくい特徴があります。体制不足も重なり、戦略的に取り組む余力がない状況でした。
青山さん:採用面の課題としては、理系の専門人材の採用が逼迫していることです。当社はエンジニアリング機能を備えているため、技術を前面に出した提案や、納品先でのエンジニアリング業務まで手がけることが多くなっています。しかし、文系の営業社員では知見が不足し、また、技術面の教育・育成も難しいのが背景にあります。
また、商材的にも大型案件が増えていることも影響しています。営業担当が一つの案件に専念することが多く、体制が硬直化すると全社的な影響に広がります。そのため、柔軟な配置やフォロー体制を構えられるよう、管理部門も含めて人材増強が求められています。
人事制度改革と採用強化を両立させるため、初の外部人材活用を決断
──そうした課題を受けて、外部人材活用に至った経緯をお聞かせください。
青山さん:足元の業務を優先的に進める必要があったため、人事制度改革は後回しになりがちでした。残業時間も増え、体制は限界に近づいていました。
私自身は前職で経験があったこともあり、数年前から外部人材の活用を検討していましたが、会社としては採用のようなコア業務を外部に委ねる発想はなく、抵抗感をもたれていました。それでも、業務の逼迫が看過できない状況になっていたため、コーナーさんに相談し、最終的に社内承認を得て活用に踏み切りました。
──長岐さんの参画が決まった背景についても教えてください。
青山さん:コーナーさんから紹介いただき複数のパラレルワーカー様と面談しましたが、懸念であった現場の部長クラスとも直接コミュニケーションでき、情報共有や落としどころを探れると感じたのが長岐さんでした。満場一致でしたね。
太田さん:当初は私も外部に任せることには反対でした。部門長たちとの要件調整は、非言語のニュアンスに頼る場面が多いので、それをくみ取ることは外部の方には難しく、むしろ工数が増えると思っていたためです。
ですが、長岐さんとの面談でその懸念が解消されました。ご経験やお人柄に加え、現場への歩み寄りを重視されるスタンスに安心でき、「必要があれば出社して直接対話し、面接にも同席します」と柔軟に対応していただけることが決めてとなり、信頼できると感じました。
長岐さん:第一実業さんの採用業務は水準が高く、お二人がもともと採用経験・知見をお持ちで、兼任とはいえしっかりと業務を回されていました。その業務水準を維持しながらさらに効率化することが求められ、やりがいを感じ、ぜひ一緒に挑戦したいと思いました。
情報を制限せず共有し、現場と同じ目線で進める採用改革の成果
──2025年4月頃からプロジェクトをスタートされて、早速成果を上げられているそうですね。
長岐さん:明確なKPI管理ではなく「月1名以上は必ず採用を決める」という共通認識を持って進めており、現在のところ達成できています。社員のようにコミュニケーションをとってくれるため、結果も出しやすい環境になっています。
青山さん:私が行っていた中途採用業務はほぼ手離れし、その分、後手に回っていた「V2030」における人事制度設計など、取り組むべき課題に時間を充てられています。
太田さん:人材紹介会社とのコミュニケーションも大幅に改善されています。これまでも、重要性は理解していましたが、他の業務も兼任していたため、レスポンスが遅くなることが多くありました。長岐さんは丁寧なインプットや目線合わせ、必要なフィードバックもされるので信頼関係が深まり、結果的に速度と質の両面で改善され、決定率の向上につながっています。
長岐さん:母集団設計の見直しができたことが大きかったように思います。合わない人材が増えると工数が膨らむため、ペルソナを明確にしてあえて母集団を絞り、本当に欲しい人材に刺さる募集要件やメッセージに変えました。
応募数が減る不安はありますが、KGIとして「採用人数」のみをコミットしているので思い切った改善に踏み切ることができ、候補者や人材紹介会社のフォローにリソースを集中できています。

──「社員同等の立ち位置」で仕事を任せ、進めていくために、それぞれ工夫された点はありますか。
太田さん:事実を隠さずに過不足なく情報を共有することです。強みも弱みも、自社を卑下しすぎることなく、資料やデータ、定性情報をできるだけ渡して理解していただくことが重要だったと思います。資料に綺麗に落とし込むよりも、私自身が感じてきたことを口頭で話したり、面接に同席してもらって会社説明をする様子を見てもらったりと、実地でのインプットを重視しました。
候補者に魅力を伝えるには、具体的な話が不可欠です。特別なインプット会議は設けることなく、長岐さんと隣席でのやり取りやチャットでのリアルタイム共有で都度疑問を解消するスタイルをとり、自然な形で情報共有がなされています。
青山さん:人事が所属している総務本部では、外部人材の「半常駐」のような受け入れは初めてでしたが、営業本部など他部門の部門長とも直接やり取りされ、社内認知が進みました。そのためか、人事部内では外部人材という意識があまりないです。
業務委託の方に名刺や社用スマホを渡すことは雇用契約上の観点からハードルがあったのですが、実際に弊社の名刺をもって候補者と接した方が、業務も進みやすいと説明し、理解してもらいました。受け入れ環境はコーナーさんにも相談し、初期段階で整備できたことは大きかったように思います。
長岐さん:最初はほぼ毎日出社し、コミュニケーション量を意識しました。青山さんがおっしゃるように、早い段階で第一実業の人事としての名刺をいただき、社外・社内の双方から「第一実業の一員」として違和感なく見てもらうことができ、成果につながっています。情報制限や行動制限が一切ないので、結果を出しやすい環境にしてくださっていると感じます。
客観性が生む付加価値ー外部のプロフェッショナルの視点と波及
──長岐さんが外部人材だからこそ気づけた課題や改善できた点はありますか。
長岐さん:第一実業さんは自責文化が強く、候補者が他社に流れてしまった時も、「何がダメだったんだろう」と自分たちを振り返ります。素晴らしい文化ですが、3C(自社・顧客・競合)でいう「競合」の視点が少し不足していました。「競合比較で見える自社の強み・割り切るべき点」を明確に提示できたのは、外部にいる人間だからこそだと思っています。
たとえば、選考のリードタイムが長ければカジュアル面談を間に挟んで非接触時間を短くし、他社がフォーマルなら自社はフラットな対話で“人となり”を印象付けられるよう、候補者と対等でフレンドリーな話し方をする、というような工夫です。
太田さん:入社した候補者からも長岐さんを慕う声が多いです。人事というポジションでありながら、“人間として”候補者と向き合ってくださっていることが、当社のスタンスとも合っていると思います。
──今回が人事のコア業務において初めての外部人材活用だったと思いますが、その効果と今後についてはいかがでしょうか。
青山さん:長岐さんのおかげで外部人材活用のイメージが変わったと思います。今回の実績ができたことで、人事部内の他の業務でも検討する事例が出てきており、社内の雰囲気として外部人材を受け入れやすくなったと感じています。採用活動を安心して任せられるようになり、人事制度改定も進めることができ、人事部門はより一層チームとして機能できるようになったと思います。
太田さん:現在長岐さんには、本社の中途採用業務をお願いしていますが、今後は支社にも展開できればと考えています。
長岐さん:ダイレクトリクルーティングなど、今のトレンドに合わせた手法も中長期的には取り入れていきたいと思います。老舗企業らしくない”フラットさ”は新卒市場でも強みですし、事業の面白さや、有名企業がお客様である事実ももっと前面に出せると思っています。
社員の皆さんが外との比較で自社の良さを再確認できれば、インナーブランディングにも効いてくるはずです。
編集後記
第一実業様の事例で印象的だったのは、「外部人材という意識がない」「社員と同等の扱い」という姿勢です。情報や行動に制限を設けず、現場の温度感に触れられる環境を整えたことが成果を後押ししました。リソース不足から始まったプロジェクトは、採用プロセスの質的向上や社内の意識変革にまで広がりました。
社内に溶け込みながら成果を生み出す仕組みづくりは、他社にとっても学びになる視点になるのではないでしょうか。人材戦略がどのように展開されていくのか、今後も楽しみです。










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