【対談インタビュー】社員エンゲージメント向上はヒットを生み出すための事業戦略。株式会社ポニーキャニオンが取り組むデータドリブンな人事・組織改革とは

コーナーへのご依頼やお問い合わせはこちら。
CORNERを活用して、人事課題解決/事業推進を行った企業にインタビューをする「対談インタビュー企画」。今回ご紹介するのは、世の中にエンターテイメントを届け続ける株式会社ポニーキャニオンの事例です。
業界の環境変化による事業転換を支えるために、2019年頃から人事・組織変革に取り組み始め、社員エンゲージメント向上のプロジェクトが発足した同社。具体的なアクション設計や、適切な運用方法を実行するためにおよそ1年前から2名のプロフェッショナル人事のサポートを受け、プロジェクトを推進しています。その取り組みの背景や成果について、人事総務本部 本部長 小榑(こぐれ)さん、プロジェクトに関わっているパラレルワーカーの佐藤さん、宮川さんにインタビューしました。
■この事例のポイント
・事業環境の変化に対応するため、人的資本開示とエンゲージメント向上を重要な経営戦略の一環として位置付けている
・社内リソースだけでは対応が困難な専門知識や、異なる視点を取り入れるために、外部人材を戦略的に活用している
・外部人材と人事部の強みや役割分担が機能し、意思決定のスピードや経営の意識変化など、1年足らずで成果が生まれている
<プロフィール>
■小榑 洋史(こぐれ ひろし)/株式会社ポニーキャニオン 人事総務本部 本部長
株式会社ポニーキャニオンに入社後、営業・宣伝担当を経て、映画・アニメのプロデューサーとしてコンテンツの企画・製作を手がける。2014年より人事総務を管掌。人事総務本部の責任者として、社員のエンゲージメント向上、人事制度の設計や組織づくりなど多岐にわたる戦略人事に取り組む。近年では、「人事総務はビジネスパートナーである」という方針を策定、人事総務の業務にマーケティング思考を取り入れる試みも進めている。
■佐藤 優介(さとう ゆうすけ)/パラレルワーカー・私立大学大学院 大学教員・一般社団法人HR Buddy研究所 代表理事
大学時代にベンチャー企業で新規事業の立ち上げや起業を経験した後、アクセンチュアに戦略コンサルタントとして新卒入社。主に金融機関向けの戦略プロジェクトに参画し、戦略立案からデジタルマーケティング、リスク判定の統計モデル構築などのプロジェクトを担当。その後1年間の育児休暇を経て、人材育成に関わりたいとの思いから人事部へ異動。採用責任者および人事戦略を兼務し、2020年3月に退職。2020年4月から大学教員として企業との共同研究プロジェクトを複数実施。
■宮川 祥子(みやがわ しょうこ)/パラレルワーカー・お茶の水女子大学大学院研究員
ビッグツリーテクノロジー&コンサルティングに新卒入社。ITコンサルタントとして、要件定義やシステム開発に2年ほど従事した後フリーランスエンジニアへ。その後、自身の労働経験から、労働者の生産性やウェルビーイング向上のための支援や施策に関心を持ち、2021年よりお茶の水女子大学に進学。現在は博士後期課程に在籍し、個人と組織の関係性に関する様々な研究をしながら、最新の学術知見に基づいた企業のピープルアナリティクス・組織開発支援に取り組んでいる。
目次
デジタルシフトの波とグローバル展開を契機に始まったヒット創出のための人事・組織改革
──コーナーでエンゲージメント向上のプロジェクトをご支援させていただいて1年ほど経過します。本プロジェクトは人的資本開示の一環に位置付けられていると伺っていますが、貴社にとってどんな意味をもつのでしょうか。
小榑さん:弊社は、音楽・アニメ・映像といったエンターテイメント(以下、エンタメ)の様々な領域で事業を展開しています。エンタメというのは様々な人と人との関わりの中で生まれていくものです。だからこそ、エンタメを共に創り、ファンの皆さんに届けていくパートナーとして選ばれ続けることが非常に重要です。人的資本に取り組むことで、社員の働き続ける意欲やクリエイティビティを高め、その先のアーティストやクリエイター、原作者の方々など、発信をご一緒する方々からの支持に繋がっていくと思っています。
──なるほど、エンタメ企業ならではの背景があるのですね。その中で、エンゲージメント向上を特に重視して取り組み始めたのは何故ですか。
小榑さん:そもそも、エンゲージメントリサーチに取り組み始めたのがコロナ前の2019年頃からです。エンタメ業界では、それまで主流だったCDやDVDなどのパッケージ中心のビジネスから、デジタル配信やサブスク型へと移行が進みました。こうした技術の進化によって、作品を世界中に直接届けられるようになり、グローバル展開も一気に加速しています。
自社でも、環境変化に耐えうるように、これまでの人材要件を変化させていく必要がありました。脱・年功序列型を明確にうたい、成果や結果を重視する方向へ。新しいヒットコンテンツを生み出し続ける組織になっていくことが最も大きなテーマでした。
とはいえ、今年で創業59年の会社です。長年続いた従来の制度を変える時には様々な齟齬が生じるものです。丁寧なコミュニケーションに努めつつも、エンゲージメント低下の対策を打てるよう、リサーチを導入し定点的かつ客観的にモニタリングしていくことにしました。
エンゲージメントを好転させていくためのリサーチ運用と施策の模索
──エンゲージメントリサーチ運用から数年経って、どんな変化がありましたか。
小榑さん:リサーチ導入当初は心配をよそにエンゲージメントは上がり続けており、うまく制度が運用されていると判断していました。そこから2年くらい経って、結果に変化が生じました。それと同時に背景や要因と向き合っていく中で、エンゲージメントリサーチの結果から導き出した人事制度や施策を打ちたてながらも、社員からもリサーチの必要性や活用の結果について疑問の声が上がり始め、だんだんと自社だけでの分析に限界を感じ始めたためコーナーさんに相談しました。
──そうだったのですね。蓄積してきたデータから、ある程度自社でも仮説をもっていたと思いますが、具体的にどんなポイントがコーナーへの依頼に繋がったのでしょうか。
小榑さん:リサーチの結果は毎回経営層にフィードバックし、その後社員にも開示するステップを踏んでいたため、ある程度運用は回っていた認識です。しかし、社員から一生懸命書いたコメントやフィードバックに対する目に見えるアクションが少ないのでは?という疑問の声がだんだんと増えていき、状況を好転させる必要を痛感しました。そうした背景から、目的に対してベストな運用方法・施策を客観的かつ中立的にアドバイスいただきたいと思ったのが、コーナーさんへ依頼した1番の目的です。
圧倒的な専門性で意思決定が加速。経営陣の意識も変化。
──続いて、佐藤さん、宮川さんが関わり始めてからの状況を伺っていきます。当初このプロジェクトにどんな期待をしていましたか。
佐藤さん:小榑さんの話にもありましたが、社員の方に対してのフィードバックを工夫し、結果的に組織の変容、社員の行動変容にまで貢献したいと思いました。私が研究活動を行う際の方針もそうなのですが、単に要因を分析し論文発表で終わらせるのではなく、その結果を踏まえた解決手段の実行により、組織の改善・改革まで達成する「社会実装」を目指したいと考えています。
様々な企業の人的資本経営の研究を行っていて、宮川さんと一緒にエンゲージメントの調査も行った経験があったので、データ分析や施策検討に関して二人の経験を活かせる期待はもっていました。
小榑さん:コーナーさんに相談後、佐藤さんをお引き合わせいただきました。現状やプロジェクトの方向性について何度かディスカッションの場をもったことで、より具体的なイメージをもって依頼ができました。
──方向性をある程度議論できてからスタートされたのは安心ですね。その後7月にキックオフして、プロジェクトはどのように進められていますか。
佐藤さん:大きく3フェーズに分けてプロジェクトを進めています。1つ目は、既存のリサーチデータの分析と方向性の仮説立てです。2つ目は、施策の検討です。人事施策や社員へのコミュニケーションなど、色々な案をリストアップして実現可能性やインパクト、組織文化など様々な観点から優先順位づけして固めていきました。そして、今が3つ目のフェーズ、社員・現場への展開に取り組んでいます。社員への説明資料や面談実施の際のガイドブックを現場が使いやすいように私たちの方で作成しています。プロジェクト開始から9ヶ月後の2025年3月下旬には社員向け説明会を実施し、私と宮川さんも参加しました。
宮川さん:社員向け説明会には、朝9時という早い時間から多くの方にご参加いただきました。佐藤さんからエンゲージメント向上の意義・目的や背景について、私から面談の具体的手法やフォローアップについてお話させていただきました。
事後アンケートでは、「面談を実施してみたい」「事例が参考になった」など、評価する声が多数あった一方で、定期的に面談を実施していくことの難しさや負担の大きさを懸念する声もあり、実施を促進する上での課題も見えてきたところです。
今後は、ポニーキャニオンさんの業務の中でどのように面談を組み込むと上手く機能するかを考えることと、実際に面談を継続して生まれる効果を可視化し、継続の意義について実感を持ってもらうことが必要になると感じています。こうした取り組みの中で、ポニーキャニオンの皆さんがさらにいきいき働けるような環境を作るサポートをしていきたいです。
──1年足らずで社員向けの展開まで進んでいるんですね。現時点の達成状況はどう捉えていますか。
小榑さん:たくさんありますが、特に2つ成果を感じています。一つは様々な取り組みに対して社内の意思決定がスピーディーにできるようになっていることです。佐藤さん・宮川さんのおかげで、会社として議論のしがいのある材料を作っていただき、いつまでに何を検討するかが明確になっています。他のプロジェクトでよくあるような、材料が不足したり意思決定が曖昧になって同じところをぐるぐる回ったりする状況がないです。毎回経営陣に結果をフィードバックする際も、佐藤さん・宮川さんに分析してもらった結果を自分たち人事の言葉で説明できるようになったことも大きな変化です。
もう一つの成果は、エンゲージメントに対する上位レイヤーの意識変化です。直近ではHRBPが、本部ごとのリサーチ結果を各本部の幹部に説明し、共に課題を見つける為の議論をスタートしています。各本部をドライブしていく本部長・部長レイヤーがエンゲージメントの重要性を認識して、例えば事業計画の中に「エンゲージメント向上」を組み込んだり、人材育成をより重点化したり、そういった動きが普通になっています。意識変化やエンゲージメントに対する重みづけはプロジェクトが始まってから間違いなく加速しました。
外部人材と人事のそれぞれの強みと役割が活かされ、同じ熱量でプロジェクト進行

──プロジェクトが順調に進んでいる印象を受けますが、そのポイントはなんでしょうか。
佐藤さん:役割分担と連携がとてもスムーズなので、想定よりも前倒しで進んだ印象があります。自分たちにできることは分析と施策の提案ですが、進めていくにはその都度企業側の意思決定が必要です。大抵は議論や意思決定には時間がかかると思いますが、ポニーキャニオンさんの場合、毎週行う定例ミーティングの間に自社でも議論を進めてくださっていたり、早めに議論が済んだら方針をSlackで先に共有いただいたりするので、おかげで次のステップに向けて早めに準備・検討を始められました。
宮川さん:分析結果をお伝えした際にも、理解されようとする姿勢がよく伝わってきて、より現場の視点にたった要因の分析や効果的な施策の検討ができていると感じます。
小榑さん:スムーズな議論は、佐藤さんや宮川さんが議論の材料をしっかりご用意してくださっているからこそです。提供させていただいたデータから本当に多くの分析結果が出されますが、きちんと整理して的確に伝えてくれるため、後はいかに自分たちで消化してスピード感もってアウトプットするかを意識していました。
初期の頃は優先順位の立て方がメンバー間でバラバラだったので、解像度を同じにしていくために社内メンバーの対話に時間を使いました。基本的にはHRBP皆が自社をよくしたいという思いが強く、豊富な現場経験もあるため各本部のビジネスパートナーとしてフラットに議論ができる状態です。そうした雰囲気が作れていたのもポイントかもしれません。
人事が目指すのは事業へのインパクト。社内外の目線を入れて、ワンチームで事業の成功に貢献する
──プロジェクトを1年ほどやってきて、この先の展望はいかがですか。
小榑さん:今後の展望は明確にあります。人事総務本部としては数年前からエンゲージメント向上が最上位の戦略にありますが、その先には業績の向上やヒットの創出があります。エンターテイメントの会社として、そのリンクがなければエンゲージメント施策に取り組む意味はないと思っています。いかにアーティストに選ばれ、世界の人に観てもらえるコンテンツを生み出していけるかが会社としての最終ゴールです。
正直なところ、プロジェクトを立ち上げた時は、このエンゲージメント分析の支援内容をいずれ自分たちだけでやっていくことを考えていました。しかし、「自分たちはわかっているだろう」と、無意識に思い込むのが人間です。いろいろな方の目線を取り入れることで、新たな課題を発見したり、感覚的に捉えていたことがデータで裏付けられて確信度が増したり、そうした専門的な目線があることは非常に心強いと思いました。
自分たち人事の役割は、専門的に分析してもらったものを自分たちの言葉で翻訳して、経営や社内・組織に翻訳することです。その役割が明確化し、取り組むことができているからこそプロジェクトがうまくいっていると思います。
時間がかかる取り組みですが、やはり佐藤さんや宮川さんの知見や力を今後も定期的にお借りしながら伴走いただいて、ヒットがでた時には一緒にお酒を飲めるようなところまでもって行けたら嬉しいです。
佐藤さん:今後まさにヒットがでた時に、我々としても本当に0.001%でも何か貢献できたことがあったら、あの時頑張ってよかった、いい仕事をしたなと振り返れるようなプロジェクトだと思っています。
宮川さん:本当にありがたいですね。ポニーキャニオンさんが目指すエンタメの未来に関われることもそうですし、エンゲージメント向上のインパクトが生産性やヒットにどう関連していくかを実証していくことも意義深いです。
編集後記
激変するエンタメ業界で株式会社ポニーキャニオンが取り組む“人”への投資と組織の変革。人事が事業戦略と連動し、経営・現場と一枚岩で取り組む姿勢は、まさに人的資本経営の実践例といえます。社内に蓄積されたデータと現場知見、そして外部の専門性と客観性。それぞれが役割を発揮し合い、成果につなげていく過程には、外部人材を活かすためのヒントが詰まっています。変化の激しい時代だからこそ、自社だけで完結せず“共創”の組織づくりが、事業や組織課題解決の突破口となるのかもしれません。
今後も、ヒットコンテンツの裏側で「人と組織の力」がどう発揮されていくのか、注目していきたいと思います。