価値観を軸に、外部人材中心の採用チームをつくり上げたユーザベースの事例

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今回お話を伺ったユーザベースは、パラレルワーカーが中心の“採用チーム”を構築し、高い採用成果を残しました。
ユーザベースほどの成熟した組織が、なぜ外部人材を中心としたチームをつくることにしたのか。どのような形で仲間を集め、プロジェクトを進めたのか。人事マネージャーを務める栄 周平さん、そしてパラレルワーカーの草野 達也さんにお話を伺いました。
■この事例のポイント
・社員、パラレルワーカーの垣根を越えた「一つのチーム」として高い採用成果を実現。
・「価値観」を重視したチームづくりにより、お互いを信頼し背中を預けあえる関係性を実現。
<プロフィール>
■栄 周平(さかえ しゅうへい)/株式会社ユーザベース SPEEDA Recruiting Team Leader
人材エージェントとして経験を積んだのち、拡大期のIT/Web系事業会社2社(株式会社揚羽・株式会社ラクス)での人事を経験。その後2019年にユーザベースに参画し、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」のリクルーティングチームのリーダーを務める。
■草野 達也(くさの たつや)/パラレルワーカー
株式会社BNGパートナーズにてベンチャー幹部特化型のエグゼクティブサーチを担当後、現在は自身で起業しアジア人材の採用支援や人材紹介、中途採用・新卒・人事制度・組織開発のコンサルティングを行う。
目次
採用チーム、ゼロからの立ち上げ
──今回パラレルワーカー活用に至った背景はなんだったのでしょうか?
栄さん:2020年末の組織変更で、大きく2つの問題に直面したことがきっかけでした。
1つは「採用チームをゼロから立ち上げる必要があった」こと。私は2019年に入社した時にSPEEDAの人事リーダーを任されていて、その後一度離れたのちに、2020年末に再度就任することになりました。しかし以前一緒に働いていた仲間は別部署に異動しており、ゼロから採用チームを組成せざるを得ない状況でした。
もう1つは「すぐに採用成果を出す必要があった」こと。SPEEDAのようなSaaSのサブスクリプションサービスは、毎期末月のMRR(Monthly Recurring Revenue/月間定期収益)を重要な事業目標として掲げ、達成に向けたチャレンジをしています。年末にMRRが積み上がった最高の状態をつくるためには、年度の早い段階から人員が揃っている必要があり、そのためには採用計画上の入社月が1月に近ければ近いほど、年末の目標にポジティブな影響をもたらします。
弊社は12月決算ですので、年度末に採用チームを立ち上げつつ、1月からはすぐにでも採用を成功させないといけない状況で、大変な緊迫感がありました。
この状態で人事メンバーの採用活動を始めて、ご縁があって入社されるのを待っていては、採用計画が確実に遅延し、事業目標の達成は不可能になってしまいます。そこでコーナーの奈良橋さんに相談し、「緊急事態なので助けてください」と要請。一緒に走って成功パターンをつくっていく「パラレルワーカー中心の採用チーム」をすぐに組成することに決めました。
仲間集めの基準は「スキル」より「価値観」

──最終的にはパラレルワーカー6名が参画するプロジェクトになったと聞きました。どのように「仲間」を集めたのですか?
栄さん:12月に採用計画が手元に届いてから仲間探しを進めて行き、約1週間で8名ほどの方にお会いしました。
面談の際に大切にしたのが、価値観を共有し、信頼関係をつくれる相手かどうか。採用計画や施策などの細かい話は少ないコミュニケーションですり合わせて、チームをリードする立場として「なぜSPEEDAを成功させたいのか」「この想いはどこからきているのか」それらを熱意持ってお伝えした上で、興味を持ってもらえるか、一緒に背負ってみたいと思ってくれるかを基準としました。
今回、私が定義した業務プロセスをアウトソーシングしたいというような意識はまったくなかったので、「これまで直面したことがない問題に対して一緒に向き合って乗り越えられるかどうか」が重要であり、それには価値観や信頼関係が欠かせません。ユーザベースには採用の3つの誓いとして「バリュー>ミッション>スキルの順で判断する」という哲学がありますが、それと同じ発想です。
その中で出会った草野さんは、この苦境をどう乗り越えるかを一緒に考えていきたいと思える相手でした。そこでまず草野さんには、いくつかプロジェクトがある中でも全社の経営レベルで話題に上がるほど一番の命題となっていたプロジェクトチームの中心を担ってもらい、そこからチームの骨子を検討していく形にしました。
スキルについても完全に無視していたわけではありません。ただ、どれだけ素晴らしいスキルをお持ちでも、それを発揮できる関係性や環境でなければそのスキルも発揮されることはない。だからこそバリュー(価値観)を何より大切にしているというのがユーザベースの哲学であり、私が当時、大切にしようと思っていたことです。どんな契約形態であるかに関わらず、互いの大切な時間を使うことには変わりはありませんからね。
草野さん:淡々と、でも熱っぽく話される栄さんを見て、今回のミッションが自分にできるかできないかということよりも先に「この人と一緒に仕事がしたい」という気持ちになったことを覚えています。大変な状況の中で、一緒に乗り越えられる“仲間”を探しているということも伝わってきました。
栄さんと初めてお話をした際、「背中を預けられる人と仕事がしたい」と言われ、僕自身も同じ価値観を持っている人間です。相手が栄さんでなければこうなっていなかったと思います。
──結果的にどのようなフォーメーションになったのでしょうか?
栄さん:SPEEDAの採用ポジションを採用ターゲットごとに3つのタイプに分類し、それぞれのボリュームと難易度を見ながらパラレルワーカーの方をアサインしていきました。職種ごとでなく採用ターゲットごとに分けたのは、職種をまたいでターゲットとなる人材を追いかけることができるからです。
業務においては、パラレルワーカーの皆さんにそれぞれの方の創造性を発揮していただきやすくするために、情報の非対称性を作らない目的で、私が一時受けにならないようにしていました。具体的には、毎週行う事業や全社のミーティングに参加していただき、直接情報を受け取ってもらうようにしていました。また、別途解説や採用活動との紐づけをする目的で、週1日で行っている1on1の場で会話してすり合わせをしていました。おそらくそこで信頼関係が作れていたと思うので、パラレルワーカーの方々に動いていただけているか否かや細かい数字の話で指摘をするようなことは一度もありませんでしたが、日を追うごとに実績が上がっていきました。
草野さん:僕は先ほどの分類の中で、「若手優秀層の採用」というSPEEDAでは初めての領域にチャレンジすることになりました。前例がないので、考えうることはすべてやってみてノウハウを組織に貯めていくというイメージでしたね。特に採用ターゲットの定義やペルソナは漠然としていたので、社内の方とも議論しながらターゲットを固め、そこに対してどうアプローチしていくべきかを手探りで進めていきました。
このような動き方ができたのも、最初の面談を通じて栄さんから目的や価値観を明確に共有してもらっていたからだと思います。どうすれば成果が出るかについては常に頭を悩ませていましたが、このチームの中で何をするべきかについては具体的な指示がなくともまったく迷うことはありませんでしたから。
契約形態を超えて、信頼し合うチームへ

──今年度の採用計画は早くも充足ペースだそうですね。
栄さん:2020年末の厳しい状況から、わずか9カ月でこれだけ高い成果を残すことができたのは、ひとえに参画いただいたパラレルワーカーの皆さんのおかげです。私がもっと情報を整理したり配慮できた部分はあったかもしれませんが、それでも「これ以上ない成果だった」と感じています。
ただ、一番の成果は採用計画を充足できたことではなく、「パラレルワーカーの方と一緒に、互いを信頼し合うチームをつくり上げることができた」という点にあるなと思っていて。こういったチームで採用を進めるのはSPEEDAの歴史上でも初めての取り組みでしたし、この成功体験が、今後事業を計算していく上での重要資産になることは間違いありません。
一緒にたくさん考え、失敗もしてきましたが、コミットメントの数字は崩さなかった。当社のアドバイザーの方が、「SPEEDAの採用チームを貸してほしい」とフィードバックをくださったなんて嬉しい話も、担当役員を介して聞けた年でもあります。
草野さん:こうしたチームをつくれたのは、価値観に共感した人たちが集まったからだけでなく、栄さんが「人対人」としての関係を築き続けてくれたからです。単なるアウトソーサーとしてではなく、プロの人事としてリスペクトした上で「仲間」として迎え入れてくれたからこそ、僕らも「よし、やってやろう」という気持ちになれたのだと思います。
あと特徴的だったのは、1on1の時にほとんど雑談しかしないんですよ。時間の8~9割はお互いの人生についての共有や、共通の趣味の話ばかり。最後に「困っていることはないか」と聞いてくれてようやく業務の話をする程度。僕もこれまでいろんな企業と仕事をしてきましたが、こういった進め方をする企業はあまりなく、こうした1on1の在り方はユーザベースならではだなと。こういう「人対人」の関係性で、互いの人生の時間を共有できたことは自分にとっても大きかったし、回りまわって成果にもつながっていると感じます。
栄さん:私が相手のことを聞いてばっかりというわけではなく、実は聞いてもらってもいるんです。今年は私がプライベートで大変なことがあった年でもあり、そんな時に話を聞いてくれたのが草野さんでして。草野さんも似たような境遇だったこともあって、いろんなことを本音で相談に乗ってもらいました。様子を見かねて、休日に家まで車で飛んできてくれたことも。「一緒に釣りでもしましょう」といって、釣具屋さんで道具を揃えて海に行って。結果的に初心者だった私だけ釣れて、玄人であるはずの草野さんは一匹も釣れなかったのですが(笑)
草野さん:そんなこともありましたね(笑)。実はその逆パターンもあって、僕があることで1カ月ほど悩んでいた時に家まで来てくれたんです。僕の子どもも含めていろいろ話して、「元気そうで安心しました」と帰っていきました。まるでずっと一緒にやってきた仲間のような関係性を、わずかこの9カ月の間でつくれたことは、自分の人生にとっても非常に価値のあることでした。

辞める後押しをした理由
──達成見込みとはいえ、まだまだ採用活動が続く中、草野さんは9月末にこのプロジェクトを離れると聞きました。いったいなぜなのでしょうか?
栄さん:その理由の一端は私にあります。なぜなら私が「このプロジェクトから離れた方がいい」とアドバイスしたからです。
草野さん:先ほど「1カ月ほど悩んでいた」と言ったのはまさにこの件。僕は自身でも会社を立ち上げて経営しているのですが、過去に一度痛い目を見たことがありまして。それから「やりたいこと」ではなく「やれること」で仕事を選ぶようになってしまっていました。
そんな中で運よくSPEEDAのプロジェクトと栄さんに出会い、同じ価値観を持つ仲間と一緒に進むことの楽しさを再認識するようになった頃に、ある方から「一緒に事業をやろう」とお誘いをもらったんです。その方はかねてから一緒に働きたいと思っていた方で、「やりたいこと」に挑戦できるチャンスでもありました。でも踏ん切りをつけられず1カ月近く悩み続けていたところ、栄さんが最後に背中を押してくれたのです。このプロジェクトから僕が抜けることになるのは、栄さんにとってはメリットがないはずなのに。
栄さん:正直、彼が抜けることはSPEEDAにとってはまったく嬉しくない話です。10月以降も同じチームで走れた方が成果を確実に出せますし、何より草野さんはこのチームの中心人物でしたからね。
でも、草野さんは9カ月間とはいえ一緒に苦難を乗り切ってきた仲間です。そんな相手に私ができることは、彼の人生にとって一番良い選択を後押しすることなんじゃないかと。草野さんと一緒に働けなくなると思うと辛いですし、実際に離れることが決まった今でも寂しくて連絡してしまうこともあります。でも、大切な仲間だからこそ誰よりも彼の幸せを祈っているし、今回のプロジェクトに参画してくれた方も皆、同じ想いのはずです。
本当は離れて欲しくない仲間の背中を自ら押す形にはなりましたが、草野さんがこのプロジェクトを通じて成長し、新たな1歩を踏み出すきっかけをつくれたのであれば、本当に良かったなと思います。
草野さん:僕の悩みに対してフワッとしたアドバイスをくれる方はたくさんいましたが、「こっちに行け」とハッキリ言い切ってくれたのは栄さんだけでした。仲間と呼べる方と一緒にやりたいことをやれる機会は滅多にあるものではない。その機会が無くなる前に早く行けと。
本当にこの9カ月は成長ばかりの時間だったし、ここまで信頼関係を得られたのは初めての経験でした。この人と仕事がしたいと思ったのも栄さんで、次のキャリアへ飛び出す勇気をもらったのも栄さん。勝手に恩義を感じています。「10年後にまた胸を張って会えるようにしよう」と約束しているので、いつかまた一緒に仕事ができる日を心待ちにしながら、今後もそれぞれのフィールドで頑張っていきたいなと思っています。
編集後記
今回のインタビューは、実はユーザベース栄さんから提案してもらい実現しました。「草野さんはじめ、パラレルワーカーの皆と成し遂げたこのプロジェクトの軌跡をどこかに残しておきたかったんです。」そう理由を話してくれた栄さんからは、改めて仲間を大切にする気持ちが感じられました。
パラレルワーカー活用は新しいマーケットということもあり、まだまだアウトソース的な捉え方をされることも少なくありません。しかし、社内・社外に関係なく、“仲間”として向き合い協力することができれば、発揮できる力はとても大きなものになります。「1人が、複数の会社で、本気で働ける社会へ。」今回のユーザベースの事例は、コーナーが実現したいと考えるこの世界間のまさにど真ん中。こうした事例をもっと多方面で増やしていきたい。改めてそう感じさせるインタビューでした。