ゼロベースから採用体制を構築し、わずか1年でエンジニア組織を倍増できた理由
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採用難易度が最も高いITエンジニア。全体の求人倍率1.65倍(2020年10月)に対し、IT・通信領域は4.89倍と突出。この状況がもう何年も続いています。
その中でも特に採用に苦戦しがちなのが、中小企業やスタートアップ。どれだけ魅力的なプロダクトを持っていたとしても、知名度や待遇面が理由で検討の土台にすら上がらないことも少なくありません。また、社内に専任の人事担当者がおらず、採用活動に割くマンパワーもノウハウもないと悩む企業は多いようです。
今回取材にご協力いただいた株式会社アペルザにおいても、2019年12月の時点で専任人事が不在で、リファラルのみでエンジニア採用を細々と続けていたそうです。そんな企業にパラレルワーカーの杉本さんが、1人目の専任人事としてジョインしたことで事態は急変。週1日(7~8時間)、隔週の定例MTGという限られた時間での関与ながら、結果としてこの1年弱でエンジニア組織は倍まで拡大し、事業が大きく前に進んだといいます。アペルザのCOO田中さんにも参加いただき、どんな1年だったのかをお聞きしました。
<プロフィール>
■田中 大介/株式会社アペルザ 取締役COO
慶應義塾大学 商学部卒業。在学中にEC系のスタートアップであるオイシックス株式会社にインターンとして従事。ユーザー向けメールマガジン配信やウェブページ制作など主にマーケティング業務を担当。大学卒業後、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(現日本IBM)に入社。大手製造業の生産プロセス・システム改革プロジェクトに開発者として参画。以降は、様々な企業のセールス・マーケティングやオペレーションのプロセスを改革するプロジェクトに従事。ITを活用してクライアントの売上向上・業務効率改善に貢献。最も優秀な若手社員に与えられる「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。2008年にコンサルタントとして独立し、2010年には製造業に特化し様々な販売手法を提案する株式会社FAナビを創業。以来、一貫して製造業のメーカーや商社のセールス・マーケティングに携わる。製造業におけるセールス・マーケティングの知見、ITの知見、コンサルティングの知見を生かし、Aperza(アペルザ)のクライアント向けサービス向上に取り組んでいる。
■杉本 裕樹/パラレルワーカー
国際基督教大学 教養学部卒業、事業構想大学院大学 修了。新卒1期生として当時20名強の人材ベンチャーに入社。マーケティング、新規事業、新規ユニットマネージャー、キャリアコンサルタント統括マネージャー(部下50名)等を担い、業界トップクラスへの成長をけん引。2017年12月にIT・グローバル人材・外国人留学生の就職・転職支援に特化した会社を創業し代表取締役に就任。同時に中小~大手など複数企業の人事・採用に携わっている。
目次
パラレルワーカー活用に至った背景と、杉本さんとの出会い
──杉本さんがジョインする前は、リファラルだけでエンジニア採用を進められていたそうですね。なぜパラレルワーカーの方の力を借りようと考えたのでしょうか。
田中さん:2019年7月に行った資金調達を機に、積極的にエンジニアを採用しようと考えまして。ただ、いきなり人事組織を組成するのは難しいので、まずは私1人で採用活動を進めながら、同時並行で人事の正社員を募集することにしたんです。
でも、1人目人事へのこだわりから、すぐに採用ができそうになくて。かつエンジニア採用はこれまでほとんどリファラルだったので、その他の採用手段やノウハウがほとんどなく、これは困ったなと。そんな時にたまたまコーナーと出会い、コンサルでもアウトソースでもない「パラレルワーカー」というプロフェッショナル人事を紹介してもらえるサービスがあることを知りました。元々当社には顧問的な立ち位置で人事のアドバイスをしてくれる方は何名かいらっしゃるのですが、ブレーンとして企画をしながら実行までしてくださる方を業務委託で活用できるとは想像もしていませんでした。
そして杉本さんをご紹介いただき、数回のディスカッション・ブレストを通じて互いにマッチするかどうか、何をやるべきかの確認していきました。そうして議論を重ねるうちに、「杉本さんにお任せすれば大丈夫だな」という気持ちがどんどん生まれてきて。結果的に人事の正社員採用を待たずして、杉本さんにエンジニア採用リーダーとしてロングスパンで協力いただくことに決めたという流れです。
杉本さん:担当企業を選ぶときに大事にしていることが2つあります。まず1つが「その会社のビジネスに興味が持てるかどうか」という点。田中さんと初めてお会いしたときも、アペルザが手掛ける製造業向けのサービスについて、素人なりにいろいろと聞かせてもらったことを覚えています。やることがどんどんピボットしていくスタートアップならではのスピード感も、似た環境での経験が多い僕にとっては心地の良いものでした。
もう1つが「成果をしっかりとお返しできるイメージが持てるか」という点。人事のプロとしてジョインする以上、成果を出せなければ意味がありません。元々ゼロベースから採用体制を構築することは得意でしたが、優秀なタレントが揃っていて、直近で資金調達をするなどの魅力的なNEWSがあるアペルザであれば、当たり前のことができれば一定の成果を上げられるイメージがありました。また、情報を限りなくフルオープンにしてくれたことも、「これなら成果を出せる」と確信できた大きな理由だったように思います。
プロジェクトスタート、そして協力体制の構築へ
──プロジェクトを進めるにあたり、どんなところから手をつけていきましたか。
田中さん:最初の1~2カ月は目先の採用目標にとらわれ過ぎず、土台づくりに注力していきました。実際にはじめての採用決定者が出たのは、プロジェクト開始4カ月目のこと。プロとしてどうしても短期的に成果を出すことが求められるので、杉本さんはヒヤヒヤしたんじゃないかな(笑)。でも、そのプロセスを見ていれば「結果が出るのは時間の問題」ということが分かるほど、杉本さんの取り組みは素晴らしかった。
他社での実践を多く積んでいるので、まず取り組みにムダがないんですよね。私1人でやっていたら多くのトライ&エラーを繰り返していたであろうものでも、杉本さんがやってくれることですべてショートカットできた感覚があります。この効果は目に見えづらいものですが、何よりスピードを重視するスタートアップ企業ではとてもありがたい成果です。
また杉本さんがうまいのは、承認が必要な取り組みについて、こちらが試しやすいサイズに切り分けて提案してくれること。いきなり何百万円みたいなトライをするのではなく、まずスモールにスタートしてから成果に応じて大きくしていく形で進めてくれるのです。そして、結果が伴わないときは杉本さん側から「やめましょう」と言ってくれ、ズルズル失敗し続けることもない。そんな安心感からか、杉本さんからの稟議を却下したことは一度もなかったと思います。
杉本さん:結果が出るまでの期間は、そこまで「やばいな」という気持ちはありませんでした。年末年始を挟んで、転職希望者もエージェントも動きが鈍っていましたし、そもそもゼロから採用できる土台を作るので一定時間が掛かるのはしかたない。ちゃんとやるべきことはやれている手ごたえがあったので、あとは採用が決まってくれさえすれば波に乗れると考えていました。
あと、そうやって安心して動けたのも、田中さんのマネジメント力による部分が大きいと思います。褒められたから褒め返すわけではないのですが(笑)。隔週で実施している定例MTGでは、僕も気づいていない新たな視点を投げかけてくれるなど、このマネジメント方法は本当に勉強になりました。
また、承認に関してはおっしゃる通りで、こちらから「やりたい」と上げたことはすべて承認してもらい、大半のことを信頼して任せてくれました。パラレルワーカー側からしても、ここまで任されたら成果を上げないわけにはいかないんですよね。そういう意味では田中さんの要求レベルは高かったように思います。
──1年経った今だからこそ感じる「もっとこうすればよかったな」ということはありますか。
田中さん:仕事の仕方や進め方については、大きく改善する必要がないくらいうまく進められたかなと。あえて言うのであれば、「もっと中長期的な施策」の比率を増やしておけば今がもっとラクだったなと感じます。
土台づくりからのスタートだったとはいえ、やはり互いに「早く結果を出したい」という考えは内心あったと思うんですよね。エージェントコミュニケーションやスカウトメールのアップデートといった短期的な取り組みを優先した結果、いわゆる“転職顕在層”へのアプローチはこの1年でもう打つ手がないほどやりきりました。
反対に“転職潜在層”にリーチできるような中長期施策については、まだまだ手をつけられていなくて。特に当社は事業領域がニッチでわかりにくいことが課題でもあるので、そこに寄与する情報発信はもっとやっていく必要があるなと思います。
杉本さん:田中さんがおっしゃる通り、短期で成果が出る打ち手はほとんどやり切りました。目標設定自体もこちらに任せてもらい、それに合わせてミリミリと確率を上げていくような細かいアクションも丁寧にできたからこそ、この採用難易度の高いIT領域で安定した採用成果を出せるまでになれたと思います。
次の課題はまさに“転職潜在層”へのアプローチ。特にエンジニアのハイレイヤー層は、転職市場に出てくる前にリファラルで採用が決まってしまうことが大半です。この1年で顕在層にアプロ―チする土台は作り上げることができたので、今後は中長期の視点も持ってアペルザの認知を世に広げられるような取り組みもしていきたいところです。
1年でエンジニア組織が倍増、そして社内に生まれた変化
──外部採用がまったくゼロだったところから、わずか1年でこの成果は相当インパクトが大きかったと思います。振り返ってどう感じますか?
田中さん:この1年で会社全体の人数が増えたにも関わらず、エンジニアが組織に占める比率は35%以上になっています。そうなると、描ける事業の規模感もぐっと大きくなるんですよね。また、優秀なエンジニアが入ると組織が確変する──なんてことはよくあります。採用スピードを大幅に上げられたことで、事業スピードもさらに加速しました。
組織が急激に大きくなったこともあり、生産性の低下を懸念していたのですが、選考段階の情報提供方法や内容などにも工夫を凝らしてくれたことが功を奏し、想定していたよりもコンディションが良いまま組織運営をできています。CTOからも「杉本さんをこのままホールドしておいて!」と言われるほど現場からの信頼も厚く、とても良い関係性を築いてくれたなと嬉しく思いますね。
ここまでの結果を出してくれた方には、会社としても新たな機会提供をしないとなと考えていて。具体的には、先ほど話題に上がったような中長期的な取り組みなどもその1つ。もし杉本さんがこの領域に興味があり、「やりたい」と言ってくれるようであれば、会社としても全面バックアップの上、またこれからも一緒に仕事をしていけたらと考えています。
杉本さん:そういってもらえるのは本当に嬉しいです。フルリモート勤務で関与できる時間も限られている中、常に現場のことを共有したり相談したりしてくれるので、こちらとしてもうまく連携でき、貢献している実感を持つことができています。
また、期待してくれている中長期的な取り組みについては次なるチャレンジだと思っています。もっとマーケティング的なフレームワークを採用現場に取り入れていきたいですね。“転職潜在層”へのアプローチ方法や、コンタクトした方をタレントプールした上でナーチャリングするといったアクションなどをイメージしています。
プロとしてアペルザに成果を返すことはもちろんですが、そういったチャレンジを通じて自分自身のスキルをアップデートしていくことにも挑戦していきたいなと思います。
──最後に、これからパラレルワーカー活用を考えている企業に向けてメッセージをお願いします。
田中さん:今改めて感じるのは、「外からの視点を入れることはとても大切」だということ。杉本さんのように最前線で実務も担っている方にジョインしてもらえると、知見だけでなく最新のノウハウや事例も一緒に持ち込んでくれるので、事業スピードが格段に上がります。
さらに言えば、ジョインいただくパラレルワーカーの方は1人ではなく、複数名に入ってもらうと尚良いです。杉本さんはハンズオンで進めてもらいつつ、それ以外の方には定期的なディスカッションを通じて知見を提供してもらうことができれば、よりいろんな視点から立体的にモノゴトを考えることができます。選択できる戦略オプションがぐっと広がるので、これを活用しない手はないですね。
杉本さん:人事は会社の顔にもなる大切なポジション。この採用が難しいマーケットの中で、そこを焦って正社員で採用しようとするとどうしてもミスマッチが起こってしまいます。とはいえ現場の採用ニーズはあるので、ゆっくり採用もしていられない。そんなジレンマに陥ることは少なくありません。
そんなときにこそ僕のようなパラレルワーカーが役立ちます。まず一緒に3カ月働いてみて、そこでできることできないことのイメージを持ってもらえれば、正社員採用以外にも可能性が見えてくるはずです。
編集後記
スタートアップ企業の「1人目専任人事」として外部採用の土台を作り上げるだけでなく、その上で最難関と言われるITエンジニア組織を倍の規模まで導くなど、大きな実績を生み出した今回の事例。
その事例のインパクトから、どうしても目に見える実績に着目しがちですが、企業・パラレルワーカーの双方にお話しを聞くと、それ以外の「見えない成果」も大きくあるように感じます。特にスピード感と柔軟性が求められるスタートアップにおいては、パラレルワーカーの活用を常に視野にいれておく必要があるのではないでしょうか。