「スキルベース組織」の可能性と導入方法について。ジョブ型・メンバーシップ型との違いを踏まえて解説
近年、注目が集まっている「スキルベース組織」。欧米企業の一部でも導入が進んでいるようです。
今回は、これまでに100社以上もの組織人事コンサルティング支援実績を持つHRユニティ株式会社 代表取締役の羽淵 崇之さんに、「スキルベース組織」の定義から導入方法に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
羽淵 崇之/HRユニティ株式会社 代表取締役
事業会社の人事部門、旧監査法人系コンサルティングファームのマネジャー/チームリーダー、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)のシニアマネジャーを経て、HRユニティに共同代表としてジョイン。これまで100社以上で組織人事領域のコンサルティング支援実績を有する。
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目次
「スキルベース組織」とは
──「スキルベース組織」とはどのような特徴を持つ組織でしょうか? その定義と基本的な考え方、そして近年導入が進んでいる背景についても合わせて教えてください。
「スキルベース組織」に明確な定義は定められていませんが、一般的には『従業員の持つスキルを起点とした人材マネジメント(人材の採用・配置・評価・育成など)を行う組織』と認識されています。この「スキルベース組織」の基本的な考え方は、従業員が保有するスキルと仕事を細かく柔軟にマッチングさせながら、人材の最適な配置・活用を実現していくことにあります。
先行して「スキルベース組織」の導入が進んでいる欧米(特に米国)においては、『人材不足』がその背景にあると言われています。労働力人口の減少により人材が”量”的に不足し、業務のデジタル化・AI活用などで職務(ジョブ)の内容が複雑化・高度化した結果、高度なジョブを担う人材の”質”的な不足も顕在化しています。そのような状況の中、従来のやり方で職務記述書(ジョブディスクリプション)単位の求人を出しても充足に至らない問題が深刻化しているのです。そこで、『ジョブ』をより細かい『タスク』に分解しつつ、タスクベースで担当できるスキルを持つ人材と柔軟にマッチングさせるスキルベースの人材マネジメントが人材確保の方策として注目され始めました。

日本において「スキルベース組織」はまだ先進的な考え方ですが、人材不足が言われて久しい状況を踏まえると今後導入が進展すると想定されます。実際に、『外部の人材リソース活用』の切り口ではすでにスキルベースの人材確保が進展しています。例えば、定型作業に対するスキルのみを求める飲食店や物流などの現場ではタイミーに代表される『スキマバイト』が一般化していますし、高度なスキルが求める場合にはCORNERのような複業/フリーランス人材を活用する支援サービスや外部コンサルタント人材の起用も多くなっています。
「スキルベース組織」とその他組織の違い
──「スキルベース組織」は、ジョブ型・メンバーシップ型組織と比べてどのような点が最も異なるのでしょうか?
「スキルベース組織」の人材マネジメント(採用・配置・異動・育成・評価・処遇)は、ジョブ型やメンバーシップ型の考え方と比較すると『スキル』を中心に据えている点に特徴があります。その上でそれぞれの違いについて、以下4つの観点から比較してみます。

(1)採用
特定のポジションを想定するジョブ型では『同種の職務における経験・実績』、広範囲な業務を担うことが想定されるメンバーシップ型では『ポテンシャル(潜在能力)の高さ』を重視しますが、「スキルベース組織」では『会社が求めるスキルの保有状況』が重視されます。
(2)配置・異動
ジョブ型では新たに充足すべき『職務』が生じたことを起点に適切な人材を配置・異動し、メンバーシップ型では人材の能力・適性などをみながら配置・異動先の職務を決定します。一方、「スキルベース組織」では前述の通り『スキル』を起点とし、そのスキルを有効活用できる職務・タスクへ機動的にマッチングさせていきます。ジョブ型を『適所適材』、メンバーシップ型を『適材適所』と表現することが多いですが、「スキルベース組織」は『適技(スキル)適所』と言えるかもしれません。
(3)育成
ジョブ型では担当職務において成果を発揮するために本人が自律的に学習することを前提とし、メンバーシップ型では汎用的なスキル獲得を目的として階層別研修などによる底上げ教育が中心となります。一方、「スキルベース組織」では主体的にスキルアップしていくことを前提としつつ、事業戦略とも密接にリンクして強化すべきスキルを会社が主導し、教育機会なども提供していきます(例:事業ポートフォリオの変化に伴い、新事業に必要なスキルの獲得を促すなど)。
(4)評価・処遇
ジョブ型があくまで『職務』を軸におき、メンバーシップ型が勤続・経験などの『年功要素』を考慮する傾向があるのに対し、「スキルベース組織」はスキルの保有状況・発揮状況に着目します。とはいえ、スキルだけで評価・処遇すると高く評価されるスキルが活用できるタスクだけに目が向いてしまい、人員配置などで支障が生じるため、仕事上の成果やプロセスも含めることが一般的です。
──日本企業において「スキルベース組織」を導入する場合、どんな壁がありそうでしょうか?
日本に多いジョブ型・メンバーシップ型組織から「スキルベース組織」に移行する際には、それぞれ一定の課題が想定されます。
■ジョブ型から「スキルベース組織」への移行
ジョブ型では仕事と人の関係性が1対1で固定化する一方、「スキルベース組織」では仕事と人の関係性が柔軟になります。そのため、特に『配置・異動(ジョブマッチング)』の観点で仕組みづくりなどの課題が大きくなると想定されます。
■メンバーシップ型から「スキルベース組織」への移行
メンバーシップ型ではキャリア形成を会社が主導する形になる一方、「スキルベース組織」では自身がキャリアを自律的に形成する姿勢が求められます。そのため、配置・異動・育成を含めたキャリア形成の観点で従業員の意識変革が課題になると想定されます(この点はメンバーシップ型→ジョブ型への移行も同様です)。
「スキルベース組織」導入により期待できる効果
──「スキルベース組織」を導入することで、企業や従業員にはどのような効果が期待できるでしょうか?
「スキルベース組織」が機能すると、企業側・従業員側の双方にさまざまなメリットが期待できます。
■企業側のメリット
最大のメリットは、「スキルベース組織」の特徴である『従業員の保有するスキルと仕事の機動的なマッチング』を通じて、人材の最適な配置・活用が実現されていくことです。スキルベースの配置により、現在の業務・職場では活用する機会のないスキルが別の業務・職場では大きく活かされたり、ある職場では人手不足で繁忙を極めているところに別の職場で余っているリソースを柔軟に投入しやすくなったりします。これらにより、組織・職場を超えて人的リソースが最適化され、生産性の向上も期待できます。
なお、スキルベースの配置が進むとプロジェクトベースや兼務での仕事が増えていきます。その場合、評価がやや複雑になる傾向がありますが、プロジェクトであればプロジェクトリーダーが、兼務であれば兼務先の上司が評価を行い、主務の上司がプロジェクト先や兼務先の評価も踏まえて総合的な評価を決定するのが一般的です。
また、求められるスキルが多様化・高度化している職務をタスクとして分割し、複数人のスキルを活用して担うことで、負荷を分散しつつ職務を充足することも可能になります。最近は『管理職の罰ゲーム化』と揶揄されるほどミドルマネジメントの役割が大きくなっていますが、部長の役割を複数名で分担している事例もあります。
参考記事:「管理職は罰ゲーム」に対する処方箋とは
一方で、役割分担により管理職が増える=人件費増加となり分業に踏み切れないという声もよく聞きます。しかし、管理職の役割を細かくタスクベースに刻めば、必ずしも管理職レイヤーが担う必要がないタスクも多く出てきます。例えば、ピープルマネジメント(面談・指導・評価など)はリーダー層(非管理職の上位層)や専任の担当者(OJTリーダーや1on1担当者など)に委譲したり、壁打ち役になれるAIを活用したりして、管理職への負荷の偏りを分散することも可能です。
■従業員側のメリット
求められるスキルが具体化するため、自身がスキルアップし、成長していくための方向性や目標が明確になります。また、自身のスキルを活用できる場・機会が広がり、社内でのキャリア選択肢が多様化することにもつながります。これらを通じて、仕事やスキルアップに対する意欲が高まることが想定されます。
「スキルベース組織」の導入ステップ
──「スキルベース組織」を導入する際の一般的な流れ(ステップ)について教えてください。

「スキルベース組織」の導入に向けては、大きく以下4つのステップで整理します。
■ステップ1:活用目的や活用範囲の明確化
特に重要なのは、会社・事業が今後目指す姿を踏まえて『強化すべきスキル』を社内で丁寧に議論・特定しておくことです。議論にあたっては、まずは経営計画や事業戦略を踏まえ、将来必要となる人材の質・量(いわゆる人材ポートフォリオ)を具体化します。その上で、目指す姿(人材の質・量)に向けて埋めていくべきギャップをスキルの観点から明確化します。このギャップが『強化すべきスキル』となります。
『強化すべきスキル』が明確になれば、それをどういった手段で強化すべきかもセットで検討します。例えば、デジタルスキル強化が課題の場合、デジタルスキルを保有する人材を外部採用する、または内部で育成するなどが選択肢になってきます。『強化すべきスキル』とセットで『強化手段』を明確にしておくことで、「スキルベース組織」の導入目的がシャープになっていくイメージです。また、強化すべきスキルに応じて、スキルベースの人材マネジメントをどの範囲(職種・階層)で導入すべきかも明確にしておきましょう。
■ステップ2:スキルの棚卸・体系化
スキルの棚卸には以下の通りさまざまな方法がありますが、各社の状況や対象職種などに応じてこれらを組み合わせながら進めます。なお、いずれの手法にしても抽出したスキルを丁寧に精査・整理する作業は必要です。
・対象部署のマネジメント層が中心になって洗い出しを行う
・社内で保有スキルに関するアンケートを行い、洗い出しを行う
・人事評価のコンピテンシー項目や行動評価の項目を参照する
・外部アセスメントツールのアセスメント項目を参照する
・行政機関などが作成しているスキル一覧を活用する(経済産業省『デジタルスキル標準』など)
・生成AIを活用してドラフトを作成する
・コンサルティング会社などが保有するナレッジを活用する
・ジョブ型を導入している場合は、職務記述書のスキル要件から引用する
・ISO9001認証を受けている場合などは、力量管理表を活用する
など
ちなみに『スキルをどの程度の粒度で整理するか』は、ステップ1で明確にした活用目的・範囲に応じて、実際の使用場面を想定しながらスキルの構成や粒度を調整することが重要です。例えば、採用や配置のマッチングに活用する場合は比較的粒度が粗くても使用に耐えますが、育成に活用する場合はスキルを細分化しないと具体的なスキルアップの指針として活用しにくいケースが多いです。
・採用/配置
アサインされる業務で特に重視されるスキルに絞り、そのスキルのレベルは客観的な判断基準(アセスメントツールによる結果、経験年数、保有資格など)でシンプルに判定することが多いです(例:人事業務への採用/配置の場合、制度企画・勤怠・給与などの大まかなタスクでスキルを定義し、主担当となる業務の経験年数や実績を確認する、など)
・育成
スキルを細かく分類し、各スキルに対してレベル分けの尺度を設けます(例:上位者の指導を受けながらできる、定型処理は1人でできる、例外処理も含めて1人でできる、人に教えられるなど)。人事担当者の育成で言えば、給与業務を分解(月次の給与計算、賞与の計算、年末調整など)して細かいタスクでスキルを定義し、それぞれの習熟度を上司が判定するなどの方法があります。
■ステップ3:社内のスキル保有状況を測定・可視化
測定方法には以下の通りさまざまな方法がありますが、スキルの特性・運用負荷・コストなどに応じて現実的な方法を検討します。
・自己申告による判定(自己評価)
・上司による判定
・360度評価による判定
・会議体による判定(当該スキルの有識者で構成する技術力判定・人材育成のコミッティなど)
・外部アセスメントツールによる判定(ペーパーテスト、アセッサーによる評価など)
など
ただし、自己申告だけでスキル判定をするのは客観的な基準(資格保有の有無など)が担保できるスキルだけです。基準が担保できないスキルを自己申告する場合は、上司などの他者評価も行った上ですり合わせを行う必要があります。
また、測定を実施する前に、個別のスキル項目ごとに明確な『レベル判定の基準(評価尺度)』を準備しておくことが判定をブラさない上でのポイントです。評価尺度の作成方法にはさまざまなパターンがあります。スキルの内容に応じて以下を組み合わせながら作成するイメージです。
<評価尺度のパターン例>
(1)習熟度(指導を受けながらできる⇒1人でできる⇒人に教えられる)
(2)応用度(定型処理⇒応用処理⇒前例のない処理)
(3)スピード(1日に●件処理できる ※●が増えていく)
(4)品質(1か月にエラーが●件以下 ※●が減っていく)
(5)対応範囲(工程・業務範囲の広がりで定義)
(6)問題解決の関与度(問題点を発見~改善策を立案~実行まで対応可など)
なお、個別の判定結果については、タレントマネジメントシステムなどを活用してデータベース化し、組織的なスキルの保有状況を可視化・分析していきます。
■ステップ4:「スキルベース組織」の活用目的・範囲に合わせた関連制度の設計
具体的には、以下のような制度設計を行います。
・採用時のスキル判定のための選考手法
・社内でスキルと職務/タスクをマッチングさせるための仕組みづくり
・スキルアップのためのトレーニングコンテンツの整備
・スキルを評価/処遇するための人事制度設計
など
制度設計後、スキルベースの人材マネジメントの導入に向けて社内向けの説明会やトレーニングを実施し、円滑な導入に向けて丁寧に現場をフォローしていきます。
「スキルベース組織」導入時に注意すべきポイント
──「スキルベース組織」を導入する際に、特に注意すべきポイントや失敗しやすい落とし穴にはどのようなものがありますか?
「スキルベース組織」を導入する上で特に注意すべきポイントには、大きく以下3点があります。
(1)経営層のコミットメントを引き出すこと
「スキルベース組織」の導入は雇用・人材マネジメントのあり方を大きく変革していく取り組みであり、スキルの棚卸や可視化などは現場の巻き込みが不可欠のため大きく労力を要します。そのため、道半ばで頓挫するリスクをなくすためにも、導入前に自社としての明確な目的意識や本気で取り組む覚悟を持つことが重要になります。そこでポイントとなるのは、取り組みに対して『経営層のコミットメントを引き出すこと』です。コミットメントを引き出すためには、前述のステップ1で強調したように経営・事業上の必要性とリンクさせ、経営・事業戦略の一環としてスキルベースの人材マネジメントが必要であることを経営層に理解してもらう必要があります。
(2)アップデートの運用・体制をあらかじめ想定しておくこと
「スキルベース組織」の中核となる『スキル体系』は一度棚卸して終わりでなく、事業戦略・世間の技術動向・職場の業務運営の状況などに応じて定期的に内容の精査・アップデートが必要です。また、社内のスキル保有状況についても随時または定期に更新しないと、スキルの充足状況がリアルタイムに把握できません。これらの運用を継続的に実施しないと取り組み自体が形骸化してしまうため、導入前にあらかじめアップデートの運用方法を整備し、運用時の体制・リソースも確保しておくことが求められます。
(3)ステップバイステップで進めること
「スキルベース組織」への変革は、前述の通り労力を要する取り組みであり、世間でも試行錯誤されている状況のため参考事例となる“型”もほとんど存在しません。そのため、最初は風呂敷を広げず自社の優先度の高い目的・範囲に絞って取り組み、PDCAを回しながら段階的に活用のスコープを広げていくことが多くの企業にとって現実的な対応と言えます。
「スキルベース組織」の考え方の中で日本企業が最もなじみがあるのは『スキルマップを軸にした人材育成の取り組み』でしょう。そのため、『育成』の切り口から取り組むのが始めやすいのではないかと考えます。また、職種の切り口で言うとIT職はデジタルスキル標準などでスキルが汎用的に一覧化されており、「スキルベース組織」との相性も良いため導入しやすい領域と言えます。その他の専門職(コンサル、金融系の職種)や現業職(現場で働く運転手、倉庫業、製造現場、販売員など)もIT職同様にスキルを明確化しやすいため、『育成×専門職・現業職』などから取り組み、そこから目的・職種を広げていくアプローチが良いのではないでしょうか。
また、最終ゴールについても「スキルベース組織」に振り切った人材マネジメントを目指すのではなく、既存のメンバーシップ型やジョブ型の制度とうまくミックスさせながら、自社にあった「スキルベース組織」の在り方を模索していく姿勢が大切になると考えます。
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編集後記
「スキルベース組織」の導入により、人材不足の解消やスキル開発促進などさまざまな効果が期待できることが理解できました。しかし、まだまだメンバーシップ型の組織が多い日本国内においては導入事例も少ないため、導入には相応の検討や事前準備が必要になるはずです。目先の効果に飛びつくのではなく、明確な目的や狙いを持って導入を検討していきたいところです。

















