「指名委員会」の概要と設置目的と役割について
企業の取締役会の一部として設置される「指名委員会」。取締役や経営陣の選任や後継者計画に関する検討・推薦を行う組織であり、透明性や公正性を確保し企業の持続的成長を支援するものです。今回は、人事制度やコーポレートガバナンスに関する人事経験を幅広く持たれる清家 章文さんに、「指名委員会」の概要から近年の設置状況・目的や役割に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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清家 章文(せいけ あきふみ)/行政機関 人事スペシャリスト
大企業、ベンチャー企業、行政機関などにおいて、人事領域を中心にキャリアを形成。従業員数が1万人を超える企業から100名程度の企業など様々な規模の会社において、人事戦略、人事制度の設計・運用、要員戦略、人材配置、労務管理、ペイロール等の人事関係業務を幅広く約17年間従事。
目次
「指名委員会」とは
──「指名委員会」の概要について教えてください。
「指名委員会」とは、経営陣の選任・解任、後継者計画などの人事に関する事項の議論・決定を行う機関です。その設置目的は大きく2つあります。
(1)社外取締役の関与を強めること
(2)メンバーを絞って効率的な議論を行うこと
会社の意思決定や運営のため、取締役会、監査役会、監査等委員会の設置などの機関設計を行います。複数あるパターンの中から自社に適した機関設定を選択することになりますが、『指名委員会等設置会社(指名委員会や監査委員会、および報酬委員会を設置する組織形態のこと)』を選択している場合は、会社法の定めにより必ず指名委員会を設置する必要があります。なお、本記事ではこれを『法定の指名委員会』と言います。
一方で、『指名委員会等設置会社』を選択していない会社の場合、「指名委員会」の設置は法令上の義務ではなく、あくまで企業の選択に委ねられています。しかし、特に上場企業においてはコーポレートガバナンス・コードにより「指名委員会」の設置が求められ、実際に多くの企業が導入しているのが現状です。
この「指名委員会」は、(法定の指名委員会に関して法定された事項を除き)審議事項について議論を行った内容を取締役会に提案しますが、最終的な決定は取締役会で行います。「指名委員会」の役割や審議事項の具体例は次のようなものがあり、各会社で内容や運用方法を設定します。
・取締役の選任、解任基準の制定
・取締役候補者の決定
・社長やCEOの選任、解任
・社長やCEOの後継者計画の策定、運用
この「指名委員会」のメンバーは取締役の中から選任される必要があり、構成についても社外取締役が過半数を占めることが求められます。
・法定の指名委員会:法令により過半数は社外取締役とすることが必須
・任意の指名委員会:コーポレートガバナンス・コードによりプライム市場上場会社の場合は過半数を独立社外取締役とすることが基本とされている
なお、「指名委員会」の委員長については現状明確なルールはありませんが、社外取締役の主体的な関与や独立性・客観性と説明責任の強化の観点から、委員長は社外取締役とすることが望まれています。
コーポレートガバナンス・コード改訂における「指名委員会」の位置づけ
──2021年にコーポレートガバナンス・コード改訂がニュースになりました。これにより「指名委員会」の位置づけや内容にはどのような影響があったのでしょうか。
2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂で、上場企業には「指名委員会」の設置がより強く求められるようになりました。「指名委員会」の設置自体は2018年の改訂時から求められるようになっていますが、2021年の改訂では『任意の指名委員会・報酬委員会など』の文言が削除され、『独立した指名委員会・報酬委員会』と明記されています。また、プライム市場上場会社の場合は、「指名委員会」構成員の過半数を独立社外取締役とし、構成の独立性に関する考え方・権限・役割などを開示することが新たに求められるようになりました。
これらの改訂は、経営陣の人事が企業価値を大きく左右する重要な意思決定であることを踏まえ、さらに独立性や透明性を高めることが重要であるとの背景から行われています。上場企業が『独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合』、または『指名委員会を設置しない場合』は、その事実と設置しない理由をコーポレートガバナンス報告書により報告した上で公表する必要があります。
<合わせて読みたい>
2021年にコーポレートガバナンス・コード改訂
「指名委員会」を設置する企業が少ない理由
──「指名委員会」は、公開企業でも設置をしている企業が少ないと聞きました。その理由や背景について清家さんの考えを教えてください。
実は、「指名委員会」の設置割合はそこまで少なくありません。確かに、『法定の指名委員会』の設置率は2024年7月時点で4.9%程度と低い状況ではありますが、『任意の指名委員会』まで含めると上場会社全体では61.6%、プライム市場だけで見ると90.6%となっています。
(※)参考:株式会社東京証券取引所『東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会 の設置状況』
今から3年前の2021年7月時点の設置状況は、上場会社全体で45.9%、東証一部で66.2%であり、コーポレートガバナンス・コード改訂を背景に設置会社の数は増加の傾向にあります。また、「指名委員会」を設置していない会社でも、取締役会の構成がすでに独立社外取締役が過半数以上となっており「指名委員会」の設置が求められていない会社もありますので、全体的な設置状況としてはかなり進んできていると見受けられます。
こうした形式的な対応が進む一方で、実質的な運営状況として経営陣の指名などに対する「指名委員会」の関与度合いは会社によって濃淡があると推察されます。社長やCEOの指名や後継者計画に対して提案された内容をただ追認するなど、「指名委員会」が主導的な役割を果たせていないケースもあると考えられるからです。これらの要因には以下のようなものがあると考えています。
・社外取締役を長時間拘束できない
・知見のある社外取締役がいない
・外部者に経営陣の人事に関与されることの抵抗感
など
こうした背景を受けて「指名委員会」の実質的役割を強化するために、「指名委員会」のメンバーが社長やCEO候補者と定期的に面談をする仕組みを作ったり、「指名委員会」専任の事務局を設置したりといったケースもあります。今後の方向性としては、「指名委員会」に実質的な機能発揮が求められる可能性は高く、法令・コーポレートガバナンス・コード改訂などの動向にもより注目する必要があると考えています。
公開会社以外が「指名委員会」を設置する目的・役割
──公開会社以外がこの「指名委員会」を設置する目的や役割にはどういったものがあるのでしょうか。
現状、非上場会社については「指名委員会」の設置は求められていません(指名委員会等設置会社を除く)。その中でも非上場会社が「指名委員会」を設置する目的としては、『IPOを見越したガバナンス体制の強化』が考えられます。上場審査でも必ず確認されるポイントのため、IPOを見据える場合は設置に向けた準備を早めに行う必要があるからです。
他の可能性としては、「指名委員会」の設置により経営陣の選任プロセスの透明性を確保することで、外部ステークホルダーへの信頼を醸成することが挙げられます。特に、海外では指名委員会等設置会社がメジャーな場合があるため、海外から資金調達を行う場合には、ガバナンス体制のアピールの1つにもなり得ます。
また、「指名委員会」の設置をすることにより、外部の視点を踏まえながら後継者計画や経営陣の選定のための評価などを行うこともあります。
非上場会社であっても、経営陣の選定は重要な決定事項であることは変わりません。その選定にあたって「指名委員会」により外部の視点を踏まえながら後継者計画や経営陣の選定を行うことは、企業価値の向上や継続的な成長に寄与すると考えています。
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編集後記
2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂では、『人的資本に関する項目』が新設されました。今回のテーマにも大きな関わりがある『取締役会が備えるべきスキルと実態の公表』もその1つです。経営陣の人事に関する透明性は投資家からの信頼獲得に直結します。今後の法令・コーポレートガバナンス・コード改訂などにも注目しつつ、自社の人事に関する透明性にもより優先順位高く取り組んでいきたいものです。