「フィードフォワード」とは? 人事が注目すべき次世代フィードバック手法と実践ノウハウ
フィードバックをしてもなかなか行動変容にはつながらない、フィードバックをすることに疲れてしまった──こんな声がよく聞かれるようになる中で「フィードフォワード」という概念に注目が集まっている印象があります。
今回は、スタートアップや中小企業の組織作り・マネジメント体制構築・リーダー育成支援を行っている株式会社SKYS 代表の豊田 聡さんに、「フィードフォワード」の概要から実務における活用方法に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
豊田 聡/株式会社SKYS 代表
ゲーム会社での大規模開発マネジメント(プロデューサー)の経験の後、アジャイルコーチとしてソフトウェア開発・ITテック企業にて組織作り・人材育成を支援。株式会社SmartHRにて人材組織開発本部ダイレクターと人事管理本部ダイレクターを兼任。現在は独立し、事業ドメインは問わずスタートアップや中小企業の組織作り・マネジメント体制構築・リーダー育成を支援中。▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
「フィードフォワード」とは
──「フィードフォワード」とはどのような考え方・手法でしょうか? 『フィードバック』との違いを踏まえて教えてください。
「フィードフォワード」は、一言で言うならば『未来のアクションを決めるための対話』です。過去の出来事に対する評価ではなく、次の行動のための具体的な提案と行動を、本人が実行可能な条件(誰が/いつまでに/どの場面で/何回試す/何を測る)まで落とし込んで合意する会話のことを指します。
一方、『フィードバック』は望ましい基準と現在の状態のギャップに関する情報であり、そのギャップを埋めるために使う手法です。過去に目を向けることになりますが、過去の出来事に対する評価・コメントではなく『目標(基準)×現状×ギャップ』の明確化が揃って初めて正しいフィードバックと言えます。
この「フィードフォワード」と『フィードバック』の機能の違いを整理すると以下のようになります。
■フィードフォワード
・目的:
次のアクションの設計と仮説検証する内容の明確化(未来重視)
・必要な5要素:
①仮説文/if–then
②具体行動
③観測指標
④締切と責任
⑤見直しの場の設定
・適している場面:
非連続な成長/不確実性の高い環境/ピボットが必要な局面
・失敗例:
アクションが願望(気を付ける・意識する・頑張る・丁寧にやる)だけ/アクションの担当・回数・測定が未定義/重視するポイントの違い、など
■フィードバック
・目的:
ギャップの検知と是正(過去重視)
・必要な要素:
①基準(ゴール)
②現状の情報
③ゴールと現状のギャップ
④ギャップからゴールに近づける意思
・適している場面:
連続的な改善/堅実な成長/基準が明確な業務
・失敗しがちな例:
基準が曖昧/具体的な情報が曖昧・少ない・遅い/感想や意思で止まり行動に繋がらない、など
なぜ今「フィードフォワード」なのか
──近年、「フィードフォワード」が注目されている印象があります。『フィードバック疲れ』なる言葉を聞く機会も増えている中で、その理由をどう捉えていますか?
相手の成長を思いフィードバックをしたつもりが、相手に受け止めてもらえなかったり、時に傷つけてしまったりといったことは多々あります。また、フィードバックされる側としても自分が否定されているように感じたり、その後のフォローがなく戸惑ってしまったりといったこともよく起こります。そうしてお互いが疲弊してしまうことを『フィードバック疲れ』と呼んでいるのだと思いますが、「フィードフォワード」が注目されている理由はそれだけではないと考えています。
その理由の1つ目は、『世の中の変化速度の上昇』です。VUCAと呼ばれる不確実性が高い現代において、事業やプロダクト開発においても短サイクルな仮説→実験→学習を繰り返して変化に適応していかなければ生き残れません。当初立てていたゴールもすぐに更新が必要になる可能性が高いため、ゴールと現状のギャップを可視化してアクションを決めているうちに前提が変化してしまうリスクがあります。
理由の2つ目は、『フィードバック後の行動が生まれないリスク』です。フィードバックによりゴールと現状のギャップを理解できたとしても、明日からどうすれば良いかまでは会話されないケースも多く、結果として次の一歩が生まれないことが多々あります。次の一歩を踏み出すためには心理的安全性が必要だと言われますが、それだけでは不十分。どんな次の一歩を踏み出せば良いかの具体的な設計がなければ行動や学習はなかなか進みません。
前述したとおり、過去の延長でギャップを埋めるフィードバックは『堅実な連続成長』に効く一方、非連続な成長やピボットが必要な局面では次の一歩を設計する=「フィードフォワード」で学習を加速させる必要があります。何を・どの条件で試すかまで決める運用が、事業のディスカバリー密度と成功確率を上げるのです。


◼︎重要なポイント
市場の変化速度が上がるほど、フィードフォワードで学習を加速させる必要があります。
過去の延長でズレを減らす=フィードバックは「堅実な連続成長」に効く一方、非連続な成長やピボットが要る局面では、何を・どの条件で試すか、まで決める運用が、事業のディスカバリーの密度と成功確率を上げます。
両方を使い分け、定期的にフィードフォワードで未来を設計する対話機会を持つことで、組織の適応力と成長速度が向上します。
現場で起こりがちな『フィードバックの限界』
──実際の現場ではフィードバックだけに偏ることでどのような課題が起こっているか詳しく教えてください。
前提として、すべての組織にフィードフォワードが必要なわけではありません。業務内容が比較的安定しており、行動や成果の再現性が高い組織では、過去の出来事を振り返って改善点を特定する「フィードバック」中心の運用で十分に機能します。たとえば、手順が明確で、成果に至るまでのプロセスが標準化されている職務領域では、過去に立ち返ることで改善が比較的スムーズに進みます。
一方で、事業開発や市場変化の影響を強く受ける組織、または「何を正解とするか」が常に揺れ動く環境では、過去に基づく評価や反省だけでは行動の更新が追いつきにくくなります。そうした組織では「これから何に取り組むか」を起点にしたフィードフォワードが効果を発揮します。
こうした環境でフィードバックに偏り続けると、いくつかの課題が顕在化しやすくなります。ひとつは「後ろ向き化」です。会話がどうしても過去の出来事の“採点”に寄ってしまい、できなかった理由や足りなかった点を説明することに時間が使われてしまう。すると、本人は改善すべき点を理解しているのに、次の行動に変換されないまま停滞が続きます。
また、「スピード感の欠如」も起こります。フィードバックは多くの場合、期末・四半期末などの区切りで行われるため、行動変容のサイクルが数カ月単位になります。市場環境が変わり続ける前提では、このペースでは対応が追いつきません。
加えて、改善策が「マインドに寄りすぎる」という問題も起きやすくなります。「もっと主体的に」「質を上げよう」といった抽象表現が中心になり、「具体的に何を、どうやるか」の合意が曖昧なまま終わるケースです。その結果、フィードバックを受けた側は「理解はできたが、次に何をすればいいかは不明」の状態になり、行動が止まってしまいます。
ここで必要になるのが、未来に向けた合意形成です。フィードフォワードの5つの要素(①仮説文/if–then ②具体行動 ③観測指標 ④締切と責任 ⑤見直しの場の設定)をその場で言語化し、双方で握っておくことが重要です。会話が前向きに終わったとしても、アクションが明確でなければ成果は「本人の勘と経験」に依存し続けます。小さな曖昧さの積み重なりが「努力はしているのに変わらない」という感覚につながり、いわゆる“フィードバック疲れ”を生みます。
だからこそ、特に変化の多い組織では、未来ベースでの具体的な合意を設計し、行動と検証のサイクルを短く回す必要があります。フィードフォワードは、単にポジティブに終えるための会話術ではなく、「変化の速い環境で成果を生み続けるための、行動更新の仕組み」として機能します。
「フィードフォワード」を導入するメリット
──「フィードフォワード」を導入することで、部下・上司・組織それぞれにどのようなメリットが生まれるでしょうか?
「フィードフォワード」では、会話の前提が最初から設計の5要素(①仮説文/if–then ②具体行動 ③観測指標 ④締切と責任 ⑤見直しの場の設定)になっています。そのため、議論が自然に行動を明確化する方向へ流れます。誰が・いつ・どの場面で・何回やり、何が動けば成功かを言葉にして会議を終わることで、次の一歩が具体になり、努力が“宿題化”せずに実験として機能する点はメリットの1つです。
また、『必要以上に過去を掘り下げない』ことによるメリットも大きいと考えています。「フィードフォワード」では振り返りを短くして未来の設計に時間配分を寄せるため、自己防衛や後ろ向きの感情に引っぱられにくいからです。ここで重要になるのが、組織として「どこに向かうのか」という事業戦略や今期の重点テーマが、メンバー間で共有されていることです。共通の方向性がないまま未来だけを語ってしまうと、各自が描くゴールがずれ、結局は行動もバラバラになってしまいます。
フィードバックだけに頼っていたころは、会議の場が過去の評価の言い合いに終始してしまい、組織としての“これから”に向けた共通理解が育ちにくい状態でした。「フィードフォワード」を導入することで会議は『共同の設計作業の場』へと意識が切り替わり、「戦略に照らすと次に何をすべきか」を起点に話が組み立てられます。結果として、メンバーの経験差や言語化の得手不得手に関わらず、同じ“型”で次の一歩をつくることができるため、行動の再現性と公平性が担保され、心理的安全性も高まりやすくなります。
組織全体で見れば、「フィードフォワード」を終えた直後から動ける即時性、次の打ち手までのリードタイム短縮、試行の密度向上が揃うことで、『学習サイクルの加速』が生まれます。さらに、未来にリソースを配分する運用は、個々の判断が「何のために行うのか」という戦略的文脈と結びつくため、前向きな推進力を保ちやすい。結果として、組織の中に「動きながら学ぶ」空気感が生まれ、それ自体が組織の競争力となります。
「フィードフォワード」導入の落とし穴と注意点
──ここまでの話では「フィードフォワード」の良い点が目立っていますが、導入・実践する際に起こりがちな失敗や注意点にはどのようなものがあるでしょうか。
当然ながら「フィードフォワード」も万能ではありません。実施方法や内容によってはその効果を十分に発揮できないだけでなく、マイナスの影響を及ぼす可能性もあります。具体的には、以下のような失敗が起こる可能性があります。
(1)願望の箇条書き
次のアクションが願望(気をつけます・意識します・頑張ります・丁寧にやります)に留まってしまい、具体策や検証条件がない状態のまま進めてしまうと、狙った行動が取れなくなってしまいます。
(2)過剰な先回り
次の一歩が具体的になることが「フィードフォワード」の良い点ではありますが、上司や先輩があまりに細かく手順を決めきってしまうと、本人の自律性・自発性の妨げとなってしまいます。
(3)責務の曖昧化
次のアクションを誰が担当するのか、それはいつまでに実施するのか(期限)、どんな基準を満たせば完了となるのか、などが未定義のまま物事を進めてしまうと、行動をしたもののそれが正しいのかどうなのかが判断できなくなってしまいます。
(4)ふりかえり検証しないまま放置
次のアクションを実施した後の測定・振り返り方法について事前に設定しておかないと、ただただ行動だけが惰性で行われてしまい成果につながりません。
(5)褒めだけで終わる
「フィードフォワード」による心理的安全性の向上などを重視しポジティブに寄せるあまり、それ以外の行動や基準などの設計が薄くなるケースがあります。
上記のような失敗をしないためには、「フィードフォワード」に必要な5要素(①仮説/if–then ②具体行動 ③観測指標 ④締切と責任 ⑤見直しの場)をきちんと設計し言語化しておく必要があります。そうしなければ、行動は“各自の解釈”に委ねられてしまうからです。以下に『5要素のチェックリスト』を用意しましたので、こちらを活用してみてください。なお、(2)で上げたような過剰な先回りを防ぐためには、この5要素の設計の“中身”は本人に考えてもらうようにすると良いです。内容を確認し、抜けに気づいたら『◯◯は考慮されている?』などの質問をすることで、当事者が自分の仮説として設計できる余白を確保することが重要です。

実務での「フィードフォワード」のやり方
──実際に現場で「フィードフォワード」を行う際、どのようなステップで実施すると効果的でしょうか?
個人とは1on1などを通じて『次の一歩』を設計し、チームとは会議の後半を『未来の設計をする時間』にして共通の実験計画を作ります。どちらも「フィードフォワード」に必要な5要素(①仮説/if–then ②具体行動 ③観測指標 ④締切と責任 ⑤見直しの場)でサイクルを回す形には変わりがないため、この型は時間軸が違っても適応可能です。
時間軸による運用の違いについて、短距離・中距離・長距離の3つの観点から説明します。
■短距離(1~2週間)
5つの要素を1on1やチーム会議の“その場”で決めて即実行します。
■中距離(四半期)
四半期のマイルストーンを定め、各月・隔週のレビューで5つの要素を具体化します。
■長距離(大きな変革や1~2年のキャリア)
まずゴール(どんな価値で誰に貢献するか)とマイルストーン(四半期ごとのアウトプット仮説)を言語化し、各マイルストーンのレビューで次のマイルストーンの内容の5要素を決めます
どの時間軸でも、『成功の判断基準』と『確認の機会(いつ・どこで見直すか)』を決めることは忘れずに行いましょう。また、仮説はif–thenで短く設定し、実施する人・対象・回数・締切・観測する指標・次回の確認機会を決め、その場で合意します。その際、『仮説が外れたときの代替案』まで用意できているとなお良しです。
<短距離運用の例>
・営業……プレゼンの導入順を入れ替えて3件試す。
・開発……観測項目を増やし、検出の閾値を下げる(上げる)。
・採用……メッセージ案を複数作り、返信率と一次通過率で比べる。
小さく、速く、回す──これだけでチームの学習速度が上がります。
全社への落とし込みや定着させるコツとしては、まずは小さく始めることです。 チームや特定の課など(8人以下)ではじめて、事例を作ります。
次はそれを組織のOSに反映します。小さな会社であれば経営会議に、大きめの組織であれば本部や部の定例会議での意思決定をこのスタイルにします。
そうすることで、個人レベルまで浸透しやすくなります。
会議が変わると日々の会話が変わり、やがて個人の仕事の段取りまでじわりと揃っていきます。重い制度化よりも、まずは現場の変化に合わせて「自然に浸透する導線」を用意することが有効です。
「フィードフォワード」活用事例
──実際に「フィードフォワード」を導入している企業やプロジェクトの事例について、豊田さんが関わったものの中から可能な範囲で教えてください。
上記でご紹介した異なる時間軸(短距離・長距離)のものを1つずつご紹介します。
◼️チームの振り返りでの活用(短距離)
あるチームでは、週次ミーティングの最後に『次週チームで試す改善アクション』を1つだけ選び、それを5つの要素(①仮説/if–then ②具体行動 ③観測指標 ④締切と責任 ⑤見直しの場)に落とし込み合意します。その翌日以降の朝会では、実行に対する進捗や、進めて見えてきたことへの小さな修正を手短に話し、前に進めます。次回の週次ミーティングでは、行動の結果から得られた『学び』が共有され、さらに翌週の手がかりにしていました。週に1回の学びで、1年で約50回の学びが実現したことになります。
このチームで「フィードフォワード」が回っているかどうかは、定例の議事メモを見ると一目でわかります。5要素のメモが残っていることで、次回の振り返りも必要以上に掘り下げてネガティブになることなく、次の未来に向けた会話へ自然に移行できます。また、年間単位など長期での振り返りの材料にもなっています。
◼️タレント育成のための活用(長距離)
ゴールを『2年後にBtoB SaaSのプロダクトマーケ領域で、主要プロダクトのポジショニングとローンチを主導できるシニア人材になっている』、マイルストーンを『Q2までにA案件のリーダーができる/Q3までに登壇』などと置き、各マイルストーンのレビューで5要素を決めて行動しました。
<Q1の取り組み(5要素)>
①仮説(if–then)
もし週1回のアウトプット(社内LT/事例紹介記事リリース)を継続しユースケース別の示唆を発信できれば、指名相談が月3件→月7件に増え、案件関与機会が拡大する。
②具体行動
・毎週金曜:社内向けにLTで学びを共有する
・月1回:社外コミュニティ勉強会で事例紹介、事例記事を1本公開
③観測指標と成功閾値
・指名相談件数 ≥ 7件/月
・記事資料DL ≥ 150件/月、社内横断コラボ案件 ≥ 2件/四半期
④締切と責任
本人。コンテンツは毎週木曜に書きレビューを依頼する(レビュー役は上司)
⑤見直しの場とタイミング
毎月末に上司とレビュー。4半期の最終週に振り返りを実施し、次の四半期の仮説を設計して継続する。
■合わせて読みたい「組織内コミュニケーション」関連記事
>>>その1on1ミーティング、本当に効果がありますか?効果的な運用と事例紹介
>>>メンター制度を導入するべき組織と、その導入方法
>>>人材育成術としての「メンタリング」。メンター・メンティー共に大きく成長する方法・手順
>>>「リバースメンタリング」とは。“立場逆転”で組織の硬直化を防ぎマネジメント力を高める方法。
>>>「インターナルコミュニケーション」で、社員と会社を繋ぎ、事業成長を加速させる方法
>>>「エルダー制度」により新入社員・既存社員の双方に良い効果をもたらす方法
>>>「アサーション」の浸透で組織内コミュニケーションを目指すには
>>>「ヴァルネラビリティ」を発揮して“弱さ”をマネジメントに活かす方法とは
>>>「アシミレーション」で部下の本音を引き出し、組織内コミュニケーションを円滑にする方法
>>>「ピアコーチング」で横のつながりを強め、組織パフォーマンスに結びつけていく方法とは
>>>「アサーティブコミュニケーション」の重要性と実践に向けた具体的な手法を学ぶ
>>>「社外メンター」を活用して従業員・組織の双方に好影響を与える方法とは
>>>「ピアフィードバック」が効果的な組織状況や場面を解説
>>>「職場コミュニケーション」の課題を正しく捉え、組織の活性化につなぐためには
>>>「コンフリクトマネジメント」で対立や衝突を組織力に変えていく方法
>>>「カスケードダウン」で全社員が同じ目標に向かえるようにする方法
編集後記
過去にフォーカスするフィードバックに対し、未来にフォーカスし次の具体的な一歩を促す「フィードフォワード」。どちらが良いという二元論ではなく、目的に合わせて活用すべきものであることが豊田さんの話からも理解できました。未来志向の人材マネジメントが不足している組織にこそ導入を検討してもらいたいものです。



















