「組織のサイロ化」は避けられない? その原因と解消方法について解説
組織内の部門やシステム・データが孤立し、情報が連携されていない状態を示す言葉である“サイロ化”。中でも、部門や部署間での連携が取れていない「組織のサイロ化」による問題に頭を悩ませている企業は少なくない印象です。
今回は、人事関連施策の企画と開発・実行支援を得意とする玉澤 康至さんに、「組織のサイロ化」の原因から対処方法・事例に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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玉澤 康至/法人代表
銀行・ベンチャー企業・商社にて営業・IT企画や業務改革PJTを経験しチェンジマネジメントの重要性を実感。2006年オリンパスソフトウェアテクノロジーに入社し、人事企画・組織人材開発に従事。2017年オリンパスへ吸収合併後、HRの組織人材開発を担当。オリンパスグループの風土改革を推進した。現在は独立し、さまざまな企業でHR施策導入や人事システム導入などの人事関連施策の企画と開発・実行を支援している。
目次
「組織のサイロ化」とは
──「組織のサイロ化」とはどのような状態を指すのでしょうか? 実際に起こりやすい場面や状況と合わせて教えてください。
「組織のサイロ化」とは、部門や部署が独立した“縦割り組織”として機能し、他部門との情報共有や協働が困難になる状態を指す言葉です。行動科学の観点では組織内に『孤立した相互作用と知識のポケット』が形成される現象として定義されています。具体的には、人的・部門的な断絶(コミュニケーション不足、情報共有への抵抗、部門独自の目標設定など)が発生します。
類似のものに『システムのサイロ化』がありますが、こちらは技術的な断絶(データ連携不能、異なるフォーマット、相互運用性欠如など)が主であり、「組織のサイロ化」が『システムのサイロ化』を生み出す根本原因となる構造があります。この「組織のサイロ化」問題は、主に以下のような転換点・フェーズにおいて顕著に現れます。
・組織規模の拡大(小規模チームから中規模組織への成長時に管理層が必要となり、大規模組織では複雑性により自然にサイロが発生)
・成長段階の移行期(スタートアップから規模拡大期、フラット構造から機能別部門への移行など)
・市場環境の変化(不確実性の高い環境、デジタル変革での統合データフロー必須など)
「組織のサイロ化」が生じる原因
──「組織のサイロ化」はどのような要因から生じることが多いのでしょうか? 特にサイロ化が進みやすい組織の特徴やパターンがあれば合わせて教えてください。
「組織のサイロ化」の根本原因は複数の次元にわたります。組織構造要因としては、機能別組織構造が自然に部門境界を生み出し、垂直的階層構造が水平的コミュニケーションを制限してしまう点が挙げられます。しかし、より深刻なのは『内部視点の盲点』と『帰属バイアス』です。組織内部にいると自部門の正当性に固執し、問題の原因を他部門に帰属させる傾向が強まります。ダニエル・キムの成功循環モデル(※1)が各部門内でのみ機能し、組織全体では機能不全に陥る現象が典型的です。
※1:ダニエル・キムの成功循環モデルとは、組織が持続的に成果を上げるために『関係の質→思考の質→行動の質→結果の質』の4要素が好循環し合うプロセスを示すものです。目先の『結果』を求めるのではなく、まずメンバー間の『関係の質』を高めることでより良い『思考の質』や『行動の質』が生まれ、それが『結果の質』の向上につながり、さらに『関係の質』を向上させるという好循環を生み出すことを強調しています。
また、見過ごされがちな重要要因には『制度・システム要因によるサイロ増長』があります。KPIマネジメントが部門最適に偏重し、MBO(目標管理制度)設定が部門間競争を助長し、予算制度が資源争奪戦を生み出してしまうなどはよくある例です。結果、事業部や営業部門は局所最適指標に集中せざるを得ず、全体最適での思考が困難になります。
なお、サイロ化しやすい組織特徴として、大企業・急成長企業(コミュニケーションシステムの発展が拡大に追いつかない)・官僚的組織が挙げられます。業界別では、医療(専門分化、規制要件)・金融(高い規制コンプライアンス)・製造業(複雑なサプライチェーン)が特にサイロ化しやすい傾向にあります。
「組織のサイロ化」がもたらすデメリット
──「組織のサイロ化」により、どのようなデメリットや悪影響が発生することが多いでしょうか?
「組織のサイロ化」による最大の問題は、バリューチェーンの分断により企業活動の連鎖が断絶することです。具体的には以下5つの重要な連鎖が機能しなくなります。

これらの連鎖断絶により、無駄な投資の増加、顧客サービスの低下、重複業務の発生が常態化し、顧客への価値提供が適正な利益で維持できなくなることが最大の経営リスクとなります。
人事・組織文化への悪影響としては、従業員は歯車的な感覚に陥り、無駄な仕事の無意味さ、非効率な業務、顧客が見えない状況などから深刻な無力感を抱きます。結果として離職率が大幅に増加し、優秀な人材の流出が加速します。
さらに、「組織のサイロ化」によって発生した問題を解決するため多数のプロジェクトが立ち上がりますが、それらのプロジェクト自体も連鎖する必要があるにもかかわらず、またしてもサイロ化してしまう悪循環が生まれます。この根本的解決には、『連鎖の復活を意識した統合的アプローチ』が必要不可欠です。
「組織のサイロ化」を解消するための対処法
──「組織のサイロ化」を解消する際、まずどのような観点で原因を整理・把握すべきでしょうか?
「組織のサイロ化」を解消する上では、原因分析より前に『どんな問題が現実に起きているか』の現状把握が最重要です。サイロ化は組織成長の必然現象であり、完全回避は不可能という前提で、事業への具体的インパクトを定量的に把握することから始めるべきです。
現状把握をする際には、まず経営層に対して『サイロ化による事業インパクトの可視化』の必要性を説き、協力を取り付ける必要があります。ここでのポイントは、『人事施策』ではなく『事業課題の解決』として位置づけることです。
次に、各部門長への個別ヒアリングを実施します。質問は『他部門への不満』ではなく、『御部門が事業目標を達成する上で、どこに時間やコストがかかっているか』『お客様からのフィードバックで気になっていることは何か』といった部門長自身の関心事から入ります。すると自然に『他部門との連携がうまくいっていない具体例』が出てきます。
並行して、現場従業員からも情報を集めます。エンゲージメントサーベイの自由記述欄、1on1の記録、退職者インタビューなど、既存の人事データの中にサイロ化の兆候は必ず潜んでいるものです。『部門間の調整に時間がかかる』『同じような仕事を複数の部門がやっている』『お客様の声が届かない』といったキーワードに注目します。
ここで特に重要なのが『お客様の声』です。サイロ化の問題は、実は社内より先にお客様が気づいていることが多いためです。『問い合わせ先がたらい回しにされた』『営業と技術で言っていることが違う』『納期の連絡が部門ごとにバラバラ』といったお客様の声を集めると、サイロ化による事業インパクトが最も鮮明に浮かび上がります。この声を経営層や部門長に共有することが、問題の深刻さを認識させる上で非常に効果的です。
また、人事だけで進めないことも極めて重要です。人事単独で動くと、どうしても『マネジャーが悪い』『スキルがない』といった人の問題に矮小化され、研修で解決しようという方向に流れがちだからです。これではダニエル・キムの成功循環モデルのバッドサイクルに陥ってしまいます。
それを避けるためには、IT・総務・経営企画・調達・ロジスティクスなど、横串で会社全体を見ている部門と協働することを強く推奨します。これらの部門は日常的に複数部門とやり取りしており、組織の構造的な問題点を肌で感じています。彼らと協力して情報を集めることで、『人の問題』ではなく『仕組みの問題』として課題が浮き彫りになり、より本質的な解決策につながります。
さらに、定量データとしてプロジェクトの納期遅延率、部門間調整会議の時間、システム・ツールの重複数、クレーム処理にかかる時間などを収集します。ここで重要なのは、『遅延が何件』という数字だけでなく、『それによる機会損失がいくらか』『お客様が何社離れたか』といった事業インパクトまで追うことです。『このままいくと危ない』というリスクを売上減少額・機会損失・顧客離反率などの数字で可視化し、顧客の生の声から問題の深刻度を把握し、重複投資や無駄なシステム導入などの無駄コストを定量化します。
──現状を定量的に把握できた後、どのようなアプローチや施策でサイロ化を解消していけると良いでしょうか?
現状把握でさまざまな無駄や部分最適などが明らかになったら、どこから解消していくべきかの優先順位をつけましょう。ここでの判断基準は、『どのボタンを押せば事業成果に直結するか』です。すべての問題に同時アプローチすると資源が分散し、効果が薄れてしまいます。事業への影響度と改善の実現可能性を軸にマトリクス分析を行い、最も投資対効果の高い領域を特定することが重要です。
解決アプローチでは、現実直視からスタートし、ADKAR(※2)などのチェンジマネジメント手法を活用します。認識(問題の深刻さとコストの共有)、欲求(変革への動機創出)、知識(解決策の理解)、能力(実行力の獲得)、強化(継続的改善)の各段階で組織全体の変革を推進します。
※2:ADKARとは、変革を成功に導くために個人が達成する必要のある5つの要素、認知(Awareness)、欲求(Desire)、知識(Knowledge)、能力(Ability)、定着(Reinforcement)の頭字語です。
ただし、実際の変革推進では、経営層や事業部責任者との合意形成が最大の壁となります。特に、サイロ化が進んだ組織では各部門が『自分たちは正しい』と考えているため、いきなり解決策を提示しても抵抗されるだけです。
最初にすべきは、現状をありありと示すデータを集めることです。抽象的な危機感ではなく、具体的な数字で現実を突きつける必要があります。具体的には以下のようなデータです。
・部門間調整に年間○○時間が費やされている
・プロジェクトの納期遅延により機会損失が年間○億円発生している
・顧客からのクレーム処理時間が平均○日かかり、そのうち○割が部門間のたらい回しによるものである
・重複しているシステムの維持コストが年間○千万円もかかっている
など
さらに、『このままいくとどうなるか』のインパクトある仮説を示します。具体的には、以下のような形で経営層や部門長が無視できない未来予測を提示する形です。
・顧客への価値提供を一貫したものにする
・部門間の情報連携を強化する
・重複投資を削減し、全社最適の仕組みを作る
など
このデータと仮説を持って経営層と対話し、『このままではダメだ』という共通認識を持ちます。次に、部門長にも同じように示します。ここでのポイントは、説得するのではなくデータと仮説によって『確かに、何かしないといけない』という合意を自然に引き出すことです。
危機感が共有されたら、次は『問題はどこで発生していて、何が原因なのか』『どこが断絶しているのか』の仮説を立てます。ここで絶対に避けなければならないのは、部門視点で問題を語ることです。
『営業が悪い』『開発が悪い』という議論になると、対立が深まるだけだからです。そこで、顧客視点と経営視点から問題を捉え直します。具体的には、経営層と部門長が参加するワークショップを開催し、顧客視点からの不満・不安を可視化します。『お客様がこの商品を知ってから使い続けるまでの各段階で何が起きているか』『その時、各部門は何をしているか』『どこで価値の連鎖が断絶しているか』を可視化するのです。
すると、各部門が真面目に仕事をしているにもかかわらず、お客様視点では一貫性がない、という構造的問題が浮き彫りになります。これは誰の責任でもなく仕組みの問題だという認識が共有されると、部門長同士の対立ではなく協働のモードに切り替わります。
問題が特定できたからといって、すぐに解決策を出してはいけません。ここで焦ると、また部分最適の施策が乱立してしまいます。まずは『どの方向に向かうべきか』の合意を取ります。具体的には、以下のような方向性です。
・顧客への価値提供を一貫したものにする
・ 部門間の情報連携を強化する
・ 重複投資を削減し、全社最適の仕組みを作る
など
この段階では、具体的な施策ではなく『何を目指すか』の合意に集中します。方向性が合意されたら、具体的な施策の優先順位を決めます。判断基準は、前述の通り『事業への影響度』と『実現可能性』です。すべての問題に同時に取り組むと資源が分散し、効果が出ないからです。
その後、優先度の高い領域について部門横断のプロジェクトチームを立ち上げます。ここで重要なのは、各プロジェクト間の連携です。「組織のサイロ化」を解消するためのプロジェクト自体がサイロ化してしまうことを防ぐため、プロジェクト横断の定例会議を設置し、情報共有と調整を継続的に行います。
このプロセス全体を通じて、人事は「調整役・触媒・発信役」として機能します。各部門の言い分を理解し、翻訳し、つなぐ。そして、経営層と現場の橋渡しをする。地味ですが、段階を踏んで合意を積み重ねていくことが、最も確実な変革推進の方法だと確信しています。
ちなみに、今回ご紹介した中でも最も効果的な施策は『顧客中心の対話ワークショップ』です。顧客ジャーニーマッピング、課題解決セッション、ペルソナ開発を通じて部門を超えた共通の顧客理解を構築し、『顧客価値創造』という共通目的で部門間対立を解消します。ここで重要なのは、『各プロジェクトとの連携』と『全社へ同じ情報共有を行うこと』です。「組織のサイロ化」解消のための複数プロジェクト自体がサイロ化しないよう、統合的なガバナンスと定期的な情報共有の仕組みを構築することが成功の鍵となります。

「組織のサイロ化」を解消した事例
──玉澤さんがこれまでに経験された「組織のサイロ化」解消事例について、その原因や背景、どのような施策を実施してどんな効果が得られたのかなどを可能な範囲で教えてください。
大手・中堅の2社において「組織のサイロ化」により深刻な事業インパクトが発生していた事例をご紹介します。
■大手製造企業での実践事例
この企業では、商品開発の遅延による機会損失、クレーム処理の遅延、工場と開発部門の認識ずれによる品質低下、各部門による多重システム開発など、まさにバリューチェーンの分断による問題が顕在化していました。最も深刻だったのは、部門を超えた対話の場がほとんどなく、現場同士のコミュニケーションが皆無に等しい状況だったことです。
解決アプローチとして、エンゲージメント向上から働き方改革プロジェクトを立ち上げ、アンバサダー制度を活用しました。現場で起きている問題を部門を超えて共有し、工場と開発のワークショップを皮切りに、さまざまな部門間でのワークショップを継続開催しました。各部門の取り組みを全社で共有し、対話の場を段階的に増やすことで、サイロ化による連鎖断絶の復活を図りました。
その結果、部門間のワークショップや対話の場が合計50以上も立ち上がり、さらにR&D部門の1on1ミーティングの実施率が75%を超えるなど、対話の場が各所で増えていきました。その中で『働きやすくなった』『働きがいのある仕事だと感じるようになった』などの声が挙がるなど、現場レベルでも変化を感じられるまでになりました。
■中堅商社での実践事例
この企業では、「組織のサイロ化」による別の典型的な問題が発生していました。各部門が独自判断でシステム構築を進めた結果、多数のシステムが乱立し、投資効率の著しい悪化と運用コストの増大を招いていたのです。その根本原因は『投資のプロセスと基準の不明確さ』にありました。
解決アプローチとして、投資プロセスの明確化と投資会議によるIT知識共有を実施しました。全社的な投資ガバナンスを確立し、部門を超えたIT知識の共有により重複投資を防止し、投資の適正化を実現した形です。
こうした投資プロセスの明確化により、新規システム投資が年間で約30%削減され、重複していたシステムの統廃合も進みました。また、その後2年間ではシステム関連の運用コストが約25%削減し、その予算を顧客接点の強化に再配分することにも成功。IT投資会議を通じて部門長同士の対話も増え、他の領域でも協働プロジェクトが自然発生的に生まれるようになりました。
これらの実践から確信するのは、『サイロ化にはきれいな解決策は存在しない』ということです。組織成長の必然現象として受け入れ、具体的な事業インパクトを把握した上で、継続的な対話の場づくりと適切なガバナンス設計を組み合わせることが最も効果的です。
理想的には従業員全員が同じ景色を見ることができれば良いのですが、現実的には非常に困難です。私が実施してきた取り組みもまだ始まりにすぎません。
結局のところ、サイロ化で起きる問題解決は地道にさまざまな対話の場で情報共有しながら、会社の楽しい未来や顧客の幸せを願って、そのためにチームワークで行動していくことが最も確実な解決方法ではないかと考えています。
制度・システムがサイロ化を増長する構造的矛盾を認識しつつ、人と人のつながりによってそれを乗り越える継続的なアプローチこそが、持続可能なサイロ解消の道筋だと確信しています。
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編集後記
『サイロ化は組織成長の必然現象』という玉澤さんの言葉が印象的でした。必要だと判断して導入した組織体制や制度・システムが、結果的に「組織のサイロ化」を招いてしまう。ここを事前に認識しておけるだけでも、この問題への向き合い方が大きく変わってくるのではないでしょうか。


















