【イベントレポート】人事としての全体最適・個別最適のバランスと判断軸/CORNER DAY Vol.23
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制度を整えれば整えるほど、現場との距離を感じる。一方で、個別対応を増やせば、組織としての一貫性が揺らぐ。事業の多角化、専門職の高度化、働き方の多様化など、企業環境が変化する中で、「全体最適」と「個別最適」は人事が日常的に直面する意思決定の葛藤です。
2026年2月に開催されたCORNER DAY Vol.23では、『全体最適と個別最適のバランスを、人事は何を持って判断するのか?』をテーマに、人事責任者・マネージャークラスの参加者が以下の4つの問いについて意見を交わしました。
<問い>
(1)「個別最適」にした判断とは何だったのか
(2)判断の決め手と諦めたこと
(3)その判断は成功だったのか。副作用はあったか
(4)人事として譲らない全体最適の軸
参加企業は、急成長スタートアップから事業部制を持つ中堅企業、数千名規模の企業まで多岐にわたり、組織フェーズによって論点の現れ方が異なる点も特徴的でした。
本レポートでは、議論のハイライトを整理して紹介します。
目次
「個別最適」にした判断とは何だったのか
最初に共有されたのは、各社が経験してきた「個別最適の判断」事例です。議論は大きく3つの領域に分けられます。
<個別最適が選ばれた主な領域>
(1)事業フェーズ差への対応
(2)専門職・職種差への対応
(3)個人事情・人材維持への対応
(1)事業フェーズ差への対応
複数事業を持つ企業では、事業ごとの成長段階の違いが大きなテーマとなっていました。その結果、中央人事が制度設計を担い、事業側やHRBPが課題に応じて活用方法を変えるという制度と運用の分離が実践されていました。
・制度設計は中央で一元管理
・活用方法はHRBPや事業部に委ねる
・人事は“武器を用意する側”、現場は“使い方を決める側”
(2)専門職・職種差への対応
専門職を多く抱える企業では、評価制度や報酬設計が主な議題となりました。
・同一グレード内での実力差
・市場価値と報酬のギャップ
・キャリアの成長イメージが描けず、停滞感が生まれる
これらを背景に、職種別の細分化に踏み切った企業の事例も共有されました。こうした判断がどのような結果をもたらしたのかについては、後半の議論でも触れられています。
(3)個別事情への対応
個別事情に応じた判断の例として、以下のようなケースが挙がりました。
・転居に伴う特別な働き方の許可
・特定人材の雇用形態変更
・出社促進のための独自施策
当初は「この人だけ」の想定で始めた例外も、組織が拡大するにつれて同様のケースが増えていきます。こうした例外対応が各社でどのように判断されてきたかが共有されました。
判断の決め手と諦めたこと
続いて議論は、「なぜ個別最適の判断を選んだのか」という意思決定の背景へと移りました。多くの参加者が共通して挙げたのは、次の3点です。
<個別最適を選んだ決め手>
・事業スピードを止めないため
・優秀人材の離脱リスクが現実的だったため
・現場の解像度(課題)を優先したため(課題の解像度が中央人事より現場の方が高かった)
事業や職種が増えるほど、中央人事がすべてを把握し、コントロールすることは難しくなります。そのため、制度設計を中央で行いながら、判断の一部を現場へ委ねることでスピードを緩めないという考え方が共有されました。
一方で、個別最適を選ぶことによって、各社が「諦めたこと」はなんだったのでしょうか。
<あえて諦めたこと>
・制度の完全な整合性
・全社一律の公平性
・人事主導による一元的な設計・統制
特に印象的だったのは、「人事がすべてを設計しない」という発想と、「制度は作ったら長く使うもの」ではなく、更新され続ける前提で設計するという考え方です。人事は答えを作る存在ではなく、判断基準を示す存在へと変化しているという認識が共有されていました。
その判断は成功だったのか。副作用はあったのか
ここまで共有された事例を踏まえ、議論は「その判断は結果としてどうだったのか」という振り返りへと移りました。
<得られた成果>
・現場の意思決定スピード向上
・人材の定着
・施策への納得感向上
・事業側の主体性強化
<生じた副作用>
・前例ができたことによる制度の揺らぎ
・不公平感の発生
・説明コストの増大
・管理の複雑化
「判断より後処理が難しい」という声には共感が集まっていました。
個別最適を導入した瞬間は合理的でも、組織が拡大すると同様のケースは必ず発生します。ある参加者は「その時は正しい判断だった。でも1年後の組織では別の意味を持ってしまった」というエピソードを共有し、個別最適の難しさは時間軸の中で(判断の)評価が変わる点にあると確認できました。
また、議論を通じて浮かび上がったのは、意思決定そのものよりも「合意形成」と「説明」の重要性です。
・なぜその例外を認めたのか
・なぜ今回は認めないのか
・誰が判断基準を持つのか
・どこまで拡張可能なのか
個別の判断が発生するたびに説明や線引きが必要になり、人事として負荷がかかる部分ですが、意思決定の透明性が担保されなければ、組織不信に転じる可能性があります。その危機感から組織に意味づけを行うプロセスを丁寧に行うことの大切さが共有されました。
人事として譲らない「全体最適の軸」
ここまでの話を受けて、何があれば個別最適を許容できるのか。最後の問いでは、「どんな状況でも譲らない軸」について議論しました。参加者が挙げた“譲らない軸”は以下に整理できます。
<全体最適の軸>
・組織文化・価値観(PurposeやValueなど)
・評価基準の透明性
・判断基準の一貫性
・説明可能性
・長期的な組織競争力
ある企業では、一度外部に転職した人材が“組織文化”を理由に戻ってきたという事例を紹介し、制度や報酬だけではなく、「その会社らしさや文化」が長期的には競争優位になり得ることを示しました。
全体最適とは、すべてを揃えることではなく、「何を守るのか」を明確にすること。その基準があるからこそ、個別最適は組織の意思決定として成立するという結論に至りました。
参加者の声
議論後の感想共有では、全体最適と個別最適の判断の難しさとともに、人事が持つべき姿勢についての再認識が語られました。一部をご紹介します。
『各社の議論を通じて、企業文化が競争優位につながることを改めて実感しました。全体最適という背骨を通しながら、個別最適でパフォーマンスを最大化していく。そのバランスを探り続けることが重要だと感じました。』
『人事が個別最適に踏み切る判断は、単なる現場対応ではなく「事業の生存戦略」にあると再認識しました。特に「時限性」という視点は実務上大きな示唆でした。期間を区切ることで柔軟性を保ちつつ、硬直化を防ぐ。今、何を優先し、何をあえて諦めるのかを言語化し続けることの重要性を学びました。』
『全体最適と個別最適に完全な正解はなく、揺り戻しを繰り返しながら最適解を探し続けるものだと感じました。事業やフェーズに応じてHRBPの役割を設計し直すなど、人事機能そのものも固定化せず見直し続ける必要があると気づきました。』
まとめ
全体最適と個別最適は、対立する概念として語られがちです。今回の議論から見えてきたのは、両者は二者択一ではなく、状況に応じて行き来しながら判断されるものだということでした。人事の役割として、その時々の事業状況や組織フェーズに応じて優先軸を見極めながら意思決定を続け、そして判断の説明をし続けることが求められます。
組織フェーズが異なっても、多くの企業が同じ問いに向き合っていることが確認された今回のCORNER DAY。実務の葛藤を共有しながら議論を深める時間は、参加者にとって自社の意思決定を見つめ直す機会となったようです。
当社・コーナーは、今後もCORNER DAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 20:参加者一覧>※50音順
荒川 大佑氏(株式会社マクロミル)
上田 明良氏(株式会社エニトグループ)
沢口 昌裕氏(テクマトリックス株式会社)
土志田 泰久氏(株式会社フォトクリエイト)
中澤 真知子氏(株式会社I-ne)
野村 稔氏(Sansan株式会社)
平岡 いづみ氏(サグリ株式会社)
町田 理氏(株式会社Sapeet)
吉田 有里恵氏(Findy株式会社)
ほか複数名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージメント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル
CORNER DAY vol.14:MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス
CORNER DAY vol.15:成長実感に溢れる組織にするには
CORNER DAY vol.16:事業成長とともにアップデートする価値観と行動様式とは
CORNER DAY vol.17:人事は事業に対してどこまで踏み込むか
CORNER DAY vol.18:次世代幹部人材の発掘
CORNER DAY vol.19:中長期の事業を考えた際の人事体制
CORNER DAY vol.20:これからのミドルマネジメントの役割と人事としてできること
CORNER DAY vol.22:人事におけるAI活用