【イベントレポート】中長期の事業を考えた際の人事体制/CORNER DAY Vol. 19
前回のCORNER DAYに参加していただいている人事関係者と話す中で、多くの方が「中長期的にやりたいこと・やっておくべきことはあるが、足元の対応に追われてなかなか実行しづらい」状況にあることが分かりました。
そこでCORNER DAY Vol.19(2024年11月27日実施)では、『中長期の事業を考えた際の人事体制』をテーマに、参加者は4つのグループに分かれて以下3つの問いについて議論しました。
<問い>
(1)2~3年後の事業推進を考えた際、人事・組織において何を行うと良いか
(2)中長期施策実行時の阻害要因と、その突破方法
(3)中長期施策を実現するための最適な人事体制とは
今回は、本イベントに参加した人事責任者・担当者・スタートアップ経営者(計17名)のディスカッションのハイライト、各社の取組事例などをご紹介します。
目次
2~3年後の事業推進を考えた際、人事・組織において何を行うと良いか
まず、2~3年後をイメージした人事体制や、取り組むべきだと考えている施策についてのシェアからスタートしました。2~3年前にやっておいて良かったことから議論を拡げたチームもあり、未来だけでなく過去~今現在の具体的な取り組みについてもシェアされていたのが印象的でした。ここでは、多くの声が集まった2つの観点について紹介します。
■人事体制の構築基準(組織フェーズ、従業員数など)
2~3年後の組織をイメージする際、組織や事業のフェーズ、従業員数などを基準として考える方法について多くの議論が集まっていました。「30人の壁・50人の壁・100人の壁」とも呼ばれるフェーズを迎えることが予想される組織においては、それらを見越した人事体制を構築しておく必要があります。実際に、数十名規模~数百名規模にまで急成長した組織を持つ方からは、『これまでは事業サイドの意見を優先して“縦串し”に採用を進めてきたが、これからは人事も介入して“横串し”に人事戦略を検討・推進していく必要がある』といった声も挙がっていました。
一方で、従業員数だけで考えてしまうと人事体制なども考えづらいといった意見にも多くの共感が集まりました。従業員数はあくまで1つの基準として考えつつ、組織によっては別の切り口から検討する必要もあるのかもしれません。組織フェーズや従業員数の他に、カルチャーや職種別の観点(例:営業とエンジニアではまったく異なるなど)などの切り口があるのではないかといった意見も出ていました。
■採用・配置
2〜3年後の組織を語る上で多くの方が口にした観点が「採用・配置」です。中でも話題になっていたのは「新卒採用」で、特に中小企業においては変化も激しく2~3年後の組織がイメージしきれない中で即戦力ではない新卒者を採用することに躊躇してしまう現状があるようです。また、いざ新卒採用をスタートしたとしても古参メンバーの給与水準のズレやポスト調整(新しい人にポジションを与えたいが古参の方で埋まっている)、事業クローズ時の再配置問題などがあり、一筋縄ではいかないといった声もありました。
とはいえ、カルチャーマッチした新卒採用者は事業が急速に変化したときでも柔軟に対応できる人材となりうる可能性が高いため、上記問題があったとしても組織としては検討・実施していきたいと考える企業が多いようです。ベンチャー企業であっても新卒採用をうまく活用できるかどうかは、中長期的な組織を考える上では大きなテーマとなるのではないでしょうか。
なお、上記観点以外にも「そもそも2~3年後の状況をイメージできるか」といった問いもあるチームでは行われておりました。「3カ月単位でもいろんなことが変わるので、中長期で細かく計画することの意義はそこまで感じていない」「細かくはイメージできないが、必ず通る(だろう)ポイントは一定わかるので、そこへの対処方法はイメージしておく必要がある」など、それぞれの考えがシェアされたことは各社の気づきになった印象です。また、事業計画が中長期で組まれている企業も多いため、それを人事が人事体制や戦略に落とし込んでいくことの必要性についても議論されていました。中でもHRBPポジションの設置などは検討している企業も多いようです。
中長期施策実行時の阻害要因と、その突破方法
阻害要因として多くの方が挙げたのは「足元業務に忙殺されてしまっている」点です。限られた人員数で人事業務を担当しているため、どうしても緊急度の高い日常業務(目の前の採用や、従業員の不満解消など)が優先されてしまう現状がシェアされていました。
足元業務だけに忙殺されないようにするための方法には、さまざまな意見が寄せられました。中でも多くの共感が集まっていたのは、「足元業務を担当する人事と、未来のあるべき姿を創造する人事で役割を分ける」という意見です。人事の仕事は足元業務に引っ張られがちであることを前提に、機能として未来を考える役割を別で持つのが良いという考え方です。足元業務の担当者を「守りの人事」、未来を考える担当者を「攻めの人事」として定義している方や、期間限定で“ミライチーム”なるものを設置して組織の未来を検討している企業もあるようでした。
また、それ以外の観点として「変化はあるものだ」というマインドセットを事前に組織に行っておくことが重要だという意見も上がりました。中長期施策に限らず、何か新しいことを実施しようとしたときに変化を恐れて動けなくなってしまう従業員もいるという考えから、そこに事前に対処しておこうというものです。具体的には、社長などから「変化はつきもの。驚かずに変わっていこう」といった発信を常に行ってもらったり、変化に落ち着いて対処できるための心構えを共有したりなどの取り組みがシェアされていました。「変化はつきもの」という前提に立つことができれば、人事主導の中長期施策もより進めやすくなりそうです。
中長期施策を実現するための最適な人事体制とは
この問いにまで議論が至らなかったチームも多かったようです。それだけ各組織においても答えの出ていない課題となっているのかもしれません。その中でも、以下のような観点から最適な人事体制について議論が進められていました。
■HRBP的な役割・機能のインストール
人事が現場側に寄りすぎると足元業務が多くなりやすく、経営側に寄りすぎると現場課題に適した施策がしづらくなってしまうといった現状から、双方の橋渡し役になれるような組織や機能を作っていく重要性について意見がありました。こう聞くとHRBPを連想される方も多いかもしれませんが、必ずしもHRBPを新設する必要はなく、現場のマネジメントメンバーにその機能を担ってもらうなど別の形の意見が出ていました。ただ、事業も現場も両方の視点を持ちながら人事の専門性もある人材……となるとそう簡単には見つかるものではないため、事業部側のハイプレイヤーを人事部門で預かって専門性を身に着けてもらう(育成)といった動きをとっている企業もあるようでした。
■マネジメント育成
中長期的な施策を推進していく上で、キーマンとなるのはやはりマネジメント層のようです。その層を育成するために、ある企業ではメンバー全員が保有するタスクを全社へオープンにし、そのタスクを完遂できたかどうかを4段階で評価させ、「遂行できたけど成果には繋がらなかった≒アサインした側の責任」として整理することでよりチャレンジングな目標設定を支援していると言います。加えて、部下が上長を評価する「逆評価」の仕組みを入れている企業もあり、組織の専門性が高いリーダーとして的確な指示ができているかなどが評価項目になっているとのこと。各社がいろんな形でキーマンとなるマネジメント育成を行っている様子が垣間見えました。
イベント参加者の声
『これまでは従業員人数で人事体制を考えていたが、そこではないと思ったのが新しい気づき。会社によって正解は違うことを念頭に入れた上で、人数×事業内容×成長規模×カルチャーなど変数を計算していかいないといけない』
『正解はないが、究極は経営戦略に紐づく形に向かうんだと感じた。適切な形に進めるためにも経営層との会話が大事と思いつつ、人事として中長期の視点も持ち続けることも大事だと感じた』
『2~3年先は見越せているようで実は見越せていないと感じた。事業の不確実性と組織のレジリエンスを一致させることの重要性は今後も念頭に置いておきたい』
まとめ
各チームのディスカッションの様子から、2~3年先とはいえ見通すことすら難しいと感じている方が多い印象を受けました。そのため具体的な人事体制や課題の突破方法についても明確な解を持っている方が少なく、参加者全員でその答えを探しに行くような姿が印象的でした。実施後には他グループの議事録も参加者に共有され、より多くの視点を持ち帰っていただくことができました。
当社コーナーは、今後もCORNER DAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 19:参加者一覧>※50音順
石井 卓也氏(女性のヘルスケア関連のベンチャー企業)
上田 明良氏(株式会社エニトグループ)
浦川 雄志氏(株式会社KAEN)
遠藤 理恵氏(株式会社CRAZY)
加藤将人氏(株式会社Luup)
唐澤 一紀氏(株式会社Nint)
岸下 晶子氏(エムスリーキャリア株式会社)
久保田 慶氏(ファイナンシャルスタンダード株式会社)
高橋 真寿美氏(STORES 株式会社)
長谷川 貴久氏(ヤマハ発動機株式会社)
町田 理氏(株式会社Sapeet)
宮田 ゆかり氏(株式会社クラッソーネ)
吉川 彩加氏(READYFOR株式会社)
吉田 有里恵氏(Findy株式会社)
他2名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル
CORNER DAY vol.14:MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス
CORNER DAY vol.15:成長実感に溢れる組織にするには
CORNER DAY vol.16:事業成長とともにアップデートする価値観と行動様式とは
CORNER DAY vol.17:人事は事業に対してどこまで踏み込むか
CORNER DAY vol.18:次世代幹部人材の発掘