【イベントレポート】これからのミドルマネジメントの役割と人事としてできることは/CORNER DAY Vol. 20

2024年2月に「罰ゲーム化する管理職」が出版され話題になりました。さまざまな役割が集中しているミドルマネジメントを罰ゲームだと捉える方も増えてきたことに驚いた方も多いのではないでしょうか。
CORNER DAY Vol.20(2025年3月20日実施)では、『これからのミドルマネジメントの役割と人事としてできることは』をテーマに、参加者は5つのグループに分かれて以下3つの問いについて議論しました。
<問い>
(1)ミドルマネジメントに期待していること
(2)ミドルマネジメントに感じている課題
(3)課題に対して人事ができること
今回は、本イベントに参加した人事責任者・担当者・スタートアップ経営者(計19名)のディスカッションのハイライト、各社の取組事例などをご紹介します。
目次
ミドルマネジメントに期待していること
まず、各社においてミドルマネジメントに期待していることのシェアからスタート。組織規模や事業フェーズ・戦略戦術によっても期待するものが違い、様々な角度・視点から意見が挙げられていました。挙がった意見をグルーピングすると、以下6つにまとめられます。
<ミドルマネジメントに期待するもの>
成果創出をすることを大きな役割とした前提で以下の意見が上がっています。
(1)経営戦略を踏まえた現場戦術・目標の策定
(2)コミュニケーションの橋渡し
(3)部下のマネジメント
(4)メンバー育成
(5)MVV体現とカルチャー形成
(6)業務改善・問題解決
このパートにおいて特に議論が集中したのが、『ミドルマネジメントの役割定義』についてです。『戦略立案』については部長以上(もしくは営業企画など)で設計を行い、ミドルマネジメントが戦術・実行部分を担当する形が理想的であることは各社共通の認識があるようでした。
一方、『パフォーマンスマネジメント』と『ピープルマネジメント』においては企業によってそのバランスが違うようです。1人のマネジャーがパフォーマンスマネジメントとピープルマネジメントを両立させている事例としてリクルート社の話が話題に上るなど、この2つをバランス良く実施することは難しいと感じている企業が多かったです。事業フェーズや組織規模によっても求められるバランスには違いがあるようで、各社がどのように取り組んでいるかのシェアには多くの注目が集まっていました。
なお、その中で『プレイングマネジャーの是非』について議論が盛り上がっていたのは非常に興味深い点でした。実態としてプレイング要素をミドルマネジメントに求めている企業も多く、それがミドルマネジメントの負担を大きくしている要因の1つでもあるようです。特に、小規模組織やスタートアップ企業ではプレイングマネジャーが主流になっており、経営にも現場にも偏らず主体的に動く姿勢と成果創出がミドルマネジメントに求められている様子が垣間見えました。
反対に、一定成熟した中・大規模組織においてはプレイングマネジャーがいると組織化がうまくできない側面もあるようです。年間成長率が200~300%程度ある組織ではプレイングマネジャーが、成長率10%程度の組織ではプレイングの割合を減らしてヒューマンマネジメントの割合を増やすのが良いのでは、といった目安についても議論として上がってました。
ミドルマネジメントに感じている課題
1つ目の問いでも議論が白熱していた『プレイングマネジャー』ですが、期待が集中している分、課題も多くあるようです。具体的には、以下のような課題が挙げられておりました。
<プレイングマネジャーの課題>
・プレイング至上主義の方が多く、現場業務に追われてしまいメンバーへの権限移譲が進まない(組織能力が上がっていかない)
・経営・事業戦略よりもメンバー側に視点が寄りがち
・メンバー業務を巻き取りすぎてしまう(難易度高い案件や緊急時にメンバーにアドバイスするのではなく自身で行ってしまう)
・成果を出すと自動的に昇進してしまう構造があり、マネジメント適性と成果が一致しない場合がある
こうした課題に対し、プレイングを排除した役割定義を行った企業が複数ありました。しかし、実践は一筋縄ではいかないという声が多く、その背景には、プレイングを外した分だけ必要となる戦略設計やコーチングなどのメンバー育成のスキルに対し、マネジメント層の育成・スキル強化まで十分に手が回しきれていない状況があるようです。
また、現場で成果を挙げてきた人材がミドルマネジメントに昇進しているため、プレイング部分に対する適性については問題ないものの、戦略設計/推進やヒューマンマネジメント部分にも強みがあるかどうかはよく見ていかないといけないねという話には多くの共感が集まっていました。ミドルマネジメントメンバーの強みを把握し、それらを最大限に活かせる役割定義やポジショニングの在り方については検討の余地が大きそうです。
他にも、『マネジャーになりたがらない方が多い』点も複数の方が課題として挙げていました。その要因としては、ミドルマネジメントの負荷が大きく大変そうに見えていることに加えて、報酬設計上の問題でメンバーレイヤーの方が高報酬になる“報酬逆転現象”が発生しており、処遇の見直しを迫られている企業もあるようです。
課題に対して人事ができること
ここまでにシェアされてきた課題に対して、さまざまな角度から『人事ができること』を考えていく時間となりました。どの企業も『ミドルマネジメント(もしくはその人)にしかできないことを定義し、それ以外のことをできるだけ人事やシステム(AI含む)で巻き取っていく』ことは考えの方向性として共通しているようです。実際に議論の中で出てきた人事としてできることについて整理しましたので、ぜひ参考にしてみてください。
■マネジャーの負担軽減(≒ 仕事の効率化)
・ミドルマネジメントの役割を明確化し、適切な支援策を講じる(パフォーマンスマネジメントとピープルマネジメントのバランスを取るなど)。1→10のフェーズでは戦術推進力が必要。10→100のフェーズではピープルマネジメントに重きを置くなど。
・業務量調整(業務の削減・効率化など)
・緊急時などにマネジャー以外がサポートに入れる体制構築
・上司部下の組み合わせ最適化(ストレングスファインダーやタレントマネジメントシステムなどを活用し、データに基づいた職務アサインの実施)
・兼任の解除(マネジメント人材の拡充)
■評価システムとマネジメント
・業績評価と行動評価のバランス設計(業績評価の比重が上がりすぎると組織にひずみが生じることも)
・各役職のミッションを定めてコンピテンシー評価を導入する(個人の達成度と期待役割を明確にして評価基準を分けるなど)
■育成・サポート・権限移譲
・HRBPがミドルマネジメントをサポートし、多面評価や1on1ミーティングで次世代リーダーを育成する
・ポジションごとに後任育成計画を設け、実践の中でのマネジメント経験を重視する
■組織文化と採用時の見極め
・MVVフィットが重要で、方向性が合わないと組織崩壊のリスクがある
・ポジティブに変換できる能力や当事者意識がスタートアップでは重要。後付けが難しいものでもあるため、そうした素養を重視した採用活動を行う
イベント参加者の声
『パフォーマンスマネジメントが重要なフェーズではあるが、後々のことも考えてヒューマンマネジメントも徐々にバランスを高めていく必要がある。その観点から、データ活用・提供などによるミドルマネジメントの負担軽減の観点は特に重要だと感じた』
『事業フェーズごとのマネジメントにおける要点を整理できてよかった。参加者のみなさんが属する企業の規模やフェーズもさまざまだったが、共通する課題認識も多く学びになった』
『このテーマに対してはこれまでにもさまざまなインプット・アウトプットを実践してきたが、今日の議論を通じていかに自分が断片的に取り組んでいたかを理解することができた。他の方の取り組みなどを聞いて全体像をつかむことができたので、これからに活かしていきたい』
まとめ
ディスカッションの様子から、ミドルマネジメントに対する期待の大きさと課題の多さが感じ取られました。組織規模や事業のフェーズによってもミドルマネジメントに求められるものが変化することもあり、常に最適解を模索していく必要があるテーマのようです。イベント実施後には他グループの議事録も参加者に共有され、より多くの視点を持ち帰っていただくことができました。
当社コーナーは、今後もCORNER DAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 20:参加者一覧>※50音順
飯田 竜一氏(企画人事)
越智 一平氏(フリーランス)
久保田 慶氏(ファイナンシャルスタンダード株式会社)
佐藤 邦彦氏(株式会社ビットキー)
沢口 昌裕氏(テクマトリックス株式会社)
武田 尚子氏(スパイダープラス株式会社)
長谷川 貴久氏(ヤマハ発動機株式会社)
長谷部 航太氏(株式会社MIXI)
林 英治郎氏(LINEヤフー株式会社)
平岡 いづみ氏(サグリ株式会社)
平山 明氏(株式会社I-ne)
藤田 大洋氏(フリーランス)
町田 理氏(株式会社Sapeet)
真辺 奈月氏(株式会社アンドデザイン)
宮田 ゆかり氏(株式会社クラッソーネ)
吉田 有里恵氏(Findy株式会社)
ほか複数名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル
CORNER DAY vol.14:MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス
CORNER DAY vol.15:成長実感に溢れる組織にするには
CORNER DAY vol.16:事業成長とともにアップデートする価値観と行動様式とは
CORNER DAY vol.17:人事は事業に対してどこまで踏み込むか
CORNER DAY vol.18:次世代幹部人材の発掘
CORNER DAY vol.19:中長期の事業を考えた際の人事体制