【イベントレポート】次世代幹部人材の発掘/CORNER DAY Vol. 18
ベンチャー企業から大企業まで、次世代幹部人材に関する課題感を多く伺います。発掘〜育成〜活躍までプロセスとして長く、検証がなかなか難しいことに加えて、事業環境・戦略が刻々と変化することから人材要件を定めづらい側面があります。また、難易度が高く重要なテーマでありながら、各社の取り組みや知見がまとまった形で語られる機会が少ないものです。
そこでCORNER DAY Vol.18(2024年8月21日実施)では、「次世代幹部人材の『発掘』」をテーマに、「発掘」に光を当てて、6つのグループに分け、各社がどのような定義やフローで行っているのかなどの共有や、課題感・工夫点のディスカッションをしました。
<問い>
(1)現状の「次世代幹部人材の発掘」に対して明確な基準やフローはありますか?(現在地)
(2)次世代幹部人材の発掘に対して、課題感があれば教えてください(問題意識)
(3)人材発掘の要件や定義を、現場と人事で目線を揃え連携できていますか?(問題意識)
(4)自社ビジネスと市場環境から鑑みて、どのような要件やフローを設けるのが良さそうでしょうか?(解決策)
今回は、本イベントに参加した人事責任者・担当者・スタートアップ経営者(計24名)のディスカッションのハイライト、各社の取組事例などをご紹介します。
目次
現状の「次世代幹部人材の発掘」に対して明確な基準やフローはありますか?
まず、次世代幹部人材の発掘に関する明確な基準やフローを設けているかどうかの現状シェアからスタートしました。「設けている」と回答した方は全体の約1/3程度に留まり、残りの約2/3の企業は「設けていない」と回答。それぞれの理由や背景について議論が進められました。
「明確な基準やフローがある」と回答した方の中で多かったのは、「タレントマネジメントに取り組む中で次世代幹部人材の選抜基準に合致した人材を発掘・登用・育成を行う」というものでした。選抜基準については各社それぞれで、役職ごとの役割・権限一覧を作成してそれに該当する人材になりえるかを判断している会社や、ピープルマネジメントと業務マネジメントでスキル整理を行った上でその双方を高いレベルでできる方を要件としている会社もありました。
ただ、基準やフローを定めていると回答した企業でも、事業フェーズ・社外環境や組織トップの変化によっても柔軟に変えていく必要性を感じているようです。こうした流動性にどう対処していくかを考えることはもちろんですが、対処しきれない場合は外部採用で補うことを考えている企業も多いようです。
一方、「明確な基準やフローはない」と回答した方の中で多かったのは、「現時点で成果を出している人材を抜擢している」というものでした。比較的ベンチャー寄りの企業に多い印象で、組織規模もまだ経営幹部メンバーが全社員を見ることができている現状もあり、その中からその時々に応じた活躍人材を見つけて抜擢しているようです。そこで抜擢した方に対しては、マネジメントやPLを読む力などの次世代幹部人材として必要になるスキルをインストールしていくといった話も挙がっていました。
なお、こうした内部登用ではなく外部採用を中心に次世代幹部人材を発掘していると回答した企業も多くありました。その理由は、社内に次世代幹部人材として必要だと考えている要件を満たせている人材がいないからとのこと。また、社内で次世代幹部人材に必要な要件を明確に定めてしまうことで、同じような人材ばかりが抜擢されてしまうことを危惧する声も寄せられていました。
次世代幹部人材の発掘に対して、課題感があれば教えてください
次世代幹部人材の発掘基準・フローを「設けている」側、そして「設けていない」側からも多くの課題が挙げられました。特に、多くの声が集まったのは以下の観点です。
そもそも次世代幹部は育成できるのか
幹部として組織の上に立つ以上、一定の現場感や実業務に対する理解や知見がなければメンバーからの信頼が得られにくい側面があります。しかし、こうした通常業務だけでは次世代幹部候補に必要なスキル(ヒューマンマネジメントやPLを読む力など)は身につけられないことから、育成においては別のプログラムを用意する必要があります。ただ、プレイヤーとして優秀であればあるほど現場から離れにくいジレンマもあり、それをどう解消するかについて議論がなされていました。
抜擢基準の定義と多様性の両立
次世代幹部人材の要件定義を明確にしておかなければ、そもそも抜擢・育成を行うことはできません。自社の中長期ビジョンや人材戦略に合わせてそれらを定義しておくことの重要性は、疑う余地のない部分です。しかし、明確に定義することにより人材の多様性が失われてしまうという指摘もあり、どのように多様性を確保しながら基準を設けて抜擢していくべきかについても議論がなされていました。
内部登用と外部採用のバランス
外部採用からの次世代幹部人材登用が主流となっている企業もあり、これが内部のキャリアパスに悪影響を及ぼしているとの問題が提起されました。特に、外部からシニアマネジメント層を登用する際、内部の中堅層におけるモチベーション低下が見られるとのことです。一方、成長フェーズにある組織では、外部から専門性の高い人材を採用しなければ事業が進まない現実もあり、そのバランスをどう取るかが大きな課題となっていることが共有されました。
中長期視点の欠落
理想は将来の組織体制イメージや事業ごとの最適な人材要件から次世代幹部人材に求める要件を定義していくことですが、どうしても目の前の対応や空いたポストをどう埋めるかなどの議論に終始してしまい、中長期視点が持ちづらいという声が多く挙がりました。昨今の変化の激しい市場環境も影響し、より未来視点を持ちづらくなっているようです。また、カリスマ的な経営者や幹部がいることで「この先もしばらくはこの体制で行くだろう」といった雰囲気が組織に流れ、新陳代謝が起きづらい(次世代幹部人材の発掘が議論になりにくい)状態もあるようです。
人材発掘の要件や定義を、経営・現場・人事で目線を揃え連携できていますか?
人材発掘の要件や定義がまだ明確でない企業が多かったため、経営・現場・人事の連携にまではなかなか議論が進んでいない印象でした。
しかし、そんな中でも話題に挙がったのは、「組織が変動する中で長期的な人材抜擢・育成戦略をどう立てるか」の観点です。特に、事業環境が変化しやすい業界では長期的な計画を立てることが難しく、都度柔軟な対応が求められます。次世代幹部人材の要件定義や抜擢・育成戦略もその都度変更が余儀なくされる形になるため、そのたびに現場と人事が目線を揃えて外部採用を中心に次世代幹部人材を確保していくことの重要性が話されていました。
また、現場と人事の役割分担についても議論が行われました。その中では、現場が事業計画に基づいて必要な人材を特定しその配置を行う一方で、人事はより中長期的な視点で育成計画を立てるという役割分担が理想とされました。ただし、現場と人事の連携がうまくいかないケースも多いようです。その解決策として、人事が現場に対してより深く介入することの是非についても意見が交わされていました。
自社ビジネスと市場環境から鑑みて、どのような要件やフローを設けるのが良さそうでしょうか?(解決策)
各社ともに明確な解がない中での議論だったこともあり、各グループとも現状や課題感のシェアに多くの時間が割かれた印象です。そんな中でも「こうしたら良いのでは?」といった解決策についても提起されていましたので、いくつか抜粋して紹介します。
中長期・全社視点で考えられる人材の発掘
どうしても中長期視点が持ちづらくなってしまうテーマだからこそ、中長期の時間軸や全社視点を持って考えらえる人材を増やす必要があります。ある大手企業では幹部を4年毎に交代させ、任期中に後継者について考えさせる仕組みを導入しているといった事例もシェアされました。こうした何かしらの仕組みを用いて、より未来視点で組織のことを考えてもらえる人材を増やす方法についても議論がなされていました。
幹部も完璧ではないことを伝える
近年は「管理職になりたくない」と回答する方の割合が増加しているのと同様、幹部としてのキャリアを志望する方が多くないことについても言及がありました。その要因はさまざまあるようですが、中でも「幹部は完璧でなくてはならない」といったイメージが昇進意欲を妨げているのではないかとの指摘も。それを回避するべく、組織内で「幹部やマネジャーも完璧ではない。あくまで役割であり、それぞれの役割や強みの中で協力し合うことが重要」といった発信を意図的に行っている企業もあるようです。また、ピープルマネジメントと事業マネジメントを切り分けて評価することで、どちらかに強みがあれば評価できる環境を整備して幹部人材の多様性を確保しているといった取り組みも紹介されました。
全員が幹部候補
「組織フェーズや環境変化によって次世代幹部人材に求められる要件が変化するのだから、全員が幹部候補になりうるはずだ」との意見には多くの共感が集まっていました。抜擢・育成などの選抜式を前提に考えるのではなく、タレントマネジメントの中で必要に応じて引き上げるようなイメージを持っておくことで、人事としても適切な人材戦略を検討できるのではないかとの考え方です。特に、従業員規模が100名未満のスタートアップなどにおいてはタレントも限られているため、すべての人材に可能性を残して次世代幹部人材候補を考えていくことがより必要なのではないかとの声も挙がっていました。
また、次世代幹部人材の要件を考える上で重要なのは経営トップの意志です。「この会社をどうしたいか」次第で次世代幹部人材に求められるものも大きく変わるため、人事としても常に経営と対話し目線合わせを続けることの重要性についても提起されていました。
イベント参加者の声
『人材が潤沢ではない中で、どんなスキルをどれほど重視するかの判断は非常に難しいと改めて感じた。また、事業の成長速度を考えると内部で育成・登用している時間がないため、外部採用に頼らざるを得ない。次世代幹部人材の要件定義は進めつつも、その発掘方法が外部採用になることを踏まえて面接方法なども見直していきたい』
『今日の話も参考にしながら、今後は次世代幹部人材を横の組織から引っ張るなど横断的な進め方も検討してみたい。そうなると総論賛成・各論反対が出てくるはず。各論反対に対処するのは人事の腕の見せ所。5年後・10年後を見据えた意思決定をしていきたい』
まとめ
まだ取り組みが明確に行えていない企業も多いテーマだったこともあり、現状と課題感についてのシェアが多い会となりました。しかし、こうした話ができる場が少ないこともあってか、議論自体は非常に盛り上がっていた印象です。実施後には他グループの議事録も参加者に共有され、より多くの視点を持ち帰っていただくことができたと思います。
当社コーナーは、今後もCORNERDAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 18:参加者一覧>※50音順
井上 朋一氏(パンチ工業株式会社)
奥村 奈都子氏(株式会社TimeTree)
加藤 将人氏(株式会社Luup)
唐澤 一紀氏(株式会社Nint)
河口 高広氏(テクノプロ・ホールディングス株式会社)
久保田 慶氏(ファイナンシャルスタンダード株式会社)
小金 蔵人氏(株式会社ZOZO)
小榑 洋史氏(株式会社ポニーキャニオン)
小林 杏子氏(株式会社ツクルバ)
大門 さやか氏(カルチュア・エンタテインメント株式会社)
高橋 真寿美氏(STORES 株式会社)
中澤 真知子氏(株式会社I-ne)
永井 雄一郎氏(株式会社スマートドライブ)
中野 雄介氏(株式会社iCARE)
西尾 知一氏(株式会社IVRy)
林 英治郎氏(LINEヤフー株式会社)
平山 鋼之介氏(Sansan株式会社)
藤吉 洋輔氏(株式会社イグニス)
前田 宏美氏(ソウルドアウト株式会社)
町田 理氏(株式会社Sapeet)
吉田 有里恵氏(Findy株式会社)
他2名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル
CORNER DAY vol.14:MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス
CORNER DAY vol.15:成長実感に溢れる組織にするには
CORNER DAY vol.16:事業成長とともにアップデートする価値観と行動様式とは
CORNER DAY vol.17:人事は事業に対してどこまで踏み込むか