「解雇回避努力義務」を怠るリスクと実施時における順序やポイントについて解説
経営難などによりやむなく従業員を減らす必要が生じた場合に行う整理解雇。このときに認識しておくべきものに「解雇回避努力義務」があります。
今回は、20年以上もの人事経験を持つ西原 康輔さんに、「解雇回避努力義務」の概要から企業側が認識しておくべきリスクや対応ポイントに至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
西原 康輔
新卒で法人営業を経験後、人材ビジネス・飲食・人事コンサル・冠婚葬祭・医療機器メーカーなどで人事業務を約20年経験。その後、管理部門職専門の転職エージェントにキャリアチェンジし、現在に至る。▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
「解雇回避努力義務」とは
──「解雇回避努力義務」とはどのような義務なのでしょうか?
「解雇回避努力義務」とは、その言葉通り企業側ができる限り解雇を回避する努力をする義務のことです。
解雇には大きく分けて普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の3つがあります。中でも整理解雇は経営難などにより従業員を減らす場合のものであり、従業員の生活に大きな打撃を与えるものであることから、できるだけ解雇を回避できるよう特に厳しい制約が設けられています。
具体的には以下4つの要件を満たす必要があり、ここに「解雇回避努力義務」も含まれている形です。ちなみに、違反すると解雇を不服と思った従業員が解雇無効を主張し、その後訴訟に発展した上で裁判により解雇無効であると判断される可能性があります。
【4つの要件】
(1)人員削減の必要性
(2)被解雇選定の合理性
(3)解雇手続きの妥当性
(4)解雇回避努力義務
──『解雇禁止』ではなく『努力義務』とされているのはなぜですか?
整理解雇は雇用主にとって“最終手段”とも言えるものであり、それを一律で禁止してしまうと本当に解雇しなければどうしようもないときに何もできず、ただ倒産を待つのみとなってしまいます。そのため、『最大限解雇を避ける努力をしてきたか』『解雇に対してプロセスをしっかり踏んできたか』といった姿勢と痕跡を求めた上で、解雇の正当性を見極めるために『努力義務』としているのです。
また、「解雇回避努力義務」が『従業員の普段の業務プロセスや勤務状況』にフォーカスしたものであり、そのケースは百人百様であるため、妥当性の判断が難しいことも『努力義務』となっている理由の1つです。(1)人員削減の必要性のように、売上や利益などの業績数字を用いて人員削減の正当性を証明できる類のものであれば問題ないのですが、『その従業員を解雇しなければ本当に経営が成り立たないのか』といった理由や証拠をもとに説明するのは非常に困難です。
だからこそ、解雇において合理的かつ客観的で皆が納得できる『根拠』と、解雇を防ぐために努力してきた『プロセス』が求められているのです。
「解雇回避努力義務」を怠った場合のリスク
──企業が「解雇回避努力義務」を十分に果たさなかった場合、具体的にどのような法的リスクが生じるのでしょうか?
企業が「解雇回避努力義務」を十分に果たさなかった場合、その解雇の申請手続き自体が無効となり、対象となる従業員を雇い続ける義務が発生します。それだけでなく、相手から損害賠償請求をされ多額の費用を支払う必要が出てくるリスクも生じます。
仮に解雇が無効になった場合も、その瞬間からまた従業員として働かせれば良いというわけではありません。例えば、以下のような費用や補償などを請求されることになるはずです。
・解雇が決まったことにより就業をストップしていた期間の給与補償
・解雇対象に選ばれたことによる社会的信用低下への補償(他従業員との関係性悪化など)
・解雇対応に選ばれたことによる精神的負担への補償
など
なお、一度解雇無効の認定を受けるとそれを覆すことはかなり難しいのが現状です。経営存続・安定に向けた整理解雇だったはずが、「解雇回避努力義務」を果たさなかったことにより多額の損失を被り、余計に経営を圧迫してしまった──といったことも十分に考えられます。

──上記のような法的リスク以外にも行政対応や企業のレピュテーションリスクなど影響が生じる可能性はありますか?
解雇無効の事実が公的になっているため、労働基準監督署からの監査が入ることも十分に予想されます。『解雇無効者を出してしまった原因が労働環境にあるのではないか』そんな大義名分を元に労働基準監督署が来社し、従業員の賃金台帳や出勤簿、就業規則や労使協定などの提出を求められることになります。
監査は丸1日かけて実施するため骨が折れますし、その後の監査結果をもらうためにも労基署訪問・監査結果是正箇所の対応・報告書のまとめ・報告書の提出などが必要となり、これらすべてを対応するとなると多くの時間と費用を要します。
また、解雇の事実が従業員間で噂として広がっていくことにより、企業のネガティブな印象が社内外に広がるリスクもあります。昨今、SNSや企業口コミ・評判サイトなどの発展もあり、かなりのスピードで情報が伝播していきます(悪評は特に)。
その結果、採用で応募を検討している候補者も敬遠・辞退してしまうなど、母集団形成にも悪影響を及ぼします。もちろん、現在働いている従業員のモチベーションにも影響しますし、ひどいときには退職理由にもなり得ます。解雇無効は実際の費用だけでなく、その後の2次リスクなども留意する必要があるのです。
企業が行うべき解雇回避措置の具体例
──解雇回避措置として一般的に求められる取り組みにはどのようなものがありますか?
解雇回避措置の最も一般的な取り組みとして『文書として記録に残すこと』が挙げられます。具体的な書類名としては、顛末書・始末書・賞罰委員会議事録・面談議事録・出勤簿(遅刻や欠勤の根拠)などが該当します。
仮に、勤務態度や同僚への不快な言動を理由に解雇を検討している従業員がいたとします。最初は口頭での注意から始め、それでも改善が見られないようであれば面談をセットして再度注意を試みます。その際、始末書の提出を求めるなど相手の勤務態度改善に向けて指導を試みたプロセスを記録として残していきます。これでも改善の見込みがない場合、所属している部署だけでなく人事や総務・法務も含めた賞罰委員会に上げ、会社全体の問題として取り扱った上で就業規則に応じた懲戒事由で処分します。その際、賞罰委員会議事録の作成と社内公示履歴も必ず残すようにします。
このように、解雇に該当するであろう合理的かつ客観的な事実を文書として記録に残していくことが『解雇回避措置をしてきた』という根拠になります。このプロセスを実施する際に注意すべきなのは、『解雇対象者へのコミュニケーションをしっかりと行うこと』です。始末書や議事録などの書面に残すことが目的となってしまい、目の前の従業員に対してちゃんと指導を行ったり1人の人間として向き合ったりすることが疎かになってしまうと、企業側のアクションが事務的かつ一方的に感じられてしまい、相手の感情を逆撫でしてしまう可能性があります。ここは慎重に対応していきましょう。
もし従業員が感情的になった場合には、その感情を生じさせた対応や伝え方について丁寧に謝意を示すとともに、誤解が生じた背景を確認してください。伝え方に問題があったのであれば、是正を明言し、コミュニケーション改善を図るべきです。
ただし、感情面のフォローと事実認定を混同しないことが重要です。謝意はあくまで不安や感情面への配慮に限定し、解雇事由に関わる事実認定や評価基準を曖昧にすることは避けます。企業としては、客観的事実に基づいたプロセスを一貫して遂行する姿勢を維持することが大切です。
──解雇回避措置実施時の注意点や実施順序はどうすれば良いでしょうか。
解雇回避措置を実施する際のセオリーは『大きいところから手を打ち、それでも解決できない場合は小さく個別事情に対応する』です。例えば、従業員1人の解雇事由を検討している場合、まずは『環境を変える(転勤・異動などの配置転換)』ところから検討します。その検討が難しいようであれば、今度は職種変更による働き方の変更、もしくは正社員から契約社員への雇用区分変更などを検討します。
それでも難しい場合、コミュニケーションをとった上で退職勧奨を検討するなどの個別対応を実施していく形です。
ちなみに、解雇による人件費削減効果には、対象者の人件費という直接的な効果だけでなく、他従業員の生産性向上や管理者のマネジメントコスト削減などの間接的な効果も期待できます。この間接的な効果を最大化するためにも、解雇回避措置を順序良く対応してスムーズに物事を進める方がメリットは大きいものです。
逆に、取るべき手順を怠り、無理に解雇へ持ち込もうとすると、前述したような思わぬリスクや風評被害につながりかねません。かといって整理解雇の検討をしないままではいずれ経営が行き詰まる可能性が出てきます。整理解雇の必要性が出てきたら、臆せず正しい順序で物事を進めていくことが何より重要だと考えています。
解雇回避措置実行にあたっての対応ポイント
──解雇回避措置を実行する際、人事部門として特に留意すべき対応ポイントは何でしょうか?
人事部門として特に留意すべきポイントは、『整理解雇対象者とのコミュニケーションを取る場と時間をしっかりと設けること』『その履歴をしっかりと取ること』の2つです。
整理解雇をせざるを得ないとき、実施する経営側も不安が大きいものですが、対象者はもっと不安なはずです。その不安を100%取り除くことは不可能ですが、経営側の意向や整理解雇の理由をきちんと説明することはできますし、その説明を聞いた相手の反応を聞いてあげることもできるはずです。
これらを怠って一方的に説明文を周知して終了となると、仮に整理解雇ができたとしてもその後の対象者との関係性は非常に危ういものとなり、リスクを抱えたままとなります。
そのため、経営側と対象従業員側の双方でしっかりと話し合ったプロセスを踏み、納得感を醸成することが重要です。具体的には、整理解雇の書面上の正しい手順を準備することは第一として、それ以外にも複数回の説明会を実施、その後の個別面談を全員と行うことをオススメします。
個別面談は手分けして対応したくなるものですが、必ず2名以上で対応するようにしてください。話の内容的にも(特に従業員側が)感情的になる可能性もあるため、万が一に備える意味でも2名以上の体制を構築できるようにしましょう。
ここまでの話から、対応する人事のコミュニケーションスキルが非常に重要であることはご理解いただけたと思います。こうした対応を人事部などの社内メンバーですべて完結できればベストではありますが、難易度の高いコミュニケーションを人事部内だけで実施しようとするとリスクも大きいですし、何より不安で動けなくなってしまうはずです。
また、手順を踏んでいる間に知らずに法に抵触してしまうリスクや、面談がエスカレートする中で法に触れないか不安になるケースは必ず出てきます。そのため、特定社労士や弁護士との顧問契約を締結することも忘れずに行い、必要に応じて顧問へ確認を取りながら物事を進めておけると盤石です。
社労士や弁護士と連携する中で気軽に電話や相談ができる関係性を構築し、いざというときにアドバイスをもらいながら実践と反省を繰り返す──これが人事メンバーのコミュニケーションスキルを高める一番のトレーニング方法だと考えています。
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編集後記
『整理解雇は最終手段』という話もあった通り、いざ切羽詰まったタイミングで上記のような対応をイチから進めていこうとすると、どうしても十分な準備ができずに問題が発生しやすくなってしまいます。そんなタイミングが来ないに越したことはありませんが、有事の際を想定して平時から準備を進めておけると良いのではないでしょうか。



















