知らないと損?人事担当者なら知っておきたい「人事・採用に関する助成金について」

「雇用の促進・維持」や「人材確保」に積極的な取り組みをする企業に対して、国はさまざまな助成制度を用意し、資金面での援助をしています。
多くの助成制度がある反面、受給要件や申請手続きについて正しく理解することは人事の大きな負担にもなっています。そこで今回は、社会保険労務士有資格者で事業会社の人事としても勤務している松永大輝さんに、人事が押さえておきたい補助金/助成金とその概要(目的・支給内容・対象条件・申請方法など)に関してお話をお伺いしました。
<プロフィール>
松永大輝
新卒入所した社労士法人にて上場企業からベンチャー企業まで10社以上の顧問先の労働・社会保険の手続き代行、給与計算、人事労務に関する相談業務に従事。並行して社会保険労務士講座の非常勤講師を兼任。現在は事業会社の管理部門責任者としてバックオフィス業務全般を担当しつつ、フリーランスの人事としてスタートアップ企業の採用支援をご経験。▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
人事・採用に関する助成金の種類
────人事・採用に関する助成金にはどういったものがありますか?
さまざまな管轄・財源による助成金がありますが、今回はスタンダードな「厚生労働省」所管の助成金を中心にご説明します。
まずは支給対象となる状況ごとに、「既存社員の雇用維持」「新規採用時」「非正規社員の正社員登用時」の3つに分けてみます。
既存社員の雇用を維持するために利用できるもの
①雇用調整助成金
新規採用時に利用できるもの
②中途採用など支援助成金(中途採用拡大コース)
③特定求職者雇用開発助成金
④トライアル雇用助成金
非正規社員を正社員化する時などに利用できるもの
⑤キャリアアップ助成金
この5つは人事として押さえておきたい補助金/助成金と言えます。
助成金の概要(目的・支給内容・申請方法)
────挙げていただいた5つの助成金の概要(目的・支給内容・申請方法)を教えてください。
ここではポイントをお伝えします。
既存社員の雇用を維持するために利用できるもの
①雇用調整助成金
特例措置実施中のため後述
新規採用時に利用できるもの
②<中途採用する場合>:中途採用など支援助成金(中途採用拡大コース)
◆目的…
中途入社スタッフの雇用管理制度(待遇・福利厚生など)を整備し、中途採用の拡大を図る事業主を支援するため
◆支給内容…
最大50万円(初めて45歳以上のスタッフを採用した場合は60万円
◆申請方法…
事前の計画届提出→支給要件を満たした(採用率上昇もしくは生産性向上)タイミングで所定の支給申請書に添付書類を添えて申請
③<シニアや障害者を採用する場合>:特定求職者雇用開発助成金
◆目的…
就職困難者(60歳以上の高年齢者、障害者、母子家庭の母など)の雇用を促進するため
◆支給内容…
<条件>就職困難者をハローワークor民間の職業紹介事業者経由で採用すること
<支給額>労働者の種別、企業規模、時短か否かに応じて「30~240万円」が支給(例:中小企業が重度障害者をフルタイム雇用した場合は240万)
◆申請方法…
以下3つの工程です。
(1)ハローワークor職業紹介事業者から対象者の紹介を受ける
(2)対象となる労働者を採用する
(3)採用後、所定の支給申請書に添付書類を添えて申請
※6カ月ごとに2〜6回に分けて(3)の申請は継続して実施
④<ポテンシャル採用をする場合>:トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
◆目的…
一定の要件に該当するポテンシャル層やブランクのある労働者の雇用を促進するため
◆支給内容…
対象者1名当たり、月額最大4万円(最長3カ月間)
※対象者が母子家庭の母or父子家庭の父の場合などは月額5万円
◆申請方法…
以下3つの工程です。
(1)トライアルの開始から2週間以内に実施計画書を提出
(2)トライアルとして原則3カ月間の有期雇用契約を実施
(3)トライアル終了後、正社員など期限の定めのない雇用に切り替わってから2カ月以内に、所定の支給申請書に添付書類を添えて申請
非正規社員を正社員化する時などに利用できるもの
⑤キャリアアップ助成金(正社員化コース)
◆目的…
主に非正規労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため
※正社員化コース以外にも全7つのコースが存在し、必ずしも新規採用しなくとも待遇改善をすれば受給できるものもあります。
◆支給内容…
<条件>正社員化コースは、有期雇用労働者などを正規雇用労働者などに転換または直接雇用した場合に支給(例.半年契約の非正規社員を正社員化)
<支給額>1名当たり最大72万円(種別と企業規模により変動)
◆申請方法…
以下4つの工程です。
(1)対象者の採用前に「キャリアアップ計画書」を提出
(2)対象者を非正規(有期雇用や派遣契約などで)で迎え入れる
(3)正社員などに転換もしくは直接雇用
(4)(3)の半年後、所定の支給申請書に添付書類を添えて申請
※②〜⑤に関する問い合わせ先
<厚生労働省HPより引用>
・労働局
・ハローワーク
・支給申請窓口
新型コロナ特例に関する人事・雇用系助成金

────新型コロナ特例に関する人事・雇用系助成金の種類と概要(目的・支給内容・対象条件・申請方法)を教えてください。
全国共通で申請できるもの
①雇用調整助成金※新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例
※令和2年9月30日まで特例措置が実施されています。
※随時更新されるため、最新の情報に関しては厚生労働省が発信する情報をご確認ください。
◆目的…
事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員の雇用を維持するため一時的な雇用調整(主に休業)を行う場合に、休業手当の一部を助成する制度です。
◆支給内容…
休業手当の場合、支払った手当の最大満額が支給(企業規模・解雇有無などによって条件が変わります)
※1人1日あたり15,000円が上限
◆申請方法…
以下3つの工程です。
(1)休業などの実施計画届を事前に提出
※令和2年8月現在、特例措置により①の手順「計画届の提出」は不要になっています。
(2)休業などの実施
(3)所定の申請様式に添付書類を添えて支給申請
②両立支援など助成金(介護離職防止支援コース)※新型コロナウイルス感染症対応特例
◆目的…
介護サービスが新型コロナウイルスの影響で利用できないor利用を控えるために家族の介護が必要となった労働者に対し、中小企業が法定の介護休業/休暇とは別に有給の休暇制度を新設するため
◆支給内容…
休暇が5日以上10日未満:20万円/休暇が10日以上:35万円※1企業あたり最大5人分まで申請可能
◆申請方法…
以下3つの工程です。
(1)休暇制度を新設し、社内に周知する
(2)労働者が休暇を実際に5日以上取得すること
(3)(2)を満たした翌日から起算して2カ月以内に所定の申請様式に添付書類を添えて支給申請
※休暇制度を就業規則に規定の上、休暇を取得する労働者の「介護支援プラン」を策定すると通常の「介護離職防止支援コース」も併給可能
③新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金
◆目的…
新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置として医師などから休業が必要とされた妊娠中の女性労働者が、安心して休暇を取得して出産し、出産後も継続して活躍できる職場環境を整備するため
◆支給内容…
休暇が5日以上20日未満:25万円/以降20日ごとに15万円加算1(上限100万円)※1企業あたり最大20人分まで申請可能
◆申請方法…
以下3つの工程です。
(1)令和2年5月7日から9月30日までの間に<休暇制度を新設し、労働者に周知する>
(2)令和2年5月7日から令和3年1月31日までの間に<休暇を合計して5日以上取得させる>
(3)令和3年2月28日までに<所定の申請様式に添付書類を添えて支給申請>
東京都の企業限定で申請できるもの
④東京都新型コロナウイルス感染症対策雇用環境整備促進奨励金
※こちらのみ、厚生労働省ではなく、東京都産業労働局の所管
※随時更新されるため、最新の情報に関しては東京都産業労働局が発信する情報をご確認ください。
◆目的…
雇用調整助成金などを利用し、非常時における勤務体制づくりなど職場環境整備に取り組む中小企業などを奨励するため
◆支給内容…
1回限り、10万円
◆申請方法…
以下3つの工程です。
(1)都内の中小企業であり雇用調整助成金など一定の要件を満たす助成金を受けていること
(2)テレワーク制度など非常時の雇用環境整備を行うなど「取組計画」を作成
(3)1カ月の取り組み期間中に計画通りの取り組みを実施し、実績を報告する
※①〜③に関する問い合わせ先
<厚生労働省HPより引用>
雇用調整助成金のお問い合わせ先一覧
※④に関する問い合わせ先
<東京都産業労働局HPより引用>
東京都産業労働局 雇用就業部労働環境課 雇用環境整備促進窓口
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/kansensyo/seibi-syorei/
電話:03-6205-6703

人事・雇用系の助成金を活用するためのポイント
────助成金を活用したい人事へのアドバイスがあれば教えてください。
まず意識していただきたいのは、助成金の情報収集から申請業務までを「人事担当者が単独で行うのはほぼ不可能」ということです。
本来この分野の専門家であるはずの社会保険労務士でも、助成金申請は得手不得手がはっきりと分かれており、ほぼ専門外の先生も多いのが実情です。
不正受給の厳罰化(企業だけでなく、申請に携わった社労士も処罰対象)に伴い、社労士が実態を把握していない企業の助成金申請をスポットで受注するのは、リスクもハードルも高くなってしまっています。
結果として怪しい(違法な)助成金ビジネスを手がける企業やコンサルタントが多数存在しており、注意が必要です。
上記の点から助成金を活用したい人事へのアドバイスは以下2点に集約されます。
①無理に自社で深入りして自己完結しようとせず、助成金制度の全体概要の把握に努める
②助成金について信頼をもって都度相談/情報共有することができる社労士(必ずしも自社の顧問とは限らない)や社外人事担当者との人的ネットワークを構築する
■合わせて読みたい「労務・総務」に関する記事
>>>戦略総務とは?能動的に生産性を上げるバックオフィスのあり方
>>>2023年4月に施行の「法定割増賃金率」の引上げとは?中小企業が準備すべきポイント
>>>「賃上げ促進税制」の控除率が2022年4月より引き上げ。変更内容をわかりやすく解説
>>>「時差出勤」ならではの強みを活かすためには
>>>「デジタル給与」が解禁。メリット・デメリットから国内動向まで解説。
>>>「労働組合」を理解し、人事としての役割と進め方を学ぶ
>>>「企業防災」に取り組むべき理由と対応方法について
>>>「社会保険適用拡大」の現状と今後の動向から人事の準備すべきこと
>>>「BCP(事業継続計画)」の設計・運用について
編集後記
人事や雇用に関する助成金が数多くあるだろうという認識はありましたが、本日お話をお伺いし、その種類の多さに改めて驚きました。そして支給内容・対象条件・申請方法などの複雑さが助成金利用の足かせになっていることは容易に想像できます。とはいえ、助成金を活用しないのはもったいない…。