「ジュニアボード」で次世代リーダーの育成と事業推進・組織活性化を両立させる方法とは
社内で選抜した若手・中堅従業員によって構成される疑似役員会を指す「ジュニアボード」。その中で自社の課題を考えることで経営参画意識の醸成や、新しい切り口からのアイデアによる改革の糸口を見つける手法として関心を持つ企業も出てきています。
今回は、「ジュニアボード」の概要やメリット、設計・運用ステップについて、戦略人事コンサルタントとして活躍する足立 裕亮さんにお話を伺いました。
<プロフィール>
足立 裕亮(あだち ひろあき)/戦略人事コンサルタント
人材育成企業の営業として大手・中小・ベンチャーまで幅広い企業の組織課題に対して人材育成支援を行い、10以上の業界・12,000人以上への成長機会をプロデュース。営業部門長として戦略立案からマネジメントも経験。2014年に研修講師・コーチとしての経験を元に独立。現在は、戦略人事コンサルタントとして人と組織の相互作用とビジネスの成長をつなげることに尽力している。
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目次
「ジュニアボード」とは
──「ジュニアボード」とはどのような取り組みかを教えてください。
「ジュニアボード」とは、若手・中堅従業員で構成される『擬似役員会』の制度です。具体的には、5~10名程度の若手・中堅従業員をプロジェクトメンバーとして選抜し、数カ月間かけて自社の経営課題を明確にしたり、その課題を元に業務改善提言や新規事業企画提案をしたり、といった取り組みを行っていきます。これにより次世代リーダー育成と、既存の枠を超えた革新的なアイデア創出や組織活性化などを両立させることができるのです。
なお、ジュニアボードの活動は多くの企業において『業務内活動』として扱われることが一般的であり、メンバーに選抜された場合、月1〜2時間程度の定例ミーティングや課題調査、資料作成などに時間を割くケースが多く見られます。期間としては、6ヶ月〜1年程度の中長期プロジェクト形式で実施されることが多く、本業と並行しながらも経営視点を実地で学ぶ貴重な機会と位置づけられています。
この「ジュニアボード」を導入する企業が出てきている背景には、以下の点があると考えています。
(1)後継者不足の深刻化
帝国データバンクが行った『全国「後継者不在率」動向調査(2024年)』によると、後継者不在率自体は過去最高を記録した2017年の66.5%から改善傾向にあるものの、実に52.1%(14.2万社)もの企業が『後継者がいない』または『後継者が未定』と回答しました。若手人材の早期育成・次世代リーダー輩出が多くの企業の課題となっている状況です。特に、日本企業の99%以上を占める中小企業では後継者不足が重大な経営リスクとなっていると言えるでしょう。

(2)経営人材育成の必要性
近年、VUCA(Volatility/変動性、Uncertainty/不確実性、Complexity/複雑性、Ambiguity/曖昧性)に変わる言葉としてBANI(Brittle/もろい、Anxious/不安、Non-Linear/非線形、Incomprehensible/不可解)という言葉が提唱されてきています。
この不安定な現代社会においては、経営視点(例:全社的な課題分析、意思決定力)を持った人材の育成が不可欠です。経営を意識しながら自分ゴトとして捉え、通常業務では習得が難しいこれらの能力を実践的な疑似体験を通じて養える施策として「ジュニアボード」が求められているのだと考えています。
(3)人的資本経営の推進
人材を資本と捉えてその価値を最大化する経営手法『人的資本経営』が重視される中、「ジュニアボード」は従業員の潜在能力を引き出し、エンゲージメント向上や組織変革を促す施策として考え、導入を進める企業も出てきている印象です。
「ジュニアボード」の導入メリット
──「ジュニアボード」の導入により組織が得られるメリットにはどのようなものがありますか。
「ジュニアボード」の導入によるメリットには、大きく以下3つがあると考えています。

(1)次世代リーダーの早期育成・意識改革
若手・中堅従業員が経営課題の分析や意思決定を疑似体験することで経営感覚(全社視点の課題分析・戦略策定力)が養われることにより、将来の幹部候補としての育成を加速させることができます。
また、「ジュニアボード」メンバーに選抜されることで自己効力感が高まることはもちろん、経営層への提案期間が与えられることによる自己成長意欲の高まり、現場業務への責任感や主体性の強化、自身の影響力の自覚によるリーダーシップ発揮なども期待できます。
(2)組織風土の刷新
「ジュニアボード」メンバーを部署横断で選抜することにより、縦割り意識が打破されて部門間コミュニケーションが活発化します。これにより硬直した組織風土の改善やオープンな意見交換が促進され、部門間連携の強化にもつながります。また、若手・中堅従業員のより消費者に近い視点や、現場のリアルな課題が経営層に直接伝わることにより、より実態に即した経営判断ができるようになるなどの利点もあります。特に、現場と経営の間で認識ギャップが大きい企業ほど気づきが大きく有効です。
(3)経営革新リスクの低減
「ジュニアボード」により若手・中堅メンバーの柔軟な発想を新規事業や業務改善に直接活用できるため、画期的なアイデアが生まれやすくなります。この視点は大企業だけでなく後継者不足に悩む中小企業でも有効です。また、業務改善提案などでは社内の潜在的な問題(例:業務効率低下、人材育成のボトルネックなど)が可視化されることにより、手遅れになる前に早期に対策を講じられるようになります。
「ジュニアボード」を効果的に活用するためのポイント
──この「ジュニアボード」をより実効的な取り組みにするためには、どのようなポイントに注意して導入・運用すれば良いでしょうか。
「ジュニアボード」をより効果的に活用するためには、以下5つの点に留意して導入・運用を進められると良いでしょう。
(1)目的設定とミッションの明確・具体化
何のために「ジュニアボード」を実施するのかといった目的や課題はもちろん、そこからブレイクダウンする形で活動テーマ(例:新規事業開発、業務効率化)を事前に定め、選抜メンバーが解決すべき課題を明確・具体化します。
曖昧なテーマは活動の迷走を招いてしまうため、経営陣との検討・合意を経て「ジュニアボード」の目的とミッションは明確にしておきましょう。同時に、そこから得られる成果についての目線合わせも必要です。最終的な提案の採択基準や経営層への報告フローを事前に決めておき、関係者に社内周知することで認識を統一しておくことが大切です。
(2)経営層の積極的関与
「ジュニアボード」の効果を最大化させる上で、経営陣の『本気度』はとても重要です。経営陣が定期的にミーティングに参加し、提案に対して本気かつ建設的なフィードバックを行えるかが「ジュニアボード」成功の重要な鍵になってきます。例え出てきた案が実現不可能なものだったとしても、その検討プロセスを評価する姿勢を示すなどすることにより、選抜メンバーの意欲を維持することも大切です。
また、提案の採否理由はできるだけ丁寧に説明すること、採用時は予算や権限を付与して実行段階まで支援すること、なども前提として経営層には取り組んでもらう必要があります。
(3)持続可能な運営設計
メンバーが成長し、「ジュニアボード」の成果が現れるまでには少なくとも半年~2年程度の期間が必要です。そのため、単年度ではなく複数期に渡るプログラムとして設計する必要があります。また、活動終了後も選抜メンバーの成長を追跡し、幹部候補としてのキャリアパス(例:異動・昇進)につながっているかを確認することが必要です。
さらに、継続的に実施する中で前年度参画メンバーを次年度にはメンターとして関わってもらうようにすると、より縦・横のつながりが深まって組織の中でも価値ある重要プロジェクトとしての認知が広まり、参画意識を高めることができます。
(4)チーム環境の最適化
「ジュニアボード」においては、時に実現不可能な案や突飛なアイデアが飛び交うこともあります。それらを頭ごなしに否定してしまっては、取り組みの効果を最大化することはできません。多様な意見を歓迎する風土づくりを徹底し、『突飛なアイデアも拒否しない』などのルールを明文化することで参加メンバーの心理的安全性を確保できるように配慮します。
また、複数部門から横断的にメンバー選抜を行うことにより、部門間の情報共有やネットワーク構築が促進されるような環境構築も行っておきましょう。
(5)育成機会との連動とプロセス重視の評価体系
「ジュニアボード」は育成の観点もあるものなので、提案の実現可否だけでなく、研修やアセスメントなどの機会も通じて論理的思考力やプレゼン能力の向上などプロセス面での成長も評価&フィードバックできる体制を整える必要があります。なお、評価体制を整える中で振り返るタイミングも事前に設定し、活動の中間段階で経営陣と進捗を共有して方向性のズレを早期修正できるようにすることも忘れてはいけません。

「ジュニアボード」の設計・運用ステップ
──「ジュニアボード」の設計・運用は、どのようなステップで進めていけると良いでしょうか?
企業の導入目的や課題によっても異なる部分はありますが、基本的には以下5つのステップで進めていけると良いと考えています。
(1)導入目的の整理方法
後継者育成・組織活性化・新規事業創出など、経営戦略・課題と直結した明確な目的を設定します。『次世代リーダーの実践的育成』や『現場視点の経営反映』に焦点を絞り、定量可能な目標(例:提案採択率30%以上など)を設定することが多い印象です。なお、ここで設定した目的・目標は経営陣・人事部門・現場責任者間でも共有し、合意形成の上で予算や権限の確保も行います。
(2)参加メンバーの選抜
目的が定まったら、それに即したメンバーを選抜します。その際、自薦と他薦(事業部長などの推薦)を併用すると、意欲と多様性の双方を確保できるためおすすめです。選抜基準としては、年齢・部署を横断した5~10名の構成が理想だと考えています(例:30代中堅+若手の混合)。
応募者多数となった場合の選考プロセスとしては、論文審査で論理的思考力を評価し、経営陣との面接を経て経営視点への適性を確認できると良いでしょう。なお、これらの選考基準は事前に公開しておけると選考の公平性確保につながります。
(3)テーマを決める
経営陣が意見もしくは提案を求める形で、中期経営計画の具体化・部門横断の業務改善・新規事業創出など解決可能性のある課題に限定すると良いでしょう。過度に抽象的なテーマ(例:会社の未来など)は避け、3カ月〜1年ほどで成果を出せる範囲に設定するイメージです。
なお、テーマ検討の具体的な手法としては『SWOT分析』が活用できます。SWOT分析とは、企業やプロジェクトの強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を評価する手法であり、戦略策定や意思決定のために内部と外部の要因を分析するものです。これにより課題を優先順位付け、バックキャスティング(理想像から逆算)で実行計画まで定めます。

(4)活動プロセス設計
テーマが決まったら、どのようなプロセスで活動しアウトプットを出していくのかを定めます。このあたりは目的によってさまざまですが、例えば以下のような形でプロセスを設計していきます。
①月1回ミーティング:事前課題(調査・テーマ検討など)→ インプット(経営知識等)→ グループ討議
②中間報告会:経営陣へ進捗をプレゼンし、必要に応じて方向性を修正
③最終答申:全メンバーもしくはチーム単位で提案書とアクションプランを作成しプレゼンを行う
なお、活動プロセスに則ってミーティングなどを行っていくにあたり、重要なのがファシリテーションです。特に、新規事業や業務改革といった高度なテーマに取り組む場合には、メンバーの意見を引き出し、方向性を整理しながら議論を前進させるファシリテーターの存在が不可欠です。
場合によっては、進行役を人事部門が担うのではなく、外部のファシリテーターに委託するケースもあります。その際は、単なる会議進行のスキルだけでなく、新規事業などのテーマに関して知見があるか、経営層とメンバー双方と適切な距離感で関われるファシリテーション能力があるかなども含めて選定するとよいでしょう。
適切なパートナーを選定することで、参加メンバーの成長とアウトプットの質の両立が可能となり、ジュニアボードの成果をより効果的なものにすることができます。
(5)成長機会の創出・客観的視点の強化
大まかなプロセスを設計できたら、そこに成長機会や客観的視点をどう入れ込むかを検討します。具体的には、以下のようなタッチポイントがあります。
①研修実施:数カ月単位で推進に必要な経営知識やポータブルスキル強化などの研修
②アセスメント:研修と絡めてプロセスの前半と後半とでアセスメント実施。成長・変化の可視化、客観的視点を強化
③コーチング:アセスメント後や中間発表後などで外部コーチとの個別面談をセットすることにより、経験学習サイクルを加速させる
さらに、活動の成果を昇華させるための体制についても事前に検討しておきます。具体的には、経営陣で提案内容を検討・精査し採択結果発表をした後、採択された案件でプロジェクトチームを結成して、「ジュニアボード」メンバーを実行責任者に据えて実際に進めていきます。なお、未採択案件においてもプロセスを評価し、人事考課に反映するなどの対応も合わせて検討しておききましょう。
「ジュニアボード」の導入事例
──足立さんが実際に「ジュニアボード」導入を支援された事例について、その経緯や工夫された点、効果などについて可能な範囲で教えてください。
ある大手物流企業にて「ジュニアボード」を導入・運用した事例についてご紹介します。この大手物流企業では次なる成長を見据えた際に以下の点が課題となっていました。
・30代中堅層の経営視点や視座の育成が十分に進んでおらず、将来の幹部候補層に対する実践的な成長機会が不足していた
・既存事業の枠組みを超えた新しい収益源の創出が急務であった一方で、社内からの事業アイデアが限定的だった
・現場と経営層とのコミュニケーションが限定的で、組織内に距離感や断絶が生じていた
そのため、上記の課題解決を目的として以下の3つの目標を設定し、その手段として「ジュニアボード」の導入を決定しました。
(1)次世代リーダーの実践的育成(特に30代中堅層の経営意識への醸成)
(2)新規事業創出(若手視点での事業アイデア発掘)
(3)組織活性化(現場と経営陣の距離感短縮)
この目的を果たすために、メンバー選定は入社10〜13年目(32〜35歳)の中堅従業員を対象に、部門長推薦と自薦の併用(推薦理由の明文化は必須)して、営業・物流オペレーション・IT・人事・経理などの全部門から選抜する形で多様性を確保できるようにしました。
次に、「ジュニアボード」のテーマ・活動設計です。目的の1つに『新規事業創出』があるため、そこを焦点としてテーマ設定を行いました。この際、過度に抽象的にならないよう、以下3つを重視するなどの工夫をしています。
(1)中期経営計画の重点テーマに合致すること
(2)収益計画も含めた事業計画まで策定すること
(3)企画提言後は、提言内容を経営陣で検討し、採択可否を判断すること
なお、段階的なプロセスは以下のように設計しました。
・準備期間(2カ月間):経営戦略・ロジカルシンキング研修・アセスメントの実施
・検討期間(3カ月間):月2回のミーティング、市場調査、顧客ヒアリング、企画検討
・中間報告(1カ月間):経営陣への進捗プレゼンと方向性調整&アセスメントの実施
・最終答申(3カ月間):事業計画書とアクションプランの具体化、最終プレゼン
これらの取り組みの結果、最終プレゼンを経て1つの革新的な提案が生まれました。その後、経営会議にて事業化が決定し、15年経った今でも世界的にその事業は継続し拡大を続けています。この新規事業創出の成功以外にも、「ジュニアボード」は組織全体に以下のような構造的変化をもたらしてくれました。
・経営陣の意識変革(若手の斬新な発想から事業化につながった成功体験から、新規事業検討の際に若手の意見を聞くようになった)
・現場のモチベーション向上(「ジュニアボード」を5年間継続したことで、自分のアイデアが経営に反映される可能性への期待から「ジュニアボード」への応募数・参画意識が高まった)
・人材育成の加速(次世代リーダー育成が大幅に前倒しとなった)
・部門間連携の強化(「ジュニアボード」の参画メンバーや卒業生での意見交換が促進され、部門間連携が強化された)
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編集後記
人材不足が加速し、後継者不足についても深刻化してきている今、次世代リーダーの育成は経営上の優先課題です。その解決策の1つとして「ジュニアボード」は有効な手段であり、新規事業創出や組織活性化などの効果も期待できる点は非常に魅力的だと感じます。経営陣が覚悟を持って本気度高く長期的に取り組む必要はありますが、それだけの価値があるものだと言えるのではないでしょうか。
















