「組織社会化」とオンボーディングはどう違う?定着しやすい組織を作るためには
新しくチームに加入した社員が、いち早くチームに馴染めるようにするプロセスである「組織社会化」。似た取り組みにオンボーディングや入社研修などがありますが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。
今回は、freee株式会社にて上場に伴う組織拡大を支える人事制度改革や人材育成、カルチャー浸透をリードした経験を持つ株式会社UnleashU 代表取締役の秋山 詩乃さんに、「組織社会化」の概要から設計プロセスに至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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秋山 詩乃(あきやま しの)/株式会社UnleashU 代表取締役
freee株式会社にて人事企画を担当。上場に伴う組織拡大を支える人事制度改革や人材育成、カルチャー浸透をリード。その後独立しUnleashUを設立。「学びで生きるを自由に。」をミッションに、大人が熱中するリーダーシップ開発のラーニングプログラムを提供。立教大学大学院 人材・組織開発研究科修士。
目次
「組織社会化」とは
──「組織社会化」の概要について教えてください。
まず、『社会化』とは子どもやその社会への新規参入者(例:留学生や転校生など)が、その社会の文化・価値観・規範を身につけることを意味します。遺伝子によって先天的に獲得したものではなく、学習により後天的に獲得されるものです。今回のテーマである「組織社会化」は、この『社会化』の下位概念にあたり特定の組織に『社会化』することを「組織社会化」と呼びます。
この「組織社会化」は以下のように定義されています。
『組織への新規参入者が、組織の一員となるために、組織の規範・価値観・行動様式を受け入れ、業務遂行に必要な技術を獲得し、組織に適応していく過程』
※参考:『The Effects of Met Expectations on Newcomer Attitudes and Behaviors: A Review and Meta-Analysis』John P. Wanous and Timothy D. Polandからの和訳
この定義を踏まえると、オンボーディングは「組織社会化」を進めるための施策そのものと言えます。メンバーが組織に馴染み、1人前として成果を出せるようになるために企業は早期活躍を目指してさまざまなオンボーディング施策を行っています。
また、オンボーディングに次いで入社研修も「組織社会化」の文脈で対比されることがあります。研修の有効性に疑問を持たれている方からの相談も多くいただくのですが、入社研修もオンボーディングの一部に過ぎません。セキュリティやコンプライアンス、会社ミッションなど誰に対しても同じ情報をしっかりと伝えたい時は研修形式がベストです。研修とオンボーディングの目的と概要の違いはそれぞれ以下の通りです。
<研修>
・業務に必要な知識のインプットが目的
・1対複数の一時的な関わり(講義型)
・全員一律プログラム
<オンボーディング>(組織社会化を進めるための施策)
・会社に慣れて成果を出せることが目的
・会社とメンバー間の一連のプロセス
・特性や状況に応じてカスタマイズ
「組織社会化」が必要な場面
──この「組織社会化」が企業や組織で必要になるのはどのようなシーンでしょうか。
新しい環境に人が参加するときには漏れなく「組織社会化」が必要となります。具体的なシーンとしては、新卒・中途社員の入社、人事異動、育休・産休からの復帰、上司の変更、新しいプロジェクトへのアサインやオンボーディングなどがあります。特にオンボーディングは「組織社会化」において非常に重要なシーンです。
オンボーディングを通した「組織社会化」に有効な要素が、対象となる社員の経験レベルによって異なるということがわかりました。freee株式会社で入社オンボーディングを担当していたときに行った調査を基に、新卒社員・ミドル社員(社会人2~8年目まで)、シニア社員(マネジャーやリーダー職で入社する方)に分けて、それぞれについて以下に説明します。
新卒社員
プロアクティブ行動(自律的に物事を調べたり、人に聞いたり、ルールや仕組みを変えたりなどの変革行動)がある人ほどオンボードしやすいことがわかりました。右も左もわからないながらも、何かやってみてトライアンドエラーできる環境を作ることが新卒社員にとっては重要です。
ミドル社員(社会人2~8年目まで)
役割的社会化・情緒的コミットメント(自分が好きでその会社・組織に貢献している、働いているという主観的な思いのこと)・成果に必要なコミュニケーションがオンボーディングに有効だとの結果が出ました。ミドル社員は新卒社員と比べて一定スキルがあり自由に動けるため、その中で成果に必要なコミュニケーションが活発になるような環境づくりがポイントになります。例えば、朝会・夕会で必ずわからないことをその日中に解決できるようにするなども良い方法の1つです。
シニア社員(マネジャーやリーダー職で入社する方)
情緒的コミットメント、プロアクティブ行動がオンボーディングに有効だとの結果が出ました。マネジャーやリーダーとして入社する方が多いため、すぐに成果を求められるのがシニア社員の特徴です。その中で成果につながる自律的な行動を加速するためには、仕事でよく絡みそうな人を周囲の人間がお節介してつなげてあげる(仲人的な動き)が大事になってきます。
このような特徴を踏まえてオンボードを行い、それにより「組織社会化」を推進することが重要です。
「組織社会化」の構成要素
──「組織社会化」を分解するとどのような要素で構成されているのでしょうか。
「組織社会化」の要素は一般的には以下の3つの領域があります。
文化的社会化
組織の価値観や行動規範を理解し、体現するプロセスです。ミッション・ビジョン・バリュー(以下MVV)、その会社の雰囲気などに馴染むまでの過程を指します。
職務的社会化
仕事に関する知識やスキル獲得プロセス、会社独自のお作法、業界や顧客を理解することを指します。ここが一番業務に直結する概念です。
役割的社会化
会社や上司、周囲からの自分自身への期待値を理解するプロセスです。ここは少しイメージしづらいかもしれませんが、具体例を挙げると以下のようなものです。
・(明確なポジションではないが)リーダー的立ち回りを期待される
・知識はないが臆せず質問することで他チームメンバーが人に教えるという行為を通して成長するように期待される
など
・キャラクターや業務外のロールとしての期待値(ムードメイカーなど)
「組織社会化」の方法・施策
──自社でこの「組織社会化」を設計しようと考えた時に、どのような方法・施策で進めるとよいでしょうか。
「組織社会化」の設計を進める前に理解しておきたいことは、オンボーディングが必要な従業員に対するモニタリングリフレクション(上司が部下の様子を定期的に観察し、都度リフレクションを促すこと)が「組織社会化」において最も有効であるということです。そのためにも、「組織社会化」を促したい従業員と上司との定期的な面談の場をセットし、それが適切に運用されているかどうかを人事がチェックできる仕組みを作ることが望ましいと考えています。
この前提を踏まえた上で、「組織社会化」を設計する方法には、以下の方法や施策があります。
方法:人事制度などに組み込む
方法 | 文化的社会化 | 役割的社会化 | 職務的社会化 |
評価制度:組織への適応度を評価項目に含める | 〇 | 〇 | 〇 |
キャリア開発プログラム:組織の価値観に沿ったスキル開発を奨励する | 〇 | 〇 | |
メンター制度:経験豊富な社員が新入社員をサポート | 〇 | 〇 | 〇 |
ローテーション制度:様々な部署を経験することで組織全体の理解を深める | 〇 | 〇 | 〇 |
表彰制度:組織の価値観を体現する行動を評価し表彰する | 〇 | 〇 |
「組織社会化」は、人事制度に組み込んで設計することで、継続的かつ体系的なアプローチが可能になります。具体的には以下のような制度です。
※()内はそれぞれの取り組みが繋がる3つの社会化を記載。
1. 評価制度:組織への適応度を評価項目に含める(文化的・役割的・職務的社会化)
2. キャリア開発プログラム:組織の価値観に沿ったスキル開発を奨励する(文化的・職務的社会化)
3. メンター制度:経験豊富な社員が新入社員をサポートする(文化的・役割的・職務的社会化)
4.ローテーション制度:様々な部署を経験することで組織全体の理解を深める(文化的・役割的・職務的社会化)
5. 表彰制度:組織の価値観を体現する行動を評価し表彰する(文化的・役割的社会化)
これらの制度を通じて、従業員は組織の期待に沿った行動や成長を意識するようになります。
施策:オンボーディングセッション
施策 | 文化的社会化 | 役割的社会化 | 職務的社会化 |
会社の歴史、ミッション、ビジョン、価値観の共有 | 〇 | ||
組織構造と主要部門の役割の説明 | 〇 | ||
社内システムやツールの使用方法の指導 | 〇 | ||
社内コミュニケーションの特徴や暗黙のルールの紹介 | 〇 | ||
先輩社員との交流 | 〇 | 〇 | 〇 |
オンボーディングセッションは、新入社員など組織への新規参入者が組織に円滑に適応するための重要な機会です。これには以下の要素を含めることが効果的です。
1. 会社の歴史、ミッション、ビジョン、価値観の共有(文化的社会化)
2. 組織構造と主要部門の役割の説明(役割的社会化)
3. 社内システムやツールの使用方法の指導(職務的社会化)
4. 社内コミュニケーションの特徴や暗黙のルールの紹介(文化的社会化)
5. 先輩社員との交流(文化的・役割的・職務的社会化)
これらのセッションを実施することで、新入社員など組織への新規参入者は徐々に組織の文化や自身への期待を理解して適応していくことができるようになります。
施策:社内イベントの実施
施策 | 文化的社会化 | 役割的社会化 | 職務的社会化 |
オフサイトミーティングや忘年会:部門を超えた交流を促進 | 〇 | ||
アイデアソン・ハッカソン:創造性と協働を奨励 | 〇 | 〇 | |
社内発表会:成功事例や学びを共有 | 〇 | 〇 | 〇 |
創立記念日イベント:会社の歴史や伝統を学ぶ | 〇 |
定期的な社内イベントの実施は、組織文化や価値観を体験的に学ぶ機会となります。具体的には以下のような機会提供です。
1. オフサイトミーティングや忘年会:部門を超えた交流を促進(文化的社会化)
2. アイデアソン・ハッカソン(※):創造性と協働を奨励(文化的・職務的社会化)
3. 社内発表会:成功事例や学びを共有(文化的・役割的・職務的社会化)
4. 創立記念日イベント:会社の歴史や伝統を学ぶ(文化的社会化)
※アイデアソンとは、『アイデア』と『マラソン』が掛け合わさってできた造語です。決められた時間の中でグループごとにアイデアを出し合い、ブラッシュアップさせて結果を競います。
※ハッカソンとは、プログラムの改良を意味する『ハック』と『マラソン』を組み合わせた造語です。チームを組み、与えられたテーマに対して一定期間内にソフトウェアやサービスを集中的に開発する形で競い合います。
これらのイベントを通じて、従業員は組織の一員としての帰属意識を高めながら共通の経験を積むことができ、結果として「組織社会化」の促進に繋がります。
これらの方法を効果的に組み合わせ、継続的に実施することが重要です。また、定期的に効果を測定し、フィードバックを収集してプロセスを改善していく必要があります。「組織社会化」は一朝一夕にはできませんが、適切なプロセス設計と継続的な取り組みにより、新規参入者がスムーズに組織に溶け込み、生産性の高い組織文化を醸成することができるでしょう。
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編集後記
「組織社会化」が進むことにより新入社員の早期戦力化はもちろん、離職リスクの軽減や生産性向上などの効果も期待できます。しかしながら近年ではリモートワークなどの弊害もあり、うまく「組織社会化」を進められていない企業も多いと感じます。文化・職務・役割の3つの分類にも着目しながら、自社にあったオンボーディングや研修を模索していきたいところです。