【イベントレポート】人事におけるAI活用/CORNER DAY Vol. 22
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ChatGPTの登場から約2年。生成AIは人事領域でも注目を集め、採用・育成・評価・労務といった多岐にわたる業務に変革をもたらす可能性を秘めています。一方で、人事部門だからこそ抱える疑問も少なくありません。AI活用を個別業務にとどめず、生産性やクリエイティビティの観点から組織全体にどう展開していくか。また、セキュリティリスクや精度の課題をどのように捉えるか。これらは、多くの人事責任者が直面しているリアルなテーマです。
CORNER DAY Vol.22(2025年9月17日実施)では、『人事におけるAI活用』をテーマに、株式会社Progate 取締役の宮林様からの実践事例紹介を起点に、参加者が以下の4つの問いについて意見を交わしました。
<問い>
(1)現在の人事業務で課題に感じている領域は?
(2)生成AIを活用して「何を解決したいのか」
(3)AI導入にあたって何から着手すべきか?
(4)不安やリスクがあるとすればどう取り除けるか?
今回は事例共有のサマリー、本イベントに参加した人事責任者・担当者・スタートアップ経営者(計22名)のディスカッションのハイライトをご紹介します。
目次
事例共有:株式会社Progate 宮林様より
まずはじめに、株式会社Progate 取締役COO の宮林卓也様より、同社におけるAI活用の事例をご紹介いただきました。
宮林様は、大手企業での営業経験を経て、人材系ベンチャーで経営管理部長として人事・財務を担当。その後、スタートアップ ZUU でIPOを経験し、2019年にProgateへ参画。組織づくりや海外展開に携わり、現在は取締役に就任。大手とスタートアップの両方の経験を活かした組織の成長戦略を実践されています。
セッションの冒頭では、「AIは目的ではなく、組織の成長や事業成果を実現するための手段に過ぎない」というメッセージが投げかけられ、人事におけるAI活用も“流行だから導入する”のではなく、人の価値最大化という人事の本質に結びつける必要があると強調されました。
続いて、Progateでの実践事例が共有されました。
・採用領域では、世界350万ユーザーの学習データから上位1%を抽出し、マッチングの精度を高める取り組みを展開。効率化だけでなく、候補者と企業双方の満足度向上につながっている。
・営業支援では、若手とマネージャーの成約率に大きな差がある課題に対し、商談先リサーチをAIで自動要約し、朝会でブリーフィングする仕組みを導入。業務プロセスをAIに合わせて再設計することで、組織全体の底上げに成功した。
・評価・育成領域では、GitHubやAsanaのログをもとに自己レビューをAIが下書きし、等級要件に基づいたフィードバックを提案。マネジメントの属人化を防ぎ、負担を軽減しながら、マネージャーの育成支援にもつながっている。
これらの事例を通じて示されたのは、「AIを業務に無理やり適用するのではなく、業務自体をAIが活きる形に設計し直すことが重要だ」という視点でした。この考え方は、その後の参加者ディスカッションでもたびたび引用され、議論を深める出発点となりました。
現在の人事業務で課題に感じている領域
事例共有の内容も参考に、6つのグループに分かれてディスカッションを行いました。ここからはそのハイライトをご紹介します。
最初の問いでは、AI導入を検討する前提として、人事業務で直面している課題について次のような意見が出されました。
・評価・フィードバックの属人化
マネージャーによって評価基準や頻度が異なり、特に若手やミドル層にとっては、フィードバックの不公平感がモチベーション低下につながる。
・規程や知識参照の負荷
規程や制度や、様々なケースでの解釈の正しさを確認するのに時間がかかり、労務の担当者に負担になっている。
・採用の効率化と候補者体験の両立
「自動化を進めると候補者への配慮が薄れ、体験が劣化する恐れがある」という懸念。効率と“人の温かみ”をどう両立させるかが採用現場に共通する悩み。
・全社的な導入のばらつき
AI活用が進む部門と慎重に構える部門で格差が生まれ、全社的な一体感をどう作るかが課題。
こうした議論を通じて浮かび上がったのは、「人事の業務効率化」と「人らしさを支える役割」との間で揺れる構造です。効率化だけを追えば信頼や体験が損なわれる可能性があり、逆に人らしさを優先しすぎれば負荷が高止まりしてしまう。AI導入の前提には、このジレンマをどう乗り越えるかという問題意識があることが確認されました。こうした課題意識を踏まえ、次に「AIで何を解決したいのか」という議論につながっていきました。
AIを活用して解決したいこと
続く問いでは、AIにどのような役割を期待するかという点で意見が集まりました。複数名から上がっていたものを紹介します。
<解決したいこと>
・マネジメント支援の常時化
1on1やフィードバックの観点をAIが提案し、属人化の解消と会話の質の向上が期待される。AIを“マネージャーの伴走者”と位置づけるような発想。
・知識検索と意思決定の高速化
規程やナレッジを即座に参照できる体制を整える。現場の“待ち時間”を減らし、人事の信頼性を高める。
・採用の質と効率の両立
候補者対応の抜けもれのチェックや面接評価の標準化など、候補者体験を損なわない補助線としてAIを活用する。
・定型業務の省力化
議事録や資料作成など付加価値は低いが負担が大きい業務をAIに任せ、人事担当者がより戦略的な業務に集中できるようにする。
特徴的だったのは、「AIが出したフィードバック案をそのまま使うのではなく、人が最終的に意味づけして届けるべき」という共通認識です。つまり、AIは人事の役割を代替するのではなく、人事が持つ“判断の力”を強化するパートナーとして現時点では位置づけられていました。
AI導入にあたって着手すべきこと
続いての問いでは、AI導入を実務に落とし込むための「どこから始めれば良いか」が議論され、次のような意見が挙がりました。
・小さく始めて横展開
議事録作成や壁打ちなど定型業務で成功体験を重ね、社内展開・浸透へ。
・業務の再設計
従来のフローに落とし込むのではなく、AIが組み込みやすいプロセスに業務を作り替える。
・ナレッジベースの整備
AIを正しく機能させるために、等級要件や評価基準などを構造化して格納し、AI活用の土台とする。
・運用ガイドライン・教育体制
ツールの選定以上に「どう使うか」「誰が責任を持つか」を決める仕組みが必要。
・リスキリングと職務再設計
効率化によって余剰が生まれる分、職種やスキルの再定義をセットで行う。
導入のポイントとして、複数のグループで共通して「単発的な実験で終わらせず、持続的に使える仕組みに落とし込むことが重要」という声が多く挙がりました。これは、業務に根付いたものでなければ形骸化しやすく、成功体験が広がらないという懸念からです。また、「半年ごとにAIモデル(ChatGPTやGeminiなど、基盤そのもの)が進化して性能や回答傾向が変わるため、使い方が人によってばらつかないように運用ルールの整備が欠かせない」との意見もありました。
さらに、AI導入を人材戦略の見直しと一体で捉える必要性も議論されました。効率化によりコスト部門の業務が縮小すれば余剰人材が生まれる可能性があります。その際は「プロフィット部門へ配置転換し、成果を出せる状態に再設計することが次の課題」とされました。着手すべきことは、単なるツール導入ではなく、仕組みと戦略を同時に描くことがAI活用を組織全体に活かすために不可欠だという認識がまとまりました。
不安やリスクを取り除く方法
最後の問いでは、AI導入に伴う不安やリスクについても意見が交わされました。
・候補者体験の劣化防止
自動返信や自動面接官評価を入れすぎると候補者の冷たさが出てしまうため、人が介在する接点を設計する必要
・誤解や誤読リスクフォロー
制度解釈の回答には原文リンクや根拠を添えるなど、透明性や再現性を担保する工夫があると良い。
・評価・育成の責任設計
「AIは下書きまで、最終判断は人が行う」といった線引きで責任設計を徹底することで責任の所在を明確にする。導入への安心感にもつながる。
・全社的なガバナンス
点的な活用で終わらせるのではなく、ルールづくりや教育投資によって全社的なガバナンス設計が不可欠。
特に印象的だったのは、「AIに置き換わるのではなく、人が担うべき領域を定義する設計が信頼の鍵になる」という共通認識です。効率化や省力化を追い求めるのではなく、候補者体験や評価の納得感といった領域は、人間の観察や洞察の介在してこそバランスが保たれます。不安やリスクを取り除くためには、「人にしか担えない部分とAIの役割をどう線引きするか」を明確にし、自社としてのポリシーを定めることが重要だとされました。
参加者の声
議論を終えた後の感想共有では、AI活用の可能性と課題に対する率直な意見が多く寄せられました。参加者の声の一部をご紹介します。
『改めてAI活用の目的に立ち返って考える必要があると思いました。AI活用は業務効率化、生産性向上が目的になりがちですが、本質的には、人による揺らぎをなくすことに価値があるのではないかと思いました。』
『AI活用はありたい組織ケイパビリティを最速、かつ、持続的に実現していくための手段になりうるのだと思いました。実際に取り組み事例をお聞きすることができて、本当に有意義でした。』
『何を目的にどの要件をAIで満たすのかを明確にすること、当社では戦略実現を高めるためにできることが多々あると学びになりました。AIがどこまで人材マネジメントで活用できるかが未知でしたが評価活用の事例をみて、インプット、アウトプットを仕組み化・継続・改善することで効果的な活用ができることも学びになりました。』
まとめ
今回のディスカッションを通じて浮かび上がったのは、「効率化のその先を描く力」が人事に問われている点です。効率化や省力化にとどまらず、評価やフィードバックの平準化、候補者体験の質向上、ナレッジ活用による意思決定の迅速化など、人事の基盤そのものをどう再設計するかという議論に発展していた点が特徴的でした。
「AIに任せる領域」と「人が担うべき領域」の線引きを明確にすることで、人事としての意思決定と意味づけを守ることが、信頼を伴う導入の鍵になりそうです。
CORNER DAYは今後も、こうした先駆的テーマの議論と実践を通じて、事業と組織のUPGRADEに貢献してまいります。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 22:参加者一覧>※50音順
飯田 竜一氏(株式会社企画人事)
上田 明良氏(株式会社エニトグループ)
小金 蔵人氏(資生堂ジャパン株式会社)
沢口 昌裕氏(テクマトリックス株式会社)
土志田 泰久氏(株式会社フォトクリエイト)
永井 慎也氏(株式会社ユーグレナ)
中野 雄介氏(株式会社iCARE)
林 英治郎氏(LINEヤフー株式会社)
平岡 いづみ氏(サグリ株式会社)
宮田 ゆかり氏(株式会社クラッソーネ)
森 智子氏(株式会社キタムラ・ホールディングス)
吉田 有里恵氏(Findy株式会社)
ほか複数名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル
CORNER DAY vol.14:MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス
CORNER DAY vol.15:成長実感に溢れる組織にするには
CORNER DAY vol.16:事業成長とともにアップデートする価値観と行動様式とは
CORNER DAY vol.17:人事は事業に対してどこまで踏み込むか
CORNER DAY vol.18:次世代幹部人材の発掘
CORNER DAY vol.19:中長期の事業を考えた際の人事体制
CORNER DAY vol.20:これからのミドルマネジメントの役割と人事としてできること