「ブリリアントジャーク」が組織にもたらすリスクと対処法
皆さんの身の回りに『優秀で成果は出すものの、協調性に欠け、周囲へ悪影響を与えてしまう人』はいませんか? こうした存在は「ブリリアントジャーク」と呼ばれ、Netflixがカルチャーデックの中で『ブリリアントジャークは容認しない。チームワークに対する代償があまりに大きいからだ』と明言したことで、この概念が広く知られるようになりました。
今回は、人材育成・組織開発の専門家として活躍されているパラレルワーカーの方に、「ブリリアントジャーク」の定義から組織にもたらすリスク、具体的な対処法(向き合い方)までを詳しく伺いました。
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人材育成・組織開発の専門家として独立。企業の階層別研修を中心に、新人から管理職・役員層まで幅広く支援。顧客ニーズに応じた研修設計により、継続的なリピートを獲得している。評価者として昇進昇格アセスメントにも従事し、組織の人材選抜にも深く関わる。現在は現状分析に基づく課題特定から、育成体系構築・マネジメント強化・組織開発まで、企業の成長を支える伴走支援を行っている。
目次
「ブリリアントジャーク」とは
──「ブリリアントジャーク」とは、どのような人物像(行動・態度)を指す言葉なのでしょうか?
「ブリリアントジャーク」とは、brilliant(優秀、輝かしい)とjerk(嫌なやつ)を組み合わせた造語であり、高い専門性や成果を発揮しながらも協調性や他者への配慮に欠けることで組織に悪影響を及ぼす人物を指します。個人としては優れた成果を上げる一方、周囲との関係を損ねてしまい、最終的には組織全体のパフォーマンス低下につながる点が特徴です。
短期的には成果が評価されがちですが、その振る舞いを放置するとチームの心理的安全性が低下し、メンバーが意見を言いづらくなるなど、協働に欠かせない基盤が崩れかねません。実務の現場でも、以下のような「ブリリアントジャーク」に典型的な行動が散見されます。
・専門性を盾に他者の意見を否定し、一方的に議論を進める
・チームで合意した方針を無視し、独断で行動する
・他者の貢献を軽視し、自分の成果ばかりを強調する
・ミスが発生した際に責任を他者へ転嫁する
など
これらの振る舞いは周囲からの信頼を損ない、チーム内のコミュニケーションを滞らせ、結果として創造性や問題解決力の低下を招く要因となります。このような人物が許容される環境では『成果さえ出せば何をしてもよい』という誤った価値観が組織文化として定着しやすく、長期的には優秀な人材の離職や組織文化の劣化を招きます。
どれほど個人の能力が高くても、協働が機能しなければ組織全体の成果は最大化されません。そのため、「ブリリアントジャーク」という概念を正しく理解し、適切に向き合うことが、健全で持続的な組織運営を実現する上で不可欠なのです。
「ブリリアントジャーク」が組織にもたらすリスク
──「ブリリアントジャーク」は短期的には『成果で組織に貢献している存在』と評価されがちですが、中長期的に放置した場合では組織にどのようなリスクが生じると考えられますか?
「ブリリアントジャーク」を放置すると、短期的な成果以上に深刻な組織リスクを招きます。攻撃的な態度や独断的な行動によって心理的安全性が損なわれ、周囲のメンバーが意見を言いづらくなることで、チーム全体の創造性や問題解決力が低下してしまいます。特に優秀な人材ほど、環境への不信感やストレスを抱えやすく、結果的に離職につながる可能性も高くなります。
さらに、協働が機能しなくなると業務の属人化が進み、特定の個人に過度に依存した脆弱な体制が生まれます。その結果、組織としての再現性や持続性が損なわれていきます。『成果さえ出せば何をしてもよい』という誤った価値観が組織文化に浸透してしまうと、規律や倫理観が揺らぎ、長期的には組織文化そのものの劣化を引き起こします。
こうしたリスクを理解する上で重要なのは、『個人の成果とチームとの関係性は切り離せない』という点です。どれほど高い成果を出す個人がいても、周囲との信頼関係が崩れていれば協働は成立せず、結果としてチーム全体の成果を押し下げてしまいます。一方で、良好な関係性が築かれた組織では、知識共有や相互支援が自然と生まれ、個人とチームの成果が相乗的に高まっていきます。
つまり、個人の能力だけでは組織の力は最大化されず、『関係の質(※)』こそが成果を左右する鍵となります。こうした相互作用を正しく理解し、適切に向き合うことが、組織の力を持続的に引き出すために欠かせません。
※関係の質とは、ダニエル・キム氏が提唱した成功循環モデルにおいて、思考・行動・結果の質を高めるための土台となる最も重要な要素のこと。具体的には、心理的安全性が高く、意見やアイデアが自由に交換され、互いを尊重し合える雰囲気のことで、これが『思考の質』→『行動の質』→『結果の質』へと好循環を生み出す起点となります。

「ブリリアントジャーク」が生まれてしまう要因
──「ブリリアントジャーク」が生まれてしまう要因を、個人の資質ではなく組織側の構造・マネジメントの観点から整理するとどのような点が挙げられるでしょうか?
「ブリリアントジャーク」が生まれる背景には、個人の性質だけでなく、組織の仕組みやマネジメントのあり方が深く影響しています。中でも代表的な要因が『成果偏重の評価制度』です。個人の成果ばかりが過度に重視され、協働姿勢や周囲への影響が評価項目に含まれない場合、『成果を出している限り、どんな振る舞いも問題視されない』という誤ったメッセージが組織に浸透してしまいます。その結果、協調性に欠ける行動が見過ごされ、問題行動が常態化していくのです。
実際の現場では、マネージャーが問題を認識していても、『優秀な人材を失いたくない』という心理や、対処の難しさから介入を避けてしまうケースがよくあります。また、マネージャー自身がフィードバックや対話のスキルに自信が持てず、行動面の課題に踏み込めない場合もあります。さらに、業務が属人化している組織では特定の個人に依存した体制が生まれ、その人物の影響力が過度に強まることで横柄な態度や独断的な行動が黙認されやすくなります。
「ブリリアントジャーク」が見過ごされるもう1つの要因として『組織の心理的安全性の低さ』が挙げられます。意見が言いづらい環境では周囲のメンバーが問題行動を指摘できず、『自分さえ我慢すればよい』と受け止めてしまい改善機会が失われてしまうためです。専門性の高さを背景にした“個性”として問題行動が正当化されるケースもあり、組織として何が許容されるべきかという判断が曖昧になることもあります。価値観や行動規範が明文化されていない組織では、許容範囲が不明瞭なため、結果的に問題行動が放置されやすくなります。
このように、「ブリリアントジャーク」は個人の問題というより、組織の制度や文化が生み出す構造的な現象として捉える必要があります。組織が何を評価し、どのような行動を許容するのかは、日々のマネジメントの積み重ねによって形作られます。だからこそ、構造的な見直しと適切な介入が求められるのです。
「ブリリアントジャーク」との向き合い方
──「ブリリアントジャーク」への対処を考える際、その要因が本人にあるのか組織環境にあるのかはどう見極めたら良いでしょうか?
「ブリリアントジャーク」への対応を検討する際には、その要因が本人の資質にあるのか、上司や評価制度といった組織側にあるのかを見極めることが、人事やマネージャーが適切な介入方法を選択する上で非常に重要です。
まず、本人要因を判断する際のポイントは、行動の一貫性とフィードバックへの反応です。どの場面でも攻撃的・高圧的な態度が繰り返される、相手によって態度が変わらない、あるいは過去の職場でも同じような問題が発生している場合は、性格や価値観に根差した課題である可能性が高いと考えられます。また、指摘に対し反発や正当化が多い、改善が一時的で定着しないといった反応も、本人要因が強いサインと言えます。一方で、コミュニケーションスキル不足や経験不足などが原因の場合は、適切なサポートによって改善が見込めます。
次に、上司要因を見極める際のポイントは、上司が問題行動を正しく把握し、適切に介入できているかです。注意や指導が行われていない、チームの声を拾えていない、あるいはその人の成果に依存しすぎて指摘できない状況がある場合、上司のマネジメント不全が問題行動を助長している可能性があります。上司自身が成果偏重の価値観を持っている場合も、『多少の問題行動は仕方がない』と認識してしまいがちです。
評価制度の観点では、成果だけに偏った評価になっていないかを確認する必要があります。数字や技術力だけで高評価が得られる仕組みになっていると、協働性や行動面が軽視され、結果として問題行動がむしろ評価されてしまうこともあります。360度評価が機能し、部下や同僚の声が評価に反映されているかも重要なチェックポイントです。
最後に、組織環境要因として、競争偏重の文化や心理的安全性の低さが問題行動を助長していないかを確認します。慢性的なリソース不足や過度なプレッシャーが続く環境では、協働よりもスピードや成果が優先され、攻撃的な振る舞いが黙認されやすくなります。
これらの視点を総合し、行動の原因が 個人・上司・評価制度・組織環境のどこに根ざしているのかを丁寧に切り分けることで、最適な介入方法を選択しやすくなります。
──「ブリリアントジャーク」化させない予防的なアプローチについて具体的に教えてください。
「ブリリアントジャーク」を未然に防ぐためには、問題が表面化してから対処するのではなく、評価制度・管理職育成・カルチャー浸透といった仕組みを通じて『そもそも問題行動が生まれにくい環境』をつくることが重要です。
まず 評価制度 においては、成果だけに偏らず、協働性や行動指針への適合度を評価項目として明確に組み込み、行動面を“見える化”することが不可欠です。数字や技術力のみで高評価が得られる構造を避けることで、攻撃的な振る舞いや周囲への悪影響が見逃されにくくなります。また、360度評価やピアレビューを取り入れ、部下や同僚の視点が適切に評価に反映される仕組みを整えることも非常に効果的です。
次に、管理職育成においては、問題行動の兆候を早期に察知し適切に介入できるマネジメント力を高めることが重要です。具体的には、行動観察のポイントを理解し、状況に応じて適切なフィードバック手法を使い分けられることが求められます。さらに、コーチングの技法を活用して行動改善を促すスキルや、心理的安全性を守り、メンバーが安心して意見を述べられる環境を整える力も欠かせません。加えて、成果偏重のマネジメントに陥らず、チーム全体の健全性や長期的な組織成長を視野に入れた判断ができる姿勢が、管理職には必要となります。
また、カルチャーオンボーディングによって入社初期の段階から組織の価値観や期待される行動を明確に伝えることも効果的な予防策となります。どのような行動が評価され、どのような行動が許容されないのかを具体的に示すことで、問題行動の抑止力が高まります。ロールモデルとなる行動例を共有し、協働を重視する文化を体験的に理解してもらうことも有効です。
これらの施策を組み合わせて実行することで、「ブリリアントジャーク」が生まれにくい組織基盤が構築され、結果として組織の健全性と長期的な生産性向上につながっていきます。
──すでに「ブリリアントジャーク」としての振る舞いが定着してしまっている場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
「ブリリアントジャーク」としての言動が常態化している場合、その影響力はすでに周囲に広がっており、対応には慎重さと組織的な一貫性が求められます。以下のようなステップで、段階的に介入していくことが効果的です。
1. 状況の可視化と影響の把握
「ブリリアントジャーク」の言動がチームや組織に与える影響を正しく捉えるには、成果だけでなく、チーム内の信頼関係や協働プロセスへの影響も含めて、多面的に可視化することが重要です。
(1)当人の視点(自己認識)
・自身の言動が周囲にどのように受け止められているかを理解しているか
・過去に受けたフィードバックへの反応や、改善の兆しが見られるか
・自らの成果とチームの成果の関係性をどのように捉えているか
(2)メンバーの視点(周囲の受け止め)
・当人の言動によって、意見の共有や相談がしづらくなっていないか
・チーム内の信頼関係や心理的安全性に悪影響が生じていないか
・当人の行動が、他メンバーのモチベーションやパフォーマンスにどのような影響を与えているか
(3)上司の視点(マネジメントの観点)
・当人の行動をどの程度把握しており、どのような介入を行っているか
・成果と行動の両面を適切に評価・フィードバックできているか
・他のメンバーとのバランスや、公平性への配慮がなされているか
これらの視点をもとに、360度フィードバックや個別ヒアリングを実施することで、表面化しにくい影響や構造的な課題を明らかにすることができます。特に、心理的安全性や信頼関係といった「関係の質」にどのような影響が出ているかを丁寧に見極めることが、適切な対応の第一歩となります。
2. 組織としてのスタンスを明確にする
「成果と同様に、協働や行動面も重視する」という価値観を明文化し、組織全体に共有することが重要です。
当人に対しては個別にフィードバックを行い、その行動が組織の価値観と乖離していることを丁寧に伝えます。この際に重要なのは、人格を否定するのではなく、「具体的な行動」に焦点を当てたアプローチを取ることです。
(1)「行動」に焦点を当てたフィードバックの重要性
・人格否定ではなく、行動に注目する
・防衛反応を避け、行動変容を促す
(2)組織としての価値観を明文化する
・成果偏重から脱却し、協働意識や信頼関係の構築といった行動も評価対象にする
・規範となる行動や期待行動を明確に言語化する
(3)フィードバックの基本原則
・「事実」「影響」「期待」の3点セットで伝える
・人のいない場所やタイミングを選び、落ち着いて対話できる環境で行う
(4)上司・人事が押さえるべきポイント
・フィードバック前に準備すべき情報(事実、周囲の声、価値観との照合)
・面談後のフォローアップと行動変容を支援する仕組み
・改善が見られない場合の次のステップ(再フィードバック、配置転換など)
これらを踏まえ、「何が問題だったのか」「なぜ問題なのか」「どうしてほしいのか」を明確に伝えることで、防衛反応を和らげ、行動変容への第一歩を促すことができます。
3. 行動変容の機会を提供する
「ブリリアントジャーク」とされる人物であっても、変化の意思がある場合には、組織としてその変化を認め、支援する姿勢が重要です。単に指摘して終わるのではなく、行動変容のプロセスに伴走することで、本人の成長と組織の健全性の両立を目指します。
(1)支援のアプローチ例
・コーチング・メンタリングの活用
外部コーチや社内の信頼できる先輩社員との対話を通じて、自身の影響や価値観に気づく機会を提供します。
・フィードバック・トレーニング
他者との関わり方や伝え方を見直すためのトレーニングを実施し、実践的なスキルの習得を支援します。
・リフレクションの習慣化
定期的な1on1や振り返りの場を設け、日々の言動を内省する機会を継続的に設定します。
(2)目標設定の工夫
行動変容を促すには、成果目標だけでなく、「協働姿勢」や「チーム貢献」といった行動目標を明確に設定することが効果的です。
例として、
・「1時間の会議で、他者の意見を肯定的に受け止める発言を週3回以上行う」
・「月に1回、チームメンバーからのフィードバックを受け取り、その内容を振り返りとして共有する」
このように、具体的かつ測定可能な行動目標を設定し、定期的に振り返ることで、変化の定着を図ります。
(3)成長の兆しを見逃さず、承認する
小さな変化や努力を見逃さず、上司や周囲が適切に承認・フィードバックすることも、行動変容を継続させる鍵となります。そのためには、日頃からメンバーの行動を丁寧に観察する姿勢が求められます。「変わろうとしている姿勢」を評価する文化があることで、本人のモチベーションも高まりやすくなります。
4. 組織全体の耐性を高め、特定の個に依存しない体制をつくる
「ブリリアントジャーク」が組織に過度な影響力を持つ背景には、業務の属人化や意思決定の集中といった構造的な問題が潜んでいることが少なくありません。こうした依存状態を解消し、健全なチーム運営を実現するためには、以下のような取り組みが有効です。
(1)業務の属人化を防ぐ
・業務フローやナレッジを可視化し、誰でもアクセスできる状態にする
・ドキュメント整備や引き継ぎの仕組みを整え、再現性のある業務設計を行う
・特定の個人にしかできない業務を減らし、チーム内でのローテーションやペア作業を取り入れる
(2)チームでの意思決定を促進する
・意思決定プロセスを明文化し、合意形成の場を設ける
・会議体やプロジェクト運営において、役割分担と発言機会の均等化を意識する
・「誰が言ったか」ではなく、「何を言ったか」に焦点を当てる文化を育む
(3)心理的安全性を高める
・上司やリーダーが率先して弱さを見せることで、安心して意見を言える雰囲気をつくる
・フィードバックや1on1を通じて、対話の習慣を根づかせる
・問題行動や違和感に対して声を上げた人が守られる仕組みを整える(例:相談窓口、第三者的なサポート)
このように、組織構造や文化の側面から「個への過度な依存」を見直すことで、ブリリアントジャークの影響力を適切にコントロールし、チーム全体の健全性を保つことができます。
行動変容の機会を提供しても改善が見られず、組織文化や他メンバーへの悪影響が継続する場合には、配置転換や契約の見直しも選択肢となります。「成果さえ出せば許される」という前例を作らないことが、長期的な組織の健全性を守るうえで不可欠です。
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編集後記
「ブリリアントジャーク」は個人の問題ではなく、組織の制度や文化が生み出す構造的な現象であることが印象的でした。成果だけに目を向けず、協働を評価し、心理的安全性を守る仕組みづくりに取り組むこと──これこそ、組織の力を持続的に高める礎になると改めて感じさせられるテーマでした。













