「チーミング」が効果的に働き進化しつづける組織の作り方

近年、ビジネス環境の変化は一段と加速し、日々新たな事業課題に対応しなければならない状況が多くなってきています。そういった状況に対応するためにも、変化に強く生産性の高い組織をどう作るか──これは多くの方が頭を悩ませているテーマではないでしょうか。その解決手段の1つに「チーミング」があり、近年注目を集めています。
今回は、さまざまな企業の組織変革コンサルティング経験を持つ法人代表の笠松 拓也さんに、「チーミング」の概要からポイントにいたるまでお話を伺いました。
<プロフィール>
▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
笠松 拓也(かさまつ たくや)/法人代表 組織変革ファシリテーター
学生起業・売却からキャリアをスタート。教育ベンチャーの経営に携わった後に人材業界へ。人材紹介エージェントを経て、黎明期のビズリーチへ転職し人事企画を推進。2016年、組織変革コンサルティングを行う法人を設立。「人と組織の可能性をどこまでも自由に解き放つ」を理念に掲げ、事業を展開。東証プライム上場企業から創業間もないスタートアップまで50社以上のクライアントをサポートし、自律・協働する組織づくりのための伴走支援を行う。
目次
「チーミング」とは
──「チーミング」とはどのような概念なのでしょうか。
「チーミング」とは、必要なときに必要な人が集い、即座に学習し合いながら問題解決を行う『進化する協働』のことを指します。ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念であり、固定されたメンバー同士でじっくり関係性を深める『チームビルディング』とは異なる概念です。
私自身も組織開発支援を行う中で、多様なスキルを持つ人たちが一時的に集まって1つのプロジェクトを完了させる場面をたびたび目にしてきました。特に、『この分野ならAさん』『あの領域ならBさん』といった知見を有する人々がスピーディに連携することは、組織を強くする上でとても大切だと感じています。
ただ、この「チーミング」を上手く機能させるには、組織の成長ステージに応じたアプローチが必要です。創業期やシリーズA前後の段階では、従業員数も少なく1人ひとりの守備範囲が広いため、自然と「チーミング」のような動きが生まれやすい傾向があります。しかし、シリーズBやCへ進んで部署や役職の層が増えてくると、各部門が縦割りになりやすく相互連携が希薄になる可能性が高まります。実際に、事業拡大と共に『誰が何をしているのか見えなくなった』『プロジェクトを越境しづらい』といった声を耳にすることもよくあります。
だからこそ、こうした成長フェーズにおいては「チーミング」を意図的に仕組み化する必要があるのです。部署や職種にとらわれず、プロジェクト単位で人材をミックスする仕組みを作ることで、組織が拡大しても『変化し続けるチーム』を維持できると考えています。
──昨今「チーミング」が注目されている背景について、どのように捉えていますでしょうか。
近年、ビジネス環境の変化は一段と加速し、日々新たな事業課題に対応しなければならない状況が当たり前となってきました。私もこれまでにさまざまのスタートアップの支援を行ってきましたが、組織が急成長するフェーズにおいて従来型の階層的な組織のままでいるとスピードが落ち、反対にフラットにしすぎると責任の所在が曖昧になるなど、バランス調整が非常に難しいと感じます。
そこで注目され始めているのが、『必要なときに必要なメンバーが集まり、すぐに動き、成果を出す』という流動性の高いチームづくりである「チーミング」です。リモートワークや外部パートナーの活用が一般的になり、社内外問わずさまざまな専門家とのコラボレーションが手軽に実現できるようになったことも後押しになっていると感じます。
小規模組織はどうしても人材・予算・時間のリソースが限られているため、メンバーの専門性や役割に合わせて機動的にチームを編成し、相互にサポートし合いながら課題解決と学習を同時に進める必要があります。結果として、チームビルディングよりも「チーミング」と呼ばれる流動型の協働が企業成長のカギを握っている、と考える方がここ数年でより増えてきたのではないかと考えています。
「チーミング」が効果的な場面
──「チーミング」はどのような場面で効果を発揮するものなのでしょうか。
「チーミング」が特に威力を発揮するのは、専門性を横断的に掛け合わせながらスピーディに成果を出したい場面です。
例えば、新規事業の立ち上げ時にエンジニア・マーケター・デザイナー・営業など多様な領域のメンバーが、短期間でプロトタイプを作って市場検証を行うようなケースが該当します。こうしたケースでは、従来のように『プロジェクトチームを固定し、密な時間をかけてチームビルディングをしてから動く』のではどうしてもスピード感に欠けてしまい、マーケットの動きに即座に反応することが難しいからです。私の経験上、『このフェーズに入ったらこの人を巻き込む』といったような柔軟な連携である「チーミング」が成否を左右することも多々あると感じます。
他にも、組織変革や業務プロセスの抜本的な見直しを行う際も、複数の部署・職種の英知を短いスパンで掛け合わせる必要があることから「チーミング」は有効です。例えば、コスト削減プロジェクトにおいては経理・人事・営業・開発などそれぞれ異なる視点を持つメンバーをどのように円滑に連携させるかが成功のカギになります。
以前、あるクライアント企業で、部門横断タスクフォースを結成しても協力体制が築かれず、結局これまでも主導していた特定の数名が作業を抱え込んでしまう場面を見ました。このような場合、「チーミング」の考え方(目の前の課題に全員で向き合い、迅速に情報やアイデアをやりとりする仕組み)を導入すると、停滞が一気に改善されることが多いです。
このように領域をまたぐ協働が当たり前になっている昨今では、「チーミング」を意識することで必要な知見を素早く統合して、新しい価値を創出するスピードを加速させることが重要だと考えています。

成長ステージごとの「チーミング」ポイント
──「チーミング」を上手く機能させるために組織の成長ステージに応じたアプローチが必要とのことですが、それぞれのステージでどのような点を意識すると良いでしょうか。
「チーミング」を意識するのは主にリーダークラスの方になると思いますが、この層の方に意識いただきたいのは、組織が小さい頃からある程度大きくなるまでの変遷を意識した上で「チーミング」の手法を使い分けてほしい、ということです。

創業初期やシリーズA付近では、メンバー全員がお互いの動きをよく把握しているため、情報共有や意思決定に迷いが生じにくい利点があります。例えば、起業当初は社内チャットや朝夕の定例ミーティングで自然と全員が最新情報をキャッチアップし、何か問題があれば即座に対話する姿などはイメージしやすいでしょう。
しかし、シリーズB・Cへと進むにつれて従業員数が増え、組織が分業化・階層化されてきます。これらのステージで「チーミング」を阻む大きな要素は、部署間の壁や上下関係から来る『心理的安全性の欠如』です。これに対処するためには、リーダーは単に命令系統を整備するだけでなく、あえて部門横断のプロジェクトや勉強会を企画するなど、メンバー同士が『越境』して協働できる場を設計する必要があります。私の支援先でも、リーダー自らが他部門と積極的にコラボレーションする姿を見せることで、組織全体に『必要に応じて連携するのは当たり前』というマインドを浸透させることができた事例があります。
また、リーダーはメンバーの衝突や行き違いを早期に発見・解消する役割を担わなければなりません。『衝突などが発生したらすぐに対話をしよう』という働きかけをするだけで、「チーミング」に不可欠な心理的安全性を格段に高められるからです。成長ステージに応じて、この『越境の促進』と『心理的安全性の確保』の両輪が重要になるという点を意識していただきたいです。
「チーミング」が機能した具体事例
──この「チーミング」が機能した事例について教えてもらえますでしょうか。
私が支援に入った中でも特に印象深かった事例は、ある中規模IT企業における新規サービス開発プロジェクトです。支援前は営業・エンジニア・デザイナーなどの部門同士がほぼ独立して動いており、情報共有のタイミングも限られていたことから開発スケジュールがたびたび遅延し、サービスのリリース時期も延びがちになってしまうという課題がありました。関係者が一堂に会する会議体もあることはあったのですが、それぞれの専門用語を知らない者同士が会議で意見を交わしても議論がかみ合わないまま終わることも多かったのです。
そこで、「チーミング」の考え方を積極的に活用し、いくつかの施策を導入することにしました。まず取り入れたのは『スプリント方式』です。スプリントは日本語で短距離走という意味があり、1~2週間単位で開発・営業・デザインそれぞれが目指すべき目標とタスクを短いサイクルで管理する仕組みを導入しました。目標状態のすり合わせを行う関係者はその時により変わりますが、この時はリーダーと各部署の責任者が仮説を作った上で、全体ですり合わせを行いました。週に1度の定例ミーティングでは、担当者同士が進捗や課題、今必要としているサポートなどを短時間で共有し、必要に応じてオンラインで即座にアイデアを出し合えるコミュニケーションツール(Slack)も開設しました。
ただ、体制ができたとしても部門を横断して助け合える雰囲気を作る事や当事者意識をもつ事、積極的に情報開示とフィードバックをし合うようになることは簡単ではありません。そこで、プロダクトや組織ビジョンについてのロングワークショップを通して、一人一人が感じている現状・理想・課題感を共有し、その認識がどのような価値観から生まれているのか、といった点までを徹底的に対話する時間を、3ヶ月〜6ヶ月に1回は取り、共同体験を重ねる中で、共助関係や信頼関係を築いていく工夫を重ねました。
また、特にエンジニア陣は顧客接点の少なさを課題視していたことから、営業担当者と一緒に顧客の声を直接聞く場を設ける『相互シャドーイング』を行うことで、両部門の連携と理解度が飛躍的に高まりました。
加えて、各ミーティングのファシリテーターを担当者ごとにローテーションし、部門の垣根を超えた越境体験を積極的に促しました。リーダー自身も『失敗や分からないことを先に開示する』といった、周囲の模範になるような行動を取ることでメンバーが率直に意見を言いやすくなるように促し、心理的安全性を高めることにも成功しました。こうした取り組みを続けていくと、部門横断のコミュニケーションが自然に増え、会議が形骸化せずに本質的な情報交換と意思決定の場として機能し始めたのです。
その結果、当初は大幅に遅れて伸びていた開発スケジュールを短縮でき、予定より早いリリースが可能になりました。さらに、プロジェクト終了後も『必要なときに必要な人をすぐ巻き込む』『隣の部署の事情を知っておく』文化が社内に根づき、新規施策に対する心理的ハードルも下げることができたのです。メンバーからは『開発と営業がリアルタイムに連携できるから、手戻りが減った』『自分の仕事が全体の成果につながっていると実感できる』という声も挙がり、部門全体の離職率低減や新たなアイデア創出にも波及効果が見られました。
■合わせて読みたい「組織開発」に関する記事
>>>「チームビルディング」をテレワーク・リモートワーク下で成功させるために必要なこと
>>>馴れ合いで終わらせない「心理的安全性」の正しいつくり方
>>>オンライン環境下における「組織学習」とは
>>>会社と個人のWillを重ねる「エンプロイーサクセス」の本質的な実践方法とは
>>>VUCA時代に求められる「オーセンティック・リーダーシップ」とは
>>>フォロワーシップを育て、自律的・主体的な組織へ導く方法とは
>>>「チームビルディング」の概念を理解し、再現性高くGoodチームをつくる方法とは
>>>「ピアボーナス」で組織に称賛し合う文化を作る方法とは
>>>「組織活性化」に導くための考え方と7つのステップ
>>>「セールス・イネーブルメント」で営業の“個人商店化”を防ぎ、組織力を高める方法とは
>>>自社に適した「エンゲージメント指標」を設定し、運用するポイントとは
>>>「ナレッジマネジメント」で生産性を飛躍的に高める。組織が“知”を資産に変える具体策
編集後記
「チーミング」は、専門領域の異なるメンバーが互いのスキルや知見を補完し合いながら、短いサイクルで学びと成果を重ねるための有効なアプローチだと感じました。それらのプロジェクトをリードするリーダーがキーになるため、越境的なコラボレーションや心理的安全性の確保をどう行うかなどの支援を人事が検討・実施していけると良いのではないでしょうか。