「役割等級制度」の設計・導入・運用――評価・報酬とどう連動させるか
与えられた役割に応じて等級や報酬を決める「役割等級制度」。従来の『職能等級制度』や『職務等級制度』がうまく機能しないことから導入を検討する企業も多い印象があります。
今回は、10年以上にわたってさまざまな企業の経営戦略から人事制度設計などの企業成長に携わってきた加藤 英太さんに、「役割等級制度」の概要から評価・報酬制度と連動させる形での設計・導入・運用方法に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
加藤 英太(かとう えいた)
大手外資戦略ファーム、DMM.com COO室を経て、現在は個人事業主として活動し、戦略、組織人事共に20以上のプロジェクトに携わってきた。10年以上にわたり、事業戦略・経営戦略から人事制度設計、新規事業立ち上げまで、企業の成長と変革を一貫して伴走し、支援。特に、組織人事テーマでは、人事制度(等級・評価・報酬)の刷新やタレントマネジメント設計、採用戦略からオンボーディング設計までを、経営戦略や人事制度と接続させながら実行に落とし込むことを得意としている。単なる戦略立案にとどまらず、「組織や事業が実際に動き出す仕組みづくり」まで伴走することを重視。立ち上げフェーズや再構築フェーズにおいて、絵に描いた餅で終わらせず、成果につながる変革を実現することが強み▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
「役割等級制度」とは
──「役割等級制度」の概要について、『職能等級制度』や『職務等級制度』との違いも含めて教えてください。
「役割等級制度」とは、従業員が担っている役割や責任の大きさに応じて等級を定める仕組みのことです。例えば、同じ“課長”の肩書であっても、『新規事業を任されている課長』と『安定した既存事業を管掌している課長』では役割の幅や期待される成果はまったく異なります。その違いをきちんと制度として反映できるのが「役割等級制度」のポイントです。
従来の日本企業では『職能等級制度(持っているスキルや経験値を中心に評価するもの)』が主流であり、外資系企業などに多い『職務等級制度(担当する職務内容で評価するもの)』を導入する企業も一定数ありました。ただし、この2つの制度には以下のような課題があります。
・職能等級制度……年功序列的な運用になりやすく、実際の役割や成果と処遇がズレやすい。
・職務等級制度……ジョブを固定的に定義するため、日本企業のように異動やローテーションが多い環境にはなじみにくい。
「役割等級制度」は、これら2つの制度の中間に位置づけられるものです。役割の違いを明確に区分した上で、評価や処遇に結び付けられる点で大きなメリットがあります。
──近年「役割等級制度」が一層注目を集めているように感じます。その背景にはどのようなものがあるでしょうか?
「役割等級制度」の注目度が高まっている背景には、大きく以下3つの流れがあると考えています。
(1)成果主義の行き詰まり
単純に数字だけで評価するやり方では、組織の納得感を得にくくなっている現状があります。成果だけでなく、『どの役割を担っていたのか』といったプロセスや責任範囲を踏まえることで、評価の公平性を高められるようになります。
(2)ジョブ型雇用との接続
欧米のように完全にジョブディスクリプションで縛る形は日本には馴染みにくいのですが、「役割等級制度」のような役割ベースであれば柔軟な異動や成長の余地を残しながらも公平性や納得感を高められます。これは『日本版ジョブ型雇用』の一形態として広がりつつある印象です。
(3)AI時代の役割再定義
生成AIの登場・進化を受けて、人間の仕事の一部は機械に置き換わっています。その中で『人にしかできない役割は何か』を改めて問い直す動きがあり、「役割等級制度」の考え方が再評価されています。
「役割等級制度」を導入するメリット
──「役割等級制度」を導入するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。特に効果を発揮しやすい組織や状況などがあれば合わせて教えてください。
「役割等級制度」を導入するメリットについて、企業・従業員の両面からご紹介します。
■企業側のメリット
(1)成果や役割に基づいた柔軟な評価ができる
単に年齢や在籍年数ではなく、『その役割で何を期待され、どう成果を出したか』の観点から評価できるようになります。これにより、人件費と成果のバランスがとりやすくなる利点があります。
(2)管理職・専門職の役割を適切に評価できる
従来は『役職名』だけで一律に扱われがち(今でもその風潮は大企業ほどある認識)でしたが、前述した通り同じ課長でも『新規事業を任されている課長』と『安定した既存事業を管掌している課長』では役割が大きく異なります。この違いを可視化して処遇に反映できるようになります。
(3)組織変化に強い制度になる
新規事業や組織再編など、役割がどんどん変わる局面でも「役割等級制度」は柔軟に対応させやすい性質があります。変化の激しい日本企業には重要な観点であり、「役割等級制度」が多くの日本企業から注目を集めている理由の1つです。
■従業員側のメリット
(1)納得感の高い評価・処遇が受けられる
「役割等級制度」により『何を期待されているか』が明文化されるため、自身の役割と評価のつながりを実感できます。特に、管理職や専門職にとっては大きな安心感につながるため、従業員エンゲージメントを考える上でも重要な観点だと言えます。
(2)キャリア形成の道筋が明確になる
『次に求められる役割』がはっきりするため、成長や挑戦の方向性が見えやすい点も大きなメリットです。これにより従業員のモチベーション向上も期待できます。
上記のメリットを踏まえると、効果を発揮しやすい組織や状況としては以下3つが当てはまると考えています。
(1)管理職や専門職の比率が高い組織(役割の幅が広がりやすい層のため、制度を入れると効果が実感しやすい)
(2)新規事業や組織変革の多い企業(役職名や職務定義だけでは評価しきれない場面で、役割基準は非常に有効)
(3)人件費の硬直化に悩んでいる企業(成果と処遇の乖離を是正しやすくなるため、コスト構造の柔軟化にも寄与)
つまり、「役割等級制度」は企業にとっては『組織の変化に合わせて人材を正しく活かす仕組み』となり、従業員にとっては『自分の役割と処遇の関係がわかりやすい仕組み』になります。特に、現代のように変化が激しくAIなどで仕事の中身が変わっていく時代には、まさに効果を発揮しやすい制度と言えるでしょう。
以下に改めて「役割等級制度」『職能等級制度』『職務等級制度』の概要(違い)とそれぞれのメリット・デメリットについて図式化しましたので、こちらも参考にしてもらえると嬉しいです。

「役割等級制度」導入・運用する際に直面する“壁”
──「役割等級制度」を導入・運用する際に企業がつまずきやすい典型的な課題にはどのようなものがありますか?
ここまでの話だけではメリットしかない制度だと思うかもしれません。しかし、問題は『導入・運用の難しさ』にあります。なぜなら、これまで日本企業の大半は行ってこなかった評価方法であり、従業員がこの制度を受け入れて浸透するまでには一定以上の時間はどうしてもかかってしまうものだからです。実際に、導入・運用する際には大きく5つの“壁”があります。
(1)役割定義の難しさ
『役割』と一口に言っても、部門ごと・タイミングごとに期待が変わります。あまりに細かく定義すると制度が複雑になりすぎてしまいますし、逆にざっくりしすぎると結局『役職名と同じ』になってしまいかねません。このバランス設計は多くの企業が悩むところです。
ただし、役割を定義して賃金表をつくることが「役割等級制度」のゴールではありません。役割を通じて経営戦略と人材活用を同期させ、組織としての納得と成長をつくることが目的です。どんな形で設計するにせよ、最終的には経営・マネジメント陣を巻き込みながら、評価者育成なども通じて制度の納得度や適切な評価運営につなげていくことが何より重要だと考えています。
(2)昇格・降格のルール設計
役割に基づいて評価する以上、役割が変わったら等級も変わることになります。昇格に関しては前向きに受け取ってもらえることが多いためそこまで問題はありませんが、降格はデリケートな問題であり従業員の納得感を得にくいものでもあります。そのため、制度上昇降格ルールを整備していても、実際には運用できずに形骸化してしまうケースが少なくありません。
(3)組織再編や戦略変更に伴う見直し
新規事業の立ち上げや組織改編のたびに役割が変わるため、その都度アップデートする必要があります。ここを後回しにしてしまうと制度と実態が乖離し、従業員から『結局名ばかりの制度だよね』と受け止められてしまうリスクがあります。
(4)評価・報酬制度との連動
役割等級を導入しても、それが評価や報酬とつながっていなければ意味がありません。『役割は明確にしたけれど、給与テーブルは従来通り』だと従業員にとって納得感がない制度となってしまうため、評価・報酬とどう一体で運用するかが肝になります。
(5)運用負荷とマネジメントの巻き込み
役割定義の更新や評価への反映には、人事部門だけでなく各部門のマネジメントが関与する必要があります。これを人事任せにすると属人化やブラックボックス化が進み、制度が『絵に描いた餅』になってしまうため注意が必要です。
このように、「役割等級制度」は設計だけでなく『どう運用・アップデートしていくか』が成功の分かれ目になるものです。制度を一度作って終わりではなく、組織の変化に合わせてメンテナンスし続ける姿勢(実働型の伴走)が不可欠であることは年頭に置いておきましょう。

「役割等級制度」設計ステップと注意ポイント
──自社に適した「役割等級制度」を設計する際の基本的なステップにはどのようなものがありますか?
私が「役割等級制度」を設計していく際には、いつも以下5つのステップを意識しています。
■ステップ1:全体設計の整理
まずは等級・評価・報酬の全体像を描くことから始めます。「役割等級制度」だけを単独で導入しても上手くいかないからです。「役割等級制度」を軸に評価制度と報酬制度をどう接続するかを最初に整理するのがポイントです。整理の順序としては以下5段階あります。
①経営・組織戦略の確認
まず、制度の目的を経営文脈で固定します。

※例:「新規事業を拡大し、幹部の権限を広げたい → 役割の幅と裁量を明示する等級制度が必要」
②人材ポートフォリオの設計
次に、どんな人材階層と役割構造で組織を動かしたいかを整理します。『今何を担わせたいのか』『将来どう育てたいのか』が明確になると、等級の段階づけの核ができます。
・マス層(実行/オペレーション)
・コア層(企画/推進/専門性)
・ハイクラス層(経営/事業責任)
③等級構造(グレード)の定義
ここまできて、初めて定義に落とし込みます。以下の図はその一例です。

※等級=役割期待の箱として定義します。
④評価制度との接続(役割と評価の紐づけ)
等級ごとに何で評価するかを決めます。ここでのポイントは『成果だけでなく役割遂行の質』も評価軸に入れることです。これは、「役割等級制度」が“ただの成果主義”にならないための仕掛けです。
・成果指標(KPI/成果基準)
・行動指標(バリュー/リーダーシップ/専門性)
・定性評価(役割遂行、ステークホルダー評価 等)
⑤報酬制度との連動
最後に、報酬レンジと成長曲線を接続します。
・等級ごとのベース給与レンジ
・変動賞与の考え方(役割重み × 成果)
・昇進/昇格の報酬変動幅
・降格時の調整措置(日本では重要)
■ステップ2:役割定義の設計
次に『役割』を定義します。ここで重要なのは、役割を職務記述書のようにガチガチに固定せず、組織戦略と人材戦略を反映した柔軟性のある定義にすることです。具体的には、役割定義書(Role Description)を作成し、各等級で求める役割責任と期待成果を明文化します。

■ステップ3:等級テーブルの設計
上記で設計した役割定義を踏まえて『等級テーブル』を整理します。例えば、G1〜G4(一般職)、M1〜M3(管理職)のように段階を設け、どの等級でどの役割を期待するのかを構造化していきます。
■ステップ4:評価制度との接続
次に、評価制度を組み合わせます。評価制度との接続時に大切なのは、『役割を果たしたかどうか』を正しく見える化することです。「役割等級制度」と言うと『成果だけを見る制度』と誤解されがちですがむしろ逆で、役割遂行の質や期待行動などの『観察可能な行動』まで定義する必要があります。これにより短期成果だけではなく、中長期で価値を出す人を適切に評価できるようになります。また、評価は評価者の力量に左右されやすいため、部門横断の評価校正会議(キャリブレーション)を組み込んで公平性を担保することも欠かせません。加えて、等級は中長期の役割期待、評価は短期成果と時間軸を整理することも重要です。この切り分けを曖昧にすると制度が『数字至上主義』にブレやすいため、はじめにきちんと説明しておきましょう。
■ステップ5:報酬制度との接続
最後に、報酬制度へ反映します。役割等級と報酬レンジを連動させることで『役割が変われば報酬も変わる』という納得感を従業員に提供できます。ここで大事なのは、報酬を『完全に成果連動』に振り切るのではなく、役割・成果・成長のバランスを考慮することです。
日本企業の場合、成果報酬に振り切ると逆に短期成果主義になり、組織が疲弊してしまうケースを多く見てきました。そのため私は、報酬の意味合いを以下三層で整理することを意識しています。
・役割=責任と期待値に対するベース報酬
・成果=短期的なアウトプットに対する変動報酬
・成長=能力や役割拡大に対する将来報酬(昇格・レンジ上昇)
これにより単に数字を追うだけではなく、役割にふさわしい振る舞いや中長期の価値創出、そして次のステージへの成長をしっかり評価できるようになります。
もう1つポイントを挙げるなら、『役割が変われば報酬が変わる』という明快さと合わせて、降格や報酬調整の際のソフトランディングの仕組みも整えるのも良いでしょう。日本企業の文化や雇用慣行を踏まえると急激な報酬変動は納得を損ないやすいため、段階的な調整や移行措置も制度の信頼性を高める要素になるからです。最終的には、報酬は『結果の配分』というより『役割期待に応える人材への投資である』という思想を制度に込めることが何より大切だと考えます。
──上記ステップで設計し導入を進めていく際に、特に注意すべきポイントにはどのようなものがありますか?


ステップ1でも記載した通り、『報酬・評価制度への影響を軽視しない』ことは特に重要です。「役割等級制度」を導入しても、給与テーブルや評価制度を従来通りに残してしまうと“名ばかり制度”になりがちだからです。また、等級が決まらないと入社時の報酬決定もその後の評価も報酬支払額も決められません。つまり、等級を基盤としてすべての制度が連動する構造(上図参照)となるため、必ず三位一体で設計するようにしてください。
また、導入時には『移行期の調整措置を設ける』ようにしましょう。制度を切り替えると必ずそのタイミングで『上がる人・下がる人』が出ます。急激な処遇変動は不満や離職につながるリスクがあるため、段階的な移行措置を設けるのが現実的です。
最後に、『運用後の見直しタイミングを決めておく』ことも忘れずに実施してください。一度作った制度がそのまま最適解であり続けることはありません。特に、「役割等級制度」は事業の変化や組織構造の変化に伴って『役割そのもの』が変わるため、定期的な見直しが欠かせません。運用しながらアップデートしていく前提で設計することが非常に重要です。新規事業の立ち上げや組織改編のタイミングで制度の棚卸しを行うなど、定期的な見直しの仕組みをあらかじめ設計しておくようにしましょう。なお、見直しの際に押さえるべき観点には大きく以下4つがあります。
(1)役割定義と実態の乖離チェック
制度が現場の実態に追いついているかを確認します。
□実際の現場で求められている役割が当初の定義とズレていないか
□新規事業や組織改編によって「役割の幅」「責任範囲」に変化が起きていないか
□等級ごとの期待役割が曖昧になっていないか
(2)評価結果・運用データの分析
これは評価校正の質や評価者教育の効果を測る指標にもなります。
□各等級で評価分布が偏っていないか
□同じ役割を持つ従業員間で評価ブレが起きていないか
□評価者から『評価しづらい』『基準が曖昧』などの声が出ていないか
(3)報酬の競争力及び内部公平性の検証
外部競争力 × 内部公平性の両面でチェックすることが大事です。
□報酬レンジが“役割の重さ”とバランスしているか
□『この役割なのにこの報酬か』という不公平感が出ていないか
□市場相場(他社ベンチマーク)と乖離していないか
(4)従業員の納得度とマネジメント負荷の確認
制度が現場にとって使いやすいものかを継続的にモニタリングします。
□フィードバック面談での理解度はどうか
□『何を求められているかが明確』という声が得られているか
□評価者・マネジャー側の負荷が過度に高くなっていないか
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編集後記
従業員のがんばりを正しく評価し報酬へ反映することは、モチベーションや生産性向上、ひいては企業全体の成長にもつながります。「役割等級制度」はその設計や運用にかなりの工数がかかるものだと加藤さんの話からも理解できましたが、それでも取り組む価値のあるものだと感じました。
評価や報酬との連動に留意しながら、腰を据えて取り組んでいきたいテーマではないでしょうか。

