「目標管理制度」の運用うまくできてる?今だからこそ目標管理制度の見直すべき点とは?

今や多くの企業が導入している「目標管理制度」。しかしながら働き方の多様化や急激な就業環境変化の影響からか、その運用に課題を抱える企業が増えてきているようです。
なぜうまく運用できない企業が増えているのか、どうすればそうした課題を解決できるのかについて、人事評価制度領域に専門性を持つパラレルワーカーの方にお話を伺いました。
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目次
「目標管理制度」とは
──多くの企業が導入している「目標管理制度」について、改めて概要や代表的なものを教えてください。
「目標管理制度」はその名の通り、評価期間中(四半期・半年・一年など)に達成する目標を設定し、期間終了後に達成度に応じて評価を決定する人事評価の仕組みです。目標管理制度の代表的なものとして、以下2つがあります。
MBO(Management By Objectives)
1960年代にピーター・ドラッカーが提唱した理論です。従業員が自主的に個人目標を設定し、その進捗や達成度合いによって人事評価を決定します。日本企業が導入し始めたのはバブル経済崩壊後の1990年代で、製造業や販売会社(自動車、不動産など)を中心に広がっていきました。日本企業が年功序列型の雇用制度から成果主義人事に舵を切ったタイミングとも重なります。
OKR(Objective Key Result)
インテル社の元CEOで実業家のアンドリュー・グローブによって提唱された理論です。達成すべき目標(Objectives)を主要な成果(Key Results)に落とし込み、主要な成果を上げれば目標も達成できる状態へ設定します。1970年代にIntelが採用したことを皮切りにGoogleやLinkedInなど数多くのグローバル企業も採用し有名になりました。日本でもスタートアップ企業を中心に導入が進んでいます。
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時代と共に重視される点や運用方法が変遷し、さまざまな形態をとってきた目標管理制度。そこに共通する仕組みとしては以下のような特徴が挙げられます。
・評価期間中に「客観的に観測可能な目標」を設定する
・「個人目標」と「組織目標」は連動する
・目標は被評価者が一次案を設定し、評価者である上司が承認する
・評価期間終了後に、被評価者による自己評価を参照し、上司(およびその上位者)が評価を決定する
なぜ今、「目標管理制度」の運用に課題を感じる企業が多いのか
──「目標管理制度」の運用がうまくいかないと感じている企業が多いようです。具体的にどういった課題や問題が発生しているのでしょうか?
「目標管理制度」自体は極めてシンプルなものですが、一方で組織の”目標”に関する考え方が色濃く出るものでもあります。何を目標として承認したかで「組織が従業員に求めるものはこれである」というメッセージが変わるということです。
また、「目標管理制度」は比較的短期間の目標を対象としているため「短期に成果が出るもの」「会社の財務に強く関連するもの」が目標として設定されやすい性質があります。すると従業員としては「短期の財務成果につながること以外は重要ではない」という意識が働きやすくなります。そのメッセージが強く出ると、以下3つの課題が生じやすくなります。
(1)過度な個人主義の促進
(2)長期的なマーケティング、研究開発戦略の停滞
(3)モチベーションの低下(ハイパフォーマー以外)
実際に私の元にも「目標管理制度そのものを廃止することなく、どうにか運用で改善できないか」という相談が寄せられています。あくまで個人的な印象ですが、こういった相談がより増えたように感じています。ご存じの通り、多くの企業が急激な働き方の変更を余儀なくされました。そもそも営業ができない、在宅勤務でコミュニケーション方法が変化した、などその影響は様々であり、いつまで続くかも見通しが立ちません。
そのような環境下では、「短期に成果が出るもの」「会社の財務に強く関連するもの」を中心とした目標設定により従業員のモチベーション低下が著しくなっているようです。相談に来られる経営者自身も「このような状況下で従業員だけに財務成果を押し付けるつもりはない。でも他にどのような目標を設定すればよいのかわからない」と迷っているのが現状のようです。

大前提の目標設定を今一度見直そう
──先ほどお聞きしたような課題を解決するためには、どのような観点で目標設定を行うのが良いでしょうか?
大前提として「財務成果はあくまで数ある目標の1つである」という認識を強く持ち、運用ルールとして明文化することが必要です。その方法として一般的なものにBSC(Balanced Score Card)に基づく目標設定がありますが、最近私がアドバイスする際によく引き合いに出すのは「目標設定のABC」です。
【A】 Achievement(成果)……会社・組織の財務・非財務の成果に関係する目標
【B】 Belief(信念)……従業員が組織・自分自身の成長に向けて成し遂げたいチャレンジ目標
【C】 Contribution(貢献)……同僚(上司以外・他部署を含む)への協力に関係する目標
このABCをそれぞれ1つ以上目標項目に設定することで、前述した3つの課題「個人主義の促進/長期的なマーケティング、研究開発戦略の停滞/モチベーションの低下 (ハイパフォーマー以外)」などの解消につなげることができます。
例えば、Belief (信念)は長期的な目線につながりますし、Contribution (貢献)が機能すれば個人主義はいくばくか解消されます。【B】 や【C】 を目標として設定し、会社が評価する(さらには賞与・昇給などに反映する)ことができれば、従業員に安心感や自己肯定感を与えられることはもちろん、モチベーションの向上にもつながります。
運用の工夫でさらに成果はUPする

──目標設定方法を見直した上で、運用面ではどういった点に注意するべきでしょうか。
運用面でのポイントは以下3点です。
(1)評価表の構成
(2)被評価者・評価者双方の信頼
(3)加減点の考え方
評価表の構成
非常にシンプルな話ですが、まず評価表の目標項目に「Achievement」「Belief」「Contribution」の3区分をあらかじめ書いてしまいましょう。3つのうちどれかを選択する方法にしてしまうと「Belief」「Contribution」というなじみの浅い項目は目標が立てられません。結果的に「Achievement」による短期の財務成果を中心とした従来型の目標設定に寄りがちなので注意が必要です。
被評価者・評価者双方の信頼
「Belief」「Contribution」を評価者研修などで説明すると必ず出てくる質問に「そんな目標を立てて業績が悪くなってしまわないか?」というものがあります。これは「Achievement」に慣れ親しんだ評価者としては自然な反応です。「Belief」「Contribution」は性質上、すぐに効果が出るとは限りません。当然チャレンジには失敗もつきものですし、協力する側がどれだけ一生懸命やっても受け取り側がその通り感じるとは限りません。それでも中長期な視点に立ち「いつか成果が出る」と評価者・被評価者がお互いに信頼し合うことが必要になります。この点は1on1などでじっくりと意図を話し合いましょう。メールやシステム上だけのやり取りになってしてしまうと「こんな目標は意味がない!」と評価者がばっさりと修正してしまう可能性があるためです。
加減点の考え方
これは評価会議に関係するポイントであり、制度そのものを設計する際にも必要な考え方です。まず「Belief」はチャレンジ目標のため、基本的には加点のみ行うものとします。もともと成否がすぐに出づらいもののため、減点される可能性があるとチャレンジングな目標を立てづらくなってしまうのが人の性だからです。「Contribution」については「Achievement」と同様に加減点の両方ある方法も取れますし、「Belief」と同様に加点のみとする方法もあります。これは「他者への協力」が息を吸って吐くように当然のことだと思うか、非常に難易度が高いと捉えるかによる違いで、会社の風土そのものによります。個人的には「他者への協力のない業務は本来存在しえない」との考えから、加減点両方あるのが自然だと捉えています。こう言うと「でも、あの人は専門職だから他の人と関わりがないし」という声が聞こえてきそうですが、どのような職種の方でも短期・中長期、直接・婉曲の視点で考えれば必ず社内の誰かに影響を及ぼしており(後進育成など)、「Contribution」の要素はあるはずです。
このように運用面では、いかになじみの浅い「Belief」「Contribution」を定着させるかが重要になっています。
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編集後記
これまで特に課題意識を持っていなかった制度でも、このコロナ禍による変化を受けて実状との乖離が生まれ、今一度見直しが必要になっているものが多くあるのではないでしょうか。「目標管理制度」もその1つです。
とはいえ「今トレンドになっているOKRに我が社も移行しよう!」と安易に手法に走ってしまうのは後々問題が発生してしまうことになりかねません。冷静に自社の課題と向き合い、「何を解決するべきなのか」のWHYに沿って対策を1つひとつ検討していくことが、変化の激しい今の時代に対応するためは特に重要なことなのかもしれません。