業務委託メンバーが活躍する組織において、考えるべき評価手法とは
近年、テレワークや地方移住、複業(副業)や兼業など個人の働き方が多様化する中で、企業の雇用形態においても考え方が大きく変わりつつあります。
2020年4月に弊社が行った調査では、従業員数500名以上のバックオフィス部門に勤務する人を対象としたアンケート結果で、「業務委託」の利用経験は約55%と、半数以上が業務委託メンバーと共に働いた経験があると回答しています。
今後、業務委託という手法を取り入れながら組織成長していくためには、どのような評価手法を取り入れると良いでしょうか。50社以上の人事評価制度の構築と運用を経験されてきた、株式会社NEKKYOの松尾さんにお話していただきました。
目次
業務委託やフリーランスが増えている背景
───業務委託メンバーが活躍している組織が増えていますが、どういった背景があるのでしょうか?
年功序列型の賃金体系から、職務内容を明確にして専⾨的な能⼒に応じて処遇する「ジョブ型雇用」への移⾏が進んでいることが背景として挙げられます。
これまで日本企業の多くは終身雇用かつ年功序列型の賃金体系が主流でしたが、ペイフォーパフォーマーと言われるように成果に応じた賃金体系への変革が進んでいます。
賃金体系への変革について、代表的な例でいえば、日本を代表するグローバル企業であるトヨタ自動車の豊田章男社長が発言した「終身雇用難しい」というメッセージ。
この発言の背景には、「成果の有無にかかわらず、全体の賃金が緩やかに上がる」という従来型の雇用では、社員のモチベーションを上げられないという考えがあります。
つまり優秀な人材の確保のためには、成果に応じた正当な評価制度が必要であるということ。そのために、日立や資生堂などの大手企業も、この「ジョブ型雇用」への移⾏が進んでいます。
業務委託は、ジョブ型雇用の最たるものです。
専門的な能力に対して評価を得ることを求めている個人と、優秀な人材の獲得競争の中で即戦力を求める企業の双方にとって、新たな雇用手法として注目を集め、急増しています。
このような状況下で、人事としては社員を前提とした組織ではなく、業務委託など外部のプロフェッショナルと協働した組織づくりが早急に必要になっています。
業務委託メンバーの評価基準
───業務委託のメンバーを評価する仕組みがないケースも多いと思います。社員と違い、どのような評価をすべきなのでしょうか?
業務委託の場合は、まずは「求める成果」を明確にする必要があります。
社員と異なるのは、多くの場合、業務委託については長期的な育成の観点やキャリア形成を考える必要がないという点があります。
そのため、「現時点で会社が抱えている課題」を解決するために高い専門性を発揮して、成果に注力してもらうことが重要です。
この成果に対して評価を付けるためには、業務委託の契約書に記載されている「週2稼働で30万円、業務内容は採用強化」という内容だけでは評価ができません。契約期間ごとに、明確なミッションとゴールのすり合わせが重要です。
例えば、業務内容が採用強化である場合に、以下のように設定をします。
・ミッション「自社のビジョンに強い共感をもったメンバーの採用強化」
・ゴール「6カ月間で20名の採用」
ただ採用を強化するという目的でなく、「ミスマッチを防ぎ、不足している20名の確保を6カ月間で達成する」などのようにミッションとゴールを双方ですり合わせし、その達成度合いで評価する必要があります。
───業務委託メンバーの場合、成果だけで評価をするという事でしょうか?
そういうわけではありません。長期プロジェクトや新規事業などでは、契約期間内(評価期間内)で成果を求めることが難しいです。その場合は、成果ではなくプロセスで評価をすることも必要です。
また、スタートアップの場合はスキルだけでなく、社風やミッションへの共感などが重視されることも多いため、社員と同様に、バリュー評価(業務の範囲というよりも、会社が求めている行動指針に沿っているかを重視する)を取り入れることも、ひとつの手法だと考えます。
今後は特に、さまざまな雇用契約や働き方のメンバーを集めたチームで成果を最大化する必要がありますので、目的と行動指針を共通認識として持つことは非常に重要です。
いずれにしても、業務が開始する前に「期待していることを明確にしておくこと」がポイントになります。
業務委託メンバーの評価時期
───業務委託メンバーを評価する頻度やタイミングには、社員との違いはありますか?
社員のように同じ場所・同じ時間にいるわけではないことが多いので、ローコンテクストなコミュニケーションが好まれます。特に、高頻度に透明性高く評価と期待を伝えることで、業務委託の方々も動きやすくなると考えられます。
そのため評価タイミングとしては、契約期間の中間タイミングに複数回と、終了タイミングでそれぞれ行うことがベストです。
例えば6カ月のプロジェクトに業務委託メンバーをアサインした場合、途中の1カ月、3カ月の段階でもそれぞれ評価を行い、ミッションとゴールに対する進捗状況を確認します。
また、評価者を2名以上にして、多面的な視点での評価を行うことも重要です。
例えば、業務委託メンバーと近い距離で仕事をし、業務内容を把握できている社員を1次評価者、事業やプロジェクトの責任者を2次評価者にすることで、1次評価者はプロセスが見えているのでプロセスが評価でき、2次評価者は経営目線で期待していた成果に対して評価をすることができます。
「業務委託と協業する組織」を作る上で考えるべきこと
───これからは、業務委託メンバーと共に組織を作り上げる必要が出てくると思います。その際に気を付けるべきことはありますか?
組織成果を最大化するためには、業務委託や正社員という雇用契約で切り分けるのではなく、一つのチームとして考えることが重要です。
まずは、チームを作り上げるメンバーとして、社員と同様に会社のミッション・ビジョン・バリューを明示しましょう。
行動重視でスピード感を持って実行していくことを期待している企業と、丁寧に関係各所に説明をしながら業務を進める必要がある企業では、業務範囲が同じであっても仕事のプロセスが異なりますよね。
だからこそ、業務を任せるだけでなく、同じ組織としての行動指針やビジョンを雇用契約に関わらず共通認識として持つということが今後のスタンダードになります。
また、「評価制度」を会社が目指す方向を共有するツールとして活用することも有効です。一人ひとりのスキルや働き方に合わせながら、会社のミッションから逆算して、メンバー毎の「期待するミッションとゴール」を設定すること。それにより、全社の目標と個々の役割が連動することで、組織を成長させていくことが可能です。
ハーフコミットの業務委託メンバーにも、社員同様に権限移譲をしたり、社員育成を任せる事例も増えています。雇用契約に関わらず、共通のミッション・ビジョン・バリューで繋がるチームを作り上げることが、これからの組織づくりにおいて考えるべきことではないでしょうか。
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編集後記
松尾さんのお話の中で、業務委託とは、文字通りに「業務を委託して切り出すこと」ではなく、組織ビジョンを実現する一員としての、新しい在り方であるということを感じました。
そのためには、業務委託に求めるミッションや期待値を伝えるだけでなく、その背景にある全社の目標を共有すること、その上で、評価基準を明確にすることが重要だと言えます。
これから雇用形態が多様化するにあたり、社員という枠組みを外した評価制度を考えてみてはいかがでしょうか。