早期退職制度を正しく運用するには?社員の納得を得るための実践知
何らかの優遇措置と引き換えに退職希望者を募る「早期退職制度」。VUCA時代とも言われる先行き予測が困難な現代においては組織再編を検討する企業も多く、「早期退職制度」もその1つの手段となっています。
今回は、事業会社における人事経験と社会保険労務士経験を併せ持つ三井 純一さんに、「早期退職制度」の概要から導入・運用ポイントに至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
三井 純一/特定社会保険労務士・AFP 個人事務所代表(税理士法人にも籍を置く)
計9社で約30年人事業務に従事。うち半数は上場会社で経営側として企業の立て直しを実施。母校の東邦大学でも15年ほど非常勤講師を勤め、学生のキャリア相談に対応。現在は30社強の顧問を持ち、経営者の良き相談者として労働者との橋渡し役を実践。海外事業所の立ち上げや基金の解散も複数社で実施するなど、人事分野で幅広い経験を持つ。▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
「早期退職制度」とは
──「早期退職制度」とはどのような制度でしょうか?
早期退職制度とは、企業の働きかけに応じて定年退職前に従業員が原則本人の希望により退職することができる制度をいいます。
経営状態の急激な悪化に伴い緊急で行う「希望退職」と異なり、定年60歳前に使える常設的な制度として、労働者に裁量の多くが委ねられ、セカンドキャリア構築が能動的に築きやすい制度となっています。
──「早期退職制度」の一般的な定義や目的について、希望退職制度・選択定年制度・ポストオフ制度などとの違いを含めて教えてください。
労働契約法第9条および第10条では、労働条件を労働者に不利益に変更することについて厳しい制約が設けられており、解雇や賃金引下げを含む労働条件の変更には合理性や同意が求められます(例:正社員は60歳定年年齢まで働くことができる契約など)。
それらを変更する方法として、以下のような方法が設けられています。
・早期退職制度……定年前に原則本人の希望で労働契約を解除する方法
・希望退職制度……臨時的な方法
・選択定年制度……定年年齢が60歳でも65歳までの再雇用義務について労働者の意思で解除する方法
・ポストオフ制度(役職定年制度)……管理職以上の役職について任期や役職毎の上限年齢を制度として設ける制度
『選択定年制』は公的年金の支給開始年齢が65歳に統一される前に導入された制度であり、65歳前に退職してもらうことで65歳までの人件費を抑制する目的があります。
表面上は『セカンドキャリアを応援する』としていますが、同時に『65歳より早く辞めてくれれば60歳時の賃金を保障する』などさまざまな駆け引きが企業と労働者の間に行われてきました。
ただ、定年年齢が65歳に実質的に引き上げられてからは単独での運用が難しく、「早期退職制度」に組み込まれて運用されるケースが多くなってきています。
『ポストオフ(役職定年)制度』は「早期退職制度」と共にバブル崩壊頃から始まった制度です。従来、『基本給+勤続給』だった構造を『基本給+役職手当』に切り替え、役職定年を50歳前後に定めることで表面的には役職者の若返りを、裏側では50歳以上の賃金抑制を実現しています。
ただ、これらの制度について明確な法律上の区分けや定義がある訳ではなく、企業によっては上記制度が混ざったハイブリッド型の制度も良く見受けられます。
これらの制度の中で、比較的早くに登場した制度が「早期退職制度」です。始まりは年功序列の賃金体系を採用していた企業が、年齢と共に上がった賃金に見合うパフォーマンスが発揮できなくなった人へ社外転進を勧めるものでした。
バブル崩壊後には固定費の削減を強いられた大企業を中心に多く採用されたポピュラーな制度であり、2013年11月には国家公務員に対しても実施されています。
この「早期退職制度」は、一般的に従業員数1,000人以上の大企業で行われることが多いです。中小企業ではその体力(原資)が無いこと、人手不足が加速する畏れがあることなどから、常設の制度として成り立たせ難い実情があるからです。
「早期退職制度」の目的は、『固定人件費の削減』だけではありません。
同時に『組織の活性化』『事業の再構築』を目的としても導入・実施が進められています。
経営状態の急激な悪化に伴い緊急で行う『希望退職制度』と異なり、定年60歳前に労働者の裁量で使える常設的な制度として重宝されてきました。
退職オプションとして定年までの残存期間に応じた『特別退職金』が設定されることも多く、それを原資として労働者が自身のやりたいことに挑戦できることもあり、当時は割と労働者にも人気の高い制度でした。
一方、企業としては退職を希望する労働者に対し、意思決定の自由を侵害するような引き留めは、労働基準法第5条(強制労働の禁止)との関係で問題となる可能性があります。
『残ってもらいたい従業員』に抜けられてしまった上にコストも高い退職オプションを支払わなければならないケースも多く、『対象外』の設定をいかに上手く設定できるかがポイントとなっていました。
ただ、最近では人員不足により大手企業でも長年勤めた従業員には65歳(公的年金の支給開始年齢)ないし70歳まで定年を引き延ばす傾向も見られ、「早期退職制度」も少し下火になってきている印象があります。
<退職・定年制度別の比較表>
| 早期退職優遇制度 | 希望退職制度 | 選択定年制度 | ポストオフ制度(役職定年制) | |
|---|---|---|---|---|
| 目的 | 組織の活性化/中高年のキャリア再構築 | 経営上の理由による人員整理 | セカンドライフを個人で計画させる | 役職に定年制を設ける制度 |
| 内容 | 定年(60~65歳)前に離職を勧める | 一定の条件を提示し、退職希望を募る | 60歳以上65歳までの定年年齢を自分で選択 | 組織の新陳代謝の為の職位(管理職以上)の任期制 |
| 根拠条文 | 労働契約法第8条(個別同意による労働契約の内容の変更)及び第9条(不利益変更の禁止) | なし(既存の人事制度) | ||
| 労働者の同意 | 必須 | 必須 | 必須 | なし |
| 労働者の裁量 | 大きい | 少ない | 普通 | なし |
| 恒久的な制度か? | 常設の規程 | 臨時 | 常設の規程 | 常設の規程 |
| 退職オプション | △:最低限の保証のみ (自分で退職時期を決められるため) | ○:手厚い(急に退職を迫られるため) | ×:原則なし (ただし、定年再雇用の労働条件が合わない場合、特例で補填が設定され、擬似的な早期退職となる場合あり) | なし |
| 60歳前に利用可 | ○ | ○ | × | ○ |
| 60歳以上利用可 | ○ | ○ | ○ | 通常は適用がない/僅かにある |
「早期退職制度」を導入/廃止するケース
──「早期退職制度」の導入目的には人員削減以外にも『組織の活性化』『事業の再構築』があるとのことですが、実際にはどのような意図でこの制度を設計・運用しているケースが多いでしょうか。
『60歳定年義務化』が施行されたのは1998年のことでしたが、2025年4月からは『希望者全員が65歳まで働ける環境づくり』が完全に義務化されました。
企業によっては70歳まで勤務できるため、1社で勤め上げようと思うと50年近くも要することになります。日本企業の平均寿命は23年~25年程度と言われていることから、新卒で入った会社で定年まで勤め上げることは非常に難しいのが現実です。
そうなると、当然どこかでキャリアチェンジを行う必要があるわけですが、日本の法律では賃金を下げることが原則できません。『キャリアチェンジしても賃金は一緒で高いまま』では、企業としても採算が取れず継続雇用が難しくなりますし、何より周囲の士気も下がります。
本社から子会社に異動したものの、役割や期待値が不明確な管理職のケースなどが典型例です。このような状況下で「早期退職制度」は活用されることとなります。
ただ、高齢であっても日々努力して専門性を高めている方であれば、人材不足の影響もあり企業は雇用をできる限り継続したいと考えます。
しかし、そうではない方も一定数存在するのは事実です。特に、大手企業は事業の仕組み化が進んでいることから、同じ業務を正確に行うことがよしとされ、新しいことに取り組む機会が乏しくなることもあります。
そうした方々に高い賃金を支払い続けるよりも、より学習意欲が高く変化に対応できる人材に投資する方が競争力も高められます。そうした新陳代謝を促進させる意味でも「早期退職制度」は活用されています。
──近年、どのような業界・企業で「早期退職制度」を導入するケースが見られますか?
バブル崩壊後の初期には、大手製造業を中心に『人員削減』を目的として年功序列従業員をターゲットにした早期退職が行われてきました。しかし、近年ではIT業界を中心にした『製品寿命の短い』『変化の激しい』業界での活用が増えてきています。
特に、『事業再編』を目的とする場合は、「早期退職制度」+「希望退職制度」のハイブリッドで新たな体制や製品開発にそぐわない従業員を対象に実施されることが多いです。
この場合、労働者の意志と言うより企業の積極的意思で実施されることが少なくありません。企業も生き残りをかけて固定費をなるべく軽くするために、『自分たちの船に乗るのが難しい従業員』に半自発的に退職してもらう必要があるからです。
思考柔軟性の高い若手従業員は残し、そうではない中高齢者は早期退職のターゲットとする──設計さえ誤らなければ組織のコンパクト化により利益を確保しやすくなるため、狙い通りの成果を得る企業も多い印象があります。
──一方で、「早期退職制度」を廃止または運用を見直す企業も出てきています。その背景にはどのような理由があるのでしょうか?
「早期退職制度」は基本的に労働者の意志で活用されることから、重要ポジションを担う人材や、企業にとっても辞めて欲しくない人材が抜けてしまう可能性がゼロではありません。
実際に、中核として組織に残って欲しい中堅従業員が抜けてしまうケースもあり、それにより組織の生産性が著しく低下し、元の状態に戻すまでに長い時間がかかってしまう企業もいくつか見てきました。そうした狙い通りに行かない事態に直面したことで、「早期退職制度」を廃止もしくは運用見直しを進める企業も多いです。
また、「早期退職制度」は組織の活性化も目的の1つになっていることもあり、本制度の成功可否は『その後の人財を確保できるか』にかかっています。よって、採用が容易な大企業や人気業種でなければ本制度の適用は意味がないものとなりやすい側面があります。
なお、現在は大企業を中心に『ジョブ型』の人事制度導入が進んでおり、従来の年功序列も薄まりつつあります。それにより能力及び業績に見合った賃金が実現すれば、わざわざ退職時にオプションのつく「早期退職制度」は自然とその必要性がなくなってくると考えています。

適切に「早期退職制度」を導入するためのポイント
──早期退職制度の設計は、どのようなステップで進めるべきでしょうか?

まずは、制度構築のための設計図(背景・目的・簡単なゴールを記したものなど)を準備・言語化し、経営の完全な理解を得るところから始めましょう。経営資源を退職オプションで使うことになることはもちろん、労働者保護の各種労働法をクリアする必要があることからも、経営側の強い動機・必要性が必須になるからです。
次は、『従業員への説明資料作成』です。作成時には労働者のメリットも必ず記載し、運用に誤解を与えないようにしなければなりません。社内労働組合がある場合は、『企業としての必要性』と『労働者のメリット』を組合向けに説明し、十全な理解を求めるようにします。
<企業としての必要性例>
賃金に見合った働きを労働者には期待すること、環境上能力やスキルが上がり難い労働者には賃金分の働きを期待することが年々厳しくなっていくこと、など
<労働者のメリット例>
加齢と共に能力やスキルアップが上がりづらくなった従業員に、社外も含め『能力に見合った仕事』を見つけること、それに自ら早く気づいた労働者ほど早く新しい仕事に挑戦できるため成功する可能性が高くなること、など
企業は原則として『労働者の未来を守ること』を、労働組合は『労働者の現在を守ること』を重視します。まずは、両者が守ろうとしている対象の違いを共有し、そのうえで現状(加齢は避けられないという事実も含めて)を確認し、どれだけ時間的な猶予があるのかを双方で把握することが重要です。
その上で、『企業が提供できる最大限の支援』と『労働者が受け取るべき補償』について話し合い、補償の範囲内でどのような具体的選択肢が考えられるかを整理し、制度として構築していきます。
また、この制度を単なる損得の問題として捉えるのではなく、労働者が「自分の人生を定期的に見直す機会」として活用でき、結果的に長期的な利益につながることを確認することも大切です。
その意義が正しく伝わるよう、制度の周知内容についても企業と労働組合が協力して検討する必要があります。さらに、制度運用において労働組合がどのように関わるのかを事前に明確にし、無理のない形で運用していくことも欠かせません。
『経営の理解』と『従業員への説明資料』ができて初めて、必要に応じて規程化していきます。当初は最低限の内容にしておき、後ほど運用しながら必要な部分を補完していくのが良いでしょう。
なお、設計者と運用者は時系列的にも違う人物となることが多いはずです。その場合に備えて、『設計者から運用者への申し送り』を設計時に用意しておけると、その制度の目的達成に大きく貢献することができるでしょう。
──制度を運用する際に『利用する従業員』と『利用しない従業員』の間で不公平感が生じないようにするためには、どのような配慮やコミュニケーションが必要でしょうか?
運用者は、正しく「早期退職制度」の目的や意図を理解し運用する必要があります。当然ながら、経営者や制度設計者の意図を理解せず、自分の都合の良いように運用することはご法度です。
人事部門員は労働者寄りに位置する方も多いですが、なるべく公平な運用者として善管注意義務を守って適切に運用することを心がけましょう。
なお、組織内で不公平感が生じないようにするためにも、運用者は以下7つの観点を遵守することが重要です。
<運用者が守るべきこと>
(1)制度の趣旨と予算の完全な把握
どんな制度にも目的とゴールがあり、それを予算の範囲内で達成することが重要です。この運用を確実にするため、運用体制・手順・イレギュラー発生時の対応について予め決めておきましょう。
(2)対象外の設定
対象外に設定すべき例には以下のようなものがあります。
・事業継続に必要な人材
・事業継続に必要なポジションに就いている者
・ルール違反者(懲戒処分減給以上の処分者など)
(3)募集時期の設定
年度予算を組む前か半期運用後が良く、各職場の人員計画に影響しないように配慮します。
(4)管理職への説明会
上記(1)~(3)を労働者への説明資料にて説明し理解してもらいます。
(5)制度上限数の設定
予算には上限があるため、応募者が募集人数を上回った場合、適用の優先順位は企業が決めることになります。
(6)募集開始
締め切ったら名簿を見て優先順位の高い者から面談(※)を実施します。この時、個別の退職オプションも提示します(説明会実施時は簡単な計算式の開示に留める)。
※現在のポジション要件との間にギャップが生じている場合は、具体的な選択肢が年々少なくなっていくことをこの機会を通じて理解してもらう必要があります。また、面談はセカンドキャリア面談としてください。あくまで自身の自由意思で『将来の選択』を行ってもらうことが肝要です。
(7)上長確認・対象者確定
上長へ対象者とすることの確認を取ったら経営層へ報告し、予算内であることを条件に承認を取ります。
承認が取れた人から速やかに引き継ぎを含む退職手続きを行います。制度適用者は、あまり職場に長く留めておくことは、職場の士気を下げるので避けた方が良いでしょう。
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編集後記
「早期退職制度」は、退職勧奨や整理解雇と同様に『人員削減』というネガティブなイメージを持たれやすい印象がありました。しかし、実際には『組織の活性化』『事業の再構築』などの前向きな目的があり、従業員にとっても早い段階で自身のキャリアを見直す機会が得られるメリットがあります。人事施策の1つとして検討することはもちろん、将来的な運用に備えてその利点・欠点を理解しておけると良いのではないでしょうか。








