「ストレスマネジメント」の組織へ及ぼす影響と、効果的な実践方法について解説
日常生活や仕事の中で生まれるストレスと上手に向き合う手法である「ストレスマネジメント」。従業員が抱えるストレスを適切に管理することは健康だけでなくパフォーマンスにも直結するため、近年関心を持つ企業が増えている印象です。
今回は、「ストレスマネジメント」の概要や実践方法について、滝井 順子さんにお話を伺いました。
<プロフィール>
滝井 順子(たきい じゅんこ)/法人代表
人材育成を得意とする組織開発コンサルタント。すべての研修にディスカッションやゲーミフィケーションを取り入れ、座学だけでは学べない参加型研修を実施。起業前は10社ほどの企業を経験し、最終的には人事部長として経営視点での課題解消施策などを推進。大型プロジェクト参画時にはPMOとして全従業員への年間教育計画の策定および研修実施するなど延べ13,000名以上の受講生を輩出し、研修プログラムテキストは400種類以上保持している。2020年2月に起業し、大手企業を中心に企業内講師の育成やマネジメント層に対する評価者研修、社員登用研修、OJTトレーナー育成研修など、各企業の人材育成支援を行っている。
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目次
「ストレスマネジメント」とは
──「ストレスマネジメント」とは具体的にどのような取り組みなのでしょうか。その内容を教えてください。
「ストレスマネジメント」とは、職場や日常生活で避けられないストレスに対して気づき・理解・対処する力を身につけ、心身の健康とパフォーマンスを維持・向上させるための具体的な取り組みを指す言葉です。企業においては、個人のセルフケアに加え、制度・研修・職場環境や組織的なサポート体制の整備を通してメンタルヘルスの安定、組織全体の健全性・生産性の向上に寄与する重要な施策として実施されています。
「ストレスマネジメント」の取り組みは、厚生労働省が示す『心の健康づくり計画』における以下の4つのメンタルヘルスケアの枠組みに沿って体系的に整理できます。
(1)セルフケア
セルフモニタリングやストレス対処スキルの習得、メンタルヘルスリテラシーの向上など、従業員自身が自らのストレス状態に気づき、対処していく力を養う取り組みです。
(2)ラインケア
部下のストレスへの気づきや心理的安全性の向上、マネジメント力の強化など、管理監督者(上司など)が部下のメンタルヘルスに気を配り、適切な関わりを行う取り組みです。
(3)事業場内産業保健スタッフによるケア
相談窓口での従業員対応や健康支援、教育やメンタルヘルスに関する情報提供など、産業医や保健師など社内の専門職が中心となり、従業員の相談対応やメンタル不調の早期発見・支援にあたります。
(4)事業場外資源によるケア
外部カウンセリングの整備やEAP(従業員支援プログラム)の導入、復職・医療連携など、社外の医療機関や専門家と連携して、より専門的な支援を受けられる体制を整えます。
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上記4つのメンタルヘルスケアを基盤に据えることで、「ストレスマネジメント」の取り組みは個人の気づきから組織全体の支援体制までを網羅するものとなり、持続的で効果的なメンタルヘルス施策として機能します。従業員の健康と生産性の両立を図るための重要な企業責任、かつ成長戦略の一環と言えるでしょう。
「ストレスマネジメント」の導入メリット
──企業が「ストレスマネジメント」を導入・実施することで得られるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
メンタルヘルス不調はある日突然現れるわけではなく、日々のストレスの蓄積や業務環境・人間関係の影響などを受け少しずつ心のエネルギーが削られて表出するものです。その過程で『バーンアウト(燃え尽き症候群)』と呼ばれる状態になることもあり、真面目で責任感が強い人や理想が高い人などが陥りやすい傾向があります。こうした個人要因だけでなく職場環境要因(長時間労働、厳しい目標、裁量の少なさ、役割の不明確さ、努力に見合った評価をされない、など)も大きく影響します。
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これらの状態が放置されたままでいると心身のバランスが崩れ、通常の業務が困難となるだけでなく、休職や離職に至るケースも珍しくありません。しかも、こうした変化は本人にも周囲にも気づかれにくいため、『自分が弱いせいだ』と自責的に捉えて1人で抱え込んでしまう人も少なくないです。このような事態を未然に防ぎ、長期的な人材の定着や職場の安定を支えるために有効なのが、厚生労働省が提唱する『心の健康づくり計画』に基づいた「ストレスマネジメント」の導入です。
前述した4つのメンタルヘルスケア体制を整えることで、従業員が1人で抱え込まずに済む状態を維持しやすくなります。その結果、メンタルヘルス不調に早く気づいて対応することができるようになり、休職や離職といった深刻な事態を未然に防ぐことが可能になります。つまり、「ストレスマネジメント」の導入は従業員の心身の健康を守るだけでなく、人材の損失を防いで組織の生産性・安定性を高められるという大きなメリットをもたらすものなのです。
ストレッサーの種類
──ストレスを引き起こす要因(ストレッサー)にはどのような種類があるのでしょうか。従業員の心身にどのような反応を引き起こすかについても合わせて教えてください。
職場におけるストレッサーは、大きく以下4つに分類することができます。これらが相互に影響し合いながら、従業員の心身にさまざまな反応を引き起こす形です。それぞれの具体例と引き起こすストレス反応も含めて解説します。

(1)物理的ストレッサー
物理的刺激が原因となって身体や心に負担を与えるものです。五感で感じて体に直接影響する、不快・負担に感じるものがこれにあたります。
<具体例>
・温度、湿度(過度な暑さや寒さ、乾燥や多湿、空調が効かない)
・換気(空気がこもる、異臭)
・騒音(電話の音、人の話し声、機械音、工事の音)
・振動(機械、建設現場、交通機関)
・照明(暗い、まぶしい、照明がちらつく)
・身体的負荷(長時間の立ち仕事・座り仕事、単調作業)
<心身のストレス反応>
・身体症状:頭痛、肩こり、眼精疲労、めまい、疲労感、不眠、息苦しさ
・精神症状:イライラ、不快感、集中力の欠如
(2)化学的ストレッサー
空気中や環境中に存在する化学物質が体内に取り込まれたり感覚を刺激したりすることで心身に負担を与えるものです。これらは目に見えない一方で、職場の衛生管理と密接に関係しています。
<具体例>
・化学物質(工場で使う薬品、塗料やトナーの揮発性物質、建材や家具)
・におい(消毒薬、香水、タバコ、食品、排気ガス、薬品、建材や家具)
・アレルゲン(カビ、ほこり、花粉、ペット、タバコの煙)
・酸素欠乏
<心身のストレス反応>
・身体症状:呼吸器症状、喉の痛み、くしゃみ、鼻水、目の刺激、皮膚炎、アレルギー反応、頭痛、めまい、吐き気、倦怠感、脱力感、脳の低酸素状態
・精神症状:集中力・判断力の低下、不快感、イライラ、抑うつ感
(3)心理的ストレッサー
自身の捉え方・感情・思考・認知に由来して生じる精神的な負担となるものです。外からは見えにくいため気づかれにくいものの、日常生活や職場で大きな影響を及ぼします。また、後述する社会的ストレッサーと密接に関連して生じることも多いです。
<具体例>
・対人関係(嫌がらせ、上司・同僚・部下との不和、ハラスメント、理解者の異動、上司の変更、昇進先越し)
・仕事量(長時間労働、過剰な業務量、連続勤務、休憩の少なさ、厳しい納期やノルマ)
・仕事の質(業務内容や勤務形態、仕事のぺースの変化、複雑すぎる業務、責任の重圧、裁量の少なさ、役割の不明確さ、責任と権限の不一致)
・負荷の高い業務(重大なミスの責任、新規事業の立ち上げ、業務の立て直し、顧客からの過剰な要求やクレーム対応)
・キャリア(キャリアパスが不透明、リストラや契約打ち切り、成長機会がない)
・価値観の不一致(会社の理念・方針と自身の考え方が合わない、組織文化とのミスマッチ)
・内的特性(ミスへの強い自責、完璧主義)
<心身のストレス反応>
・身体症状:不眠、食欲不振、過食、拒食、頭痛、胃痛、下痢、吐き気、動悸、めまい、冷や汗、口渇、頻尿、慢性的な疲労感、体重の増減、中途覚醒、悪夢
・精神症状:意欲低下、集中力低下、判断力低下、抑うつ気分、不安感、イライラ、怒り、無力感、悲観的思考、感情の不安定さ
・行動の変化:引きこもり、遅刻・欠勤の増加、ミス・事故の増加、飲酒量・喫煙量の増加、衝動的な行動、対人関係の悪化、口数が減る、表情が乏しくなる
(4)社会的ストレッサー
人間関係、職場、社会環境、組織構造、経済・政治といった自分以外の外的要因から生じるものです。これらは個人の力では変えにくいため、心理的ストレッサーの引き金となることがあります。
<具体例>
・対人関係(上司・同僚・部下との不和、ハラスメント、多様性への対応)
・働き方(長時間労働、サービス残業、テレワーク、ライフイベントとの両立負荷、ワークライフバランスの崩壊)
・キャリアや職務変化(キャリアの停滞、リストラ、昇進による責任増、降格、役割の喪失、スキル習得への圧力)
・組織文化や制度(会社の合併・買収、組織再編、人事異動、部署の統廃合、過度な競争主義、風通しの悪さ)
・経済や社会環境(会社の業績悪化、給与・雇用の不安定、景気後退、社会制度の変更、働き方改革、AI・ITの進展に伴う職務変化や不安)
・生活環境(通勤ラッシュ、プライバシーの欠如)
<心身のストレス反応>
・身体症状:動悸、発汗、胃痛、倦怠感、過食、拒食、不眠、免疫力低下、疲労感
・精神症状:孤独感、無力感、怒りの感情、意欲喪失、離職願望、不安感、将来への絶望感、適応障害、抑うつ気分、モチベーションの低下、職場への不信感、過労による感情麻痺
・行動の変化:コミュニケーションの減少、休職、離職、業務への無関心
ストレス度合を把握する方法
──企業が「ストレスマネジメント」を行う上では、従業員のストレス状態把握が必要不可欠だと思います。どのような手法や尺度があるのでしょうか。
職場におけるストレスの状態を把握するには、アンケート形式の調査がよく活用されています。ただし、ストレスを測る調査にはさまざまな種類があるため、調査の目的や対象となる従業員の属性に応じて適切なものを選定する必要があります。その中でも代表的で多くの現場で使われているのが、厚生労働省が開発した『職業性ストレス簡易調査票』です。この調査票の利点をまとめると以下です。
<職業性ストレス簡易調査票の利点>
・単にストレス反応を測定するだけでなく、職場環境に起因するストレス要因や、それに影響を与える修飾要因までを同時に評価できる
・業種や職種を問わず幅広く使える
・心理的ストレス反応に関して、ネガティブな反応だけでなくポジティブな側面も合わせて評価できる(従業員の心の健康状態をより多面的に捉えられる)
また、この『職業性ストレス簡易調査票』の尺度に対応したストレスチェック実施機関や産業医・保健師・専門家も多く、導入から実施、結果分析、高ストレス者への対応まで一連のサポート体制が整っている点も導入しやすさの一因となっています。ただし、使用にあたっては以下点に注意して活用する必要があります。
<職業性ストレス簡易調査票の使用上の注意点>
・家庭でのストレス要因は測定範囲外
・調査時点のみの状態把握
・結果はあくまでも参考資料とし、診断の材料とはしない
・回答傾向や精度に留意する必要がある
こうした客観的な調査結果に加えて、現場での日常的な観察や対話の中で『変化の兆し』に気づくことも「ストレスマネジメント」には欠かせません。ストレスによる心身の不調にはある程度の共通傾向はあるものの、そのあらわれ方は人によって異なるためです。『いつもと違う』様子に気づけるよう、1人ひとりの特徴を日常的に理解しておくことが前提となります。
また、仕事ぶりの変化に注目することも日常の労務管理の延長として取り組みやすい方法です。例えば、以下のような業務上の変化が2週間以上継続する場合は何らかのサポートや対処が必要と考えられます。このような行動の変化はストレスによる心身の不調のサインである可能性があるため、管理職や人事が早期に気づき、適切に対応することが求められます。
・遅刻、早退、欠勤が増える
・これまでスムーズにこなしていた仕事に時間がかかる
・ミスが増える
・職務の出来にムラがある(良い日と悪い日の差が激しい)
・顧客対応での苦情が目立つ
・納期や締め切りに間に合わない
──従業員自身が日常的にストレスを自覚できると良いと思うのですが、セルフチェックできる方法などはありますか。
おっしゃる通り、従業員自身がストレスを自覚できるようになれば、より早期に対策を取ることができるようになります。以下のような取り組みを通じて、セルフチェックできる環境・仕組みづくりを企業主導で行っていけると良いでしょう。
■ストレスチェック受検やセルフチェックの定期的な呼びかけ
労働安全衛生規則では、最低でも1年に1回はストレスチェックを実施することが義務付けられています。それらを実施してもらえるよう呼びかけることはもちろんですが、それ以外にも定期的に『セルフチェック』の実施を推奨する仕組みづくりも同時に行うことで、従業員が気軽かつ自然な流れでストレス状態に気づけるよう支援します。厚生労働省が提供している『5分でできる職場のストレスセルフチェック』などを社内ポータルサイトで紹介し、定期的な利用を促進すると良いでしょう。
■プライバシーの配慮
ストレスチェック結果が人事評価などに利用されないことを従業員に伝えることにより、安心して受検できる雰囲気づくりを行います。
■心理教育の実施(研修、eラーニング)
ストレスとの付き合い方や対処法を学ぶ研修を定期的に開催したり、eラーニングの機会を提供したりして、従業員のストレス対策における意識向上を図ります。
■相談窓口の周知とアクセスしやすさの確保
社内の産業医や保健師とのつながりを可視化し、掲示や面談予約の簡素化などを通じて相談しやすい関係性を構築します。その際、匿名性やWeb対応、休日利用が可能な従業員支援プログラムや外部カウンセラーを案内し、従業員が安心して相談できる選択肢を増やすことも重要です。
「ストレスマネジメント」の具体的な方法
──対処が必要とされる従業員に対して、企業としてどのような方法で「ストレスマネジメント」を行うと良いでしょうか。
ストレス状態にある従業員を支援する上で重要なのは、『どこに働きかけるか』の視点です。ストレスの原因に向き合うのか、感情に向き合うのか──この違いを意識して支援を行うことで、より効果的な「ストレスマネジメント」が可能になります。そこで活用できる考え方に『コーピング(ストレスへの対処行動)』というものがあります。これには以下2つの型があり、場面に応じて使い分けることが重要です。

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■問題焦点型コーピング
ストレッサーそのものに働きかけ、状況を変えることでストレスを減らす『問題解決』を目的とした方法です。課題解決に直結する点から、一般的には望ましい手法とされています。
<有効な場面>
・業務負荷の偏りや過重労働がある
・人間関係のトラブルがある
・役割や責任の不明確さによる混乱がある
・職場環境や業務条件がストレスの要因となっている など
<対処方法>
・業務負荷の調整(業務の棚卸・再配分、残業削減、テレワーク導入、ジョブローテーションの見直しなど)
・人間関係の調整(配置転換、ハラスメント相談窓口の設置、1on1面談、事業場内産業保健スタッフによる個別対応・仲介など)
・スキルや役割の不明瞭さの調整(OJT、業務マニュアル整備、目標の再設定、業務フローの可視化など)
・職場環境の調整(騒音・温湿度・照明・換気の管理、適切な椅子や机の導入、総務や安全衛生部門との連携など)
■情動焦点型コーピング
ストレッサー自体を変えることが難しい場合に、自分の感情や受け止め方に働きかけてストレスを和らげる方法です。問題焦点型コーピングでは対処が難しい状況に適しています。
<有効な場面>
・業務内容や組織構造など、構造的で変えにくい要因がある
・顧客対応・家庭問題など、外的・個人的なストレスを抱えている
・感情の高ぶりや落ち込みが強く、情緒的反応が大きい
・無力感・燃え尽き・抑うつ傾向が見られる
<対処方法>
・感情の整理や支援の提供(カウンセリング、従業員支援プログラムの導入、傾聴や共感を重視した1on1面談、メンター制度の整備など)
・心理教育やスキル習得によるストレス対処力の向上(メンタルヘルス研修、心理教育、認知的再評価のトレーニングなど)
・セルフケアの推奨や促進(睡眠・運動・食事などの健康的な生活習慣の啓発、有給休暇の取得促進、リフレッシュスペースの整備、プライベートでのストレス解消法の支援など)
・組織風土の整備と共感の文化づくり(上司や同僚による共感的な声かけ、ストレスサインに気づくチェックリストの掲示・配布など)
『ストレス要因には“取り除けるもの”と“取り除けないもの”がある』という視点は、コーピング手法を選択する上でも非常に重要です。また、人によってコーピングの癖や得意・不得意もありますから、それらも踏まえて対処法を検討する必要があります。

「ストレスマネジメント」の導入事例
──実際に「ストレスマネジメント」施策を人事主導で導入した事例について、その取り組み内容と成果を教えてください。
これまでも人事部門が中心となっていくつかの施策を導入し、現場と連携しながら改善を進めてきました。その中から、500名規模のバックオフィス業務全般のアウトソーシング・BPOサービス企業で取り組んだ事例を3つご紹介します。
(1)ストレス状態の可視化と早期対応
こちらの企業は体育会系の組織風土だったこともあり、「残業=がんばっている」という価値観が根強い状態でした。そのため、従業員が心理的な不調を口にしづらく、実際の心身の状態が把握しづらい状態になっており、特定の部署で体調不良・離職が散見されるようになっていました。
また、これまでストレスチェックは実施していたものの、結果の活用は進まず、部署単位での予防的アプローチも不足していました。そこで、ストレスチェックを起点とした早期対応と環境改善の仕組みを整えました。
まず、全従業員を対象に年1回ストレスチェックを実施し、心身の状態を可視化しました。具体的には、結果を個人対応にとどめず、組織全体の傾向として把握するようにし、産業医・人事・管理職の関係者が連携して職場環境の改善に向けた対応ができる体制を構築しました。
さらに部署ごとの結果に注目することで、ストレスリスクが高い傾向にある部署を特定。部署単位での対策を行うようにしました。
まず、高ストレス者と判定された従業員には、産業医との面談を勧奨し、ストレス要因の分析と具体的な対処法の検討を行い、必要に応じて医療機関の受診や業務配慮にもつなげました。
この際、人事からは「受けてください」といった命令的な表現ではなく、「自分の状態を振り返る良い機会」「少しでも楽に仕事ができるように」といった支援的なニュアンスで声をかけるように配慮し、面談を気軽に受けられるような雰囲気作りをしていました。
また、先ほど述べたように部署単位での結果をもとに従業員が高ストレス傾向にある部署を特定し、産業医と人事が、職場環境改善プランを策定。部署の責任者との面談を通じて状況把握するとともに、業務分担の見直しによる業務負荷の分散や、人事や上司からの残業削減に対する声かけや、特定の環境がストレスとなっている場合は部署異動を行うなどの対応を行いました。
この結果、高ストレス者の割合は年々改善し、産業医との面談や相談のハードルも下がりました。また、『ストレスチェックをしている会社である』という認識ができ『健康を大事にする会社』としての安心感につながりました。さらに、従業員のセルフケア意識の向上にも結びついています。
(2)入社初期フォローによる早期離職の抑制
従来は入社後のフォロー体制が整備されておらず、上司や先輩社員の関わりが属人的だったり、面談のタイミングや内容が統一されておらず、支援の質にばらつきがあったため、中途採用者の早期離職が課題となっていました。
こういった課題を解消するため、入社初期の不安やミスマッチを早期に把握・解消する制度を導入。具体的には、入社後1カ月、3カ月、6カ月の節目で人事による定期面談を実施するようにしました。
入社者には業務理解度や職場適応状況、困りごとを丁寧にヒアリングし、とくに中途採用者には文化や仕事の進め方の違いによる戸惑いを重点的に確認しました。また、受け入れ側の上司・先輩にもヒアリングを行い、人事が情報を整理して必要なアドバイスを提供。心身の不調が疑われる場合は産業保健職との連携も行いました。
こうした仕組み化により、中途採用者の短期離職が減少。入社者からは『入社してすぐに丁寧に話を聞いてもらえたことで安心した』との声も多く、入社直後のギャップも早期に把握・対応できるようになりました。さらに、受け入れ側の支援も質が安定し、『定着は個人任せにしない』という組織全体の共通認識が生まれ、協力的な風土の醸成につながりました。
(3)体臭などデリケートな環境要因への個別対応
ある従業員の体臭により周囲の従業員の業務に支障が出ていましたが、デリケートな問題でもあるため周囲の従業員や上司が対応に迷い、なかなか改善に乗り出すことができず、周囲の従業員が困っているというケースがありました。
また、『このような場合、誰に・どのように相談すればよいか分からず、周囲の従業員も困っていた』という声も出ていました。
そこで、対象従業員には人事または上司が面談を実施し、健康状態や生活習慣を丁寧にヒアリング。周囲にも匿名性を保ちながら状況を確認し、職場の現状を整理・改善策を検討しました。また、本人には配慮ある言葉で説明し、上司や関係者には対応の背景や留意点を共有して職場全体で見守る体制を整えました。加えて、換気の強化や座席配置の調整など環境面での工夫も行いました。
これにより、職場の人間関係悪化が抑制でき、本人も自ら体臭ケアや生活習慣改善に前向きに取り組むようになりました。対応方法も関係者に共有され、属人化を防ぎつつ再現性のある支援体制が整っています。環境改善も進み、体調不良の訴えも減少しました。
上記の事例が示すように、ストレスマネジメントの本質は、制度や仕組みそのものではなく、その中で働く『人』に目を向け続ける姿勢にあります。目の前の業務に追われる日々の中でも、ほんの少し立ち止まり、対話を重ねることで見えてくる気づきや変化があります。ストレスマネジメントとは、そうした小さな関わりの積み重ねが、働く人の安心を育み、企業の持続的な成長を支える土台になると感じています。
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編集後記
「ストレスマネジメント」は制度を導入して完了するものではなく、人事部門主導で継続的に“従業員に目を向け続ける”姿勢こそが本質的な取り組みなのだと滝井さんのお話から実感することができました。従業員のちょっとした変化や違和感に気づき、必要な場面で手を差し伸べる──そうした日常の小さな関わりの積み重ねが、「ストレスマネジメント」を単なる施策から企業文化として根づかせる力になるのではないでしょうか。







