「心理的資本」は心のエネルギー? その定義・構成要素や導入スタンスについて解説
従業員が挑戦意欲を持ち、前向きに進んでいける状態を指す「心理的資本」。人的資本経営やエンゲージメントに対する意識の高まりと共に注目を集めている概念です。
今回は、この領域において経験・知見を持つパラレルワーカーの方に、「心理的資本」の概要から得られる効果、導入前に持っておくべきスタンスに至るまでお話を伺いました。
小浜 剛(こはま ごう)/GILAコンサルティング株式会社 代表
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マネジメントによる経営強化を専門とし、主に「10名・30名・50名の壁」に直面するベンチャー企業を支援。現役の心理学者である双子の兄と共同経営。進化心理学と認知心理学をベースにした独自理論を体系化。「社風のシステム化」や「マネジメントコードの設計」などマネジメントや組織課題に関するメソッドを提供している。
目次
「心理的資本」とは
──「心理的資本」とはどのような概念でしょうか。昨今注目される背景と合わせて教えてください。
「心理的資本」とは、企業の生産活動にプラスの影響を与える心のエネルギーを科学的に計測し、開発する方法を明らかにしたものを指します。米国のネブラスカ大学名誉教授フレッド・ルーサンス氏らによって2002年頃に提唱されたものであり、変化の激しい時代に企業が競争を優位に進めるために、また個人が幸せに暮らすためにも、“前向きに思考・行動し続ける心のエネルギー”に大きな関心が集まるようになった時代背景から、最近特に注目されている概念です。
どれだけ優秀で成果を出すための知識やスキルを持っていたとしても、その心が疲れていたり、力を発揮するための前向きな姿勢がなかったりすれば、能力を発揮することができないのは明らかです。
また、デジタルな経営で有名なGEが相対的業績評価によるモチベーション低下が経営的にマイナスだとして同手法を取りやめたことに加え、Googleやマイクロソフトでも同様の動きがありました。これらの動きもあり、『人の心は測れないものとし、目に見える数字のみで行う経営』から『人の心を前向きに開発し、生産性を向上させる経営』にシフトしてきているのも、「心理的資本」をはじめウェルビーイング経営などが注目されている背景にあると考えています。
──この「心理的資本」は、モチベーション・心理的安全性とどう違うのでしょうか?
まず、「心理的資本」とモチベーションの違いはその『時間軸』にあります。モチベーションは非常に短期的で大きく動きます。例えば、『お母さんに怒られたから宿題をする気がなくなった』といった経験は誰しもがあるのではないでしょうか。これは心理学的に言う所の『刺激』に対する『反応』に近く、測定やコントロールが困難なものです。
一方、「心理的資本」は比較的安定しており、時間軸も数カ月~1年のスパンで捉えることができます。自信に溢れている人は些細なことでパフォーマンスが下がらない様子を想像してみるとわかりやすいかもしれません。認知が介在すること、ポジティビティ(物事を肯定的・積極的・前向きに捉える考え方・状態)などの方向性、一定の時間軸による再現性などの観点から、モチベーションとは大きく違いがあります。
また、「心理的資本」と心理的安全性との違いは、以下のように例えられることが多いです。
・心理的資本=その人が持つエンジンや原動力
・心理的安全性=その力に影響を与えるアクセル/ブレーキ
どれだけ良い「心理的資本」を持っていたとしても、組織や職場環境があまりにも劣悪であれば能力は発揮できませんし、その逆もまた然りです。モチベーションが「心理的資本」と区別される概念だとしたら、心理的安全性は「心理的資本」の発揮にも関係する密接な関係と呼んでも良いかもしれません。
「心理的資本」が測定・開発可能な理由
──「心理的資本」が測定できる・開発できると言われるのはなぜでしょうか? 代表的な測定・開発手法の例を教えてください。
「心理的資本」はその名に“資本”と名付けられているだけあり、測定可能であること、また経営やマネジメントにより開発可能であることが1つの特徴です。測定方法・開発方法のそれぞれについて解説します。
■「心理的資本」の測定方法
開発者であるルーサンス教授や本場アメリカにおいては、「心理的資本」における4要素をそれぞれ6問ずつ質問する『PCQ24』という方法で「心理的資本」の測定を行っています。なお、簡易版の『PCQ12』、改訂版として開発された『CPC-12R』などもあり、どれを使えば良いのかと疑問に思うこともあるかもしれません。私個人としては『必ずしも原典を参照しなくても良い(企業が独自開発したものや自社翻訳でOK)』としています。
「心理的資本」の測定が目的なのであれば、英語版の原本を正確に翻訳し、測定においても特定のトレーニングを積んだ担当を活用することが望ましいです。しかし、あくまで目的が「心理的資本」を用いた施策と効果なのであれば、導入が容易で『まずやってみる』ができる方が成果につながりやすいと考えるからです。
もちろん、長年にわたって経営にフィードバックする場合は正しさを求める方法に変更していく必要があろうかと思いますが、まだ「心理的資本」の概念が知られておらず、それを経営に取り入れている会社が少ない現状では導入・運営コストが低い方が多くの会社にポジティブな影響が出ると考えています。
■「心理的資本」の開発
「心理的資本」はどのようにしたら増えるのか。正確に言えば「心理的資本」の開発は、『HERO』と呼ばれる「心理的資本」を構成する4要素それぞれにおいてポイントがあります。『HERO』の詳細については次の項目、その開発方法については最後の項目で詳しく解説しますが、改めて「心理的資本」は開発可能であること、その開発には具体的な方法があること、及びそれも個別の開発方法があること──これらを知っておくだけでもより立体的な理解になると思います。
「心理的資本」の4つの構成要素
──「心理的資本」の4つの構成要素(HERO)について、それぞれの定義や従業員パフォーマンスへの影響の観点も含めて教えてください。
「心理的資本」は、Hope(希望)、Efficacy(自己効力感)、Resilience(回復力)、Optimism(楽観性)の4つの要素から構成されています。それぞれの定義や従業員パフォーマンスへの影響は以下の通りです。

■Hope(希望)
ここで言うHopeは、日本語のイメージで言う所の『希望』ではありません。辞書にある『望み』や『~であればよいと思う』のような一種受身で神頼みのようなニュアンスではなく、自分自身で立てた目標に対して熱意・積極性・こだわりを持って達成する『意志』の力と『経路』の力に分けられる点に特徴があります。
<『意思』の力と『経路』の力の一例>
・意志……積極的に自身で目標を設定する、熱意をもって目標を達成しようとする
・経路……目標達成のためにいくつもの道を用意し、1つがダメでも代替プランで達成しようとする
このようなHopeの力が強い組織がどうなるのか。まず、マネジャーにHopeが高い人がいると従業員は動機付けされ、自身も同じように主体的であろうとメンバーへの波及効果が生まれます。また、組織としては変化に対して強く、また能動的に達成に向けて工夫するなど、組織の性質や業務姿勢などを前向きにする効果があります。
■Efficacy(自己効力感)
『自己効力感』という言葉が日本でも市民権を得てきたように思いますが、ここで言うEfficacyには『自分に対する信頼』の意味を加えても良いかもしれません。難度の高い課題にも、自分の働きかけで結果を変えられるという見通しを持ち、必要な行動を選び取り実行できる──Efficacyの高い人とはそんなイメージです。
では、Efficacyの高い組織はどうなるのか。結論から言うと、マネジメントコストが減少し心理的安全性が高まります。多くの人が自主的・挑戦的であれば、部下に行動をさせるための対話や細かい1on1などのマネジメントコストが大幅に減少します。また、失敗からの学びが早く、受け入れる力が強いこと、および自己効力感の強い発言が多いことから、相手への信頼を生み心理的安全性は高まっていきます。
※参考記事:エフィカシーを高め、組織・個人の自走を促す方法とは
■Resilience(回復力)
一番わかりやすいイメージで言うと、困難な出来事や逆境などがあっても粘り強く情熱をもってそれを跳ね返し、マイナスをプラスへ転換するだけではなく成長など能力開発までしてしまうような人です。仮に逆境があったとしても『対処するために活用できるリソースや行動は何が考えられるだろう?』と冷静に考える力でもあり、『ピンチはチャンス!』と成長の機会と捉えるリフレーミングの力でもあります。
ビジネスにおいて常に順風満帆ということは多くありません。だからこそResilienceの高い組織(特にマネジャーがそうである場合)は、メンバーや組織のHope・Optimismを引き出し、困難を乗り越えて成果をもたらすことができるようになるのです。
■Optimism(楽観性)
「心理的資本」においては『現実的で柔軟な楽観力』が定義となります。『楽観的な性格』などではなく、トレーニングで身に着けられる思考パターンとして理解してもらうことが最初の大事な理解になります。
では、なぜこのOptimism(楽観性)が「心理的資本」4要素の1つを締め、成果に寄与してくれるのか。仮に、辛い現実に悲観し挑戦を諦めたくなるようなことがあったとしましょう。その時に自責の念を覚えることは悪いことではないですが、活力が低下しては生産性も低下してしまいます。
一方、Optimismが高い人は、できることを実行する、まだできることはある、とポジティブな期待やできることを探すなど活力を維持したまま行動します。『楽観的』とだけ言われると重要度が疑われるOptimismですが、実はプロジェクトを推進したり低迷する組織を改革する原動力となったりする大事な「心理的資本」なのです。
ここまでご紹介した4つの構成要素(HERO)は、それぞれ密接につながっています。Efficacyが高ければHopeは自然と高まるでしょうし、困難を乗り越えるResilienceを発揮するためにはOptimismで現実をリフレーミングする力が大いに貢献してくれることもあるでしょう。もちろん、戦略的に『何を開発するのか』と考えることは大事ですが、「心理的資本」を組織開発や経営に活かす場合、全体最適の観点を持つことも重要です。
「心理的資本」を高めることで得られる効果
──「心理的資本」を高めることで得られる効果にはどのようなものがありますか?
大きく以下3つの効果があると考えています。
(1)人的資本ROIの向上(=HEROの力とポジティビティで行動量や生産性が向上)
「心理的資本」の考え方では『HERO』の4要素を明確にし、ポジティビティを前提としたアプローチをすることで簡単に言えば『目標を自分ごとと捉えて能動的・積極的に業務に取り組む』『困難な状態にあっても立ち止まらず前向きに壁を乗り越えるための姿勢と工夫をもつ』といった状態で各々の従業員が仕事をしてくれるようになります。こういった従業員は受動的な従業員と比べて行動量が高い水準にあり、能動的な工夫などをした結果生産性が高くなることは容易に想像がつくはずです。
(2)従業員定着率の強化(成果が出るしやりがいがあるので辞めようと思わない)
認知心理学的に言えば、ヒトにはそもそも『自分で自分の事を決める』『自分で自分に報酬を与える』という本能に近いメカニズムがあります。自身の力で高い目標を乗り超え成長実感を得ることができた際に自己効力感は強まるため、ネガティブな理由での離職が減ります。これだけでおおよそ6~7割の離職原因を潰すことができるとも言われています。また、そのように活躍している人材に対して会社からチャレンジや昇格などの機会を与えられると、『自分はここにいればまだまだ成長できる』といった未来への期待やさらなる自己効力感が開発されます。
人は未来への期待(報酬)に実現性(自己効力感)が合わさると強い動機付けがされます(アトキンソンの期待価値理論より)。人がメリットを捨てる選択を取ることはかなり少ないため、ポジティブ退職理由においても対策できることが分かります。
(3)採用力の強化(社風の形成と働き方による採用ブランディング)
採用力の強化においては、以下3つの観点があります。
①「心理的資本」の高さが “会社の空気” をつくる
HEROが高い組織は、前向きで挑戦的な雰囲気になります。これが外部に『ブラック企業ではないな』との安心感や『前向きで成長できる環境』との印象を与えてくれます。特に、若手世代の採用を強化する企業においては有効です。
②定着率の高さが採用ブランディングになる
『みんな活躍している』『離職が少ない』の事実は、求職者にとって安心してキャリアを積める会社のサインになります。事実、『ISO 30414』でも『採用・異動・離職』のデータ公開は人的資本開示の目玉項目の1つになっています。
③“成長実感が得られる環境” が口コミ的に広がる
従業員が自己効力感を高めながら働けていると、社内外で『成長できる職場だ』という評判が広がります。これが採用候補者に『自分もここで働きたい』と思わせるだけでなく、意図的に採用広報戦略に組み込むことも可能になります。
※(1)~(3)いずれも人的資本経営におけるISO 30414にて内容・目的・計算式・望ましいあり方が規定されている項目で表現しています。(3)-③に関しては『採用・異動・離職』項目の複数項目を照らし合わせることで分析可能です。
「心理的資本」向上に向けて持っておくべきスタンス
──「心理的資本」を高める施策を進める際に、人事が意識すべき点や成功へのポイントにはどのようなものがあるでしょうか。
導入・継続それぞれの観点で1つずつポイントがあると考えています。
(1)導入時:完璧を目指さないこと
これは人的資本経営などの導入にも通じますが、概念が注目されると『これを頑張ってみよう』と考える経営者・人事責任者は非常に増えます。ただ、実際に調べたりプロセスを目の当たりにしたりすると、9割の会社は『大変そう・難しそう』と言って脱落してしまいます。なぜなら、正しくやろうとすると心理学的理解が必要になりますし、先ほどご紹介したHEROそれぞれに開発手法があり、いくつものアプローチがあるため、『得られるであろう先の組織強化』よりも『やらなきゃいけない大変さ』が勝ってしまうためです。
もし、あなたの会社が「心理的資本」の導入によって業績などが好転する可能性があるならば、まずは『完璧にやろうとしないこと』をスタートラインとしてください。なぜなら、自社においてはHEROのどこが強い・弱いのかを理解する、その分析を活かして施策を検討する、取り組みに積極的な部署・人とそうでないところによってやり方を変える、など導入して初めてわかることがとても多いからです。例えば、積極的な部署や人を巻き込むことでモデルケースを作って横展開したり、慎重な部署や人については最初は観察者として参加してもらい徐々に巻き込んだり、などが考えられます。その際に念頭に置いておきたいのは、『「心理的資本」の取り組みはすぐに成果が数字として現れるものではない』ということです。経営側から『取り組み成果を目に見える形でレポートしてくれ』と要求されることもあるでしょうが、その際は以下観点を盛り込みつつ経営側とコミュニケーションできると良いと思います。
・3〜6カ月程度は継続した上で、小さな行動変化も成果として拾う
・『プラスの成果が出る』ことを前提とせず、部署ごとの強みや弱みの把握など現状分析ツールとして使う
・全体数値ではなくプラスの意見(管理職や現場の声)がどれくらい増えてきているかを見せる
ちょっと畑は違いますが、本来数値で正確性を求められるピープルアナリティクスの専門家も『正しさより仮説と実行』と言っていることからもわかる通り、「心理的資本」においても完璧にやろうとして導入を断念するより、まずはやってみて、慣れてきたところでより正しいやり方へシフトする方が成功確率は上がります。
(2)継続時:経営からの発信の重要性
「心理的資本」は、単なる研修や制度だけで持続するものではありません。むしろ社風や組織に大きく左右されると考えています。その社風をつくる最大の要素は『経営陣からの発信』です。従業員は常に経営トップの言葉や態度を敏感に感じ取り、そこから『この会社で何が評価されるのか』『どんな働き方が期待されているのか』を学んでいきます。
「心理的資本」は目に見えない資産であり、財務指標のように定量的にすぐ把握できるものではありません。だからこそ経営陣が一貫したメッセージを発信し、意識をマネジメントしていくことが必要不可欠です。例えば、トップが『失敗からの学びを評価する』と発信すれば、従業員は挑戦を恐れずレジリエンスを高めていくでしょう。『自分たちの仕事が未来をつくる』と語れば、希望や効力感が育まれるでしょう。従業員の小さな成功をポジティブに称賛すれば、楽観性や自己効力感が広がっていくでしょう。このように、経営トップの発信は「心理的資本」を制度ではなく文化に変える起点となります。
──HEROの各要素を向上させるために有効な施策やアプローチについて、これまでのご経験から有効だったものについて可能な範囲で教えてください。
HEROの開発方法はそれぞれ具体的にありますが、前提として自社がどのような要素を含んでいるのか、それを踏まえた具体的なアプローチは何か、マネジャーや組織などの望ましい在り方は何か、などを導入時点から把握しHEROの各要素を向上させていくのは現実的ではありません。そのため、あえて概念としての正確性を二の次として、効果が期待できるポイントを2つお伝えします。
(1)正しさを求めすぎない
前述した通り、「心理的資本」は測定・開発可能です。ただ、人の心という目に見えないものを扱っていること自体は変わりません。HEROのいずれの項目も従業員の主体的で前向きな心のエネルギーが前提となっています。それにもかかわらず正しさを求めてしまうと、『正しいトレーニングをやっているんだからあなたももっと早く成長してくれないと』といった“押しつけ型心理的資本開発”に繋がりかねません。このようなあるべき論は、「心理的資本」を減少させる逆効果になってしまいます。
また、人事は「心理的資本」を深く理解していたとしても、実際にその開発を担う現場マネジャーや教育担当者も同じとは限りません。その状況下で正しさを重視しすぎると、『会社からの指示』や『求められている職務』が無意識に働き、型にはまった対話やあるべき姿への恣意的な誘導などの“誘導型心理的資本開発”を発症する可能性が高まります。「心理的資本」が意志の力や自己効力感などで構成されていることはここまで解説してきた通りです。正しさがポジティブな心の力にブレーキをかけるようなことがあってはいけません。
とはいえ、人事としては一定期間を設けてその有効性を判断したいでしょう。基準としては、最低3カ月で短期反応を確認し、6〜12カ月を観測期間として有効性を判断することを基本とするのが良いと考えます。
・初期測定時…現在値を把握します。
・短期(3カ月経過時点)……施策の理解度や受容度を見るタイミング。アンケートや簡単なサーベイで『取り組みをどう感じているか』『変化の兆しがあるか』を確認します。ここでは大きな数値改善よりもネガティブ反応が強く出ていないかをチェックします。
・中期(6カ月経過時点)……「心理的資本」スコアに変化が出始めるタイミングです。従業員のレジリエンスや効力感の向上がプロジェクト推進力や小さな成功事例として現れてきます。
・長期(12カ月経過時点)……業績・離職率・エンゲージメントスコアなど、ビジネス指標と「心理的資本」スコアの関連が見えてくる段階です。
※上記に付随して、定性的評価として従業員インタビューの実施や、その他人事施策(離職率やマネジメントへの信頼性など)との連動した分析などを行うイメージです。
(2)開発するよりも見本を見せる
「心理的資本」は開発可能だと言うと、多くの企業が『いかにして開発するか』を考えます。ただ、人は他人に何かを言われて行動を変えるよりも、自らの意思で行動を変える方が大きな変化をもたらすものです。そのため、現場における施策としては『すでにHEROが高い人』をフラッグシップとして掲げることが一番効果的です。ゴールも見えずに上司が汗をかきながら『もっとポジティビティを持とう!』と言っても、おそらく多くの従業員は“偽りの心理的資本”を口にするでしょう。しかし、多くの人が憧れるような理想像があれば『自分もああなりたい』と自発的に思うでしょうし、実在の人物による具体例などコミュニケーションも非常に明確になります。
その組織においてHEROのどの要素を特に伸ばしたいのか、それを元にフラッグシップとなる人に『意識的に○○に関する発信を増やして欲しい』などすり合わせれば生産性向上にも直結できます。また、マネジャーなど1人で複数人の部下に影響を常に与えられる存在にフラッグシップになってもらえれば、その効果は日常的かつ継続的に大きな影響をもたらすはずです。さらに、昇降格判断に「心理的資本」を導入するなどのマネジメント戦略との連動も可能になります。
どのように教えるか・開発するかよりも、『どうなって欲しいのか』を示す──これこそが「心理的資本」の各要素を増やす最も有効な施策なのかもしれません。
編集後記
「心理的資本」は、人的資本をさらに活用する上でもとても重要な概念だと感じました。限られた貴重な人的資本の力をいかに引き出すことができるかは、どの企業においても至上命題となっているはずです。この「心理的資本」の定義や構成要素などを正しく理解することはもちろんですが、『まずやってみる』といった姿勢で自社理解も進めながら導入・運営を進めていけるかがカギになるのではないでしょうか。







