「eNPS」と従業員満足度調査は何が違う?その概要から活用方法までを解説
従業員エンゲージメントを測定する指標である「eNPS」。従業員に『この会社を友人や家族に勧める可能性はどれくらいか?』と質問し、その回答(スコア)から職場環境を把握するものです。昨今の人的資本経営の重要性の高まりから従業員エンゲージメントを向上させる取り組みの1つとして注目が集まっています。
今回は、20年もの人事経験を持つ三木 芳夫さんに、「eNPS」の概要・定義から活用方法・事例に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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三木 芳夫 / 法人代表
大学卒業以来、20年間人事領域の業務に従事。ベンチャー/スタートアップ(ノバレーゼ、Donuts)に在籍した後、2019年、株式会社土屋鞄製造所を母体とする持株会社である株式会社ハリズリーに入社。ハリズリー社では1人目の人事として執行役員として入社後、途中から取締役就任。子会社管理(M&A後のPMI)やグループ会社代表取締役を含め、グループ4社の取締役を歴任。人事・経営管理・新規事業開発・ランドセル事業責任者・店舗管理責任者・コーポレートブランディングなど幅広く従事し、2025年春より現職。
目次
「eNPS」とは
──「eNPS」の基本的な定義について、その元になっている『NPS』との違いも含めて教えてください。
まず、元となる概念である『NPS(ネット・プロモーター・スコア)』について解説します。

『NPS』は顧客のロイヤルティや満足度を測定する指標で、世界各国で1000社を超える企業で導入されています。顧客に『この製品・サービスを友人や同僚に勧める可能性はどれくらいか?』と1つだけ質問し、0~10のスコアで回答してもらいます。そのスコアを推奨者(9~10)、中立者(7~8)、批判者(0~6)に分け、推奨者比率から批判者比率を引いた値がスコアになります。NPSは実購買・離反と連動するため業績の先行指標としてKPI運用しやすく、時系列や他社との比較もしやすい点が特徴です。相関が強いのは、『過去の満足』ではなく『将来の行動』を問う点に加え、他者に影響する推奨は心理的覚悟を要するため、高得点ほど実際の紹介・再購入につながりやすいためです。
ここで得た指標を成果につなげるには、現場での顧客の声の即時活用と、本社横断での商品・業務プロセスの再設計を回す『フィードバック・ループ』が不可欠です。経営トップ直轄の司令塔が予算・戦略・投資・IRに組み込み、継続的にコミット・発信することで顧客志向の文化が根づきます。測定で終わらせず、原因特定~学習~迅速な対応までを一連で閉じることが重要です。完璧主義ではなく、持続可能なプログラムとして段階的に進化させる姿勢が求められます。
「eNPS」は、この『NPS』の思想をEX(従業員体験)に適用したものです。従業員に『自社を友人や同僚に勧める可能性はどれくらいか?』と1つだけ質問し、職場推奨度を継続測定して離職・採用・生産性など人的資本の先行指標として活用します。EX(従業員体験)の改善はCX(顧客体験)の向上を促し、NPSの改善とも相互強化する関係にあります。
この「eNPS」を活用した企業の中で、文化変革まで到達する真の成功は約9社に1社と言われています。成功にたどり着かない企業の多くが指標計測に留まっており、その後の仕組化・変革にまで至っていない印象です。経営の関与と部門横断の改善ループを整え、従業員の声→制度・運用改善→体験向上→推奨・定着・業績の好循環を設計することがNPS/eNPSを成長ドライバーに変える鍵だと言えます。
「eNPS」とES調査(従業員満足度調査)の違い
──「eNPS」と似たものにES調査(従業員満足度調査)がありますが、それぞれの役割や測定目的はどのような点で異なりますか?
ES調査が職場の『現状満足度』を多角的に評価するのに対し、「eNPS」は『職場を他者に推奨したいか』の点に絞ることで従業員エンゲージメントや貢献意欲といったロイヤルティを測定し、より具体的な行動につながる情報提供が可能になります。ES調査は満足度を細かく把握し、「eNPS」はエンゲージメントの高さを簡潔に測定・把握できる点が主な違いです。それぞれを改めて整理すると以下の通りです
■ES調査(従業員満足度調査)
<役割・目的>
従業員の職場環境・待遇・人間関係など、さまざまな側面に対する『現状満足度』を調査します。これにより組織の課題を特定し、具体的な改善策を検討する基礎情報となります。
<測定内容>
福利厚生・職場環境・待遇・人間関係など多岐にわたる調査項目で、従業員が『何に満足し、何に不満を感じているか』を詳細に把握します。
<特徴>
多くの質問項目で構成されることが多く、組織の具体的な状況を深く理解するのに役立ちます。
■eNPS(Employee Net Promoter Score)
<役割・目的>
『親しい知人や友人に自社をどれくらい勧めたいか』を測定し、従業員の『職場への信頼度』や『自社への貢献意欲』を把握します。これは従業員エンゲージメントの指標として活用されます。
<測定内容>
『あなたは職場の現状を友人や家族にどの程度勧めたいですか』といった具体的な質問を1問行い、従業員を『推奨者・中立者・批判者』に分類してスコアを算出します。
<特徴>
質問がシンプルで回答しやすく、従業員の本音が見えやすいとされています。また、この指標は離職率の低下や顧客満足度の向上にもつながると言われています。
■主な違いのまとめ
<焦点>
ES調査は『満足の度合い』を広く、「eNPS」は『推奨度』という特定の行動意欲を測ります。
<詳細度>
ES調査は『詳細な現状分析』に、「eNPS」は『簡潔なエンゲージメント測定』に特化しています。
<活用>
ES調査で特定した課題に対する改善の方向性を検討し、「eNPS」で従業員のエンゲージメントが低い層の早期離職リスクを察知したり、リファラル採用に活用したりするなど、それぞれ異なるアプローチで組織改善につなげることが可能です。
「eNPS」スコアの見方・解釈のポイント
──実際に「eNPS」の数値を確認した際に、人事はどのようにその良し悪しを判断すべきでしょうか?
日本企業では「eNPS」が総じて低く出やすいと言われていますが、その理由には『従業員エンゲージメントの低水準』と『中心化傾向(中間点を選びやすい応答スタイル)』の2つの背景が重なるからです。事実、日本の従業員エンゲージメントは国際的に低水準が続いており、直近でも米ギャラップ社のState of the Global Workplace: 2022 reportによると、日本企業の従業員エンゲージメントはわずか5%であり、これは世界平均の23%を大きく下回っているという報告があります。また、クロスナショナル(国際比較)な調査では日本は中間(ミッドポイント)を選びやすい応答スタイルが最も強く出る国の1つとされ、NPS方式(0–6=批判者/7–8=中立/9–10=推奨者)の計算ロジック上、“5”が多いほど 「eNPS」は下がりやすい構造的な不利が生じます。
上記を踏まえた上で、「eNPS」スコアの見方や解釈のポイントには以下3つがあると考えています。
(1)点数の『低さ』自体は問題ではない(推移と差分を見る)
仮に初回スコアが−50ptや−70ptとなっていても悲観は不要です。重要なのは『次回以降にどれだけスコアを動かせたか』。施策実施後に−50pt→−30ptに変化していたなら、それは改善幅+20ptの明快な成果です。「eNPS」は【推奨者% − 批判者%】で算出する差分指標ですから、絶対値より改善幅に設計上の価値を置くようにしましょう。
(2) 『平均』ではなく『分布(ヒストグラム)』からターゲットを定める
仮に3~5に回答が集中しているなら、まずは3~5層の批判者を 7~8の中立へ動かす設計が効率的です。仮に3~5が 46.5% だとして、その半分を中立へ移せれば、推奨者が増えなくてもeNPS は約+23pt改善します。『どの層を、どこへ』という分布のKPIに落とし込むのがコツです。
(3)ドライバー分析で『何を変えれば上がるか』を特定する
自由記述やEX(従業員体験)項目を紐づけ、「eNPS」 への影響度(キー・ドライバー)を出します。現場では『上司との関係』『成長機会』『評価の公正さ』『仕事の裁量』などが上位に来やすい傾向があるため、影響度が大きい順に小さく早く試す→横展開の順で改善サイクルを回します。
「eNPS」結果を組織変化に活かす3つのステップ
──「eNPS」で測定した結果を企業成長に活かすために押さえておくべきポイントについて教えてください。
私がコンサルティングの現場で見てきた経験では、「eNPS」結果を効果的に活用できている組織は3割程度であり、効果を実感している組織に至っては1割にも満たない印象です。せっかく時間とコストをかけて「eNPS」を実施しても“取りっぱなし”になってしまっては意味がありません。結果を組織変革に活かすためには、以下3つに注意して進めていけると良いでしょう。
(1)仮説設定から始める
「eNPS」の実施前に、『日頃なんとなく感じている会社や組織への問題意識を可視化する』ことから始めましょう。例えば、『メンバー間の仲は良いが、業務のPDCAがきちんと回っているとはいえないな』といった具合に、仕事・職場・マネジメント・会社・仕組みといった要素について考えていきます。この仮説設定があることで、「eNPS」後の動きや改善に向けた活動も設計しやすくなります。また、経営層と仮説について事前に話し合っておけば、『結果が仮説どおりであればこのような手を打ちましょう』と目線を合わせることができます。実施後に慌てて準備するよりも、予算や体制面での合意・準備がスムーズになるはずです。
ただ、大企業ともなるとこうした仮説思考も難しい場合があります。そんな時には、以下のような方法で段階的に現場理解を深めていけると良いです。
・現場の定例会議にオブザーバー参加する(唐突なヒアリングよりもハードルが低くリアルを感じ取れやすい)
・現場に行く(目的を決めずにオフィス・工場・店舗などを見て回るだけでも大きな発見があります)
・エース的な従業員とランチに行く(ハイパフォーマーや周囲から信頼されているキーパーソンと、あえて仕事の話をしないインフォーマルな場でコミュニケーションを取ることにより本音やリアルな状況を引き出す)
(2)結果分析と課題設定
結果を受け取ったら、『想定どおりだったこと』と『想定外だったこと』を区分けし、そこに組織の実態を表すスコアの高低を加えて立体的に捉えましょう。特に、『想定どおりの弱み』と『想定外の弱み』に着目しながら、実感値とも照らし合わせて優先的に取り組むべき課題を特定します。その際、数値だけを見るのではなく、自由記述のコメントからも『なぜそう感じたか』の要因を抽出することが重要です。生成AIを活用すれば、大量のコメントからも迅速にインサイトを得られるようになってきています。
(3)施策実施と効果検証
課題が特定できたら、『部署や職場が取り組むもの』と『会社や人事が取り組むもの』に分けて施策を検討・実施します。ここで重要なのは、「eNPS」を1回限りのイベントではなく、継続的な改善サイクルの一部として位置付けることです。ちなみに、世界の先進企業では年1回の大規模調査から『常時フィードバック型』へと移行する動きも広がっています。
「eNPS」がもたらす人事施策
──「eNPS」のスコアからどのような人事課題や改善テーマが見えてくることが多いのでしょうか。それらを踏まえて人事が取り組むべき施策例も含めて教えてください。
前述した通り、「eNPS」のスコアや『低さ』自体は問題ではありません。「eNPS」は言わば“体温計”のようなものであり、絶対値よりも分布とセグメント差で課題を特定します。以下によくあるスコア例と、それに応じた示唆・当たり(施策のポイント)をそれぞれ紹介しますので参考にしてみてください。
■9~10が薄く、7~8が厚い(満足だが熱狂なし)
・示唆:目的合致、成長機会、称賛が弱い/やりがいはあるが“推す理由”が不足
・当たり:キャリアフレーム、リスキリング、社内表彰・ストーリーテリング、Mission/戦略の再浸透など
■3~5に山(静かな批判者が多い)
・示唆:ロール明確性、上司との関係、評価の公正さ、心理的安全性など
・当たり:1on1標準化、目標・期待値の明文化、評価キャリブレーション、ミドル層マネジメント育成など
■0~2が目立つ(強い不満)
・示唆:報酬の相対不公平、労務・安全、ハラスメント、直近の痛み(再編、過度な残業など)
・当たり:緊急是正(労務・安全・報酬格差の是正)、ホットライン・第三者調査、配置/負荷の再設計など
■入社1年未満が低い(テニュア勾配*)
・示唆:オンボーディング品質、配属ミスマッチ、期待値ギャップなど
・当たり:90日オンボード手順、バディ制度、ジョブスコープ再定義、初回目標の再設計など
*勤続年数と処遇(賃金・昇進)の関係を示す傾きのこと
■現場(店舗・工場)が本社より弱い(職種・拠点ギャップ)
・示唆:シフト柔軟性、設備・ツール、休憩/安全、情報断絶など
・当たり:シフト自律度、ツール更新、現場向け経営発信、現場表彰など
■特定マネジャー配下が一貫して低い(マネジャー差)
・示唆:面談/FBスキル、マイクロマネジメント、心理的安全性欠如など
・当たり:コーチ型マネジメント研修、1on1コーチング、スキップレベル面談、マネジャーKPIに「eNPS」を組み込むなど
■女性/契約種別/年代でギャップ(インクルージョン)
・示唆:昇進機会・賃金公平・両立支援など
・当たり:昇進審査の可視化、ペイエクイティ監査、柔軟勤務・ケア責任配慮など
■制度改定・人事イベントの直後に谷(時系列ディップ)
・示唆:変更マネジメント/説明責任の不足など
・当たり:変更の“Why・How・影響”の再説明、人事や経営層への公開QAセッション、現場代表の巻き込みなど
なお、前述した通り日本においては5~8点の“中心化”が出やすいため、3〜6層を7〜8へ、7〜8層を9〜10へと二段階の移動設計を検討しても良いかもしれません。

「eNPS」を活用して成果を残した事例
──「eNPS」を効果的に活用した具体的な企業事例について教えてください。
「eNPS」を活用して大きな成果を残した企業事例について、背景・打ち手・成果・示唆の観点から2社ほどご紹介します。
■Outback社がわずか1年で従業員エンゲージメントを100%以上向上させた事例
<背景>
Outback社では2016年から毎月のオンラインアンケートを通じて「eNPS」を収集・測定しており、2017年時点のスコアは35前後で推移していました。中身としても批判者はそこまでおらず、中立者が多い状態で、そこまで悪い数値ではありません。しかし、アウトバック社の経営陣はそこに満足せず、より高いエンゲージメントを目指して改善に着手しました。
<打ち手>
従業員エンゲージメントをさらに高めるために、以下3つの取り組みを1年かけて実施しました。
①『スコアを10にするには何が必要?』の質問をアンケートに追加
②従業員がフィードバックを共有できる機会の創出
・CEO+人事部の対面セッション(四半期に1回)
・年2回のStart-Stop-Keepセッション(上級管理職に意見を述べる機会)
・Stayインタビュー(人事部と従業員の個人面談で、従業員の志向性や感じていることを把握する)
③フィードバックとして収集した声を可能な限り実現
・在宅や柔軟勤務の拡充
・共用スペース整備
・称賛や交流施策(例:イベント・BBQ)
など
<成果>
わずか1年で「eNPS」スコアは+100%と超改善し、2018年度の平均値は約71にまで向上。中立/批判が激減し、推奨者が多数派になる“分布の転換”に成功しました。
<示唆>
「eNPS」単体ではなく、『追加質問→アクション』のループが改善の核になったと考えます。“You said, we did”(言った→やった)の可視化が信頼を醸成した形です。
■SoftServe社が2年間で離職者を6%削減した事例
<背景>
グローバルに1万人超もの従業員数を誇るSoftServe社。従来のエンゲージメントサーベイはサーベイが終了してから実際に結果が出るまでに長い時間がかかり、そこから得られる示唆のレベルも粗く低いものでした。それらの課題を解決するべくWorkday Peakon Employee Voice(従業員心理の収集・分析・改善を目的として設計されたソフトウェアサービス)の導入を決定しました。
<打ち手>
①Workday Peakon Employee Voiceの機能を用いて即時にスコアとドライバーを可視化
②自由記述のテキスト分析で地域別・層別の本質課題を抽出(例:報酬説明・福利厚生)
③トップダウン(経営)×ボトムアップ(部門マネジャー)で90日アクションを回す運用へ
<成果>
「eNPS」を全社で30pt超も改善(最大40pt)し、離職率は約2年で6%低下(20カ月で5%低下の分析も併記)しました。
<示唆>
『コメントの構造化』→『部門別アクション』の直結が要となった事例です。人事が翻訳者となり、マネジャーKPIに「eNPS」を組み込んだことも再現性が高まった1つの要因だと考えます。
※参考記事:SoftServe reduced attrition by six percent over two years./workday
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編集後記
従業員エンゲージメントは今やどの企業も重要視している指標です。どの切り口から従業員の状態や考えを見るかによって、打ち手と成果は大きく変わってきます。『スコアだけ収集して終わり』のように手段が目的化してはいけませんが、これまでとは違った角度から従業員の理解が進められる良い手段として活用してみてはいかがでしょうか。





