自社に適した「エンゲージメント指標」を設定し、運用するポイントとは

エンゲージメントという言葉を耳にする機会は近年特に増えてきました。これらを定量的に計測することで組織の状態の把握や社員の業務生産性向上などに活かそうとする動きも行われ、「エンゲージメント指標」の設定について思案している企業も多いようです。
今回は、NECグループ全体のエンゲージメントを含む人事サーベイ企画や運用経験を持つ、日本電気株式会社の澤谷 幸作さんに、「エンゲージメント指標」の設定・活用方法などについてお話を伺いました。
<プロフィール>
▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
澤谷 幸作(さわや こうさく)/日本電気株式会社 カルチャー変革統括部 エンゲージメントプログラムマネージャー
新卒で株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社し、営業と人事を計20年経験。その後日本電気株式会社(NEC)に入社し、NECグループ全体の人事サーベイ企画・運用を通じてエンゲージメント向上全般に従事。兼業で、人事を含むバックオフィス全体の支援も並行中。
目次
「エンゲージメント指標」とその種類
──「エンゲージメント指標」とはどういった指標で、どのような種類があるのでしょうか。
「エンゲージメント指標」とは、組織に対して従業員がどれだけ積極的に関与し、感情的に結びついているかを測定するための指標です。従業員満足度・モチベーション・定着度などを定期的に測定・評価し、適切なフィードバックや解決策を講じることで、組織の生産性や業績向上につなげることを目的としています。
ここで言うエンゲージメントには大きく以下2つの種類があります。

■ワーク・エンゲージメント
ワーク・エンゲージメントは厚生労働省が用いている言葉であり、エンゲージメントの考え方の基礎的な部分となっているものです。このワーク・エンゲージメントは『活力・熱意・没頭』の3つが揃った状態として定義されており、『従業員と仕事の関係性や結びつきの強さ』を示す指標と言えます。
<合わせて読みたい>
〜「ワークエンゲージメント」向上で目指す従業員ケアとは〜
■従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントは企業やサービスによってさまざまな定義がなされており、現状統一的な見解はありません。その中で、従業員の職場推奨度を示すeNPS(※1)の数値は指標として採用されていることが多く、従業員と会社の心理的なつながりの要素を表すものと認識されています。この従業員エンゲージメントは、従業員と会社の関係性、あるいは従業員と仕事と会社の関係性によって定義・説明されることが一般的です。
ただし、エンゲージメントサーベイのサポートサービスを提供する会社によっては、従業員エンゲージメントが社会やビジネス環境といった外部環境の状況によって左右される指標であることの現れとして、どのような要素が組み込まれるか変化する様子が見て取れます。
※1:eNPS(Employee Net Promoter Score/従業員ネットプロモータースコア)とは、従業員が自分の職場を友人や知人にどれほど勧めるかを測定する指標のこと。従業員満足度やエンゲージメントを評価するために使用されるもの。
「エンゲージメント指標」の設定方法
──各施策の「エンゲージメント指標」への落とし込みや設定はどのようにすると良いでしょうか。
エンゲージメントについては考え方がさまざまあり、どのような指標を採用すべきか、あるいは実際に計測したサーベイ結果をどのように解釈・活用すべきか悩んでいる企業の方も少なくありません。『エンゲージメントについて取り組むようにと経営陣から言われているものの、何からどうすれば良いか皆目見当がつかない』といった声を耳にすることも実際にありました。
「エンゲージメント指標」を検討するにあたり最も重要なポイントは、『なぜエンゲージメント指標を活用するのか』の目的を明確にすることです。期待する効果が何なのか(What/Why)が定まらないままでは、ツールである「エンゲージメント指標」(How)を決めることもできないからです。この「エンゲージメント指標」(How)については後述の『「エンゲージメント指標」の選択方法』でお話しします。
目的が明確であればあるほど、従業員からのフィードバックである各「エンゲージメント指標」の示す意味合いや変化をもとにアクションを検討・実行することができますし、結果として目指す方向に少しずつ近づけている実感も持てるはずです。
例えば、業績など企業としてアウトプットを最大化することが目的なのであれば、ワーク・エンゲージメントの要素である『活力』や『熱意』などが重視すべきポイントになってくるかもしれません。従業員と会社の感情的な強がりを強めることが目的なので、eNPSなどの要素を計測することで、自社の現在地や取り組み余地が見えてくるはずです。

「エンゲージメント指標」の選択方法
──「エンゲージメント指標」はどのように選択していけば良いでしょうか。
前述した通り、自社に適切な「エンゲージメント指標」を選択するためには、まず『なぜエンゲージメント指標を導入するのか』について深堀りして明確化することから始める必要があります。
「エンゲージメント指標」は、必ずしも単一のものである必要はありません。目的に沿っていくつかの「エンゲージメント指標」を組み合わせることも有効な手段だからです。競合他社など同業界の実施内容などを模倣してしまうだけではなく、自社のオリジナリティを重視し、目的を研ぎ澄まし、どのエンゲージメント指標を導入すべきか、十分に議論をすべきだと思います。
目的が明確になった後は、自社がどの「エンゲージメント指標」を追求したいか、選定していくプロセスに移行します。前述の様に「エンゲージメント指標」に期待する効果が何なのか(What/Why)に照らし合わせ、期待する効果を測るためにはどのような要素が適しているのか、その要素を測るためにはどのような指標や方法がマッチしているのか、という様に掘り下げて考えていくと良いでしょう。
例えば、『社員が熱意をもって仕事に取り組むようになる』という効果を期待するのであれば、『企業が期待する以上の仕事に対する貢献意欲』という要素を測るための指標になると思います。また、『従業員の定着率が向上する』という効果を期待するのであれば、『自社にとどまりたいと考えているかどうか』という感情などのソフト面の要素を測る指標を採用すると良いでしょう。自社の状況やありたい姿に繋がりや関連がある指標を選ぶことが、その後の活用推進に直結します。
「エンゲージメント指標」の活用事例
──これまでに澤谷さんが関与された活用事例について教えてください。
私がこれまでに携わった企業では、パーパスである『社会価値創造に向けて社内を変革し、最終的に会社と従業員が共に選び/選ばれる状態』を目指していました。その取り組みに対する理解の広がりや進捗を可視化するために「エンゲージメント指標」を定義・活用しています。
経営者観点でも、会社と従業員がお互いに選び合う、健全な関係になることで、社員の主体性や能動性が増し、活躍してもらう機会が増えると考えていました。また、そこから更に結果として社員のリテンションやビジネスの向上にも繋がると考え、パーパスをもとにした「エンゲージメント指標」を定義しました。
具体的な指標としては、以下3つの要素でエンゲージメントを計測しています。
(1)自社について肯定的に語る(Say)
(2)期待以上に貢献したいと思う(Strive)
(3)この会社に前向きに留まりたいと思う(Stay)
なお、現状はこの3要素で計測をしていますが、目的が一定度果たされた後にはこの要素を変更していくことも視野に入れています。「エンゲージメント指標」はあくまでも目的達成のために導入・活用するものであり、その目的変化によって「エンゲージメント指標」も変わるのは自然なことだからです。
これらの「エンゲージメント指標」は2018年から毎年計測しており、その結果を踏まえて必要なアクションを行っており、取り組みによりスコアは上昇傾向にあり、業績との相関もおぼろげながら見えてきています。
ただ、足元のエンゲージメントは順調に向上しているものの、今日にいたる道のりは決して順調ではありませんでした。エンゲージメントの3要素の中で、『この会社に前向きに留まりたいと思う(Stay)』は比較的高いものの、『自社について肯定的に語る(Say)』、『期待以上に貢献したいと思う(Strive)』のスコアは非常に低く、同サーベイに参加している日本国内企業の平均値(非開示)と比較しても差が開いている状況でした。
「エンゲージメント指標」導入の目的から考えても、『自社について肯定的に語る(Say)』、『期待以上に貢献したいと思う(Strive)』を高めることが最終目的だと考え、優先順位を決めました。
また、なぜこの2つの「エンゲージメント指標」が低いのか、そのヒントを得るべく、結果を組織ごとに分析し、従業員から意見を得るための対話を実施することにしました。同じ会社内でも部門や課などによって、エンゲージメントが高い組織と低い組織が存在します。組織間でスコアのどういった点に差があるのか、などを洗い出しました。
それを踏まえて、スコアの背景にある行動・習慣・コミュニケーションの状況は組織毎にどうなっているのかという点について、従業員との対話を通して確認することで、次第に傾向が見えてきたのです。
これらのアクションを通してこの企業の場合、『自社について肯定的に語る(Say)』、『期待以上に貢献したいと思う(Strive)』のスコアが低かった理由は『全社方針・戦略への理解度の低さ』が要因になっていると分かりました。
会社と従業員が繋がりを共有し、肯定的に捉え貢献したいと感じられるためには、その会社の象徴であるトップの顔が見えることと、その組織の戦略が正しく理解・腹落ちできることが非常に重要です。実際に、エンゲージメントが高い組織ほど経営トップの人柄や戦略などについて肯定的な理解が深い傾向がありました。
そこから、経営トップは企業に1人しかいないにもかかわらず、同じ会社内でも組織によって伝わり方が大きく異なっていることは解消すべきボトルネックだと考えてヒアリングをし、その違いを生む要因はミドルマネージャーであるのではないかと、仮説を立てました。
会社の戦略の実際の担い手である従業員が自分事として捉えるためには、その上司であるミドルマネージャーが、経営トップの発信を自組織のメンバー1人ひとりの業務やミッションに置き換えたり、つながりを感じられるような説明を行い、理解を促すことが重要なのではないかと考えたのです。
そこで、ミドルマネジャーが自部署や自組織のメンバーに、どのように全社方針や戦略を伝達しているかに着目・調査し、伝達がうまくできていなかったり足りていないと感じた場合には、必要に応じて人事よりコミュニケーションのサポートや補足介入を進めました。具体的には、人事によるサーベイ結果の解説会を開催して理解の促進をしたり、匿名でのサーベイ結果ヒヤリングとフィードバック、チーム間コミュニケーションの場の提供なども状況に応じて実施しました。
このようなアクションをすることにより、結果として狙いであった『自社について肯定的に語る(Say)』、『期待以上に貢献したいと思う(Strive)』のスコアが向上し、会社全体のエンゲージメント向上を実現することができてきています。
■合わせて読みたい「エンゲージメント」に関する記事
>>>コンディション変化を察知!「パルスサーベイ」を形骸化させず、エンゲージメント向上につなげる方法
>>>「ワークエンゲージメント」向上で目指す従業員ケアとは
>>>「エンゲージング・リーダー」を育成・輩出し、組織のエンゲージメントを高めるには
>>>「エンゲージメントツール」の効果的な運用方法とは
>>>「成功循環モデル」で組織をグッドサイクルに導く方法とは
>>>「従業員体験(EX)」を向上させて選ばれる企業になるためには
>>>「チーミング」が効果的に働き進化しつづける組織の作り方
>>>「ナレッジマネジメント」で生産性を飛躍的に高める。組織が“知”を資産に変える具体策
編集後記
近年は経験や勘だけでなく、収集したデータをもとに意思決定を行うデータドリブンが人事領域でも多く活用されています。この「エンゲージメント指標」もその1つ。どんな観点でデータを収集するかは、企業の目的や狙いによってもまったく異なります。自社ならではの指標を見つけ出し、そのデータをもとにした人事施策を意思決定により、組織のエンゲージメント向上にも取り組んでいきたいものです。