「早期離職」は誰のせい? その要因と未然に防ぐ方法とは
採用した従業員が短期間で離職すること指す「早期離職」。時間とコストをかけて採用・教育した従業員が辞めてしまうのは企業にとって大きなダメージとなるだけでなく、既存従業員のモチベーション低下など目に見えない損失にもつながることから抑制したいと考えている企業も多いのではないでしょうか。
今回は、「早期離職」の現状や原因、防止するための方法について、採用定着コンサル ハックル 代表の高貝 浩也さんにお話を伺いました。
<プロフィール>
▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
高貝 浩也/採用定着コンサル ハックル 代表
部品メーカーや商社で営業経験8年。2000年から大手人材紹介会社にて多種多様な規模・企業の採用支援と数千名の個人の転職支援に携わる。2011年独立し、当初は個人の就職・転職支援に注力。しかし、採用や早期離職に苦しむ中小企業の切実な悩みに多々出会い、2015年に採用コンサル開始。20~50代・1万人以上の転職支援の経験を活用し、独自の手法で応募と採用の増加・定着改善を実現。満足いただいた実績は95%以上・100社以上。『会社と個人が共に成長し元気になる採用・転職の実現』がモットー。横浜市在住。
目次
「早期離職」の現状
──「早期離職」の定義と、その現状や傾向について教えてください。
「早期離職」は一般的に『入社から3年以内の退職』を指しますが、近年は1週間程度の短期離職も増えました。実際に、入社後わずか1日~数日といった極めて短期間での離職事例も増え、離職期間の短期化が顕著になっています 。
こうした期間が大きく幅がある現状においては、その期間に関わらず企業が採用活動や人材育成に投じた多大な時間・労力・金銭的投資が十分に回収される前にその人材が組織を離れてしまう状態を「早期離職」と定義するのが良いと考えます。

※引用:新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します/厚生労働省
厚生労働省の調査によると、新規学卒者の3年以内離職率は依然として高い水準で推移しています。令和3年(2021年)3月卒業者のデータでは、新規高卒就職者の3年以内離職率は38.4%(前年比1.4ポイント増)、新規大卒就職者は34.9%(前年比2.6ポイント増)と、前年と比較して上昇傾向にあります。これは、人材確保が困難な『売り手市場』が続く中で、企業が人材を『獲得する』だけでなく、『定着させる』ことの難しさが一層増している状況を示唆しています。求職者の企業に対する期待値が多様化・高度化している可能性も考えられ、採用後の従業員エンゲージメント向上と定着施策の重要性がこれまで以上に高まっている形です。
なお、「早期離職率」は企業規模や産業によっても傾向が異なります。

※引用:新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します/厚生労働省
企業規模別でみると、規模が小さいほど離職率が高い傾向が見られます。従業員5人未満の事業所では高校卒62.5%、大学卒59.1%と非常に高い水準であるのに対し、1,000人以上の大企業では高校卒27.3%、大学卒28.2%と低い水準に留まっています。これは、中小企業が大企業と比較して人材育成への投資、労働条件や福利厚生の充実、キャリアパスの多様性などで劣る傾向があること、あるいは限られたリソースの中で人材定着に取り組む難しさを示していると考えます。

※引用:同上
また、産業別でみると、特定の産業で離職率が顕著に高い傾向が見られます。高校卒・大学卒ともに『宿泊業、飲食サービス業』が最も高く、高校卒で65.1%、大学卒で56.6%に達しています。他にも『生活関連サービス業、娯楽業』『教育、学習支援業』『医療、福祉』『小売業』などが高い水準となっており、労働集約型であることや、顧客対応に伴う精神的負荷・負担、あるいは労働時間の不規則さなどが離職率の高さに影響していると考えられます。一方、『製造業』『電気、ガス、熱供給、水道業』などは離職率が低い傾向にあることから、企業は自社の規模や属する産業特性を踏まえて課題を理解し、その課題に応じた離職防止策を講じることが求められます。
「早期離職」による影響
──「早期離職」は企業にどのような悪影響やデメリットをもたらすでしょうか。
「早期離職」は、企業にとって単に貴重な人材を失うだけではありません。多岐にわたる深刻な悪影響とデメリットをもたらし、企業成長を阻害する要因になり得ます。以下、その理由を5つに分けて述べます。
(1)採用・教育コストの損失
「早期離職」が発生すると、企業が採用活動に投じた費用(求人広告費・人材紹介手数料・面接官の人件費など)や、入社後の教育・研修費用、OJTにかかる人件費など、さまざまなコストが回収できなくなります。それらのコストは決して少なくありません。ミツカリ社が行った試算によると入社1年後に早期離職した場合、新卒採用では1名あたり約657万円、中途採用では約774万円もの損失が発生するとされています。この損失額には、採用活動費や入社後の人件費(給与・社会保険料・福利厚生費など)、教育研修費、そして離職後の引き継ぎや再採用活動にかかるコストも含まれます。この試算はあくまで一例ですが、将来の成長を見据えた『人材投資』になるはずだった多額の費用が、「早期離職」により回収できずに失われる点は、どの企業であっても同じです。従って、「早期離職」対策はコスト削減だけでなく、将来の企業競争力を確保するためにも戦略的に投資されるべきものだと考えています。
(2)採用ブランディングと企業イメージの低下
「早期離職」が頻繁に起こると『人が定着しない会社』というネガティブな評判が社内外に広がり、企業の採用ブランディングが著しく損なわれます。これにより新たな人材確保が困難になったり、応募者の質が低下したりする悪循環に陥る可能性があるため注意が必要です。求職者は、各企業の離職に関する情報をリサーチする場合があり、そこでネガティブな情報に出会うと応募を控える大きな要因となり得ます。このような状況は企業の採用力に著しいダメージを与えますし、結果として企業の事業展開に対する負の影響も引き起こしかねません。
(3)既存従業員への負荷増大とモチベーション低下
「早期離職」により残された従業員に業務の引き継ぎや退職者の穴埋めといった業務負担が集中してしまうことがあります。これにより残業増加や休暇の取りづらさが発生し、肉体的・精神的な疲弊を招くことになります。また、離職してしまった新人の教育担当者は自身の指導方法や人間関係に何か問題があったのではないかと不安を感じてしまうものです。さらに、同期入社の新人にもこのまま在籍することへの疑念が生じる機会になり得ます。このような理由で、関係した従業員が総じてモチベーションの低下を引き起こす可能性が出てきてしまうのです。
(4)連鎖退職やノウハウ流出のリスク
既存従業員の業務負担増やモチベーション低下により会社への不信感が強まると、さらに連鎖的な退職を引き起こす危険性があります。特に、中堅やベテラン従業員にまで影響が及ぶと企業の存続に関わる大きなリスクとなるため一層の注意が必要です。また、「早期離職」により貴重な業務ノウハウや技術が社外に流出し、企業の競争力や経営力が低下する恐れもあります。例えば、熟練工やベテラン技術者の離職がきっかけで製造業において不良率が大幅に上がったり、生産ラインの自動化が進まなかったりと、直接的なコスト以上に企業に長期的な悪影響を及ぼす事態となるケースも散見されます。したがって、「早期離職」のデメリットを評価する際には直接的な金銭的損失だけでなく、技術継承の停滞やイノベーション機会の喪失といった“無形の損失”も考慮しなければなりません。
(5)生産性低下と企業の成長阻害
人材の流出はチームの士気を下げ、組織全体の生産性を低下させます。特に、優秀な人材やリーダー候補が「早期離職」してしまうと、次世代を担う人材育成が進まず企業の将来的な安定性が損なわれる可能性があります。また、頻繁に人材が入れ替わってしまうと企業の価値観や文化の浸透が困難になり、働きやすい職場環境づくりやエンゲージメント向上の妨げとなってしまいます。
「早期離職」が発生してしまう背景・理由
──「早期離職」が発生してしまう背景や主な原因にはどのようなものがあるのでしょうか?
「早期離職」は単一の原因ではなく、複数の要因が複合的に絡み合って引き起こされる場合が多いと考えられます。主な要因としては以下7つがあります。
(1)選考プロセスの不備
職場環境や仕事内容を踏まえた採用人材要件を定義していない(もしくは定義していても機能していない)場合、選考においても面接官の主観的でフィーリングに頼った採用基準になってしまうことがあります。そのような曖昧な判断基準で採用してしまうと、自社と本人とのマッチングが十分に精査・確認されぬままに入社してしまうため、下記(2)~(7)の事態が生じた場合に離職してしまうリスクが非常に高くなる傾向があります。
(2)入社前の期待と入社後の実態とのギャップ
「早期離職」の最も主要な原因の1つがこれです。具体的には以下のようなギャップがあります。
・仕事内容のギャップ……入社前に想像していた仕事内容と、実際に配属された業務に大きな隔たりがある場合、従業員は仕事へのやりがいを感じられず、企業に対して不信感を抱きやすくなります。
(例)希望した業務とは違っていた、地味な仕事ばかりで面白くない、ノルマが厳しすぎる、など
・労働条件のギャップ……労働条件への不満は離職の大きな要因です。特に、給与は生活に直結するため、事前の説明と異なっていた場合は企業への信頼喪失が非常に生じやすくなります。
(例)残業の多さ、休日の少なさ、給与や手当が事前の説明と異なる、など
・企業文化や価値観のギャップ……会社の風土・価値観・人間関係の雰囲気などが自身の考え方や働き方に合わないと感じる場合、日々の業務に違和感を覚えてストレスが蓄積します。これは言語化しにくく、入社してみないと分からないことが多いため、どうしてもギャップが生じやすい傾向があります 。
これらのギャップは『採用企業の情報提供不足』と『求職者側の企業リサーチ不足』の両方が起因します。特に、企業側が採用達成のために自社のデメリットや厳しい側面を十分に伝えずメリットのみを強調した場合、入社後のギャップが大きくなり信頼関係の構築を阻害するケースが多くあります。採用プロセスにおける『リアル情報の共有』と『相互理解の深化』が、ギャップ防止の根本的な鍵になるのです。
(3)新入社員へのサポート体制の不足
入社後の新入社員が組織にスムーズに馴染み、早期に力を発揮するための体系的なサポートが不足している場合も「早期離職」のリスクが高まります。具体的には、以下2つのシーンが考えられます。
・オンボーディングの不備……新入社員が組織のルールや職場のシステム・人間関係・社風などに適応するためのプログラム(オンボーディング)が不十分だと、不安や戸惑いが募り、定着率低下の要因となります。特に、若年層は業務の目的ややりがいが不明確だとモチベーションを維持しにくい傾向があります。
・メンターや相談相手の不在……業務上の困りごとや社内の人間関係の悩みを気軽に相談できる相手がいないと、新入社員は孤独感を抱えてストレスを溜め込みやすくなります。特に、新卒者は入社直後には周りに相談できる人間関係がまだ構築できていないケースが多いため、なんらかのサポートが必要不可欠です。
(4)人間関係の課題とハラスメント
職場の人間関係は、「早期離職」の最も多い理由の1つとして挙げられます。特に、就労から1年未満の離職に関しては人間関係が原因になっているケースが多いと感じます。中には、上司からの厳しい叱責やパワハラ的な言動、いじめなどが直接的な離職理由となるケースも多く報告されています。このような心理的安全性が低い職場では、分からないことがあっても質問しにくい、失敗を極度に恐れる、上司からの威圧的な指導があるなどの問題が生じ、小さな不満も蓄積しやすくなるため問題が表面化する前に離職へと繋がりやすい傾向があります。
(5)給与・待遇への不満
業務に対する給与への不満や、社会保険料の控除額への驚きなど、金銭的な不満も離職理由となり得ます。特に、事前の説明と異なる給与提示があった場合は企業への信頼感を失うことにつながりやすいです。また、残業の多さや休日の少なさ、手当や制度といった福利厚生の手薄さなども待遇への不満につながる要因です。
(6)キャリアパスの不明確さ、成長機会の欠如
『この会社にいても成長できなさそう』『将来が見えない』など、自身の成長やスキルアップの機会が感じられないことは、若手従業員の離職理由の約3割を占めます。こうした成長実感の欠如は、マンネリ化した業務、不明瞭なキャリアパス、形骸化した評価制度などから生まれてしまいます。特に、若手従業員は給与や待遇だけでなく『自己成長』や『キャリア形成』に対する価値観を重視する傾向が高まっているため、彼らに対して明確なキャリアパスと具体的な成長機会を提示することで成長意欲を継続的に刺激する仕組みを構築する必要があります。
(7)会社の将来性への不安
企業の業績不振、業界の先行き不透明感、経営陣への不信などから、長期的なキャリアを築くことに不安を感じて「早期離職」を選ぶ新入社員も増えています。例えば、給与の振込が遅れたり、『経営が危うい』という噂を聞いたりしたことが引き金となり、退職を選ぶケースも報告されています。

予期せぬ「早期離職」を防ぐ方法
──予期せぬ「早期離職」を防ぐために、企業が講じられる具体的な施策にはどのようなものがあるでしょうか。
「早期離職」を未然に防ぐためには、選考・採用段階~入社後のフォローアップに至るまで一貫した戦略的な施策を講じることが重要です。選考・採用を入口として、継続的な育成やフォローを行うことが定着を実現するプロセスである、という認識のもと、採用部門と現場部門が密接に連携して選考・採用~育成・定着までを一貫して設計・実行する『全社的な取り組み』として捉えるべきです。
ここでは、採用時と入社後それぞれにおいて効果的な施策を、その内容と施策を実施する際のポイントとともに紹介します。
■採用時における効果的な5つの施策
選考・採用段階でのミスマッチ防止は、「早期離職」対策の最も重要な出発点です。
<施策1>選考段階での情報提供の質向上と透明性の確保
企業の良い面だけでなく、ネガティブな情報(実際の業務の厳しさ、残業の実態、職場の課題など)も含めて正直に伝えるようにしましょう。会社説明会・インターンシップ・現場従業員との座談会などを通じて、求職者がリアルな仕事内容や社風を具体的に知る機会を設けることにより『聞いていた話と違う』といった入社後ギャップを最小限に抑えることができます。また、あえて課題も共有することで求職者との信頼関係を構築し、自社に真にフィットする人材の応募を促してミスマッチを未然に防ぐ効果も期待できます。
<施策2>適性検査・スキル診断の活用
選考時に適性検査やスキル診断を導入し、候補者の性格特性・行動意欲・仕事内容への適性・企業文化への適合度などを客観的に把握します。その際のポイントは『採用基準を明確化すること』です。学歴や印象といった表面的な評価に捉われずに、自社に合った人材を選考できるような基準を設定しましょう。また、これらの検査結果は入社後の配属先上長にも共有し、性格タイプに合わせた初期サポートに繋げることも有効です。
<施策3>カジュアル面談の導入
カジュアル面談とは、本選考前に企業と求職者がお互いを深く知るための非公式な面談のことを指します。リラックスした雰囲気で本音を話しやすい環境を提供し、企業側も自社の魅力だけでなく大変な部分も伝える姿勢が重要です。このカジュアル面談は、相互理解を深めて採用ミスマッチを未然に防ぐだけでなく、求職者との信頼関係の構築にも寄与します。
<施策4>インターンシップの活用
実際の業務や職場の雰囲気を体験できるインターンシップ制度を導入します。これにより求職者が入社後の働くイメージを具体的に持つことができるだけでなく、企業文化や仕事内容への理解を深めることでミスマッチを防ぎ、入社志望度を高める効果も期待できます。
<施策5>リファラル採用の推進
リファラル採用とは、自社の従業員から新たな人材(知人など)を紹介してもらう採用方法です。紹介者は自社の雰囲気や仕事内容を把握しているため、企業文化や価値観に合った人材を獲得しやすく、マッチング精度が高い人材の採用につながります。
■入社後における効果的な6つの施策
新入社員の不安を解消し、心理的安全性を確保してエンゲージメントを高める上でも、入社後の手厚いフォローは不可欠です。
<施策1>体系的なオンボーディング体制の構築と運用
新入社員が組織にスムーズに馴染み、早期に戦力化するための包括的なプログラムを設計・実施します。具体的には、入社初日の歓迎、会社理念・文化の丁寧な説明、段階的な業務トレーニング、オリエンテーション、OJT研修などが含まれます。その中でも重要なのが、入社直後から『小さな成功体験』を意図的に創出し、業務の背景にある『なぜ』を丁寧に説明する時間を確保することです。これにより組織に対する貢献実感を早期に持たせることができれば、新入社員が『この組織にいる意義』を見出しやすくなり、結果的に定着へとつながっていきます。
<施策2>メンター・バディ制度の導入と効果的なマッチング
新入社員や若手メンバーに対し、業務や精神面をサポートする先輩(メンターやバディ)を“直属の上司とは別に”配置します。この際のポイントは、仕事内容ではなくメンタル面のサポートをメインとすることです。これにより従業員の心理的安全性が高まり、気軽に相談できる環境が構築されます。もう1つ重要な観点が『メンターとメンティの相性』です。入社前に行った適性検査の結果や入社後の行動・評価などを慎重に考慮したマッチングが成功を左右します。また、メンター自身の負担が増えないようにメンター向けの研修やサポート体制を整備すること、メンターの貢献を適切に評価する仕組みづくりも不可欠です。
<施策3>定期的な1on1ミーティングとフィードバック文化の醸成
上司と部下が定期的に1対1で面談する機会を設け、業務の進捗・悩み・キャリアプラン・成長実感などについて深く対話します。この際のポイントは、部下が普段言えないような悩みや不安を打ち明けられる環境を作ることです。そのためには、この1on1の場を『評価ではなく動機付けを図る場』、フィードバックは『評価ではなく成長のための情報』であるとみんなが認識できるよう文化として醸成できるようになるとベストです。また、こうした関わり方ができるように、上司側にも必要な研修などのサポートは随時行う必要があります。
<施策4>キャリア開発支援と成長機会の提供
従業員の長期的なキャリアデザインを支援するため、キャリア面談・スキルアップ研修・資格取得補助などの具体的な成長機会を提供します。この際のポイントは、『企業が従業員のキャリアプランを把握し、それに基づいた人事配置や、望むキャリア実現に向けた具体的な選択肢を示すこと』です。
<施策5>心理的安全性の確保と相談しやすい環境づくり
従業員が不安や恐怖を感じることなく、自然体でいられる環境(心理的安全性)を整えることがメンタル不調による離職を防ぐ鍵となります。そのためにも社内外に相談窓口を設置し、利用方法や匿名性を丁寧に周知します。上司が自らの失敗体験を共有する『弱さの見える化』や、『質問や意見を歓迎する』という明確なメッセージを発信することも有効です。
<施策6>柔軟な働き方や福利厚生の見直し
従業員のライフスタイル変化に対応し、仕事とプライベートの両立を支援することで、心身の健康増進と定着率向上に繋げることができます。具体的には、時短勤務・リモートワーク・フレックスタイム制などの多様な働き方を選択できる制度を導入・拡充します。ここには、給与や福利厚生の充実・公平性や透明性のある人事評価制度への見直しなども含まれます。また、業績連動型報酬制度の導入や柔軟な報酬パッケージの提供も、従業員エンゲージメント向上に効果的です。
「早期離職」の改善事例
──高貝さんがこれまでに関わった中で、実際に成果があった「早期離職」改善の取り組み事例について可能な範囲で教えてください。
ある食品メーカーの工場における「早期離職」改善事例についてお話します。この工場では予期せぬ「早期離職」が年に4〜5件ほど発生してしまっていたのですが、合計5つの施策導入後はそれが解消され、今ではゼロにまで改善できています。実際に導入した施策とその内容について、『採用時』と『採用後』に分けてご紹介します。
■採用時の施策
<施策1>選考段階における情報提供の質向上と透明性確保
応募前あるいは面接時に工場見学や職場見学を必ず行うように選考フローを変更しました。それにより候補者は企業理解を深めた上で面接に臨めるようになり、実際に入社した際のイメージギャップも限りなく減らすことができました。
<施策2>適性検査・スキル診断の活用(人物面・スキル面の必須要件を確認)
これまでの採用基準が主観的で曖昧だったため、社内会議を通じて人物面・スキル面の必須要件を客観的に言語化し、採用基準として確立しました。面接ではその必須要件の有無を確認し、満たない場合は採用しないことを徹底。これにより、職場や仕事が合わない人材の採用は防止できるようになりました。
<施策3>カジュアル面談の導入
採用が決定した人材とのお茶会を入社前に設けて、人事担当や配属部門のメンバーと気楽に何でも話し合えるようにしました。それにより入社前に相互理解を深められ、入社者も受け入れ側も双方安心できる関係を構築できるようになりました。
■入社時の施策
<施策4>定期的な1on1ミーティングの設定
入社1週間後に人事と面談を行うだけでなく、入社1カ月後・2カ月後・3カ月後のタイミングでも上司との育成面談を実施する仕組みを構築しました。
<施策5>心理的安全性の確保と相談しやすい環境づくり
上記で設定した定期的な1on1ミーティング以外であっても、入社者が相談があればいつでも人事が面談に応ずる体制も作りました。その際、人事は入社者からの相談を待つだけでなく、入社後の様子を職場のメンバーに定期的にヒアリングし、気になる事象があれば入社者へ人事から声がけして面談を設定する動きもとっています。
以前は上記施策4・5のような面談の仕組みはまったくなく、仮に職場で業務や人間関係の問題があっても入社者は誰に相談して良いか分からず我慢するか、社外で愚痴を言って紛らわすような状況だったようです。しかし、施策導入後は上司と入社者がきちんと意見交換する場ができただけでなく、そこで言いづらいことは人事に相談する仕組みもできたので、関係者全員から『とてもやりやすくなった』『助かった』といった感謝の言葉を多くもらいました。こうした取り組みを継続することにより、採用部門と人事が一体となってフォローする文化が定着し、よりタイムリーに入社者をフォローできるようになったことが「早期離職」ゼロにつながったと考えています。
■合わせて読みたい「離職・退職」に関する記事
>>>介護離職を事前に防ぐ。高齢化でさらに増える未来に対応するには
>>>急増する「退職者による情報漏洩」リスクと対策について
>>>退職時の「オフボーディング」で好意的な関係を築き、企業成長のヒントを得る方法
>>>「レイオフ」を正しく理解するために知っておきたい世界動向と国内事例
>>>「リテンションマネジメント」をから人事施策への好影響を伝播する方法とは
>>>「連鎖退職」の発生要因を知り、その防止方法を事例と共に学ぶ
>>>「サイレント退職」が起こる背景と予防策とは?
編集後記
『最近の若者は……』といった嘆きも理解はできますが、いつまでも「早期離職」を若者や時代のせいにしていても物事は解決しません。企業側としてできうる対策や施策を検討し、実施・改善を繰り返していくことこそが「早期離職」を未然に防ぐ方法なのではないでしょうか。







