自プロダクトを成長させる「手段」としてのパラレルワーク
2020年4月に株式会社moovyを創業し、7月に採用動画メディア「moovy」ベータ版をリリースした三嶋さん。新卒から13年間に渡り人材業界で活躍し、法人営業・キャリアコンサルタント・経営企画・組織運営・新規事業責任者と幅広い領域を経験。その中で見つけたやりたいことを自社プロダクトとして実現させた形だ。
今後はmoovyの利用者をさらに増やしていくと同時に、「パラレルワーカーとしてこれからも活動したい」という。その真意はどんなところにあるのだろうか。
<プロフィール>
株式会社moovy 代表取締役社長 三嶋 弘哉 氏(みしま・ひろや)
新卒で株式会社キャリアデザインセンターへ入社。転職エージェントのコンサルタントとして、大小300社の中途採用支援及び約8,000名のキャリアカウンセリングを経験。その後、経営企画マネージャーや転職エージェント事業の営業統括部長、新規事業責任者を歴任。2020年4月に株式会社moovyを創業、7月に採用動画メディア「moovy」ベータ版をリリース。
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目次
大学の卒業論文テーマは「リクルート」
就活を前にのめり込んだ「マーケティング」
上半身ハダカの園児が動物と一緒に散歩する──そんな野性的な保育園で育ち、わんぱく小僧のまま小中高と進みました。大学は立命館の経営学部へ進学。2回生までは飲食店のバイト、コンサートスタッフ、富士山のガイドなどに明け暮れる大学生活でした。
その生活が一変したのは、就職活動を間近に控えた3回生後半から。社会や企業について興味を持ちはじめ、元々専攻していたマーケティングの授業を真剣に受けるようになったのです。ちょうどその頃、ケーススタディで企業分析をしたり、チームを組んでひとつの事例について話し合ったりと、授業内容が実践的なものに移っていたことも身が入った要因だったように思います。
「見えないブランド」としての採用、そしてリクルートの存在
「ブランド」と聞くと一般的には商品やサービスを思い浮かべますが、当時私が興味を持ったのは目に見えない形の「ソフトなブランド」。特に「採用」はまさに目に見えないコーポレートブランディングだと考えたことから、その領域のトップを走るリクルートについて徹底的に調べ始めました。
早速、当時流行っていたmixiを活用して、リクルート出身の方へ「なぜリクルートは人材輩出企業に成り得たのか」を聞いて回ることに。他にもリクルート出身者が集まるコミュニティを見つけてアンケートを取るなど、とにかくリアルな情報を集めて回ったのです。そうして導き出した仮説は、「人材のエコシステムが成り立っている」というものでした。
① 最高で年間70億円もかけて優秀な人材を採用し(エントリーマネジメント)
② 新規事業創出やPL管理などに関わる育成機会をつくり(デベロップマネジメント)
③ 高額な退職金で30代半ばの卒業・独立機会を支援する(エグジットマネジメント)
当時は、特に③の卒業文化が驚きでした。良い人材は内包しようとするのが一般的なところ、リクルートはあえて放出して、卒業生とその後も良い連携を持ち続ける──このサイクルが良い採用につながっていたのです。最終的に卒業論文のテーマにもなったこの研究が、人材業界への就職を志すきっかけとなりました。
あえて選んだ「キャリアデザインセンター」
就活では大手~中小・ベンチャーまで片っ端から120社ほど受けました。もちろんその中にはリクルートもあり、よりリアルなカルチャーや制度を目の当たりにすることでさらに理解は深まりましたが、同時にすでに完成された組織だという印象を持つようになったのです。
どちらかというとこれから組織を作り上げていける環境に魅力を感じていた私は、当時そんな勢いがあったインテリジェンス(現パーソルキャリア)やリンクアンドモチベーション、ワイキューブなど、リクルート出身の社長が立ち上げた企業を中心に選考を進めるように。そして最終的に選んだのは、東京で働くという希望も叶えられるキャリアデザインセンターでした。
12年の経験で感じた人材ビジネスの課題
どうしても解消できない「雇用のミスマッチ・機会損失」
キャリアデザインセンターでは2007年4月~2019年7月までの12年間在籍し、転職エージェント事業でコンサルタント、経営企画マネージャー、営業統括部長と幅広い経験を積ませてもらいました。
その中でずっと感じていたのは、「マッチング」の難しさ。どれだけ情報をつまびらかにしてもミスマッチは起こるし、そもそも情報が伝わり切らない。それがお互いの過度な期待感につながり、結果として雇用のミスマッチ・機会損失がたくさん生まれていました。
それをできる限り解消しようとエージェントとして取り組んできましたが、アナログなやり方にはどうしても限界があって。Googleで検索しても出てこないような定性的・抽象的な情報をデジタルに提供できないか、テキスト以外の方法はないのか、いつしかそんなことを考えるようになっていました。
起業・パラレルワークのきっかけとなった「新規事業開発室」
当時のキャリアデザインセンターは上場会社として大きくなり、良くも悪くもこれまでのビジネスモデルで着実に売上を積み上げていました。ただ、長期的なイノベーションの創出が必要だと考えていた私は社長に進言して「新規事業開発室」を作ってもらいました。元々イントレプレナーとして社内起業したいと考えていたことも背景にはありました。
部門立ち上げから約半年で10個の事業アイデアを提案。その中に今のmoovyにもつながる「採用動画事業」があったのですが、残念ながら当時の会社方向性とは合致せず、社内起業には至りませんでした。しかし、私の考えをくみ取ってくれた社長の「起業してみたらどうか」という言葉も受けて、あぁそういう道もあるなと。1週間ほど考え抜いた上で起業を決意し、プログラミングスクールに通うことも決め、2019年7月に退職届けを出しました。そこからスクールが始まる10月までの空き時間を使って、なにかお手伝いできる会社はないかと探したのがパラレルワークを始めたきっかけです。
「目的」ではなく「手段」としてのパラレルワーク
スクールが始まる10月以降はプログラミングに専念しましたが、それまでに単発のものを含めるとだいたい10社ほどのプロジェクトに関わりました。2020年4月に株式会社moovyを立ち上げてからも、パラレルワーカーとしての活動は続けています。
その理由は「事業へのインプット」。人材領域の最新トレンドをキャッチアップすることは、自社ならびにmoovyというプロダクトのためにも必要です。自社の運営に影響が出ない範囲でプロジェクトを選択できるパラレルワークは、まさに私の求めるものにピッタリでした。
そんな事情もあり、「週4日常駐(フルコミット)して」みたいなプロジェクトではなく、常駐を必要としない短期間のものや、1~2回のミーティングで価値を感じてもらえるようなプロジェクトを選ぶようにしています。
また私のようなハーフコミット型の人材を活用することは企業側にとっても大きなメリットがあります。その理由は「多方面で得た知識やノウハウを持っている」という点です。あらゆる企業のあらゆるフェーズを経験しているため、よりその企業に適した方法やツールを客観的に選択できる可能性が高いのです。マンパワーとしてではなく、外部の知見活用という観点でパラレルワーカーの活用を検討しているのであれば、フルコミットではなく柔軟性の高い勤務形態を結ぶのが良いと思います。
パラレルワーカーとして学んだこと
まずは目の前の仕事を全力で。それがパラレルワーカーのスタートになる。
パラレルワーカーと聞くと「あらゆる分野に精通したスーパーマン」のようにイメージされることも少なくありません。ヒアリングを通じて企業課題を洗い出し、要件定義をした上でそのすべてを片っ端から解決していく──もちろんそういった素晴らしいスキルを持った方もいるのは事実ですが、その数はとても決して多くはないと思っています。
そもそも「全体的にいろいろやって」というオーダーもあまりありません。どちらかと言えば「これをやって欲しい」というオーダーが大半なので、まずはそれを全力でやることからスタートするのが良いでしょう。そこで成果を出して信頼を得られれば、次の依頼をもらいやすくなり、結果的に徐々にいろんな分野で経験を積むことができるようになります。いきなりすべてをできる必要はないのです。
また、「パラレルワーカーとしてスタートしてみたいけれど、今一歩踏み出せない」という方も少なくありません。そういった方は、ご自身の市場価値に気づいていないケースが多いです。
例えばコーナーに登録してカウンセリングを受けると、自分では何の変哲もないと思っていたスキルが実は世間では重宝されていた、なんてことが多々あります。自身の強みにまず気づき、それを世の中のジョブとマッチさせることがファーストステップとしては有効です。なので、パラレルワーカーとしてのキャリアをスタートさせたいと思ったら、まずはコーナーに登録して相談してみるのがいいかもしれませんね(笑)
「ゴール」と「スケジュール」
パラレルワーカーとして働く人、そんな人たちを活用する企業、そのどちらにも大切なことがあります。それは、依頼内容の「ゴール」と「スケジュール」を明確にすることです。ここに尽きるといっても過言ではありません。
コーナーなどから紹介してもらうプロジェクトであれば、何をいつまでにやれば良いかが明確で、非常に進めやすいことが多いです。反対に、個人的に請けた依頼だと結構ふわっとした内容のものも多く、そもそもゴールが決まってなかったり、WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)を引き直すとこから始めたりということも多々あります。パラレルワーカーの成果を最大化させるためにも、企業がパラレルワーカーの能力を最大限引き出し「活かしきる」ためにも、要件定義はマストだと言えます。
それ以外にも「情報の透明化」もとても大切です。慣れてくると企業側もパラレルワーカーをSlackのメンバーに入れて適宜フィードバックするなど、うまく情報共有ができるようになります。慣れていない企業は、パラレルワーカーが動きやすい環境整備をその分野が得意なパラレルワーカーにお任せする、なんてことも有効かもしれません。
思い出に残っているクライアント
地方のとある中小企業から、「月1回、人事周りについての壁打ちがしたい」というふわっとした依頼をいただいたことがあります。金額的には数万円と少額だったのですが、当時パラレルワークを始めたばかりということもあって、まずやってみようとお請けしたのです。
壁打ちする中で、社長が感じる違和感のようなものを一つずつクリアにしていきました。コーチングと同じく、答えはすべて社長の中にあります。まず聞くことに徹して、社長が実現したい世界観、感じている課題をじっくり聞き、3ヵ月かけて課題整理していきました。
最終的には5つの階層(経営戦略・人事制度・組織運営・人材採用・業務フロー)に整理でき、そこからやるべきことと今はやらないことに分け、私が取り組むべきことに関してはゴールとスケジュールを決めました。
先ほどと少し矛盾するようですが、状況によっては要件定義から入った方が進めやすいケースもあります。必要に応じて課題の根っこから確認し直すのは、ある意味お節介な性格だからできることかもしれません。必ずしも要件定義から始める必要はありませんが、必要と感じればそこから取り組むのもアリだと思います。その方が成果を出し切れることも多いと思います。
これから描く未来
moovyをより多くの人に使ってもらえるプロダクトへ
まずはmoovyをより多くの人に使ってもらい、雇用ミスマッチと機会損失を減らすことに挑戦したいなと考えています。
採用は企業にとって一番大事で根っこにあるもの。ここで間違うと不可逆的であるにも関わらず、まだまだ採用可否を短期間かつ属人的に決めていく風土が残っています。それらは単純な打ち出しの変更で改善できるものも少なくありません。そこに寄与するものとして、moovyを企業にとっては機会損失を減らす採用ブランディングとして、利用者にとっては最適な仕事選びができるメディアとして、多くの方々に使われるサービスにしたい。それが今の想いです。
また今後は、求人情報やキャリア情報を「動画に置き換える」ことにも挑戦していきます。
ただ、すべてが動画に置き換わるとは思っていません。なぜなら、テキストが持つ力(余白がある創造性など)は動画にはないものだからです。求人票も少しテキストを変えるだけでコンバージョンが3倍も向上することがあります。またテキストは生産しやすく、検索性も高い。動画には動画の、テキストにはテキストの良さがある。全部が動画に置き換わるのではなく、必要に応じて動画とテキストを選べるような世界観を作っていけたらと考えています。
パラレルワークはずっと続けていきたい
これからどれだけ本業が忙しくなろうとも、パラレルワーカ―として1~2社は関わり続けたいと考えています。前述した通り、お金を稼ぐためではなく、moovyをもっと使われるサービスにするための手段として常に人材領域の価値観や流れ・ツールなどのトレンドをキャッチアップするためです。
目的に合わせて仕事や働き方を選べるパラレルワーク。これは個人にとっても企業にとっても良い選択肢だと感じています。情報の伝達方法がテキストだけでないように、働き方も自分に合わせて選べる世界になれば、もっと世の中が豊かになると思います。
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