「セカンドキャリア支援制度」の目的は? 主な支援メニューと導入・運用ポイントについて解説
『セカンドキャリア』と聞くと“定年後”を想起する方も多いのではないでしょうか。しかし、人生100年時代とも言われる昨今では、企業に在籍中の従業員をも対象にすることも増えてきているようです。
今回は、人事コンサルタント・キャリアコンサルタントとしてさまざまな形でキャリア支援に関わった経験を持つ株式会社Bagus代表の内田 大介さんに、「セカンドキャリア支援制度」の概要から導入・運用ポイントに至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
内田 大介/株式会社Bagus 代表取締役、国家資格キャリアコンサルタント
大学を卒業後、大手アミューズメント企業へ営業職として入社。同社人事部の立ち上げに伴い、人事部へ異動。新卒採用の責任者から始まり、教育研修・労務管理・人事評価制度と部署全体をマネジャーとして統括。その後、2社目からヘッドハンティングを受け人事総務部長として転職。同族経営の事業承継に伴う会社の変革期をHR領域から社内の改革、経営に携わる。また、経営企画室室長としてもホテル・アミューズメント施設・不動産関連とさまざまな新規事業を立ち上げる。そして大手外食チェーンの人事総務部長を経験し、18年のHR領域での経験からより多くの企業や個人を支援したいと考え、起業。現在は人事コンサルタントとしてさまざまな業界の企業をHRの領域から支援しつつ、キャリアコンサルタントとしても個人メンターとして活動している。▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
「セカンドキャリア支援制度」とは
──「セカンドキャリア支援制度」とはどのような制度を指すのでしょうか? 『セカンドキャリア』の定義や、企業がこの制度を導入する目的・背景などと合わせて教えてください。
『セカンドキャリア』とは、主に40代以降の従業員が定年や役職定年・転職・独立・早期退職などを契機として、これまでとは異なる新たな職業人生を歩み出すことを指します。長年の勤務を通じて培った専門知識・人脈・マネジメントスキルを活かして、再就職や起業・フリーランス・地域貢献活動・NPO参画など、より自分らしい働き方や生き方を追求する動きが『セカンドキャリア』です。かつては『定年後の再就職』を意味することが多かったものの、近年では『定年前のキャリア転換』や『人生100年時代を見据えた中年期からの準備』といった意味で使われることが増えています。
「セカンドキャリア支援制度」は、こうした転機を迎える従業員に対して、企業が新たなキャリア形成を支援する仕組み・制度のことです。『退職支援』にとどまらず、従業員1人ひとりが自らの強みを再認識し、次のステージで活躍できるようにする『キャリアの自律支援』の意味合いを持ちます。企業がこの「セカンドキャリア支援制度」を導入する背景には、以下のような社会的・経営的要因があります。
・少子高齢化による組織の人材構成の変化
・雇用期間の長期化
・役職定年制度によるモチベーション低下
・人的資本経営の観点からのキャリア支援強化の必要性
など
特に近年では、シニア従業員のキャリア自律を促しつつ組織の新陳代謝を高めることが重要な経営課題とされており、「セカンドキャリア支援制度」は『個人の幸せ』と『企業の持続的成長』を両立させるための重要な施策として注目されています。
「セカンドキャリア支援制度」の主なメニュー
──実際に企業で導入されている「セカンドキャリア支援制度」にはどのようなメニューがありますか? その中でも特に効果が高い、または従業員から評価されやすい施策の特徴についても教えてください。
企業で導入されている「セカンドキャリア支援制度」の代表的なメニューには以下のようなものがあります。前述した通り、近年は『退職を前提とした支援』ではなく『在職中からのキャリア自律促進』を目的とした制度設計が進んでいる印象です。
・アウトプレスメント(再就職支援)
・起業・独立支援や副業の推進
・希望退職制度や退職金の割増支給
・キャリアデザイン研修
・ライフプランセミナー
・キャリアカウンセリング
・社内公募制度
・ジョブチャレンジ制度
・社外出向・レンタル移籍
など
さまざまなメニューがありますが、その中でも特に効果が高く従業員から評価されやすい施策には大きく以下3つの特徴があると考えています。
(1)個別最適化された支援
画一的な集合研修よりも、経験・価値観・家庭環境に応じた個別面談やキャリアコーチングを通じ、本人の強みと希望を整理できる支援が高い満足度を得ています。
(2)実践的で現実的なサポート
履歴書・職務経歴書の作成支援、インタビュー対策、社外人脈形成ワークショップなど、具体的行動につながるプログラムが好評です。
(3)社内外での選択肢を広げる仕掛け
副業や社外出向、レンタル移籍など、在職中から“次のキャリアを試す”機会を設けることで、従業員の心理的抵抗を下げて移行後のキャリア定着率を高める効果が期待できます。
「セカンドキャリア支援制度」導入により得られる効果
──「セカンドキャリア支援制度」を導入することで、企業側にはどのような効果が期待できるでしょうか?
「セカンドキャリア支援制度」を導入することは、単なる中高年層への支援策にとどまらず、企業の持続的成長と人的資本の最大化にも直結します。まさに『戦略的な人事施策』と言っても過言ではないでしょう。実際に得られる効果としては、大きく以下4つがあります。
(1)人材の新陳代謝促進
定年・役職定年・キャリア転換を前向きに支援することで、シニア層の円滑なキャリア移行が進み、次世代人材の登用や若手層の成長機会が拡大します。これにより、組織構造の硬直化を防ぎ、年齢・役職に関わらず挑戦できる風土が育まれます。
(2)キャリア自律の促進によるエンゲージメント向上
キャリア研修やカウンセリングを通じて従業員が自らの強みや価値観を見つめ直し、将来に主体的に向き合えるようになると現職における意欲や生産性が高まります。40〜50代の従業員にとっては『キャリアの終盤』ではなく『新たな成長ステージ』としての意識転換を促し、組織全体の活力を維持する効果もあります。
(3)知の循環と組織活性化
社外出向・レンタル移籍・副業などを通じて得た外部の知見や人脈が社内に還元されることで、新たな発想やイノベーションが生まれる可能性が高まります。また、キャリア自律を前提とした風土が定着すれば、従業員1人ひとりが学び続ける姿勢を持つことで変化に強い柔軟な組織が形成されます。
(4)企業ブランドの向上
長年勤めた従業員に誠実に向き合って次の人生を支援する企業姿勢は、社内外から『人を大切にする企業』として高く評価され、採用競争力や定着率向上にもつながります。
このように、セカンドキャリア支援制度は『人と組織の成長を両立させる人的資本経営の要』として企業価値向上に寄与する重要な施策となっています。
──一方で、従業員側にはどのような効果があると考えていますか?
「セカンドキャリア支援制度」は、企業施策であると同時に従業員1人ひとりの人生や働き方に深い影響を与える仕組みでもあります。従業員側に与える効果としては、大きく以下3つがあると考えます。
(1)ライフステージに応じた選択肢の拡大
40〜50代は家庭・健康・経済・社会との関わりなど『多面的な価値観の変化』が訪れる時期です。企業による支援を通じて、再就職・起業・副業・地域活動・社会貢献など多様なキャリアパスを現実的に描けるようになれば、個々のライフデザインに合った柔軟な働き方を選択できるようになります。
(2)キャリアの棚卸しによる自己理解と自律性向上
キャリア面談やキャリアデザイン研修などを通じて自分の強み・スキル・価値観・仕事観を整理することで、自らの経験の意味や市場価値を再認識できます。長年の経験を“過去の蓄積”から“次への資源”へと転換するイメージです。これにより自信と自己肯定感が高まり、新たな挑戦への意欲を引き出す大きな原動力となります。
(3)心理的安心感と将来への準備促進
企業が制度としてキャリア転換を支援することで、従業員は『会社が自分のキャリアを真剣に考えてくれている』という安心感を持てるようになります。これにより、将来への漠然とした不安が軽減され、現職でのモチベーション維持や貢献意識の向上といった効果が期待できます。さらに、副業や社外出向、リスキリング機会などを通じて新しい知識・人脈に触れることで学び直しや視野拡大が進み、キャリアへの自己決定感が強まります。
このように、「セカンドキャリア支援制度」は従業員が『キャリアの終わり』ではなく『新しい可能性の始まり』として人生を再設計できる仕組みであり、真の意味でのキャリア自律と豊かな働き方を実現する重要な制度と言えるでしょう。

「セカンドキャリア支援制度」の導入・運用ポイント
──「セカンドキャリア支援制度」を導入・運用する際、対象者が前向きに応募・活用できるようにするためにはどんなポイントを意識すると良いでしょうか?
「セカンドキャリア支援制度」を導入・運用する際、人事として最も重要なものには以下3点があると考えています。
(1)制度設計の戦略性
対象者の定義・人数規模・実施時期を明確にし、経営方針や人員構成、配置転換・後継者育成計画との整合性を取ることは不可欠です。単に年齢や勤続年数で区切るのではなく、役割やスキル、今後の成長ポテンシャルを踏まえて対象を設計することで、制度が組織の新陳代謝と人材ポートフォリオの最適化につながります。また、制度を『出口施策』ではなく『キャリア支援施策』として位置づけ、現役従業員のキャリア自律支援と一体で運用できるとベストです。
(2)運用プロセスの信頼性と透明性
選考基準・申込手続き・支援内容などのプロセスを明示し、公平・公正に運用することで従業員の納得感と信頼を得られます。特に、希望退職や社外出向を含む場合は、『会社都合』ではなく『従業員の選択肢拡大』につながる取り組みであることを丁寧に説明し、キャリア面談や説明会を通じて不安を払拭するようにしましょう。加えて、経営層・上司・人事が共通メッセージを発信することで、制度の目的や意義を組織全体に浸透させることも重要です。
(3)従業員が前向きに活用できる環境づくり
従業員が前向きに制度へ応募し、自らのキャリア形成に踏み出せるようにするためには、『心理的安全性と挑戦を後押しする風土づくり』と同時に、運用面での持続可能な体制構築が欠かせません。セカンドキャリア支援制度では、一人ひとりのキャリアの悩みや将来像に寄り添う面談・伴走が求められますが、運用体制が脆弱なままでは、担当者の負荷が高まり、結局は制度の形骸化を招いてしまいます。
実務上は、キャリアカウンセリングや外部コーチングの一部を外部リソースに委ねる、担当者数や役割分担を明確化する、あるいは面談の基準やプロセスを標準化するなど、社内工数を現実的に確保する仕組みづくりが必要です。また、こうした取り組みには一定の投資が伴うため、「従業員のキャリア移行が円滑になれば、早期離職の抑制・配置ミスマッチの解消・人件費の最適化につながる」といった経営メリットを整理し、制度運用が中長期的な組織価値向上に資することを経営層に提示することが重要です。
さらに、制度利用者の成功事例を社内で共有し、『キャリア転換=ネガティブではなくポジティブな選択』という認識を浸透させることで、挑戦を称える文化を徐々に定着させることができます。こうした運用体制と文化醸成が両輪となることで、従業員が安心して次のステージに踏み出せる環境が実現します。
セカンドキャリア支援制度の成否を分けるのは、制度の有無ではありません。『従業員に伴走できる運用体制をいかに整え、必要な人員・投資を戦略的に確保できるか』が、制度の効果を最大化する鍵となります。
編集後記
40代~50代は『ミッドライフクライシス』と呼ばれる状態に陥る方が多いと聞きます。体力低下などの身体的な変化や、キャリア・子育てがひと段落することによる社会的役割の変化などが重なり、将来に迷いや不安を抱えてしまうことを指す言葉です。こうした人生の転換期とも言えるタイミングで従業員に対してどんな支援ができるのかは、企業としても考え続けていくべきテーマなのではないでしょうか。