中途採用戦略が機能しない理由とは?成果につながる設計を解説
中途採用戦略とは、自社の事業計画や人員構成から逆算し、いつ・どの部署に・どのような人材を・どの手法で獲得するかを体系的に定めたものです。戦略を策定したはずなのに、思うように成果につながらず、形だけで終わってしまう企業も少なくないようです。本記事では、戦略が機能しない典型的な原因と、成果につながる設計のポイントを解説します。
今回は、上場・IPO準備フェーズのテックカンパニーで人事部長を歴任し、現在は株式会社グリッドで人材戦略や人的資本経営に携わる山田 一樹さんに、「中途採用戦略」の設計から採用チャネル、現場の巻き込み、入社後の定着・活躍に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
山田 一樹(やまだ かずき) / 株式会社グリッド 人事部長
上場・IPO準備フェーズのテックカンパニーで人事部長を歴任し、現在は、「数理最適化×AIソリューション」を提供するグリッドにて、人材戦略、ブランディング、人的資本経営に従事。▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
中途採用戦略とは何か。なぜ「場当たり的な採用」では成果が出ないのか
──中途採用戦略とは?そもそもなぜ必要なのか?
中途採用戦略とは、自社の事業計画を達成するために必要な人員構成から逆算し、いつ・どの部署に・どのような人材を・どの手法で獲得するかを体系的に定めることです。単発の求人掲載や場当たり的なエージェント依頼の積み重ねとは異なり、経営課題と採用活動、人材戦略を一本の線でつなぐ設計図といえます。
多くの企業が中途採用を強化する背景には、AIやDXの進展をはじめ、事業環境の変化がこれまで以上に速くなっていることがあります。競争優位性を維持し、事業をさらに成長させるためには、自社にない知見や専門性を持つ人材を外部から獲得する必要性も高まっています。
その一方で、労働人口の減少や人材の流動化によって、必要な人材の獲得競争も激しくなっています。マイナビキャリアリサーチLabの調査では、2026年の中途採用に積極的な企業は91.1%にのぼります。一方、平均採用人数は2023年の21.8人から2025年には12.3人へ減少しており、単に採用数を増やすのではなく、事業に必要な人材を見極めて獲得することの重要性が高まっています。
出典:株式会社マイナビ キャリアリサーチLab「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」
こうした環境では、求人票に経験やスキルを並べるだけでは十分とはいえません。「採用した人にどのような成果を期待するのか」「事業や組織にどのような価値をもたらしてほしいのか」といった将来の期待値を明確にし、そこから必要な能力や行動特性を整理することが重要です。
また、採用活動では「何人応募を集めるか」という母集団形成に意識が向きがちですが、専門性の高い人材や希少人材では、応募数よりも候補者との接点をどれだけつくれるかが成果を左右します。スカウトやカジュアル面談、面接などを通じ、一人ひとりに合わせた情報提供やコミュニケーションを設計し、候補者体験を高めることが内定承諾にもつながります。
こうした視点が欠けたまま採用を進めると、次のような問題が起こりやすくなります。
(1)経験やスキルだけで採用要件を定め、本当に必要な人材像が曖昧になる
(2)応募数や母集団形成だけを追い、有効な候補者との接点を十分につくれない
(3)候補者への情報提供や動機形成が不足し、内定辞退や採用後のミスマッチにつながる
これらは採用手法や面接の問題ではなく、「どのような人材を採用し、その人材にどう入社を決めてもらうか」という採用活動全体の設計が不足していることに起因するケースが少なくありません。だからこそ、中途採用では個別施策を考える前に、自社の事業戦略と採用活動を結び付けた「採用戦略」を設計することが重要になります。
中途採用戦略の立て方|人員計画からKPI設計までの基本ステップ
──中途採用戦略はどのように立てればよいのか?進め方の順番は?
中途採用戦略は、(1)人員計画(2)採用ターゲット・ペルソナ設定(3)採用手法の選定(4)KPI設計、という4つのステップで組み立てるのが基本です。手法選びから入るのではなく、まず「なぜ採用するのか」「どのような人材が必要なのか」を整理することが重要です。
(1)人員計画
事業計画をもとに、どの領域に・いつまでに・どのような人材が必要なのかを整理します。単に各部門から必要人数を集めるのではなく、事業成長に向けて、どの機能や能力を社内で育成し、どこを外部採用で補うのかまで検討することが重要です。
ここで起こりやすいのが、経営と現場の認識のズレです。経営は「事業成長に必要な新しい知見や技術、ノウハウ等を獲得したい」と考える一方、現場では「人手不足を解消したい」「既存メンバーの役割を細分化したい」といったニーズが強い場合があります。
この認識が揃わないまま採用を始めると、経営から求められる条件だけが高まり、市場には該当する人材がほとんどいないという状況にもなりかねません。採用要件を決める前に、そもそも何を採用によって解決したいのかを経営・現場・人事で合わせておく必要があります。
(2)採用ターゲット・ペルソナ設定
必要なスキルや経験だけでなく、採用後に期待する役割や成果まで具体化します。経営と現場の認識を合わせる方法の一つが、スカウト媒体などから実際の候補者をサンプルとして抽出し、「この人を採用したいか」を関係者で評価する方法です。
あえて要件から外れる候補者や、オーバースペックな候補者も比較することで「本当に必要な条件は何か」「どこまでなら妥協できるか」が明確になり、採用要件を具体化しやすくなります。
(3)採用手法の選定
ターゲットが転職市場のどこにいるかを踏まえ、エージェント、ダイレクトリクルーティング、リファラルなどを組み合わせます。採用難易度や緊急度によって適したチャネルは異なります。
(4)KPI設計
母集団数だけでなく、一次面接設定数や内定承諾率など、採用成果につながる指標を設定します。どの工程で候補者が離脱しているのかを確認し、改善につなげることが重要です。
採用要件を具体的な候補者を見ながら議論するようになると、採用そのものを超えた話につながることもあります。例えば、「この人材を外部から採用できるのであれば、別の機能は既存社員を育成して担ってもらおう」といった、配置や育成まで含めた議論です。
中途採用戦略は、人を採るためだけの計画ではありません。
採用を起点に、どの機能を外部から補い、どこを社内で育てるのかまで考えることで、組織全体の人材戦略につなげることができます。

採用チャネルをどう設計するか|ポジション別の投資配分とチャネルポートフォリオ
──中途採用のチャネルは、採用難度や緊急度に応じてどのように使い分ければよいのでしょうか?
採用チャネルは、「どの手法を使うか」ではなく、ポジションの採用難度や緊急度、採用までにかけられる時間、予算などを踏まえて選ぶ必要があります。
すべてのポジションで同じ手法を使うのではなく、それぞれの特性に応じてチャネルの重心を変えることが重要です。
・欠員補充など、スピードを優先したい採用:人材紹介(エージェント)
最も短期間で候補者と接点を持ちやすい手法です。一方で成功報酬が発生するため、採用人数が多い場合や採用予算が限られる場合は費用対効果も考慮する必要があります。
・管理職・経営候補など、転職潜在層へのアプローチが必要な採用:ダイレクトリクルーティング
すぐに転職を考えていない層にも直接アプローチできます。採用まで時間はかかるものの、自社が本当に採用したい人材へ主体的に働きかけられる点が強みです。
・専門性が非常に高い人材や、候補者が限られる採用:SNS・専門コミュニティ・ヘッドハンティング
一般的な求人媒体やエージェントでは出会えない人材を探す際に有効です。候補者が限られる専門職では、SNSや業界コミュニティを活用し、それでも難しい場合はヘッドハンティングを検討します。
・母集団形成を重視する採用:求人広告・スカウト媒体
幅広い候補者と接点を持ちやすく、採用コストも比較的抑えられます。ただし、「応募数を集めること」が目的にならないよう、自社に合う人材との接点を増やす視点が重要です。
・自社理解やカルチャーフィットを重視する採用:リファラル採用
社員からの紹介のため、入社後のオンボーディングや早期戦力化につながりやすい手法です。一方で紹介できる人材には限りがあるため、短期施策ではなく中長期的に育てる採用チャネルとして位置づけることが望ましいでしょう。
チャネル設計は一度決めて終わりではありません。採用単価や採用までの期間だけでなく、採用難度や市場環境の変化も踏まえながら、ポジションごとに最適なチャネル構成を見直していくことが重要です。
採用戦略の実行を左右する「現場の巻き込み」
──中途採用戦略に現場(配属先)をどう巻き込めばよいのか?
中途採用戦略は、人事部門だけで完結させると実行段階でつまずきやすくなります。現場から「採用は人事の仕事なので、良い候補者だけ面接につないでほしい」と言われることもありますが、この役割分担を成立させるには、人事と現場の間で、会社・組織・採用要件・候補者について高いレベルで認識をそろえ、経営とも共通認識を持つ必要があります。
採用の目的は、単に人員を補充することではなく、事業や組織を前に進めることです。そのため、現場の意見を尊重しながらも、採用から入社後の活躍・定着までを人事と現場の共通課題として捉えることが重要です。
具体的には、次のような進め方が考えられます。
(1)採用・組織拡大を現場と人事の共通目標にする
部門長や管理職の目標に、採用や組織拡大に関する項目を組み込み、人事と現場の双方が採用成果に責任を持つ状態をつくります。「人事が採る、現場が選ぶ」という分業ではなく、必要な人材像の定義から採用後の活躍までを共同で考えることがポイントです。
(2)採用基準と候補者への伝え方をそろえる
面接官が複数いる場合は、採用要件や評価軸を事前にすり合わせます。あわせて、候補者にどのような仕事内容やキャリア、入社後の役割を伝えるのかも共有しておくことで選考時の情報提供にばらつきが出にくくなります。
(3)入社後の活躍まで現場が関わる
内定後のフォローやオンボーディングを人事だけで担わず、配属先の管理職やメンバーも関わります。採用段階から入社後の役割や成長イメージを具体的に伝えることで、候補者の安心感や納得感にもつながります。
実際にこうした形で現場を巻き込むと、面接で提供される情報が増え、候補者のキャリアや入社後のオンボーディングプランまで具体的に話せるようになります。結果として候補者体験の向上につながるだけでなく、部門長が採用を起点に育成や配置などにも関心を持ち、人事施策全体への関与が深まるケースもあります。
採用を人事だけの業務にせず、事業成長に向けた現場との共通テーマとして扱うことが、採用戦略を実行に移すうえで重要です。
採用して終わりではない|定着・活躍まで見据えた中途採用戦略の設計
──中途採用戦略に定着・活躍を高める工夫をどう組み込めばよいのか?
中途採用戦略は、内定承諾がゴールではありません。入社後にどのように組織へなじみ、期待される役割を担える状態をつくるかまで見据えて設計する必要があります。
早期離職や活躍不全の要因はさまざまですが、企業側の働きかけによって改善しやすいものとして、特に「人間関係」と「期待値とアウトプットのギャップ」が挙げられます。
(1)社内でのつながりを意図的につくる
オンボーディングでは、業務知識や技術を覚えてもらうだけでなく、社内の人間関係をつくることも重要です。
例えば、組織について相談する相手と、職種・技術について相談する相手を分けてメンターを設定したり、同期や同じ趣味・関心を持つ社員との接点を設けたりします。業務上必要な関係だけでなく、困ったときに相談できる相手を増やしておくことが、組織への適応を支えます。
(2)入社後の期待値を段階的にすり合わせる
入社直後から、直属の管理職や必要に応じて役員が、直近・半年後・1年後に期待する状態を本人と確認します。
一方的に目標を伝えるのではなく、本人の考えも聞きながら調整することが大切です。また、期待する成果を本人だけの責任にせず、管理職側も「その状態まで育成する」ことに責任を持つ必要があります。
(3)オンボーディングを「インプットだけ」で終わらせない
研修では情報を詰め込みすぎず、分野ごとに担当者を分けながら必要な内容を段階的に伝えます。会社の文化や制度についても、説明を聞くだけではなく、実際にあった事例を題材にしたワークショップなどを通じて理解を深める方法があります。
あわせて、一定期間ごとに振り返りや対話の場を設け、理解や不安を確認しながらオンボーディングを進めていきます。
こうした取り組みは、定着率だけでなく、入社者が社内でどれだけコミュニケーションを取れているかという点にも表れます。私の経験では、施策前後の定量比較までは行っていないものの、口頭やSlackなどでのコミュニケーション量が増えた実感がありました。
中途採用では、「採用した本人が早く成果を出せるか」だけを見るのではなく、本人が力を発揮できる関係性や環境を、受け入れる側も一緒につくるという考え方が重要です。
中途採用戦略を立て直す際に見直すべきポイント
──中途採用がうまくいかないとき、何から見直せばよいでしょうか?事例を交えて教えてください。
中途採用がうまくいかないときは、エージェントを増やしたり、スカウトの送り方を変えたりする前にまず採用戦略そのものを見直す必要があります。
具体的には、「そもそも事業や組織の課題に対して、採用すべき人材は合っているか」「求める人材像について経営・現場・人事の認識がそろっているか」「その人材に合った採用チャネルを選べているか」といった点です。ここにずれがある状態では、個別の採用施策を改善しても成果につながりにくくなります。
一方で、戦略の方向性に大きなずれがなければ、次に採用プロセスのどこで候補者との接点を失っているのかを確認します。
私がこれまで携わった東証プライム上場のSIerやテック企業でも、採用規模や組織フェーズは異なりますが、実行段階では次のような課題がありました。
事例①:エージェントから求める人材の紹介が来ない
よくあるのが、エージェントを利用しているものの、求める人材の紹介がなかなか来ないケースです。
この場合、採用市場だけに原因があるとは限りません。求人票が会社や仕事内容、応募条件の説明に終始し、「この会社に入ることでどのような経験が得られるのか」「他社と比べて何が魅力なのか」が十分に伝わっていないことがあります。また、内容が専門的すぎると、エージェントが求職者に自社の魅力を説明しきれないこともあります。
そこでまず、求職者に提供できる経験やキャリア上のメリットを整理し、それを軸に求人内容を見直します。
同時に、すでに採用できているケースがあれば、その要因も分析します。特定の属性の候補者から応募が集まっているのであれば、その層に向けて求人を分ける。成果が出ているエージェントがあれば、その紹介経路やアプローチを横展開するなど、うまくいっている採用の「勝ち筋」を探していきます。
反対に、選考から離脱している候補者については、選考スピード、提供している情報、採用競合となる企業との待遇差など、どこで機会損失が起きているのかを確認します。
成功要因と離脱要因の両方を見ることで、限られた応募でも採用につなげるための改善点が見えてきます。
事例②:スカウトを送っても応募につながらない
ダイレクトリクルーティングでは、「スカウトを送っても応募が来ない」という課題もよくあります。この場合は、まずタイトルと冒頭3〜5行を見直します。
候補者がスカウトを開くかどうかはタイトル、さらに本文を読み進めるかどうかは冒頭の数行で判断されます。ところが、企業や採用担当者の自己紹介に多くの文章を使い、候補者にとっての魅力がなかなか出てこないスカウトも少なくありません。
そのため、自己紹介は簡潔にし、「なぜあなたに声をかけたのか」「このスカウトを読むことで何が分かるのか」を早い段階で伝えます。本文でも求人票や採用サイトに載っている情報を繰り返すのではなく、その候補者だからこそ伝えたい情報を盛り込みます。
私の場合、職種や年齢、候補者の志向に合わせ、1職種につき少なくとも9パターン、多いときには18パターンほどのスカウトを作成し、相手に応じて使い分けることもあります。
スカウトは応募を獲得するためだけのものではありません。送った内容を最初の面談や面接での話題につなげれば、候補者との関係を深めるきっかけにもなります。スカウトから選考までを一連の候補者体験として設計することが、採用活動そのものを見直すことにもつながります。
中途採用がうまくいかないときは、すぐに新しい採用手法を追加するのではなく、まず「誰を、なぜ採用するのか」という戦略にずれがないかを確認することが重要です。
そのうえで、エージェントからの紹介、スカウト、選考など、どの段階に課題があるのかを見極め、具体的な施策を改善していきます。戦略と戦術の両方を切り分けて見直すことが、中途採用を立て直すうえで大切です。
編集後記
中途採用戦略は、採用手法を増やすことではなく事業に必要な人材を見極め、その人材とどう出会い、入社後の活躍までつなげていくかを考えることが重要なのだと改めて理解しました。採用がうまくいかないときも、新しい施策を始める前に、採用要件やチャネル、選考プロセスのどこに課題があるのかを見直すことが出発点になります。人事だけで抱え込まず、経営や現場と認識を合わせながら改善を続けていくことが、中途採用戦略を機能させるうえで欠かせないのではないでしょうか。



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